第68話 愛剣
私事ですが誕生日をむかえ、また無駄に歳を重ねてしまいました、、、
今年はこの話をちゃんと進めたいと思いますm(__)m
「では、今日の本題に話を移しましょうか」
エドワードは咳払いを1度挟むと、話の続きに戻った。
「今日あなたにわざわざ来てもらったのは、先程も言ったように渡したいものがあるからです。というよりも、そもそもこれは貴方の物なのですが――」
話をしながら魔力を溜めていたエドワードは、言葉を区切ると同時に左足で床を叩くように踏みつけた。
鈍く響いた金属音から、エドワードの左足は現在金属製の義足であることが解る。
アリスとの戦争で失った左足は義足に変え、杖を持ち歩くことで歩行の補助としているのだろう。
床に出現した魔法陣からは、一振りの剣が柄の方から浮かび上がってきた。
刀身全てがその姿を現すと、床に突き刺さる形で静止する。
エドワードがその剣を手に取ると、床の魔法陣は消失した。
「七霊剣――この剣の名前です」
エドワードがそう呼んだ剣は、片手で持つには少々大きく、両手剣と呼ぶにはやや小さい大剣だ。
身長が2メートル級の人間ならば片手で扱っていても違和感を感じないかもしれない。
妖しく光る刀身は鈍色と重く、片刃だが反りの高さはまったくない。つまり直線的な形状だ。
だが何より眼をひくのは、刃元にルーン文字の様な魔法文字が刻まれていることだ。
アルヴィスはその剣からそこはかとなく感じた形容しがたい色気に、ただただ感嘆の息を漏らす。
「どうぞ、受け取ってください」
アルヴィスは立ち上がり数段の階段を上がると、エドワードから剣を手渡される。
「――重ッ!?」
エドワードが片手で持っていたので同じく片手で受け取ろうとしたアルヴィスは、柄からエドワードの手が離れ自身の力のみで持った瞬間その重さに驚き、思わず刃を床に落としてしまい室内には甲高い音が鳴り響いた。
「気を付けてください。今は1本の形になっていますが、それは合体剣です。もとは名前の通り7本なのです。つまり形状の違う7本の剣が合わさり1本の形に纏まっているわけですね。単純に7本分の重さがつまっているわけですから、とてもじゃありませんが魔力を使わずには扱える代物ではありませんよ、ふぉっふぉっ」
「合体剣……」
改めて手にある剣を見つめると、たしかに境目のような繋ぎ目のような分離させることが出来そうな線がいくつか見つかる。
アルヴィスは試しに魔力を使わず両手で持ち上げてみようと試みるが、上げることは出来てもとても扱うことなど出来そうになかった。振れば自分が剣の重みに振り回されそうだ。
「懐かしいのう。それを見るのはあのときの戦以来じゃな。貴様が持っておったのじゃな」
アリスは眼を細めて少し懐かしさに浸りながらエドワードに話しかけた。
「ふぉっふぉっ、もちろんです。それは今では国宝――宝剣ですからね。あなたが行方不明になってからは私の父、あなたの息子が使っていたのですよ?」
エドワードは今度はアルヴィスに話の方向を向けた。
「へぇー……。その辺のことは今でも全っ然わからないから、息子だとか昔はとか言われても理解できないけど、この剣は手に馴染む。何か懐かしい感じがするよ」
「そうですか。記憶がないのですから仕方ないですね……。試しに魔力を流し込んでみなさい。剣に、というよりはそこの文字に流すイメージです」
エドワードは剣の刃元に刻印されている魔法文字を指差し指示した。
「こうか?」
アルヴィスは持ち上げたことでちょうど目の前にあった魔法文字を見詰めながら魔力を流す。すると刻印されている魔法文字が淡い青色に光りだした。
「さらに強くイメージしてください。あなたが手に持つその剣は7本の剣であると。1本1本にちゃんと形があり、そこに存在すると。そして1本の個から分離させ、その7本の剣を目の前に出現させるイメージで振りなさい」
「……」
アルヴィスは無言で剣をしばらく見詰めると、イメージを濃くするためか眼を閉じた。
(…………よし――)
再び眼を開いたアルヴィスは、振り向き室内中央に向けて勢いよく剣を振り落とした。
「ふんッ!」
ズババババババッッ――!!
剣を振り落としたアルヴィスの数メートル先には、それぞれ形の異なる剣が6本突き刺さっていた。
手に残る一振りの剣はやや小ぶりなサイズとなり、また形状も微妙に違う。
当然眼前の6本の剣もサイズがどれも違う。片手剣サイズから大剣サイズ、なかには片手剣と呼ぶにはすこし頼りないサイズのものまであり、そのどれもが片刃や両刃、反りの模様なども全てが違う。
だがその7本全てがどれも名刀と呼ぶに相応しいオーラがある。けれどあまりにもタイプが違いすぎて、まるで一振りの剣を作るために7人の名匠が打ったと思ってしまう。
七霊剣――それは、7人の名匠が全霊で造り上げた宝剣。ゆえに七霊剣。恐らくそれが名前の由来であろう。だがその真の由来も以前のアルヴィスしか知らないのだ。
「すげェ……。あっ、これってどうやってまた戻すんだ?」
アルヴィスは本当に出てきた残りの6本の剣をまじまじと見詰めて呟いていると、肝心なことを思い出したときのようにエドワードに質問を投げ掛けた。
「そんなのは簡単じゃ。また念じればよい」
だが質問に応えたのはエドワードではなくアリスだった。
「使い方はあやつの方が知っておるかもしれぬが、以前のお前さんがどのように扱っていたかは儂の方が詳しいからのう。扱い方なら儂に聞くとよいぞ、お前さん」
「そうか。頼んだぜ」
「カカッ」
アリスは嬉しそうに一笑い。
アルヴィスはまた先ほどの大剣の形に戻るようにイメージしつつ魔力を流し込み直すと、眼前の6本の剣が光ながら瞬時に集まってくる。
アルヴィスが自ら組み立てるという作業は一切なく、本当にただ念じるだけで元通りの形に戻った。
魔法文字には、形状記憶や7本が連動するようになど命令が刻まれているのかもしれない。
「ではその七霊剣についてはアリスに任せるとしましょう。――では、渡し物も終わったことですので、ここからは国王としてではなく学院長としての話になります」
エドワードは表情を引き締め、如何にもこれから重要なことを話すぞという雰囲気を放つ。
アルヴィスも思わず背筋を伸ばし姿勢を正す。アリスもエドワードの雰囲気から何かを感じ取ったのか、珍しく真面目な顔へと変わっていた。
「学院長である私、エドワード・ラザフォードからアルヴィス・レインズワースに任務の指名依頼をしたいと思うておる。受けてくれるかのう?」
「指名依頼? 内容にもよりますが、一体何なんですか?」
「うむ。先日までアリスが居った古城まで向かってもらったわけじゃが、あそこが国境であることはわかるかの? その隣国であるカタルシアの2都市が壊滅したのじゃ」
「ああ、それはエリザ……エリザベスから聞きました。その犯人がアリスかと思ってたけど違うって言うんで」
「まだ言うかお前さん。儂は今さら都市を落とす城攻めなど興味ないわ」
アリスは少し拗ねたのか頬をぷくっと膨らませた。
「その犯人がつい先日分かったのじゃ。隣国で起きたことじゃが、我が国にも影響が及ぶかもしれんからのう。君たち1年生とは別に、この件に関して調べてもらっておったのじゃよ」
ここでエドワードは自前の白髭をしごきながら少し険しい表情へと変わる。いや、単純に困り顔といった方がよいかもしれない。
それくらい複雑そうな顔となり曇った表情から、アルヴィスにとって意外な言葉が発せられた。
「犯人、いや犯行グループの名は――【七つの大罪】。今回は単独犯じゃが、7人の半魔からなるクランじゃ。1人1人が軍隊規模の傘下を持っており、また7人全員の個人の力も強力と聞く。今回はその内の1人、通称――色欲の魔女と呼ばれておる半魔が起こした事件らしいのじゃ。そこで、アルヴィス・レインズワース――貴公に彼の者の討伐を依頼する。個人でもパーティーでも好きにしてよいが、出来ればクランが望ましいのう」
「そんな凄そうな奴相手に俺なんかでいいんですか? あとそれと、そのクランってやつは何ですか?」
「君でよいのじゃ。アリスを手に入れ愛剣も戻った。潜在能力は折り紙付き、儂は君に大いに期待しておる。それに名を広めるのが目的なのじゃろ? またとないチャンスだと思わぬか? じゃが念には念を入れておいた方がよいからのう。そこでクランじゃ。クランはそうじゃのう、簡単に言えばパーティーのようなものじゃが、パーティーのように一時的なものではなくずっと組むチームのようなものじゃな。じゃがクラン自体にも魔法師のようにランクが付くのが1番の違いかのう」
「ふーん。なんだかイマイチよく分からないが、作っておいてそんはないってことだな。まぁ成果は欲しいし……OK、その討伐任務、引き受けたぜ!」
アルヴィスは腕を組み少々思案したが、だがあっさりと依頼を引き受けた。
「そうですか、引き受けてくれますか。ふぉっふぉっ、それは助かりました。では期待してますよ」
「ああ」
アルヴィスは頷き応えると、メンバー集めのためにアリスを連れて部屋を出ていった。
扉が閉まり1人となった部屋で、エドワードはその扉を見詰めながら言葉を漏らす。
「推定、クランAランク任務。10人以上のメンバーでさらに3人はAランクがいるようなクランに依頼する任務レベルですが……さてさて、元英雄である我祖父は無事成し遂げてくれるかのう。楽しみじゃな、ふぉっふぉっ」
室内に響くエドワードの笑い声が静かに木霊し、この空間には声の主1人ということを強く実感させた。
扉の向こうの幼女が魔法で聞き耳をたてているということを知らずに――




