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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
色欲の魔女編
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第75話 神強と鬼強

集中してたら時刻を過ぎてました……ごめんなさい

 浴室での出来事から一夜明け、アルヴィス一行は街から数キロ離れた山岳地帯へとやって来ていた。


 アルヴィスが気を失ってる間に、エリザベス達が情報収集をしていてくれたのだ。


 集めた情報によれば、魔物や半獣人の大群が、アルヴィス達が街に到着する数日前にこの山に向かっていったのを見掛けたらしい。


 街の住民達は、今度はここが襲われるのではと街の警備を増やし、ギルドでは領主から討伐依頼も出ていたが、未だにその依頼は達成されていなかった。


 かなりの報酬額ではあったが、さすがに他国であるギルド任務を受注するわけにもいかず、アルヴィス達はエドワードからの報酬のみで我慢することにした。


 それでもかなりの報酬だ。アリスと出会った調査依頼の数倍の金額と講義の単位が与えられるのだから、その上さらに他国の領主からも報酬を貰おうなどとバチが当たるというものだ。


 ひときわ大きな山の中を二手に分かれて探索してから約2時間。


 アルヴィス・アリスペアが洞窟を発見した。


 この中から魔力を感じるとアリスが言い出すので、アルヴィスは不用意に近付くのは避け、電話でエリザベス達を呼び出すことにした。


 ――そして数十分後。


 生い茂る木々の中から、エリザベスと飛鳥が姿を現す。


「ターゲット見つけたの!?」


 小走りで近付いてくるエリザベス。


「あれがその洞窟ですね?」


 少し遅れて飛鳥もアルヴィス達のもとへと到着した。


「ああ、あれだ。けどアリスが魔力を感じ取っただけで、目的の奴かはわからないけどな」


 アルヴィスは洞窟に半身を向けながら応えた。そして親指で洞窟付近に立っているアリスを指す。


「アリスちゃん、何やってるの?」


 入り口前で何かを行っている最中ということに気付いたらしいエリザベスは、本人であるアリスにではなくアルヴィスに質問した。


 アリスの邪魔をしないためだろう。


「あー、なんか魔法で中の様子を調べてくれてんだとさ。音しか聞こえないらしいけどな」


「へぇー、そんな便利な魔法があるんだね」


「影を伸ばしてその中に入ってきた音が聞こえるらしいぜ? 俺もよくわかってないけどな。アリスが言うには、地下に穴を掘って貫通させて、その穴から響き聞こえる音を聞いてるような感覚らしいぜ?」


「んー、よくわかんない!」


「俺もだ」


「「――あははっ」」


 アリスの例えをそのまま伝えただけのアルヴィスは、自分でも理解しきれていなかったようで、同じく理解出来なかったエリザベスとどちらからともなく笑い合う。


 そんな以前よりもどことなく親しげな2人の様子に、飛鳥はモヤモヤとした感情を抱きながらアリスの様子に変化があったことを2人に伝えた。


 アルヴィスとエリザベスも飛鳥に言われ、再度アリスを見ると確かに先程までと違い、足元の影の形が本来のものへと戻っていた。


「終わったみたいだな」


 アルヴィスは、エリザベスと飛鳥を連れてアリスのもとへと向かう。


「――来たか。聞こえた音と感じる魔力から考えて、ざっと50匹はおるじゃろうな」


 背後まで来たアルヴィス達に気付いたアリスは、洞窟を見たまま導き出した予想を伝える。


 その内容にアルヴィス達3人は驚きながら思わず顔を見合わせた。


「どうする? 4対50じゃあさすがにキツいか?」


「風神雷神を呼び出せば6対50です。それでも厳しいと思いますが……」


「問題は数より質ね。一体ずつが大したことなければ一掃することも可能だけど、50匹全てが私達クラスの戦力なら死ににいくようなものね」


 アルヴィスと飛鳥がエリザベスの言葉を聞き唾を飲んだ。想像したのだ。無謀にも挑む自分達の姿を。そして、圧倒的戦力差で無惨にも死を迎えた自分達を。


「何を言うておるのじゃお前さん達」


 そこに、何を狼狽えているのかさっぱり理解出来ないという様子のアリスが腰に手を当てながら話し掛けてきた。


 3人は余裕そのもののアリスに驚きながら顔を見る。


「貴様等だけかと思えば主人様まで。安心せい、この中は雑魚ばかりじゃ。そうじゃなくともこれしきの数で狼狽えるでないわ、まったく」


 ふんっと鼻を鳴らし不機嫌なアリス。


「ちょ、ちょっと待ってよアリスちゃん!」


「なんじゃ、小娘」


 エリザベスに話し掛けられ、より一層不機嫌になるアリス。


 その返事も実に不快そうである。


「いくらアリスちゃんが強いからって、そんなたった1人の戦力で覆る数じゃないでしょ?」


「貴様が主人様から儂のことをどのように聞いておるのか知らぬが、この儂がおっても勝てないと、そう言いたいのじゃな?」


 アリスは眼光鋭く問い迫る。


 エリザベスはアリスの迫力に少々たじろぎながらも、引かずに応えた。


「アリスちゃんのことはアルくんから超強ェとしか聞いていないけど、アルくんが言うんだもの。きっと私なんかよりも強いということはわかっているわ」


「主人さまもまた随分とアバウトな伝え方をしたものじゃのう」


「は、はははっ……」


 アルヴィスは笑って誤魔化した。


 アリスは主人の態度に軽く溜め息を吐き、「よいか?」と会話の続きを始めた。


「儂の強さは確かに主人さまが言うように超強いわ。それは間違っておらぬが、けど間違っておる。超などではないわ。もはや神じゃ、神強いのじゃ。激つよなどでもないぞ? 神じゃからの? 儂の存在はゲームの裏技やチートのようなものじゃ」


 今までの雰囲気からはとても考えられないほどの語彙力の低いアリスの例えに、エリザベスは一瞬きょとんと呆けてしまう。


「な、なら、アリスちゃんは最強ってこと?」


 エリザベスの問いに、アリスは首を横に振った。


 エリザベスはその無言の答えに「えっ?」と声を漏らして驚いた。


「儂の力も十分最強クラスと呼ばれるには足りているだろうが、儂の知る限り、世界最強は間違いなく我が主人さまよ」


 アリスの発言に一斉に驚く他のメンバー。そこには当然名出しされたアルヴィス本人も含まれている。


「アルくんが世界最強!? それこそ何かの冗談でしょ!? いくらアルくんが強いからって、そこまで強いとは思えないし、それこそアリスちゃんにも勝てないでしょ!?」


 エリザベスが皆の気持ちを代表するように返した。


「確かに、今の主人さまでは貴様にすら手こずるじゃろうな。じゃがの、今までの言葉は儂と主人さまが本来の力を発揮しているときの話じゃ」


「えっ……? じゃあそれって、今のアリスちゃんとアルくんは本気が出せないってこと?」


「まぁ、簡単に言ってしまえばそういうことじゃ。じゃからの、今の儂は神強ではなく鬼強くらいじゃの。吸血鬼だけに」


「「「……」」」


 アリスの最後の台詞に、思わず沈黙する3人の魔法師。


 周りの空気が数度下がったと思ってしまうくらい冷たい空気が流れた数秒。けれど、アリスは特に気にした風もなくアルヴィスのもとまで近寄ってきた。


「じゃから、鬼強の今の儂でも簡単じゃが、特別に神強の儂の力の一端を見せてやるわ」


 そう言うと、アリスはちょいちょいと手を振り、アルヴィスの顔の高さを自身の顔の高さまで下げさせる。


 ――カプッ……!


「痛ッ!?」


「ジッとしておれ」


 突然首筋を噛まれ、思わず声に出し反応するアルヴィス。だが、噛まれたままアリスに制され、おとなしくその場に留まった。


 痛みを感じたのは噛まれた一瞬のみで、今は血を吸われている感覚のみだ。慣れてしまえばどうということはなかった。


 アルヴィスは先程の自分の反応の大袈裟さに恥ずかしさを感じつつ、アリスに吸われ続けた。


 目の前の光景に、いかにもうぶそうな飛鳥はもちろん、エリザベスまでもが顔を赤くしていた。


 確かに目の前で起きている光景は、見慣れないだけにキスを見せ付けられるよりも官能的だ。


 片膝を地につけしゃがむアルヴィスを自身に抱き寄せるように頭に腕をまわし、首もとに顔を埋めているアリス。そして当然首筋を噛んでいるわけだが、客観的には首にキスをしているようにしか見えない。さらには唇からは血が軽く滴り、それが妙なエロスを乙女達に感じさせていた。


「――そろそろよいかの」


 アリスは首筋から歯を抜き、アルヴィスを解放する。


「で? ずっと黙って噛まれていたわけだが、一体これがお前の神強い力とどう関係あんだよ? おかげで少しクラクラすんぜ」


「カカッ、すまんすまん主人さまよ。血を吸いたかったわけじゃなく、儂はお前さんの魔力が欲しかったのじゃ」


「魔力? なら俺が流してやればいいだけだろ?」


「知らぬのか? 魔力は他から譲渡することはできぬぞ」


「ならなんでアリスはそれが出来んだよ?」


「それは儂のモデルが吸血鬼じゃから、としか儂は言えぬのう。そんなこと造った本人に聞くのじゃな。といっても、100年以上も前じゃからもう死んどるか、カカッ」


「……」


「モデルが吸血鬼と言っても勘違いするでないぞお前さん。儂は水や十字架、ましてやにんにくなぞが弱点ではないからの? 儂を造るときのテーマやコンセプトといったものが吸血鬼なのじゃ。例えば長寿や不死じゃったり、あとは人の血を吸うとかそういったものじゃな」


「じゃあ血を吸うアリスは吸血鬼と同じ性質なのか?」


 アルヴィスは考えるように腕組みをし、質問する。エリザベスと飛鳥も興味深そうだ。


「そのままというわけじゃないのう。先も言ったように儂は結果として血を吸っておるが、欲しいのは魔力じゃ。不死というのも超高速な自己再生能力を細胞レベルで持つ肉体だからじゃ。なんでも、胚性幹細胞とやらを使った最高傑作らしいぞ? それに今は魔法で時が止まっておるから、不死に不老まで付いてしもうて死にたくても死ねん身体じゃ、カカッ」


「まぁ、アリスは吸血鬼がモデルってことはわかったけどよ、それと俺の血の何が関係あんだよ?」


「儂の吸血能力による魔力摂取と、自己再生によって細胞を作り直す能力を意図的に利用するとの? なんと儂は吸った相手の魔法を儂のものに出来ることに気付いたのじゃ。じゃから昔はかなりの魔物から魔力を貪り吸ったのう、カカッ」


「マジかよスゲェなそれ!? ってことは俺の魔法も使えるのか?」


「完全に儂のものにするには吸い尽くす必要があるのじゃ。じゃからお前さんの魔法が儂のものになったとは言えぬが、吸った魔力分の魔法なら使えるのじゃ」


「なるほど。それで? まだ続きがあるんだろ? まだ俺の質問の答えにはなってないもんな」


「そうじゃ。ここからが答えじゃ。お前さんは覚えておらぬかの? エドワードのガキが以前時空間魔法で儂の時を封じたって話じゃ」


「ん? ああ、覚えてるよ。俺の息子って奴と学院長が協力して封じた話だろ?」


「そうじゃ。つまりの、儂の中に儂の時があるのじゃ。しかも、それが時空間魔法で封じとると言うとったじゃろ? じゃからお前さんから吸った魔力分だけ一時的に時を解放出来るのじゃよ。これはキマイラ戦で確認済みじゃしの」


「ッ!? そういうことか! ……って待てよ? それって、俺を吸い尽くせばアリスは本来の姿に完全に戻ることが出来るってことだよな!?」


「そういうことになるの、カカッ。じゃが安心しろお前さん。儂はお前さんを失ってまでも元の姿になりたいとは思わん。お前さんを失うことの方が儂は堪えられん」


「お、おう。そうか。サンキュー……!」


 アルヴィスは、アリスの発言に思わず頬を赤く染めた。


「こんなことで照れるな主人さまよ、可愛いやつじゃな――おいっ、貴様達! 何を呆けておる」


 アリスは話に全然ついてこれていない様子のエリザベスと飛鳥の方へ向くと、声をかけて意識を戻してやる。


 突然声を掛けられ、ハッとなる2人の乙女。


 アリスの話についてこれないのは至極当然で仕方がないのだ。何故なら、2人はアルヴィスやアリスの昔あった出来事など今まで一切知らず、事前知識が無いのだ。辛うじて飛鳥が、アルヴィスとアリスが昔一緒にいた、ということを知っているくらいのものだ。


「儂の力を見せるついでじゃし、ここまで色々話したしの。せっかくじゃ、1つ特別授業をしてやろう」


「「「特別授業?」」」


 アリスの台詞に思わず同時に声に出す3人。


 しかも台詞のみならず、首をかしげる動作までもシンクロである。


 仲の良いことだ。


「今、儂たちが知っておる情報は、敵の位置と数、それと大まかな戦力だけじゃ。じゃがの、敵はこちらの存在に気付いていないのに対し、こちらは先手を取れる状況と相手の位置まで知っておる。しかも、それが洞窟の中という逃げ場の無い袋の鼠状態じゃ」


 アリスの説明に、3人は同時に頷く。


「本来、戦というのは数が多く地の利がある方が圧倒的有利じゃ。例えば高所を取ったり、行き止まりに相手を追いやったりの。じゃが魔法も飛び交う戦では、これが決して有利になるとは限らん。高所では、落雷のような天からの攻撃を防ぐ時間がなく、行き止まりでは、追い込んだつもりが逆に何らかの魔法で道を塞がれるかもしれん」


 ここでアリスは話を聞いている3人の顔を順番に見ながら、エリザベスのところで視線が止まる。


「小娘、貴様の魔法は何じゃ?」


「わ、私? 私は炎だけど……?」


「炎か……ならこのくらいかの――」


 エリザベスの返答を聞くと、アリスは何やら魔力を練りだし始めた。


 すると、アリスの鳩尾の辺りを中心に仄かに光を発し始める。


「「「――!?」」」


 眼の前の光景に、アルヴィス達3人は眼を見開いた。


 本日何度目の同時驚愕だろうか。


 仲が良いにも程があるというものだ。


 だが、今回の内容はそれも仕方がないだろう。


 眼前での出来事。


 それは、10歳くらいの容姿だったアリスの姿がみるみると成長しているものだった。


 人の成長を早送りで観察している気分になってしまいそうな光景だった。けれど、早送りではなく本来の姿に戻っている巻き戻しなのである。


 光の放出が止んだアリスの姿は、今までの愛らしい幼女の見た目から、20歳くらいの美女へと変貌していた。


 着ていた真紅のロングドレスはすっかり膝上のミニスカート丈になり、ぺたんこで隙間があった胸元は、そのざっくりと大胆に開いてあるV字からこぼれそうなほどの豊満なものへと成長している。


 髪も少し伸び、胸辺りだった毛先の位置が今は腰辺りまであるロングヘアーだ。靴はもともと履いておらず、アリスは裸足で生活している。


「ふぅー……こんなものかのう」


 アリスは久々の大人バージョンの姿を見下ろすように眺め始める。


 そして、何故か自身の胸を下から両手で支えるようにして強調すると、エリザベスに見せつけるように軽く揺らした。


 プルプルン……ッ――


 プリンを突ついたように揺れたアリスの双山が、エリザベスに無言の攻撃を仕掛ける。だがその隣で圧倒的な敗北感を感じている飛鳥には誰も気付いていない。


「どれ、炎じゃったのう」


 大人バージョンのアリスの声は妙に艶っぽく、幼女時でも容姿が整っているのにさらに成長した姿が合わさり、絶世の美女と呼べるような色香を纏っていた。


「小娘、同時にいくつまで魔法を発動出来る?」


「えーと……18重くらい……かな?」


「ギリギリじゃな……。よいか? 此度の道中の戦闘で見させてもろうたが、貴様達は無意識で魔法を発動させすぎじゃ。全然なっておらぬ。発動させた時の完成形のイメージばかりで使うな。もっと1つ1つの工程に意味を持たせて行うのじゃ。つまりもっと意識して魔法を使え」


「使えって言われても……」


「口答えするでないわ小娘」


「そんなつもりじゃ……!」


「ふんっ。よいか? 18工程全てを同じことに使えば威力は高まるが、変化は起きん。つまり炎なら火力が高まるばかりで、その範囲や形や性質は何一つ変わらんのじゃ。主人さまの加速のような身体能力に影響を与える魔法はそれでも良いが、小娘はそれではダメじゃ」


「私だって変化くらい起こせるわよ! これでもAランク魔法師なのよ!? 範囲魔法だって使えるし、それなりに戦えるつもりだわ!」


「儂と主人さまの戦争時は、貴様のような魔法師はごろごろおったわ。偉そうに言うでないわ、小娘」


「うぅ……っ」


「じゃから、儂がこうして見本を見せてやろうというのじゃ。よく見ておくのじゃぞ? この姿では一撃のみしか使えぬからの、もう一度やるにはまた吸わせてもらう必要がある」


「マジか……!?」


 アリスの発言に、アルヴィスは噛まれたばかりの首筋を押さえて反応した。


 アリスは洞窟目掛けて真っ直ぐに右手を向けると、左脚を一歩引き半身になった。


 そして魔力を練り上げ始めると、纏う魔力が淡い青色からエリザベスと同じ赤色へと変色し、さらに揺らめく炎へと変わった。


 足元には魔法陣が出現し、さらに一回りずつ大きな魔法陣が2つ出現する。合わせて3つの魔法陣がアリスの足元に重なるように現れる。


 伸ばす右手には5つの魔法陣がそれぞれ、手、手首、肘、二の腕、肩に出現する。それはまるで各部位を保護させているようにも見える。


 だとすれば、足元の3つは自身の位置を固定させているのかもしれない。


 そして右手の先から洞窟の方向へ一直線に10つの魔法陣が現れ始めた。そのどれもが巨大な魔法陣で、160センチ強はありそうな今のアリスよりも大きなものだ。


 魔法陣全てが光をどんどんと強めていき、右手の先にある10つの魔法陣は他よりもさらに強い光量を放ち眩しいくらいだ。


 アルヴィス達は堪らず腕で防ぐようにして視界を確保する。


 魔法陣の輝きが強まると同時に、周りの温度も上昇しているのだろう。いつのまにかアルヴィス達は額から汗を流していた。


 同じ炎を扱い耐性のあるエリザベスまでもだ。


 そんな中、発動者のアリスのみは涼しげな表情をしている。


「ではいくぞ? 見ておれよ――」


 どうやら発動準備が終わったらしいアリスは、顔を向けることなく伝えると、さらに力を手に込めた。


「〈メガフレア〉」


 アリスが魔法を発動させると、手の先から熱線のような熱エネルギーがビームのように放出された。10つの魔法陣を通過する度、その太さ、熱量、衝撃、全てを倍に増していく。だがそれは全てが一瞬で起こったことで、見た目的には凄まじい熱エネルギーを持った極太の熱線が洞窟へと真っ直ぐに放出されているようにしか見えない。


 それは空気を燃え上がらせ、灼熱の空間を一瞬で作り上げた。


 けれどそれはアリスの周りの空間の温度のことで、エネルギー物質が命中したからではない。


 命中した洞窟の内部は――


「「「…………」」」


 その光景を見ているアルヴィス達は、あまりの威力に呆然と眺めていた。


 耳をつんざくような轟音と衝撃をもって洞窟を内部から爆破崩壊し、壊れた衝撃で砂塵や石礫がアルヴィス達の足元にまで舞い飛んでくる。


 一瞬だけ異常な叫び声のような音が耳に届いたが、一瞬すぎてそれが死の叫びなのかも判断が難しい。


 奥行きが何十メートルもありそうな洞窟が完全破壊した跡地は、轟轟と燃え盛る炎の海と化していた。


 それは山の木々に燃え移り、山火事の範囲を勢いよく広げている。


「これが、貴様が目指す一点集中型魔法の究極形じゃな」


 ただただ立ち尽くし風景を眺めていたアルヴィス達の目の前には、いつの間にか元の幼女の姿へと戻っていたアリスがニカッと笑っていた。

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