第94話 ラビスとの決着
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――右翼でカイとエレナが一騎討ちを始めた頃、中央での戦況はますます苛烈なものへとなっていた。
援軍に駆け付けた【戦乙女】は、敵軍第二波5000のうち4000と熾烈な戦いを繰り広げていた。
だがそれもすでに半数にまで敵兵を減らしていた。その大半が【戦乙女】リーダーであるシャーロットの活躍である。
代償に、攻守ともに圧倒的な活躍を見せていたシャーロットは、その魔力のほとんどを使いきってしまっていた。
シャーロットは指揮に専念し、戦闘は自身の防御のみで攻撃まで続行することが出来なくなっていた。
それは大きく戦況に影響を与えていた。
女生徒のみのクランである【戦乙女】は、もともとの身体能力は大したことがない。クランとしての戦闘法は、魔法師らしく魔法中心で考えられている。
つまり、魔法で直ぐに決着をつける短期戦を得意とし、魔力を消耗した後の肉弾戦までを考えていないため、長期戦を不得手としていた。
だが今回の相手は、身体能力に優れた半魔や半獣である。魔法戦も肉弾戦も等しく得意としている彼らとは、【戦乙女】は相性が悪かったのだ。
同い年のクリストフがいとも容易く左翼を制したのは、将としての経験の差、と言ってしまえば簡単だ。なぜなら、軍に所属するクリストフとは違い、シャーロットはこれほどの数が動く戦は未経験だからだ。
けれど、シャーロットはそれを理由にはしたくなかった。
彼女は、離れた距離で乱戦中の1人の少年に眼を向けた。
「ルアァッ――」
この中央軍敵兵を指揮する将――暴食のラビスと怯むこと無く刃を交える少年がいるからだ。
(彼はたしか、エリザベスとの席で一緒にいた……)
学友であり戦友であり、そして親友でもあるエリザベス・スカーレットが、何度誘っても断り続けたクランへの入隊。
だがある日、エリザベスが【EGOIST】という聞いたこともないクランへ入ったと耳にしたときは、何かの間違いかと思った。
直接確認せずにはいられなかった。
会う約束を取り付け、いざその席へと向かうと、なぜか知らない少年と、よく見知った顔の男がそこにいた。
クランの勧誘では自身とエリザベスを奪い合い、さらには序列でも次席の座を何度も争ったカイだ。
嫌いな男だけれど、もともと男嫌いな彼女には誰も一緒。男というだけで汚物に感じてしまう。
なのに、そんな汚物である男2人と席を共にしている親友。さらに、あろうことか隣に座っている知らない顔の男に、笑顔をむけていたのだ。
苛立った。
シャーロットは奥歯を噛み締め、嫌悪感を顔に出さないように努めた。
席に座り、何故自分の誘いを断り、無名のクランに入ったのかと、エリザベスを問い詰めた。
驚いた。なんと隣に座る少年が、そのクランのリーダーだと言うではないか。
その時は、他の男と変わらず冴えない只の1年生だと思った。そう感じて、何も印象に残らなかった。どちらかといえば、少年に抱かれるように膝に座っていた謎の幼女の方が、カイへ放った殺気で記憶に残ったほうだった。
なのに……何も感じなかったのに……大好きな親友を奪った大嫌いな男のことなんて、何も残らないように記憶から消し去ったはずなのに……。
なのに、なのに今、その少年の眼前で敵将と戦う勇姿が、シャーロットの記憶の奥深くに、まるで根付くように鮮烈で強烈に刻み込まれてくる。
年下で戦経験など自分よりも無いはずで、さらに親友を奪った大嫌いな男が、自身よりも活躍していることが許せない。
経験不足だから仕方がない、などとは言わせない。
シャーロットはラビスと戦う少年から視線を戻すと、戦闘中の自分の仲間に指示を出した――
(……やべェ……ッ、意識がとびそうだ……)
「どうした小僧! そんな程度で俺に挑むなんてバカをしなければ、もう少し長く生きられたのになッ」
ラビスの重く激しい一撃を剣で受け止め、衝撃で腕を弾かれ意識が朦朧とするアルヴィス。
アリスが黒衣の隊と戯れるように戦い、アンヴィエッタ率いる第一隊が第一波の残兵と乱戦している戦場。
その中心で、まるで用意された様に円形のスペースがあく場所で、激しい攻防を繰り返していたアルヴィスとラビス。
剣と矛で接近戦を行いつつ、ラビスの扱う炎をアルヴィスの魔法で消しているうちに、いつのまにか刃のみの戦闘となっていた。
お互いに自分の魔法ではたいしてダメージを与えられないと判断し、いつしか魔力は身体強化にしか使わないようになっていた。
そうなると、もともとの身体能力の差がものをいいはじめた。
体格差はもちろんのこと、獣としての筋力や俊敏性を持つ半獣のラビスは、魔力で身体強化をすることでさらに屈強なものへとなっていた。
ラビスと渡り合うために、彼以上の魔力量を消耗し続けて戦うアルヴィスは、すでに体力の限界が見え始めていた。
「ダラァッ!」
「ぬぉ――」
アルヴィスの垂直斬りを、両手で持った矛の中段で受け止めるラビス。
アルヴィスは間髪いれずさらに攻めこむ。
「オォォッ――ルァァっ!」
奥歯を噛み締め力むアルヴィス。
そこから振り落とされた一撃は、今までのなかでも特に重い斬撃であった。
「ガハ……ッ」
斬撃の重さで、後方へ数歩押されるラビス。
実はラビスもかなりの体力を消耗していた。
アルヴィス同様、常時身体強化をし続けなければ、体格差をものともしないと一撃を受け止めることができなかったのだ。
【七つの大罪】リーダーであるカイサルの側近としての、また1人の将としてのプライドが、ただの人間ごときに苦戦を強いられた苦悶の顔を見せるわけにはいかなかった。
挑発的な言葉はラビスの意地でもあったのだ。
すでに腕に力は入らず、骨は軋み悲鳴を上げている。出来ることなら、今すぐこの場に大の字に寝転び休みたいと思っていた。
だが、それは眼前の少年も同じはずであるとわかっていた。
なぜなら自分とは違い、恥もプライドも捨て、苦痛や闘志を表情にすべてだし、勇猛に挑んでくるからだ。
その表情ひとつで、少年が今どんな状態にあるかくらいわかってしまう。もしかしたら、少年にも自分のことを感じ取られているかもしれない。
「こんなものか小僧ォ……ッ」
「っるせェよ……お前もほんとに【七つの大罪】か……? 物足りねェな……!」
肩で息をする2人は、ろくに武器を構えることすら出来ていない。
「――なんじゃ、まだやっておったのかお前さんよ」
そこへ、返り血を拭いながら歩いてくるアリスが現れた。
「な――!? アリス、あの集団はどうした!?」
突然の登場に、膝に手をつき息をしていたアルヴィスは驚きながら顔を上げた。
「黒いやつらのことかの? それならとうに殺しておるわ。それにあっちのやつらもの」
アリスの視線の先をたどり、アルヴィスは第一波の兵が全滅していたことに気付く。
ラビスとの戦闘に集中し過ぎで、周囲の戦況がわかっていなかったのだ。周りに他で戦闘中の兵がいないことに。
アンヴィエッタ達は、離れた位置で未だ乱戦中の【戦乙女】の援護に入っていた。
そちらももうじき終わりを迎えそうで、すでにこの中央の戦いは結果が見えていた。
つまり、アルヴィス達ローラン軍の勝利だ。
アルヴィス達の会話で、自軍の状態を知ったラビスも理解したようだ。すでに敗け戦であることを。
だがラビスは――
「どうする? 我が主人さまよ。その様子ではキツいじゃろ? 儂があやつに止めを刺してやってもよいぞ?」
「いや、邪魔をするなアリス……ッ。これは俺がケリを着けなきゃならねェ戦いだ……!」
「……わかった。死ぬなよ、我が主人さまよ。不死身の力があるとはいえ、魔力がなくてはその力も使えんからの」
「ああ、わかってる……。――いくぜ? ラビス」
――有り難い、こいつも俺と同じ想いだったか、とラビスは握る矛に力を入れ直し、眼前の少年に感謝した。
「来いッ、小僧!」
「ルォォッ――」
渾身のひと振りを叩きつけ合う両者。
剣と矛。刃と刃が衝突しあい、激しく火花を散らす。
接触する刃から鳴り響くギギギという金属音が、まるで悲鳴を上げているようだ。
「――ヌアアアッ!!」
「――――!?」
ガギリと歯を鳴らし押し込むアルヴィスの剣が、ラビスの矛を押し返し首筋から斜めに食い込み始める。
「このガキがァ……ッ!」
「ツァオラァァァッ――――!!」
ゾバ――ッ……!
アルヴィスの剣が、ラビスの鳩尾まで深く斜めに刃を埋めた。
「ゴポォ……ッ――」
口内から夥しい量の血液を吐き散らす。
黒豹の半獣は、そのまま崩れ落ちるように地に倒れた。
(――すみません……カイサル様……)
「敵将ッ、【EGOIST】のアルヴィス・レインズワースが討ち取ったぞォ!!」
第二波も掃討し援護に駆け付けたところだったアンヴィエッタが、ラビス討伐の報を戦場全体へ叫んだ。
「よくやったのう、お前さん」
「……ああ、スッゲェぎりぎりだけどな……」
「あやつは間違いなく、この場で儂の次に強かったぞ」
「ははっ……そりゃスゲェやつをやったもんだぜ」
「うむ。褒めてやる」
「逆だろ普通……でも、まぁ……悪い気はしねェな……」
バタンッ――
「しばらく休んでおれ」
「ああ、そうさせてもらうぜ……」
大地に倒れ込む様な勢いで寝転んだアルヴィスに、アリスは再度賛辞の言葉をおくると、隣に座って見張り役となり、しばらくの間主人を寝かせてあげるのだった。




