第73話 三者三様
――待ってもらっていた馬車に追加料金を支払い、跡地から1日ほどかけて北上したアルヴィス一行は、山岳地帯付近に位置する街に辿り着いていた。
まずは寝床となる宿屋を探し、宿を確保する。
アルヴィスは初め、アルヴィス・アリスペア、エリザベス・飛鳥ペアでの二部屋借りることを提案したが、その提案は女性陣によって却下となった。といっても、そこにアリスは含まれない。
理由は「2人にするとアリスが何をするかわからない」からだそうだ。
さすがにアルヴィスも1人の男だ。うら若き女性陣と部屋を共にするなど、理性を保てるか自信の程はない。
なので勿論反対の声を上げてみたものの、多勢に無勢。まるでその声すら無かったと思ってしまう程の無視という暴力を受けた。
その時のアルヴィスの表情を見て、1人愉快そうにアリスが笑っていたことなど想像に容易い。
渋々4人で泊まることとなったアルヴィスは、その晩人生最大のピンチを迎えることになろうとはこの時はまだ知る由もない。
部屋を借りたアルヴィス達は、まだ時刻も夕方前ということもあり、名目上は聞き込み調査ということで自由行動となった。
宿屋から出るとその場で解散となる。
はずだったのだが――
『アルくん今どこー? 一緒に回ろぉー?』
解散からものの30秒後の出来事である。
エリザベスから電話で待ち合わせ場所――といっても宿屋前である――を勝手に指定されたアルヴィスは、アリスとともに仕方なく待つことにした。
そしてきっかり30秒後。
宿屋がある大通りの最短距離の曲がり角から姿を姿を現すエリザベス。
エリザベスはニコニコと嬉しそうに手を振りながらアルヴィス達のもとへと近付いてくる。
そしてあることにアルヴィスは気付いた。
エリザベスの背後――その数メートル後ろを、尾行しているかの如き距離感で歩いている飛鳥の姿に。
「お待たせぇー、アルくん!」
アルヴィスのもとまでやって来ると、偉くご機嫌なエリザベスがアルヴィスの腕を組んできた。
その突然過ぎる行動にアルヴィスは反応することが出来ず、無力にも右肘に確かな膨らみを当てられることとなる。
「おい小娘! 儂がここにいることを知ってての行動か? えっ!? どうなんじゃ! 言うてみぃ!」
「…………」
「無視するでないわッ!」
エリザベスはアリスの存在がそこに無いものとしているように無視を決め込み、見向きもしなかった。
当然アリスは怒りを露にするが、そんなことは次に起きた出来事で消え去った。
なんと、あのおしとやかそうな飛鳥までもアルヴィスに腕を組んできたのだ。
「何かあるかと思いあとを付けていましたが、やはりこういうことでしたか。ズルいですよエリザベスさんッ、抜け駆けなんて!」
「こういうのは先手必勝っていうんだよ?」
えへっと笑うエリザベス。
一見余裕そうに見えるが、内心はとても焦っていた。
人生初の男性との腕組みを、大胆にも自分から行った矢先、ライバルである飛鳥にも同じ行動を取られてしまったからである。
だがそれは飛鳥も同様のことだった。
そんな2人の焦りを知ってか知らずか、アルヴィスも内心ではとんでもない状態になっていた。
右肘に感じる確かな物量に、左肘にも申し訳程度に感じる柔らかさがある。
アルヴィスはこの突然で初めての出来事にパニックに陥っていた。
だが、顔だけは何とか平常を装っていた。
ここで正直に鼻の下など伸ばしていては、この場にいる女子3名に変態のレッテルを貼られかねないからだ。
エリザベスと飛鳥による、アルヴィスを挟んだ火花の散らし合いが起きて数秒後――
「まったく、これだから何時の世も男というものは困った生き物なのじゃ。所詮胸か、胸なんじゃろ。胸が無い今の儂にどうしろと言うのじゃまったく――」
「おい、アリス。そんなことを言いつつ何してんだお前は」
「なんじゃあ、儂がどこにいようが勝手じゃろが」
「それはそうだが……――勝手に人の肩に乗ってんじゃねェよ!」
アリスはアルヴィスの背後からよじ登り、自力で肩車の体勢になっていた。
「仕方ないじゃろが! 胸がない儂には股しかないわッ!」
「幼女が股とか言うな!」
「その幼女に股を開かせねばならん状況を作ったのはどこの主人様じゃろな?」
「俺じゃねェよ!? 強いて言えば隣の2人だからな!? 俺をそんな幼女に無理矢理股を開かさせるような変態にすんじゃねェよ!」
「ちょっと酷いよアルくん!」
「そうです酷いです! 私達もそんな下品なことは強要しません!」
「うッ……わりぃ」
いつの間にか自分が悪者にされたアルヴィスは、先程の部屋を借りた時と同様に数には敵わないと悟り、仕方なく謝ることにした。
「ちなみにお前さん。儂は今、下着を着けていないぞ?」
「生――!?」
「「エッチ!!」」
アリスのとんでも発言に 、左右の女子達がアルヴィスをビンタするという何とも理不尽な仕打ちを受けたアルヴィスは、今までの疲労もあってか気を失ってしまった。




