第81話 終戦
瞬時に爆発的な魔力を放出したアリス。トンと軽く地面を踏んだ瞬間、アリスの影がこの戦場全体へ広がっていく。
幼女バージョンでは、自身の影の面積分しか伸ばせない影を、今の大人バージョンでは無際限に伸ばせるようだ。
十数秒で戦場全体にまで広がる影。まるで急に雨雲が空を覆ったように暗くなった戦場では、魔法師や魔物と関係なくその場にいる全員が混乱状態となる。
どよめく戦場で、アリスはそこからさらに次の魔法を発動させた。
「〈影縫い〉」
広がった影が、影上にいる者全ての身体にまとわりつくように這い上がっていく。
魔法師と魔物、合わせて2000は越える数の生物の動きを封じると、アリスは戦場全体をサラッと眺めた。
その一瞬で魔法師と魔物の見分けをつけた。
アリスは「クックッ」と怪しく笑うと、一言――
「死ね」
指を鳴らした瞬間、止めの魔法を発動させたのか、魔物にまとわりつく影だけが針状へと形を変えて心臓をひと突き。
一斉に戦場中から呻き声を上げながら倒れていく魔物の群れを、未だに動きを封じられている魔法師達は目を逸らすことすら出来ずに眺めるのだった。
中には、触れるほどの距離で急に魔物が死ぬという魔法師もいたらしく、その女性はその場で嘔吐している。
そんな者達のことなど意に介さず、アリスは全ての魔法を解除してただの大人バージョンの姿に戻った。
「終わったぞ」
振り向き戻ってくるアリスは、1分と経たずに1000匹以上の魔物を討伐したというのに無表情だ。
これほどのことを成し遂げれば、いつもなら自慢気な表情くらいは浮かべるものだが、やはり大人バージョンになると精神年齢も見た目相応に戻るようだ。
「おつかれ、アリス」
労いの言葉をおくるアルヴィスに、アリスは「うむ」と頷きさらに近寄ってくる。普通なら既にもう止まるほどの距離だというのに、これ以上はぶつかってしまう。
「おいアリスっ――」
アルヴィスがアリスを止めようと声をかけ始めた時には既に遅く――
「――なにやってんだ、アリス?」
「……いや、まぁよいじゃろ。この姿じゃなければ、こうしてお前さんと抱き合うことなど出来ぬのじゃ」
「そりゃあそうだけどよ……」
(む、胸が……っ)
何故かアリスと抱き合うことになっているアルヴィスは、大人バージョンのアリスの巨乳に顔を熱くした。
たしかに幼女の姿では、身長差のせいで抱き合うというよりは、アルヴィスが抱っこするような形になってしまう。だからアリスの気持ちも解らなくはないのだが、思春期のアルヴィスには、その胸は凶器にも等しい破壊力を持っていた。
暫くして気が済んだのか、アリスはそっとアルヴィスを解放した。
「なんだったんだよ、急に……」
アルヴィスは軽く首を傾げながらぽつりと呟いた。
(これであの猫娘にも、主人さまが儂のものだと伝わったじゃろ)
アリスは離れた場所で招き猫のような姿勢で座っていた猫耳少女をひと睨みすると、勝ち誇ったように鼻で笑ってから幼女の姿へと戻った。
「あっ、そういえばまだあいつのこと説明してなかったな」
アルヴィスは幼女の姿へと戻ったアリスに、何故自分が猫耳少女のことを助けようとしたのか話そうとする。
だがアリスに手を突きつけられ、制されてしまった。
「よい。今の儂はお前さんのサーヴァント、主人の言うことに従うのみじゃ。余計なことなど知らんでよい」
「……そっか」
「うむ。――それで、この後はどうするつもりなのじゃ? 我が主人さまよ」
「ああ、それはちゃんと考えてあるぜ」
なにやら妙案を思い付いているのか、アルヴィスは自信満々にニヤニヤと笑っている。
その表情にアリスは軽く引いてしまい、猫耳少女は何をされるのかと不安そうに見つめていた。
こうして、アルヴィスの初陣である戦は終戦を迎えたのであった。
「はぁ~、やっと着いたァー……!」
隣国・カタルシア国であった戦から半月。
アルヴィス一行は馬車に揺られながら自国である王都北門出入り口を通り抜け、学院目指して街中を走っていた。
アルヴィスは固まった身体をほぐす様に両手を上げて全身を伸ばすと、馬車の中から街の様子を眺めて声を出す。
その声には、今回の任務の苦労が詰まったような重みを感じる。
「お疲れさま、アルくん」
「ああ、エリザもお疲れさま。飛鳥もな」
エリザベスの声に反応するアルヴィスは、隣に座っている飛鳥にも言葉をおくる。
「はい、ありがとうございます。ところで、このまま学院長に報告に行かれるのですか?」
「ん? そのつもりだけど?」
飛鳥の質問に不思議そうに答えるアルヴィス。
当たり前のように謁見の間まで向かうつもりだったアルヴィスには、飛鳥の質問が変に引っ掛かったからだ。
「そうですか。ではその後でいいので、少し私に付き合ってくれませんか?」
「……ああ、わかった」
アルヴィスはなんだろうと首を傾げるが、それ以降飛鳥からはこの話が出なかった。
学院の正面入り口前まで馬車で運んでもらうと、アルヴィス達は御者に金を支払い、寄り道せずに講義棟最上階・謁見の間まで向かっていく。
もちろんそのメンバーには、今回の任務で出会った猫耳少女も含まれている。
少女の様子を窺うと、初めて来る場所に怯えているかと思えば案外余裕そうだった。呑気に欠伸をかいているほどである。
ほどなくして最上階まで階段を上がると、数回のノックの後、アルヴィス達は名前を名乗ってから扉を開いた。
「フォッフォッフォッ、待っていたぞ」
扉の先には、何時ものように玉座に座っているエドワードが笑顔で迎えてくれた。話し方からして、国王としてではなく、学院長として迎えているようだ。
一礼してから入室したメンバーは、エドワードのもとまで歩くと横一列に整列して声がかかるのを待った。
「では、今回の報告をしてもらおうかのう」
「はい」
自分とエドワードとの関係を知らないエリザベスや飛鳥がいるので、アルヴィスはタメ口ではなく、いち生徒としての態度で対応することにした。
そしてアルヴィスは、今回の報告を始めたのだ。
いつも読んでいただきありがとうございますm(__)m
そんな私の「孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~」にプロローグを追加しました!
話の深みというか重みというか、なんのためにアルヴィスが学院に来たのかが少しでも伝わればと思います
理由が私の頭のなかで勝手に成立してたので気にしてませんでしたが、読者のみなさんがわかるはずないですもんね(--;)




