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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
紅い月と古城の少女編
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第56話 獣道

「やっと追い付いたかのろまども。ここからは隠密行動だ。魔力を抑えろ」


 アルヴィス達の到着を横目に視認したロベルトは、いつもの調子で2人に指示する。


 3人は脚力強化を解くと、気配を消すため魔力そのものも抑えて制御する。


 優れた魔法師や魔物は、魔力で気配を感じとることが出来る。なので隠密行動時は極限まで魔力を抑え込む必要がある。


 けれど魔力を抑えれば、瞬間的には魔法を発動できない。


 もともとの身体能力が高いアルヴィスとロベルトの2人は、突発的な危機的状況でもなんとか対応出来るだろう。


 だが、飛鳥は違う。


 彼女のことは先の離脱でも分かるだろうが、身体能力が低いがゆえに魔力が使えなければ並以下の女の子だ。走ることすら苦手なのだから。


 現代の陰陽師は、中・遠距離を得意とし、近距離は式神に任せるのが基本スタイルだ。


 そのため近接戦闘訓練はしないし、それようの術もあまり無い。


 飛鳥も例外ではない。


 飛鳥は式神すらも中・遠距離に特化しているため、近距離では防御くらいしか出来ない。


 それほどに飛鳥は運動を不得手としてしまっている。


 そんなことを知ってか知らずか、アルヴィスは飛鳥の隣に並ぶと小声で話し掛けてきた。


「飛鳥、心配すんな。いざとなったら俺が何とかしてやる」


「は、はい……っ」


 ロベルトに聞かれぬよう耳元で囁くアルヴィスとの距離の近さに、飛鳥は嬉し恥ずかしい気持ちで頬を赤らめ応えた。


 自分の心臓がトクンッと跳ねるような感覚が生じたことに気づいた飛鳥は、自身の小さなふくらみに手を当て感覚を確かめる。


(なんでしょうか……この胸の感覚は……。――不整脈?)


 飛鳥は結局その感覚の正体に気付けぬまま、小首をかしげて2人のあとを付いていく。


 ――カターニャ山脈は、カターニャ平原同様戦争で使われることもあり、踏み締め続けられて出来た道がいくつかあった。


 その道以外は木々が生い茂り、魔物の住み処にはうってつけだ。


 そんな現状を見たアルヴィスは、何か思い付いたのか2人を呼び止める。


 2人は何事かと暫しの間黙ってアルヴィスのことを見ていたが、生い茂る草木を掻き分けているだけで一向に変化が見られない。


 痺れを切らしたロベルトがアルヴィスの肩に掴みかかろうとしたその時――――


「――待たせたな。あったぜ、目当てのもんが」


 急に振り向くアルヴィス。


 目の前で手を自分へ向けて伸ばしているロベルトとの距離に少々驚いたが、アルヴィスは親指で自身の後ろを指す。


 ロベルトはアルヴィスに指示されることが癪に障ったのか、あからさまに嫌そうな顔で覗くだけ覗いた。


 飛鳥もそれに続くように後方からひょこっと覗き見る。背が低いので背伸びをしながらだ。


「獣道だ――――ここならこの道のサイズの魔物しか現れないだろうし、比較的安全に先に進めるはずだ。それに、隠密にはうってつけだろ?」


 アルヴィスはウインクをひとつ。


 その表情は「いい案だろ」と言っているようだ。


「気持ち悪いものを見せるなクズが。けどまぁ、貴様にしては上出来だ」


「そりゃどうも。んじゃまあ行きますか」


 アルヴィスはロベルトの罵声を聞き流し、先陣を切って歩き出す。


 その後ろをロベルト、飛鳥の順に一列になって獣道を進む。




 ――――途中数匹の魔獣と遭遇するも、アルヴィスの予想通り獣道サイズの小型な魔獣で討伐は簡単だった。そうして暫く進むと、中腹に聳え立つ洋式の古城がその姿を現した。


 慎重に古城へ近づくと、3人は眼前に聳え立つその建造物を誰からともなく見上げる。


「近くで見ると思ってたよりデケェな」


「この中にいったい何が潜んでいるのでしょうね……」


「ふんっ……」


 古城を見上げる3人は三者三様の感想を漏らすと、それぞれ気合いを入れ直す。


 それも当然のことだろう。


 今まで苦労してきたこの数日間は、全てがこのときの為なのだから。


 これからが本当の任務開始だ。


 そう思うと3人は少し肩に力が入ってしまう。あのロベルトですらもだ。


 アルヴィスは軽く深呼吸を行うと、古城からさらに上へ――――地上を照らす月を眺めた。


「……気づかなかったぜ……今夜の月は、こんなにもあかくてデカいのか……」


(……不吉だな――)


「おいっ、いつまで呆けてる。そろそろ行くぞ」


「ああ」


 ロベルトに声を掛けられ意識を地上へ戻したアルヴィスは、返事と同時に歩き出した。

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