第55話 遭遇
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――魔獣や魔物との戦闘を何度も切り抜けつつ古城目指し進んでいると、唐突にアルヴィスが背後にいる2人へ振り返った。
「なあ、このまま歩いていて今夜中に着くと思うか? 冗談じゃなくホントに朝になっちまうぜ?」
御者と別れた時点で既に夕刻だったが、予定よりもかなりペースが遅く、現在は太陽と月が役目を交代しはじめた頃。
あのまま馬車を使えていればとうに古城に着いている時刻だ。
アルヴィスは予想以上のペースダウンに不安感を抱いていた。
「たしかに少し急いだほうが良さそうですね。魔物の数も増えてきましたし……」
「数だけじゃない。気づいているか? 昼間の雑魚と比べると少々手強くなっている」
飛鳥の返事にロベルトが反応した。
けれど視線は辺りを警戒したままで2人と合ってはいない。
それもそのはずだ。
今も3人の周辺には複数の魔物の気配があるからだ。
襲ってくる気配は無いとはいえ、決して油断は出来ない。油断し先制を取られ挟み撃ちに合えば、いくら3人が優れた魔法師とはいえ無傷とはいかない。
「だからさっきから言ってるように俺の魔法ですぐに行こうぜ?」
「貴様も何度も言わせるな。たしかに貴様の加速魔法を使えば、簡単に遅れを取り戻せるだろう。だが目的は古城の調査だ。何が起こるかわからない場所に行く前に魔力を使いきるわけにはいかない。たとえ貴様のようなクズでもな」
「ろ、ロベルトくんは大事な戦力を低下させたくないって言ってるんですよ! そうですよね!? ねっ!?」
喧嘩に発展しそうなロベルトの言葉に、飛鳥が慌てて通訳に入る。けれど飛鳥の訳がロベルトの真意なのかはわからない。
「ふんっ、とにかく戦闘以外での無駄な魔力消費は許さん」
飛鳥の通訳を肯定とも取れるような鼻笑いから言葉を続けたロベルト。その顔はほとんど無表情だが、少々照れ臭そうにも見える。もちろん2人には見えていない。
「はぁー……わかったわかった。もう言わねぇよ」
アルヴィスは両手を上げ降参の意思表示をする。
「けど、ならじゃあどうするつもりなんだ? なんかいい案はあんのかよ」
「――邪魔する奴のみ斬り刻み真っ直ぐ突き進むだけだ」
「……おいっ、やっぱそれ、お前なんも考えてないだろ? やっぱバカだろ?」
アルヴィスはどうしようもなく呆れた顔でロベルトに視線を向ける。それはもう哀れみすら感じる眼差しだった。
「貴様、もう一度言ってみろ。その首斬り落としてやる」
「やってみやがれ。その剣を錆にしてやんぜ」
睨み合う2人の少年。
いつもならこんな状況になると飛鳥が止めに入るのだが、その飛鳥は頭を押さえ大きな溜め息を吐いていた。
さすがに飛鳥も毎度毎度仲裁に入るのは骨が折れたのか、ついには仲裁すら止め呆れてしまったようだ。
と、そこに――――
ドスンッ!!
という突如として発生した大きな地響きが3人に異変を知らせる。
「――なんだッ!?」
アルヴィスが周りの様子を見回しながら反応した。
「アルヴィスくんあそこです!」
飛鳥が指差す先に視線を向けると、そこには黒く大きな獣のような姿がボヤけて見える。
ライオンの様なシルエットだが熊のように大きい。だが距離がある分実際はもっと大きいはずだ。
とても禍々しい気配を放つその巨躯の魔獣が先ほどの地響きの発生源なのはまず間違いないだろう。
だが様子が少しおかしい。
今まで3人の周りにいた魔物の群れが、巨躯の魔獣を囲むように移動していたのだ。
「――あれは……キマイラか……!?」
「えっ……?」
ぽつりと呟いたロベルトを見ると、アルヴィスはその表情に驚いた。
いつも冷めた顔であまり感情を表情に変えないロベルトの顔が、恐怖の色を表していたからだ。
「ロベルトくんにはあれが見えるのですか?」
「当たり前だ。貴様らも魔力を眼に集中してみろ。身体強化の要領だ」
珍しく毒づくこともなく素直に教えるロベルト。飛鳥とアルヴィスは少し驚くが直ぐ様実践する。
「――っ!? たしかにあれはキマイラと特徴が一致しますね。本でしか見たことないですが、まさか本当にいるとは思いませんでした」
「うおっ!? なんだあれ!? 尻尾が蛇だぞ!? 気持ちわりっ」
アルヴィス達から数十メートル先に現れた魔獣の正体は、全長5m以上はあるキマイラだった。ライオンの様なその頭部からは山羊の様な角を生やし、尻尾はアルヴィスの言うように蛇が2匹ニョロニョロとその身をくねらせている。
「で、どうするよ? あれと戦うか?」
「死にたいのか貴様は!」
「――!?」
アルヴィスの質問に、ロベルトが珍しく声を荒らげた。
「どうしたってんだよそんな大声で。あれがそんなにヤバイのか?」
「貴様はホントにバカだな。いいか? あれはキマイラ、つまり合成生物だ。口から火炎を吐き、その尾は見るものを石化させると言われている。その他にもそれぞれの個体によって変わった能力を持つと言われている魔獣だ。あんな化学生物兵器、初見で無事に勝てるレベルじゃない。下手をすれば全滅だってありえるほどだ。恐らくあいつがここら一帯の主だろう」
(あのロベルトがここまで口数が増えるほどヤバイやつってことは、何となくわかったぜ。けどホントにそれほどヤバイ魔獣なのか? 俺には――)
「なあ、飛鳥。あの魔獣、飛鳥の式神とどちらが強いと思う?」
「えっ? えーと、そうですね。単純な攻撃力なら私の風神雷神のほうが上だと思います。私の式を倒したアルヴィスくんならもしかしたらキマイラにも太刀打ちできるかもしれません」
「なら――」
「ですが――私もキマイラとの戦闘はオススメしません。やっかいなのは攻撃力以上にあの尻尾から放出すると言われている石化魔法です。石化は今ある薬じゃ解石できないので、その時点で任務失敗ですよ」
「んー……」
アルヴィスは顎に手を当てしばし考える。
「――よしっ、周りの魔物に気が向いているうちに逃げるか」
「もともとそれ一択だバカが。行くぞ!」
ロベルトは合図をすると、この場を離脱するために魔力で脚力強化をしながら駆け出した。
「速っ――」
アルヴィスはあっという間に距離を離されたロベルトの速度に驚きつつ、自身も追いかけながら脚力を強化し追いかける。
戦闘時のように全身を強化しないのは、これも無駄な魔力消費を減らすためだ。
アルヴィスはある程度の距離までロベルトに追い付くと、飛鳥もちゃんと付いてこれているか後方の様子を駆けながら窺う。
飛鳥とは少し距離がひらいてしまっているが、なんとか付いてこれているようだった。
あくまで強化は強化だ。もともとの身体能力と注ぎ込む魔力量によってその効果はまったく異なる。
如何にも運動が不得意な女の子の飛鳥には、2人の速度に付いていくのは相当に大変らしい。
アルヴィスには見えていないが、飛鳥は既にランニングフォームが崩れ呼吸が乱れている。
そんな後方の様子など気にもせず、ただまっすぐに古城があるカターニャ山脈目掛けて駆け続けるロベルト。
その後を追いかけ、後ろの飛鳥が気になるのか2人の中間地点をキープするように駆けるアルヴィス。
ただひたすらに2人に追い付こうと駆け続ける飛鳥。
そんな3人がしばらく駆け続けると、山脈の麓に辿り着く。
駆け出してからものの5分ほどでの到着だ。
この程度の時間で着くのなら初めから走ればよいとも思うだろうが、周辺の魔物が全てキマイラに向かってくれたおかげで楽に駆け続けられたのだ。
僅か数キロの距離でも、戦闘を行いつつではあと数時間かかっていたかもしれない。
それほどに周辺の魔物数が増えていたのだ。
アルヴィスたちは予期せぬハプニングで期せずして遅れを取り戻せたのだった。
古城に着くまでの過程がつらかった、、、
もうすぐ古城について真の任務スタートです!




