第84話 アリスの心中
謁見の間から退室したアルヴィス達は、報酬である金銭を受け取りに講義棟の1階へと向かいだす。金銭とは他に、講義の単位も与えられるわけだが、それはこちらが何もしなくても反映してもらえるので手間いらずだ。
階段を下っている途中、話の流れで猫耳少女の名前を決めることとなった。これから一緒にいるからには呼び名を決めようと名前を訪ねると、なんとそんなものは無いと言う。
歳を聞くと14歳ということは解っていたらしく教えてくれたが、これにも一同は当然驚く。何せこのプロポーションだ。着ているボロの服を内側からこれでもかといわんばかりに押し上げている胸部に、桃の様に形のよい臀部。そして四肢は肉付きがよく、けれど筋肉質で引き締まっている。とてもこの体躯で14歳とは思ってもみなかった。さすがは魔族とのワンエイス、ということにしておこう。
そして肝心の名前だが――
「名前なんだけどよ、ルナってどうだ? 月の見える夜に会ったからっていう、仕様もない理由だけどよ」
「ルニャ?」
「ル・ナ、な」
噛み間違える猫耳少女に、アルヴィスはもう一度はっきりと伝えた。
「にゃ~、さっきからご主人はニャアが言いにくいことばかり言うにゃ。ニャアはニャアのことをニャアと呼んでるから、ご主人たちは勝手に呼ぶといいにゃ」
という流れから、猫耳少女の名前はルナという事になった。
そんな中、ルナの名前決めを話し合っている最中、アリスだけは会話に参加していなかった。
アリスは考え事をしているのか、謁見の間を出てからずっと難しい顔をしていた。
(主人さまは気付いておるのかのう。エドワードのガキが言っておった、言葉の意味に)
アリスはアルヴィスの顔を横目で見詰めながら思案を続ける。
(あやつはこの猫娘を、お前さんの所有物として国に居ることを許したのじゃぞ? ということは、もしお前さんがこの国から追放されれば、この猫娘の居場所が無くなるということじゃ。それに、世間的には儂と同じサーヴァント扱いじゃ。こやつが何か事件を起こせば、その責任はお前さんに降りかかるのじゃぞ?)
アリスは腕を組み、アルヴィスの謁見の間での表情を思い出すと、そんなことまでは考えていないだろうなと、短い嘆息を吐いた。
(あのガキは恐らく、主人さまが自分にとって不利益な存在と判断したとき、必ず儂か猫娘に何かしてくるはずじゃ。その前に主人さまが全盛期まで強くなってくれればよいが……まぁ普通にやってそんなことは無理そうじゃの。なら逆に、儂らが利用するだけしてみるのもよいかもしれんのう)
アリスがなぜここまでエドワードのことを警戒しているのかというと、アルヴィスと同様にアリスもエドワードの瞳に宿った光、いや、濁りに気付いていたからだ。
とても信頼を置いている者に向ける眼ではなかった。たしかに、アリスに対して向けたものであってアルヴィス本人にではない。だが、アルヴィスにとって都合の良い方向に話の流れが変わった時に生じた変化。そんなタイミングでの変化を気にするなという方が、どうかしているというものだ。
アルヴィスがそんなアリスの心中を察しているはずもなく、アルヴィスを先頭に1階にある仮設ギルド――学院支部とでも呼ぶべきか――にたどり着いた一同は、それぞれ報酬金を受けとると、ここでそのまま解散となった。
解散、といってもエリザベス1人が別れることになっただけである。
アルヴィスは先程交わした約束通り、このあとは飛鳥の用事に付き合うこととなっている。当然そこには、サーヴァントであるアリスとルナも付き添うことになる。
エリザベスも一緒に付き合いたそうな顔をしていたが、先約があるとのことで泣く泣く別れていった。
飛鳥の用事。それは、自分に合う武器選びに付き合って欲しいとのことだった。
武器選びなら、ロベルトの方が適任だろうとアルヴィスは内心思うが、せっかくのお誘いだ。黙って付き合うことにした。
(ついでにルナの日用品でも買うか)
アルヴィスは頭の中に買い物リストを作りながら、飛鳥と共に商店街へと向かうのだった。
次話から新章突入です




