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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
色欲の魔女編
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第72話 跡地







 ――カタルシア国・某街跡。


 アルヴィス一行は、ラザフォード王国・王都から北北西に馬車で半月ほどの道程を進み、隣国であるカタルシア国のとある街にやってきていた。


 とある街、といってもここは既に壊滅した跡地である。


 今回の任務、クラン・【七つの大罪】メンバーの内の1人――通称、色欲の魔女の討伐が今回の目的のわけだが、その理由は自国への被害が出る前に排除しようというものだ。


 現在ターゲットがどこに潜伏しているのかは不明だ。なので、アルヴィス達はまず情報収集を目的とし、壊滅した街の内の1つに足を運んだというわけだ。


 4人は皆、初めは壊滅といっても街としての形は残っているものだろうと思っていたが、眼にした光景は、到底「形がある」とは言えないものだった。


「スゲェな……」


「全壊ですね……」


「跡形もないとはこういったものを言うのね……」


 アルヴィス、飛鳥、エリザベスはそれぞれ瓦礫の山となった跡地を見て感想を口にする。


 3人は予想以上の惨状を眼にし、けれどここまでいくとある種の感嘆の念すら抱いてしまう。


 いくら軍隊規模の人数・戦力を用いたとはいえ、同じ魔法師としてここまでの戦闘力を持っているのは少々憧れてしまう。


 しかも、跡地の広さから、最低子爵クラスの領主が統治していた街だろうと推測できる。もし、仮にもう1つの街も同領地の広さで同じような光景が広がっているのなら、それはもうアルヴィス達たった4人で相手に出来るような戦力ではない。


 半世紀以上前の全盛期であるアルヴィスとアリスであれば、エリザベスと飛鳥も含めた4名で相手をすることくらい簡単だっただろう。だが、現状はろくに自分の魔法も使いこなせていないリーダーと全盛期の半分の武力もないサーヴァントだ。そこにいくらAランク魔法師とSクラス相当の式神を有する魔法師の2名が加わろうと到底不可能というものだ。


 なのに、だ。


 なのに、そんなことを跡地の光景を見ただけで感じ取ってしまう3人とは対照に、1人の幼女の腰に手を当て哄笑する姿がそこにはあった。


 他3人は、とても愉快そうに笑っている幼女――アリス・バレンタインの姿を注視した。


「カッカッカ――ッ! ワクワクするのうゾクゾクするのう! 久々に死を連想させられるのう。実に半世紀振りの噎せ返るほどの血の臭いじゃ。堪らんのう――」


「あ、アリス……どうしたんださっきから? スゲェ楽しそうだけど、なんか怖いぜ……?」


「これを見て上がらん奴がおるか! お前さんは何も感じぬのか? あれほど共にした戦場じゃぞ?」


「上がる? テンションがか? んなもん上がるわけねェだろ! 逆に圧倒的戦力差を感じてて落ちてるとこだっつーの!」


 アルヴィスは深い溜め息を吐きつつ頭を振った。


 だがアリスは不敵に笑ってみせた。


「安心せい主人様よ。この儂がおる。儂に勝てるのはお前さんだけじゃ」


「だとしたらその俺が心配してるんだぜ? アリスもやばいんじゃないのか?」


「バカ者! 今のお前さんにじゃないわい! 昔のお前さんにじゃ! 今のお前さんなど指先1つでイチコロじゃぞ」


 アリスは腕を組み、ふんっと外方を向いてしまう。


 そんな見た目相応ないじけ方をするアリスに、アルヴィスは頭を撫でてご機嫌を取りにかかる。


「すまんすまん、そんないじけんなよ。あとで何か甘いもん買ってやるから」


「食べ物なんかで儂の機嫌をとろうなど甘いわ、まったく」


「じゃあいらないのか?」


「……それはそれ、これはこれじゃ」


「結局取れてんじゃねェかよ!」


「カッカッ、甘いものには敵わんのう! しょうがないからお前さん、ケーキ3つで許してやるぞ?」


「しかもまあまあ食うんだな!」


「カカッ、ケチ臭いことを言うでないお前さん。そんなことではモテないぞ?」


「うぐ……ッ! なら5つでどうよ!?」


「さすがは我が主人様よ! 惚れてしまうぞ!」


 ――チュッ……!


「いきなりなんだよ!?」


 アルヴィスは、アリスからの突然の頬へのキスに顔を赤らめながら唇が触れた箇所を押さえ慌て叫ぶ。


「「なあ――ッ!?」」


 眼の前で起きた突然の出来事に、蚊帳の外にいた乙女2名が驚愕の声を上げる。


「言うたじゃろ? 惚れてしまうと」


「だからってこんなことするかよ。恥ずかしい」


「照れる必要はないぞ我が主人様よ。儂とお前さんは既に主従関係。主人になつくのは至極当然のことじゃ。つまりスキンシップも必要なことなのじゃよ、主人様よ」


「そうなのか……?」


「そんなわけないじゃない!」


「そうです! 聞いたことないです!」


 アルヴィスのアリスへの質問に、けれど反応したのは背後にいたエリザベスと飛鳥だった。


 すっかりその存在を忘れていたアルヴィスは、ゆっくり背後の2人の様子を伺うと――


「ッ!?」


 2人の乙女の怒りの表情がそこにあった。


 だが怒りの矛先を向けられているはずのアリスが、この場で1番の余裕そうな表情を浮かべて笑っていた。


「カッカッ、まぁそう怒るでないわ小娘達よ。――そんなことより、さて、このあとはどうするかのう?」


「そんなことって……! はぁー……恐らくここから1番近い街に逃げ延びている人がいるはずよ。まずはその人達を見つけて討伐対象の特徴を聞き込みましょう」


 エリザベスは諦めたように嘆息を吐くと、持っていた周辺地図を広げながら今後の予定をたてる。


 周辺にある最短距離の街を割り出すと、4人はその方角へ歩み始めた。

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