第63話 契約のキス
24時間で三回目の更新、、、
なかなか疲れますね、、、
あっ、ブクマが1つ増えてました!
ありがとうございますm(__)m
「ほう、これが今の王都か。随分と様変わりしたものじゃのう」
古城の少女との戦闘から約半月。
アルヴィス達は王都へと帰還していた。
古城の少女との話し合いの末、何故か少女をラザフォード学院の学院長兼ラザフォード王国の国王でもあるラザフォード本人に会わせないといけない約束を交わしてしまったのだ。
その帰路、少女の活躍によりキマイラからロベルトと飛鳥を救い、何故一緒にいるのか、この少女が何者なのかなどをアルヴィスの知る範囲で2人に話した。
だが第一印象が最悪な2人には、この半月経った今でも少女との距離を縮めることが出来ずにいた。
けれど少女はまったく気にした風もなかった。その辺はアルヴィスにとっては助かっていた。何故ならキマイラでの戦闘で目の当たりにした彼女の力で絶対的な確信に変わっていたが、その気になったらアルヴィス達全員を瞬殺することが可能だろう。そんな少女にロベルトと飛鳥の2人は、ずっと素っ気ない態度だ。これではいつ逆鱗に触れ殺されるかアルヴィスすらびくびくとしていないといけなかったからだ。
なので当然宿屋では2人とは別室、馬車すら別々だ。
宿屋代などは今回の任務報酬から払うとアルヴィスが提案したが、キマイラから救ってもらった御礼に2人が払うと断られた。
だがきっとそれはアルヴィスに罪悪感を感じさせないための口実で、実際は2人が少女と距離を取りたいが為の別室。さすがのロベルトも自分達が払うべきだと思ったのだろう。ただそれが素直に提案出来ないだけなのだ。
言葉遣いは悪いがロベルト・シルヴァという男は伯爵家の次男だ。こういった金銭関係のことはちゃんとしているのだ。
「そろそろ中に戻ってくれないか? もうすぐ学院に着くからな」
「なんじゃ、やっと出たかと思うたらもう影へ戻れと言うのかお前さん。とんだ鬼畜者じゃな」
「そこまで言うことかよ!?」
「カカッ、わかったわかった。大人しく戻るとするわい」
王都に着いてから影から外へ出てアルヴィスの隣をテクテクと歩くその姿は、どう見ても可愛らしい1人の美少女なのだが、アルヴィス達を見る民の視線は畏怖一色だった。
それもそのはずだ。何故なら魔力がだだ漏れなのだから。
ずっと古城で独りで生きていた彼女には、魔力を抑えるという習慣が無くなっていた。アルヴィスはすっかり慣れてしまったが、並みの魔法師程度ならもちろん一般人なら恐怖の対象でしかない。
そんな状態で魔術学院に入れるわけにもいかず、アルヴィスは一応影に戻るように言ってみたが、意外にもすんなりと言うことを聞いてくれた。
アルヴィスはあまりのすんなりさに少々驚く。が、思い返せばこの半月の間も何故か彼女はアルヴィスの言うことだけは比較的従ってくれていた。
アルヴィスはいつも何故自分にだけは素直なんだと不思議に思っていたが、今回も不思議に思いつつ少女が影にズズズッと潜り終わったことを確認する。
(んじゃ行くぞ?)
アルヴィスは学院の正門を通り講義棟を目指す。
『なんかワクワクするのう!』
(慣れるとそうでもないぜ?)
『……お前さんは儂より冷めさせることが上手いのう』
(ん? サンキュー?)
『皮肉じゃ馬鹿者! ――はぁー……儂はなんだか悲しくなってきたぞお前さん』
アルヴィスは少女の嘆息の理由が分からず首をかしげる。そのことに影の中の少女がまた嘆息を吐いた気がしたが、当然アルヴィスは感じていない。
そんな会話をしばしの間交わしつつ、アルヴィス達は講義棟最上階まで階段を上って到着する。
学院長室しかない最上階には立ち寄る理由がなかったので、アルヴィスにとってはこれが初めての入室となる。
扉の前には、王都にアルヴィス達より少し早く到着した馬車に乗っていたロベルトと飛鳥、そしてアンヴィエッタ教授の姿がそこにあった。
ロベルトと飛鳥を介して先にアンヴィエッタ教授に今回の経緯を伝えてもらっていたのだ。すると指輪型携帯電話で飛鳥から連絡があり、アンヴィエッタ教授に直接学院長室へ来るように言われたことを聞いて真っ直ぐここまで来たというわけだ。
実はアルヴィスにとって初めての電話相手が飛鳥ということになるのだが、飛鳥はもちろんのこと、プレゼントしてくれたエリザベスもそのことを知らない。飛鳥が不用意に他言しないことを祈るのみだ。
「久々だな坊や。とりあえず無事に戻ってきたことにホッとしたよ」
「珍しいな、先生が心配なんてよ」
「フッ、その生意気な態度は相変わらずだな。久々だとそれも嬉しく思うよ」
アンヴィエッタは1ヶ月振りだと言うのにあいさつはそこそこに、吸っていた煙管の火を消し内ポケットにしまう。
「では入るぞ。お前達、失礼のないようにな」
「おう」「ふんっ」「はい」
アルヴィスとロベルト、それに飛鳥の3人は同時にそれぞれ返事をすると、扉を開け入室していくアンヴィエッタの背に付いていく。
扉の先には、なんとも学院には似つかわしくない程の煌びやかな光景が広がっていた。
まず1番初めに目をひくのが、入り口から一直線に奥まで敷かれている赤絨毯。もちろんその赤絨毯の先には学院長の姿が。
10メートルもの高さがある天井からは、6つのシャンデリアが吊るされており室内を優しく照らしている。
部屋自体は奥行きのある長方形だが、横幅も十分にあって優に100人は入れるだろう。
「おぉー、すげェー……!」
「あまりジロジロとするな坊や。ここは学院長室だが、同時に謁見の間でもあるんだぞ。つまり国王の御前でもあるということだ」
「わ、わりぃ……」
アンヴィエッタは軽く嘆息を吐きつつ、3人を連れて学院長の待つ玉座まで進む。
「学院長、アルヴィス・レインズワース、ロベルト・シルヴァ、枢木飛鳥の3名をお連れしました」
「有難う御座います、アンヴィエッタ教授。――3人ともお疲れ様でした。無事に帰ってきてくれて嬉しく思います」
玉座に座す白髪白髭の紳士――この学院の長にして国王でもあるエドワード・ラザフォードが労いの言葉をアルヴィス達に贈り、フォッフォッという見た目以上に老人感のある笑い方で優しく微笑んだ。
「では早速ですが調査結果を話してくれますか?」
紳士が優しい声音でアルヴィス達に結果報告を促すと、3人はそれぞれ独自の観点から報告を始めた。
しばらく相槌だけで無言で聞いていた学院長だが、アルヴィスによる少女についての話になると今までにない反応を見せた。
「――不老不死の少女……ですか」
「はい。それと、そのことで実は学院長にお話が……」
「どうしました? 話してごらんなさい」
言葉に詰まったアルヴィスに紳士が話を促すと、少年は少し後ろに下がって話を聞いているアンヴィエッタの様子をチラと窺う。すると「なんだね?」といった風にはてなマークを浮かべるアンヴィエッタの表情でロベルト達が彼女にも影の少女の話はしていないことを察する。
念のため隣にいる飛鳥にも目線を送ると、見られていることに気付いた飛鳥がすぐに察してくれたのか申し訳なさそうに首を横に振った。
アルヴィスは覚悟を決めて少女との約束を果たすことにした。
「……実はその少女が学院長に会わせろと言っていまして……」
「ほう、私にですか」
「はい、それで既にこの場にもう居るんです……」
アルヴィスの言葉にさすがに紳士も驚きのいろを隠せなかった。
だが自前の白髭を数回撫でながらフォッフォッといつものように笑うと、次に発した言葉が意外なものだった。
「――そこにおるのじゃな、アリス」
ズズズッ――
「やはり貴様じゃったか、小僧」
今まで黙っていた少女が、突然アルヴィスの影から顔だけ出して会話に参加してきたことにも驚いたが、まるでそこに潜んでいたことに気付いていたようにアルヴィスの影に向かって声を掛けた学院長に、その場にいた他4人が驚いた。
「不老不死と聞いた辺りから怪しいとは思っていたが、やはりその〈影潜り〉は流石と言わざるを得ませんね。その姿でも魔力を一切感知させないとは」
「貴様はずいぶんと老いぼれたのう。どっちが年長者かわからんわい、カカッ」
アリスと呼ばれた影の少女は全身をアルヴィスの影から現すと、片膝を着いているアルヴィスの逆脚に腰を降ろし始めた。
突然の左腿への加重にアルヴィスは一瞬バランスを崩すが、膝を着いている右半身に重心をさらに移動させてなんとか体勢を保つ。
少女のヒップの柔らかさに意識を集中しそうになったが、時が時だ。そして場所も場所なだけにアルヴィスは理性を打ち勝たせた。
「それで? 私に何用じゃ? 止めを刺しに来た、とでもいうつもりかのう?」
アルヴィスは、学院長が学院長や国王の立場としての話以外では敬語じゃなくなるんだな、とそんな呑気なことを考えながら少女の言葉を待った。
「貴様のようないつ絶えるか分からぬ老いぼれの命などどうでもよいわ」
「そうか。それを聞いて少し安心したぞい。私もあのときとは立場が違うからのう。簡単に命をくれてやるわけにはいかん」
「あのときの小僧が随分と偉くなったようじゃな」
「フォッフォッ、あの戦争のお陰じゃわい。――先に言うとくが、もしこの国に手を出してみろ。今の貴様なら今の私程度でも刺し違えることくらいは出来るぞ」
突然の学院長の態度の変化に、その場に居た者全員が恐怖した。
ある1名を除いては――
「カカッ、やれるものならやってみるがよいわ。じゃが今日はそんな下らんことをしに来たわけじゃない。ラザフォードと名乗る者が現国王とこやつから聞いてな。ちと顔を見に来ただけじゃ」
少女はアルヴィスの顔に頬擦りしながら応えた。突然の過剰スキンシップにアルヴィスは心臓が飛び出る勢いだったが、何とか平静を保とうと意識を逸らす。
「今の儂はこやつにえらくご執心じゃ。こやつの正体に99%の自信があったが――なるほどやはりそうか。国王である貴様の魔力を感じて100%の確信に変わったわい」
「――……私もじゃ」
「なんじゃと?」
「貴様の登場で私の推測も確かなものへと昇華したぞ」
「…………そうか。じゃがこやつは儂のものじゃ。絶対に渡さん!」
少女は頬擦りの状態からさらにアルヴィスの顔に自身の細腕を絡めて密着度を増してきた。
「……そうですか。それは大変困りましたね。貴女のような接触禁止指定の化け物を野放しにしておくわけにも国王として出来ません。かといってここで一戦交えるわけにもいきませんからねぇ。学院がなくなってしまう程度で済めば良いとさえ思える相手ですからねぇ」
(おいおい、接触禁止指定ってどんだけやばいんだよこいつ!?)
アルヴィスは自身に纏まりつく少女にドキドキしつつ、器用にも内心でそんなことを考える。
両隣りのロベルトと飛鳥の様子を視線だけを動かし確認すると、2人は話に全くついていけていないようでポカンとしていた。恐らく背後のアンヴィエッタも同様だろうとアルヴィスは思う。
当たり前だ。会話内容となっているアルヴィス本人も全く飲み込めていないのだから。
「そこで提案です、アリス」
「なんじゃ、言うてみぃ?」
「貴女はそのアルヴィスと一緒に居たい、私はこの国に害を与えないで欲しい。ならば簡単なこと。貴女がそのものの力となっておやりなさい。つまり、サーヴァントとなるのです」
「「「「なッ!?」」」」
学院長の台詞に少女以外の4人が驚愕の表情を学院長へ向ける。
だが言われた本人は眉をぴくりと1度動かしただけだった。
「おい小僧、貴様この儂を利用するつもりか?」
「利用とは言葉の悪い。言ったでしょう、提案だと」
「…………」
学院長と少女は暫しの間視線を交えるだけで黙り始めた。
学院長は優しく、けれど眼光は鋭い。
少女は余裕そうに、けれど相手を探るような。
静寂を先に破ったのは、アルヴィスの腿の上に座す少女だった。
「カッカッカッ、よかろう! その取引受けてやる。精々寝首をかかれんことじゃな!」
「受け入れてくれて嬉しいですよ、フォッフォッ」
「ということじゃ、お前さん。たった今からお前さんは再び我が主様じゃ、カカッ。良い機会じゃから改めて名乗っておくかのう――儂の名はアリス・バレンタイン。〈闇の王〉やら〈吸血鬼〉と呼ばれておったこともあるが、気軽にアリスと呼ぶがよいぞ。これからヨロシクの」
――チュッ。
「――!?」
(キャァァァァ――ッ!?)
アリスの挨拶とともに頬にキスをされたアルヴィスは、声にならない叫びを上げていた。
「ゴホンッ……――話が脱線してしまいましたが、3人の今回の報酬の話をしましょうか」
わざとらしく咳払いをした学院長の話によって、この謁見の間での会話は幕を閉じるのであった。




