第87話 復活のロベルト
――部屋での仕度を何とか終えたアルヴィス達は、集合時刻が迫ると闘技場へと向かい出した。
下着1つ穿かせるのに一苦労のアルヴィスが、ルナにスカートを穿かせるまでに、さらなる苦労があったことは言うまでもない。
闘技場への道中、同じく向かっていたエリザベスを発見し、共に向かう。そしてアルヴィスは、エリザベスにルナのパンツの件の礼を伝えたのだった。
闘技場についたアルヴィスは、すでに集まっていた生徒数に圧倒された。1年生で約1000人ということは、6学年合わせれば単純に6000人ということになる。この程度のことは、アルヴィスもすでに知っていたが、いざ実際にその数を眼にすると凄い迫力であった。
さらにその6000人の生徒数とは他に、アリスやルナみたく生徒が連れているサーヴァントの数も合わせると、この闘技場には7500~8000人はいるだろう。
アルヴィスはその中から数人の見知った顔を発見した。
ロベルトや飛鳥はもちろんのこと――ロベルトは1ヶ月の間にクランメンバー入りをしている――その他にも、クラン【ストームライダー】のカイや、【戦乙女】のシャーロットの姿も発見する。
2人の背後には、クランのメンバーなのだろう、それぞれ300人程の生徒が列をなしていた。
カイの背後には女生徒の姿もあり、男女混合のクランだということがわかる。
シャーロットの背後には、女生徒の姿しかない。男嫌いのシャーロットのことだ、女生徒のみで構成したクランなのだろう。
と、場内を見回していたアルヴィスのもとに、こちらに気付いたロベルトと飛鳥が近付いてきた。
「こんにちは、アルヴィスくん」
「おう」
礼儀正しく挨拶をしてくる飛鳥に、アルヴィスは片手をあげて軽く返す。
「ロベルトとは久しぶりだな。クランに入ってもらって以来か?」
アルヴィスは、飛鳥の隣に立つロベルトにも声を掛ける。
「ああ。任務がなければ、特に貴様と会う必要がないからな」
「その口は相変わらずだな。ちょっと安心したけどな」
ロベルトの面会謝絶が解かれ、すぐに見舞いに行ったアルヴィスと飛鳥。だが2人が見たロベルトは、以前の彼とは別人に見えるほど雰囲気が変わっていた。
実の兄に敗北したロベルトは、以前の自信家で冷淡なものから、自信を喪失した虚ろな顔をしていたからだ。
けれどアルヴィスは、そんなロベルトでも立ち直れると信じ、クランへと勧誘をした。以前の彼なら罵声のひとつでも浴びせ断っただろうが、以外にもすんなりと受け入れてくれたのだ。
それ以降、アルヴィスはロベルトとは会っていなかった。自信回復をしてくれるまでは、そっとしておこうと判断したのだ。無理に戦場へ連れ出せば、最悪命の危機も考えられたからだ。
だが、そんな状態だった彼が今、自分の目の前にこうして復活した姿で現れたことにアルヴィスは内心喜んでいた。
――おかえりロベルト、と。
【EGOIST】のメンバーが集結し、それから程なくすると、闘技場観戦席の一角に設けられている壇上に、アンヴィエッタを中央に各寮長5名が姿を現した。
スタンドマイクに手をかけ、軽く息を吸い込んだアンヴィエッタの口から、ついに全生徒が集められた理由を知らされ始めた。
理由を聞いている生徒達からは途中、【七つの大罪】というワードが出るとざわめく声が上がり出した。
アルヴィスも同様に反応していた。
(【七つの大罪】だと!? まさか、ルナを狙って……? 連れ戻しにきたのか? ……それとも殺しに……っ!?)
アルヴィスはそんな不安感を胸中に、隣にいるルナを見ると、何故かルナは驚くほど他人事のように変わらぬ顔をしていた。
アルヴィスはそのことに驚いてしまい、周りを気にしつつルナにひそひそと声をかける。
「おいルナ、【七つの大罪】が相手なんだぞ? 仲間だったんだろ? 平気なのかよ?」
アルヴィスは周りの生徒に、ルナが元【七つの大罪】だったことがバレないように出来るだけ小声で質問をした。
だがそんな気遣いを気にした風もなく、ルナはいつものように応えた。
「にゃあご主人。たまに聞くその【にゃにゃつの大罪】っていうのは、ニャアとにゃにか関係があるのかにゃ?」
小首をかしげてチョーカーの鈴を鳴らすルナ。
「はっ!? ちょっと待てルナ!? それってどういう……いやそんなことより、ルナは色欲の魔女じゃないのか?」
「ん~……たまにそんな風に呼んでくる奴もいた気がするにゃ。けどニャアはご主人と会うまではにゃん年もずっと独りにゃ。だからにゃか間にゃんて奴らはいにゃいのにゃ」
衝撃発言であった。
なんとルナは【七つの大罪】メンバーではないというのだ。
今の今までメンバーかと思っていたアルヴィスは、驚きで眼を最大まで見開いていた。口を開けっぱなしにしなかったのがせめてもの抵抗である。
たしかに思い返せば、ルナの方からは1度も【七つの大罪】メンバーだという風には言ってはいなかった。
いや、だがそれだと色々とおかしな点が出てくるのである。
ルナの魅了は色欲と呼ばれるにはピッタリのものであるし、街を壊滅させることが出来るほどの魔物の群れを持っていた。さらにルナをアルヴィスの傍に置いてからはピタリと街の壊滅は収まった。そして今回の侵攻。
すべてルナがメンバーであれば説明がつくのだが――
アルヴィスはある1つの可能性を思い付き、ルナに確認してみることにした。
「……なぁ、ルナ。そのたまに呼んできたっていうやつとは、1度しか会ったことないのか? もしかして一緒にいなくても、何度かルナに会いに来てるんじゃないのか?」
アルヴィスの質問にびっくりした様に眼を丸くするルナ。
「ご主人はスゴいにゃ! そうにゃ、にゃん度か会ったことあるにゃ。会う度ニャアに色々言ってくるから、めんどくさい奴だったにゃ」
「……」
(あー……なるほどな。そういうことか)
ルナの返答に、アルヴィスの予想は確信へと変わった。
(ルナのやつ、自分でも気付いてないうちにメンバー入りされてて、都合よく使われてたんだな)
アルヴィスは、急にルナに哀れみの気持ちを抱いてしまい、猫耳の頭を優しく撫でていた。
「急ににゃんにゃぁご主人? 気持ちいいからもっとやるにゃ」
ルナは気持ち良さそうに眼を細めてアルヴィスに撫でられる。たまに漏らす「にゃぁ~……っ」という声がアルヴィスの撫での上手さを表していた。
そんなやり取りをひっそりと行っていると、壇上のアンヴィエッタから隊編成の発表が行われた。




