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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
色欲の魔女編
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第83話 所有物




 ――戦のことや、カタルシア国の現状、また猫耳少女の体質も含めた諸々のことを話したアルヴィスは、最後に、猫耳少女を極力善い処遇でこの国に迎え入れて欲しいと伝えた。


 ちなみに、猫耳少女の体質――アリス曰く魅了(チャーム)という魔法だそうだ――は、アルヴィスの予想通り魔力を抑える魔道具で効果を弱めることに成功した。お陰でこうしてこの場にいることが出来ているわけだ。だが、成功とはいえ効果は発動している。なので魔法耐性が低い者には、猫耳少女のことが凄まじく可愛い子くらいの認識にはなってしまう。


 アルヴィスは自身の過去の経験から、自分には生存に影響があると元に戻そうとする魔法がかかっていることに気付いていた。それは確かに正解で、前世のアルヴィスが若返りを行う前に自分自身にかけていたものだ。


 初めて猫耳少女と出会った夜、近付かれてもアルヴィスに魅了は効かなかった。だが、魔力を消耗している感覚があったことと、虜にする体質というキーワードから、アルヴィスは常時発動型の魔法ではないかと予想したのだ。


 そして、魔法なら魔道具でなんとかなるだろ、とアルヴィスは猫耳少女に鈴の付いた黒いチョーカーを装着させたというわけだ。補足として、この黒いチョーカー、実は魔道具屋には売っておらず、奴隷商でわざわざ購入したのである。アルヴィス曰く、「猫ならやっぱり首輪だろ!」とのことだ。


「困ったものじゃ。アルヴィスの言うことが全て真実だとすれば、どう考えても、その者こそが色欲の魔女本人なのじゃがな」


「そ、それは……」


「今回の任務は、この国に影響が及ぶかもしれないから事前にその脅威の排除、というのが目的じゃ。じゃがお主は、その脅威そのものを迎えよと申す。そのような事を、王である儂が出来ると思うかの?」


「うぐ……っ、そうですよね……無理な話だとは思ってますが……」


「――! にゃにゃ?」


 エドワードに論され引きそうになったアルヴィスは、猫座りで大人しくしている猫耳少女をチラリと見てしまう。


 話の内容がよくわかっていない猫耳少女は、アルヴィスと眼が合うと小首を傾げた。その時に小さく鳴ったチョーカーの鈴が愛らしさを増している。


(なんとかしてやるって言ったのに……クソっ……)


 アルヴィスは幼少期の事を思い出し、ここでも救えないのか、と下唇を強く噛んでいた。


 ――だが、以外な人物からの助け船が出される。


「おい、小僧。たしか、今しがた脅威の排除と申したのう」


 突然のアリスの参戦に、うつ向きかけていたアルヴィスはハッとアリスへ顔を向け、エドワードは眼を細め見つめる。


「言ったが、それがどうしたのじゃ?」


「ならば問題なかろう。こやつの軍はすでに全滅、そしてこやつ自身の能力も半減させておる。こやつ自身の戦闘力は大したこと無いしの」


「……それで?」


 アリスをとらえるエドワードの双眸は見開かれ、咎めるような光を宿す。


 エドワードの放つ雰囲気の些細な変化に気付いたアルヴィスは、その初めて見せる瞳に首をかしげた。


「まだわからんのか? 貴様は脅威を排除するために討伐という選択肢を取ったのじゃろうが、すでにその脅威自体が無力化されておる。これはこれで、脅威の排除ということで問題なかろうが」


「……そのように言われてしまうと、なおも断れば儂が悪者になってしまうのう」


 エドワードは瞼を閉じ、諦めたように深い溜め息を吐いた。


「カカッ、小僧の敗けじゃ。さっさと我が主人さまの頼みを聞かぬか」


「仕方がないのう……。じゃが、ひとつだけ条件がある」


 溜め息を吐き終えたエドワードは、再び眼を開くとその瞳からは先程の光が消えていた。


「その者も、アルヴィスのサーヴァントとして責任を持って管理するのじゃ。これを飲めなければ、儂も頼みは聞けんのう」


「そんなものならいくらでもおかわりしてやるぜ、学院長!」


 エドワードの出した条件に、半ば諦めていたアルヴィスは、嬉しさのあまりついタメ口になってしまう。


「……わかった。では、その者を国民であるアルヴィスの所有物ということで、入国を許可する」


「にゃにゃ? よくわからにゃいが、ニャアは人間の物ということににゃったのかにゃ?」


 アルヴィスの隣でずっと黙って聞いていた猫耳少女は、エドワードの自分を見てくる目線で、やっと話の内容が自分のことだったということに気付いた。そして自分でも分かる所有物というワードに反応した。


「ああ。勝手に決めて悪いが、そういうことになった。――嫌か?」


「いや、別にいいにゃ。にゃんか人間のことは嫌いじゃにゃいにゃ」


「人間じゃねェ、アルヴィスだ。これからはそう呼んでくれ」


「ニャルヴィス! ……呼びにくいにゃ。ご主人でもいいかにゃ?」


「えっ!? あー……うん、まぁなんでもいいや」


 キラキラと瞳を輝かせて聞いてくる猫耳少女に、アルヴィスは断ることが出来ずに渋々許可した。


 少女に猫の格好をさせて、ご主人と呼ばせることが好きな変態だと思われるだろうなぁ、と一瞬で脳裏に浮かんだからだ。


「ごほんっ、もうよいかのう?」


 そこへ、わざとらしく咳払いをするエドワード。アルヴィスは「すみません」と背中を小さくし、猫耳少女も静かにさせる。


「話が逸れてしまったが、これで報告も含めて任務完了と認める。報酬はすでに仮設ギルドに用意しておる。後で受けとるとよい」


 この場を締めたエドワードに、アルヴィス達は一礼してから退室していった。

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