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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
色欲の魔女編
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第71話 見合う男

 ――ロビーをあとにしたアルヴィス達はそのまま最上階へと上がっていき、今回の任務依頼主であるエドワードに学院を出発することを伝えに向かった。


 エドワードも既にアルヴィスが結成したクランメンバーについては耳にしていたので、一緒に居たエリザベスの姿を見てもとくに驚いた様子はなかった。


 一言二言言葉を交わすと、アルヴィス達は謁見の間を出て寮へと戻った。


 それぞれ準備のためエリザベスと一度別れる。飛鳥も恐らく、事前に今日の夜学院を出発することを伝えているので準備をしていることだろう。


「のうお前さん、今回の任務は長期戦になるやもしれん。それ相応の準備はしておるのだろうな?」


 自室に着くなり、アリスが問い掛ける。


「ん? あー……まぁ、一応な。とりあえず食料はアリスの影にしまったし、あとは情報の入手だがそれは一度現地に行くつもりだ。そこでなんとかなるだろ」


「あの大量の袋の中身は食べ物じゃったのか!?」


 アリスはここ数日、いろいろな物をアルヴィスに頼まれ影の中に収納させられていた。容量や重量制限がないので、無生物の物ならとくに気にせず言われるがままにしまいこんでいたが、その中身の一部が食料だと知ると、自身が荷物持ちとして扱われていたことに驚く。


 いくらサーヴァントとはいえ、全盛期には魔王と恐れられていた自分が後に荷物持ちになるとは思ってもみなかったからだ。


「だって影の中は四次元空間みたいなものだって言ってただろ? 使わない手はないじゃん」


「それはそうじゃが……しかしのう……。んー、なんかモヤモヤするのう……!」


 アリスは頭をポリポリと掻きながら渋い顔をする。


「って、そんなことを聞いたんじゃないわい!」


 頭を掻いていると何かを思い出したのか、いきなりハッと眼を見開き叫ぶアリス。


「なんだよ急に」


「食料のことなどどうでもよいのじゃ。長期戦と言っても日をまたぐようなことはないじゃろうし、儂がさせん。そもそも儂を相手に何日も戦える戦力が簡単にあるはずもないからのう」


「スゲェ自信だな……」


 アルヴィスはアリスの言葉に少々引き気味に応えた。


 今更ながらその圧倒的武力に驚いたのだ。


「まあ本来の儂の力ならじゃがな。とそんなことを言いたいわけじゃないのじゃ。お前さんよ、相手はたしか軍並みの数なのじゃろう? お前さんは一対一なら儂を相手にすることが出来るほどかもしれぬが、多数相手に戦えるすべはあるのか? お前さんの戦い方はどうも一騎討ちに特化しすぎで儂は心配じゃぞ?」


「そんなこと、その時になってみないと分からないさ。とりあえず片っ端から全力でブッ飛ばす!」


「アホかお前さんは! 素手で一撃で仕止めるなど魔力の無駄遣いにもほどがあるわい。なんのためにあやつから剣を渡されたと思うておるのじゃ」


「理由? ……――ッ!」


「気付いたようじゃの。魔力を使わず撃破するためじゃ。多数を相手にするような場合、全てに魔力を使っていてはどんな強者でもいつかは果てる。この儂もの。だから武器がいるわけじゃが、その点あのブロンドの童は召喚と肉体強化にしか魔力を使っていないから、少量で済み長期戦向きじゃのう」


 アリスはロベルトがキマイラと戦っていた時のことを思い出しながら話す。


「じゃがお前さんは剣術に疎いとみえる。なのに練習どころか、あれから1度も七霊剣に触れておらんじゃろ。まさに宝の持ち腐れじゃな」


「うぐ……」


 アルヴィスは好き放題言ってくるアリスに返す言葉も見つからず、それどころか全てが事実なだけに反抗心すら生まれなかった。


「今のお前さんにあれを渡すわけにはいかん。あれはお前さんの大切な遺物じゃ。じゃから儂にはそれを守る義務がある」


「俺の遺物なのに俺が使っちゃいけないのかよ」


「儂にとってもお前さんと共に戦った記憶の象徴なのじゃ。こたびの戦で失うようなことはあってはならんのじゃ」


「はぁー……。わかった。アリスがそこまで言うのなら、それは俺が見合う男になったと思ったときに返してくれ」


「承知した。なら、それまではこれを使うがよい――」


 アルヴィスの言葉に頷き応えたアリスは、自身の影から一振りの剣を取り出した。


 大きさは七霊剣より二回りほど小さく、剣術素人のアルヴィスにとっては七霊剣の練習代わりとして丁度良いだろう。


 それを受け取ったアルヴィスは、今回は魔力を練らずとも片手で持てたことに安心した。


「これなら俺でも使えそうだな」


 アルヴィスは試しに素振りをしながら話す。


「使えると使いこなすは違うからの。同じ武器でも素人と達人とではまるで別物じゃ。それくらいお前さんでもわかるじゃろ?」


「ああ……、そうだな。こんなときロベルトがいればよかったんだがな」


「習うより慣れろじゃ。実戦で使っていればおのずと分かってくるものじゃ」


「そんなもんか?」


「そんなものじゃ。何せ昔のお前さんがそうじゃったからのう、カカッ」


「ああ、納得……」


 アルヴィスは最近、何となくだが昔の自分像が分かってきたことでアリスの今の発言に妙な説得力を感じてしまった。


「どれ、準備も終わったのならそろそろ任務とやらに向かうとするかのう」


「そうだな。行くか」


 会話の最中も剣を受け取るまで手は動かしていたアルヴィス。そのアルヴィスの仕度が済んだと判断したアリスは、エリザベスと飛鳥との集合場所である学院正面入り口に向かうことを促す。


 アルヴィスも頷くと、荷物をまとめたバッグを背負いアリスと共に集合場所に向かった。

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