第91話 暴食の猛将
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昨日見たら日間9位とさらに上がっていました!
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――開戦から一刻。
アンヴィエッタ率いる第一隊と、敵軍5000の中央の戦いは――
「どるァァァッッ」
5倍の兵数差を持つ敵軍に対し奮闘していた第一隊は、なんとその差を3倍にまで削っていた。
なかでも、アルヴィス達【EGOIST】が獅子奮迅の働きを見せていたのだ。
兵数差で余裕を見せていた敵兵達は、予想外の第一隊の強さに驚きを隠せずにいた。
「先生! 俺たちはあの集団に突っ込む! いいかッ!?」
アルヴィスは、統率の乱れている敵集団を顔で指しながら、少し離れた場所で敵を斬り伏せているアンヴィエッタに叫んだ。
アルヴィスの声に反応したアンヴィエッタは、彼の見る方向を同じく見ると、少し悩むが自身の指揮圏から外れることを許可した。
「よしっ、坊や達【EGOIST】に今から遊撃部隊としての行動を許可する!」
「っし、サンキュー先生!」
アルヴィスはアンヴィエッタから許可を得ると、周りにいる【EGOIST】メンバーに「いくぞ!」と指示を出し馬を走らせる。
敵集団に突っ込んだメンバーは、アルヴィスとロベルトが斬り裂き、エリザベスは燃やし、飛鳥が呪符で仲間を護り、ルナは首を掻き切った。
そうして、あっという間に数十数百という敵兵を撃破していく【EGOIST】達は、敵からだけではなく味方からも注目を集めている。
敵の士気が下がり、逆に味方は上がる。
刻がさらに一刻ほど経過した頃には、5000の敵が1000にまでその数を減らしていた。
一方で第一隊は、アンヴィエッタの指示で護り中心の戦いを仕掛けたことで、最低限の被害に止めていた。
現在は約800の隊となっている。負傷した200人は、後方で待機している第二隊の位置まで退避させていた。なんと死者数0人という素晴らしい結果となっていた。
「踏ん張れみんな! ここを凌げば第二隊が来る! そしたらこの初戦は私たちの勝利だ!」
「「おおーッ!」」
「「いくぞー!」」
アンヴィエッタが隊全体に聞こえるほどの声量で叫ぶと、学生達は気迫の乗った声で各々応えた。
さらに高まる士気の中、その戦場奥、敵後方に砂煙が上がっているのをアルヴィスは発見した。
「来やがったかッ」
アルヴィスは、それが敵陣にて待機していた中央軍からの援軍だと判断すると、すぐさまアンヴィエッタに伝えようと叫ぶ――
「先生! ――」
「わかっている! くッ……予想より早いな……! まだこちらは動いてもいないぞ」
アルヴィスよりも早く敵軍の動きに気付いていたアンヴィエッタは、自軍中央に待機している第二隊を見遣ると、舌打ちと同時に険しい表情へと変わる。
「あと少しで流れが完全にこちらにくるというのに……相手の将もバカではないらしいな」
アンヴィエッタは第二隊の将である2寮寮長と、敵中央軍を指揮している将とで、どちらが今の流れを理解しているのか比較し、自軍に対して再度舌打ちをした。
見る間に距離をつめてくる敵中央軍の第二波。その中でも主力だと思われる1000人程の黒衣の隊が、先行して砂煙の中から姿を現す。
アルヴィス達は、その姿に緊張感が走った。
「俺は【七つの大罪】が1人にしてカイサル様の側近、この軍を指揮するラビスだ! 今すぐうちの猫を返せば楽に殺してやる! さもなくば虐殺だッ!」
黒衣の隊を率いて走る、ラビスと名乗った1人の男。
その男は、いや、一匹の獣は、二足歩行の巨体な黒豹、と比喩したら想像しやすいだろう。
上半身裸で露わになっている筋肉質な肉体は、無駄なものが一切付いていない。限界まで脂肪を無くした完璧な身体だ。衣服は下半身にのみ銀色に輝く鎧を纏い、最低限の装備で済ましている。
叫ぶ際に、口許から溢れ漏れているような火から、恐らくラビスは炎を扱う半獣なのだろう。
そして、自身の背丈――目測2メートル――ほどもある巨大な矛を手にしていた。
(やっぱり目的はルナか……!? だが素直に渡すわけにはいかねェよな!)
「どうする、先生ッ」
ラビスの姿を見たアルヴィスは、只者ではないと放つ雰囲気で判断したのか、急かすようにアンヴィエッタに指示を求める。と同時に、隣にいるルナの様子を確認するが、どうやらラビスのことを知らないようだ。
アルヴィスの予想通り、ルナは知らないうちに【七つの大罪】メンバーとなっていたようだ。
「とにかくこのまま護りを固める。坊やたちは後方に戻り、すぐに援軍を出すように言ってきてくれ!」
アンヴィエッタは、ラビス率いる黒衣の隊を睨みながらアルヴィスに指示をとばす。
「了解したッ」
アルヴィスは頷くと、後方の自軍へ振り返りながらアリスに馬を走らせるように指示を出す。
だが――
「その必要は無さそうじゃぞ、我が主人さまよ」
先に後方へ向いていたアリスの言葉によって、走り出そうとしていた【EGOIST】の動きを止められることとなった。
「どういうことだ!?」
「見よ――」
アリスの旋毛を見下ろすように質問するアルヴィスに、幼女は顎で指示を出す。
アルヴィスはアリスの頭の動きに反応し、旋毛から自軍後方へ視線を移した。
「――!? あれは……ッ!?」
後方を見たアルヴィスは思わず目を見開いた。
先ほどまで遥か後方で待機していたはずの第二隊から、すでに砂煙があがっていたからだ。
だが、そのあがる量が1000人にしては少ない。
アルヴィスは、一体誰が!? と、隊を動かした人物を思考する。
「何をしている坊や!? 早く行かんかッ!」
すでに黒衣の隊1000匹――半獣のみで隊を作られているようだ――と交戦していたアンヴィエッタが、まだ動いていなかったアルヴィスに少々怒気を含ませて叫んだ。
「先生、来てくれたようだぜ」
「何を言っているんだ君はッ!」
顔も向けず、ただ後方を見たまま応えたアルヴィスに、アンヴィエッタは額に青筋を浮かべながら叫ぶ。
「――援軍がよ」
「凍れ……ッ、〈アイシクルブリザード〉」
今度はアンヴィエッタへ振り返り応えたアルヴィスの真横を、先行して来た1人の女生徒が通り過ぎる。
少女が放った、無数のつららが混じった吹雪によって、黒衣の隊の後方から向かってきていた4000もの兵が次々と倒れ転んでいく。
つららが刺さった箇所から、全身に広がるように凍結していき、次第に身動きが取れなくなる敵兵。
その姿に、この魔法は! と思い当たる人物がいたのか、少々驚いたように目を見開いて、その魔法発動主に顔を向けるアンヴィエッタ。
「――ロックハートか!?」
「ユキちゃん!」
アンヴィエッタと同時に、思わぬ学友の援軍に嬉しそうに名前を呼ぶエリザベス。
ユキちゃんことシャーロット・ロックハートは、嬉しそうに笑顔を向けてくるエリザベスに任せなさいという風に無言で頷くと、騎馬する馬をアンヴィエッタと会話可能範囲まで近付けた。
「シャーロット・ロックーハート以下199名、【戦乙女】が後方の4000を引き受けます」
「やれるのか?」
「問題ありません」
「よしッ、任せた」
シャーロット達【戦乙女】の援軍により、敵中央軍残数6000のうち、4000もの相手をせずに済むことになった第一隊。
だが、ホッとするのも束の間。第一波の残兵1000と合流した黒衣の隊1000、合わせて2000もの相手を疲弊しきっている800人でする必要があるのだ。
アンヴィエッタは第一隊の状態と、将の参戦による敵兵士気の高さから、このままでは敗けると理解し、苦々しそうに顔を歪める。
「――カカッ、面白そうな奴等も出てきおったことじゃし、そろそろ儂もひと暴れしたいのじゃが、よいかのう? 我が主人さまよ」
そんな戦場の中、1人余裕な笑みを浮かべ、背後にいる人物を見上げるように頭を反る幼女がいた。
アリスだ。
アリスはこの1時間超の間、ずっとアルヴィスの代わりに馬を操っていたことで、戦に参戦出来ずにストレスが溜まっていたのだ。
そんなストレスが溜まりに溜まっているところでの、ラビス率いる黒衣の隊である。
戦闘狂のアリスには我慢が出来ない相手であった。
「ああ、いいぜ。アリスもよく我慢してくれてたな。けどお前が接触禁止な危険人物だってことを、ここにいる他の奴等は知らねェ。やり過ぎには気を付けろよ?」
「出来る限り抑えるが、戦闘中に、ついついやり過ぎる、というのはよくあることじゃろ?」
主人の許可で嬉しそうに笑顔を向けながらも、アリスはウインクのように片眼を瞑り、イタズラを企む子供のような表情を加える。
アルヴィスは、仕方ないやつだな、と諦めたように短い嘆息を吐き、「そうだな」と再び許可を出した。
「カカッ。それでこそ我が主人さまじゃ。――ではちょっと行ってくるぞ!」
「そんなちょっと散歩に見たいなテンションで言うことじゃねェぞ!」
「――カッカッカァーッ!」
アルヴィスは、騎馬していた馬を踏み台にして跳んで行ったアリスに向かってツッコんだが、すでにその場にいない幼女は聞いておらず、数十メートル先で愉快そうに笑っていた。
「やれやれ……。さて、あの黒いやつらはアリスに任せるとして、俺はやっぱりアイツかな……!」
アルヴィスは軽く深呼吸し、気持ちを戦に戻すと、自身の相手を選ぶように全体を見回す。
そして、強い相手ほど戦ってみたくなる性格のアルヴィスだ。視線の先の敵は――中央軍大将、【七つの大罪】・暴食の席に就く猛将、ラビスであった。




