第78話 開戦
ガンガンガンガンッッ――!!
この日、アルヴィス達は街中に響き渡る激しい銅鑼の音で眼を覚まされた。
「急報ォーッ!! 急報だァー!!」
大通りから聞こえてくる叫び声。
アルヴィス達は、何事かと部屋の窓を開けて外の様子を窺う。
「西の山岳から魔物の大群接近!! 大至急魔法師は西門に集まられよ!! 繰り返す――」
アルヴィス達は顔を見合わせ「遂に来たか」と急いで荷物をまとめ始めた。
宿屋の代金を支払い、集合場所である西門に急いで向かう。
「うォッ、すげェ数――」
門前に辿り着くと、そこには街中の魔法師達が集まり外まで溢れ出ていた。
その数は400~500人程はいるだろう。
そして皆一様に上を見上げていた。
アルヴィス達も同じく見上げると、西門の壁上に立つ数人の姿が。その中でも真ん中で偉そうに立っている人物が、恐らくこの街を納める領主であろう。その両隣には側近らしき姿も見られる。
「皆のもの、よく集まった! 早朝、山岳から1000は下らん魔物の軍勢を確認した! ギルドに依頼も出していたが、最近ここらを襲う魔物に違いない! もうすぐここを目指して襲撃に来るだろう! 皆にはこれの撃退に当たってほしい! 報酬はたんまりと弾む! 望むものには、私が召し抱えてやってもよい! 奮闘を期待する!!」
「「「「「おおォォォッッ――!!」」」」」
壁上からの激に、周囲に集まった魔法師達は声を上げて奮い立った。
群れをよく見ると、アルヴィス達のように既にグループとなっている魔法師達や、声を掛け合って急増パーティーを作っている姿も確認できる。
やはりこういった大きな戦いには集団になるのが基本のようで、アルヴィスはエドワードがクランを作らせた意味を漸く理解した。
アルヴィス達は西門を通り抜け、壁外まで溢れ出ていた魔法師達の先頭集団まで向かった。
先頭にまで来ると、後方の壁内にいた数人のパーティーとは違い、数十人単位の集団も複数見つかる。
そしてアルヴィス達の隣に陣取るクランは、恐らくこの国では名のあるクランなのだろう。この者達の周囲にいる魔法師達が、皆口々にこのクラン名なのかリーダーのことなのかは解らないが名前らしき単語を呟いているからだ。
その中から1人、髪に剃り込みの入った厳つい風貌の男が一歩前へと出た。
「俺はこのクラン【神殺し】のリーダー、ラザークだ!」
集団から前へと抜け出た男が後方にいる魔法師達に向け叫ぶと、ざわめき声が一層大きくなった。
やはり有名クランだったのだ。
アルヴィス達もその様子につい注目してしまう。
「お前達の中には不安な者もいるだろう! 安心しろ! 俺の指揮下に入れば命のみならず、今回の戦の武功の保証もしてやる! 共闘を組みたいクランも歓迎だ! どうだ? 時間はそうないぞ! 一緒に戦いたい奴は今すぐ名乗り出ろ!」
ラザークと名乗る男が叫び終えると、周囲の集団や後方から我先にと近づいてくる姿がいくつもあった。
「あのハゲが急に叫ぶから何事かと思えば、カカッ。随分笑えることを抜かしおるわ」
そんな注目人物を相手に、アリスは下らない物を見るような目付きで笑っていた。
「おいアリス、聞こえるだろ」
「笑えるから笑っておるだけじゃぞお前さん。それとも、我が主人さまもあやつの下につきたいと、そう申すつもりか……?」
アリスは妙なプレッシャーを放ちながら隣に立つアルヴィスに言う。
「なわけねェだろ。知りもしねェやつに、俺たちの命を預けられっかよ」
「カカッ、そうかそうか。それならよいわ我が主人さまよ。安心せい、お前さんにはこの儂がついておる。神でも来なければ殺させはせぬわ、カッカッカッ」
「神には負けるんだな……」
「当たり前じゃろ。神じゃぞ? 鬼が神に勝てると思うておるのか?」
「いや、そこは嘘でも誰にも殺させないとか言ってほしかったからよ」
「儂はリアリストなのじゃ、カカッ」
「そうですか……」
アルヴィスは何とも言えない微妙な安心感をアリスに抱きながら、背後にいる仲間の方を向く。
「エリザも飛鳥も大丈夫か?」
アルヴィスは2人がこの戦いに不安を抱いていないかと、確認の声を掛けた。
だが――
「大丈夫よ、アルくん!」
「はいっ、私も準備万端です!」
そんなアルヴィスの心配は全くと言っていいほど必要がなかった。
応える2人の表情に不安の色は微塵も感じられず、逆にアルヴィスは頼もしさすら感じてしまった。
(さすが……。このメンバーにしてよかったぜ)
アルヴィスは心強いメンバーにより、初陣の恐怖心や不安感といったものが全て消えさった。
そして――
「敵影が見えたぞォッー!!」
誰かが上げた声で、臨戦態勢へと入った。
日付は変わりそうですが、もう1度更新予定です!




