表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
紅い月と古城の少女編
54/143

第53話 ロベルトの不安




「――おー、もう揃ってたか。そんじゃまぁ、行きますか!」


 エリザベスと別れ、集合場所に指定した王都北門前に着くと、そこには既にロベルトと飛鳥の2人が待っていた。


 アルヴィスはそんな2人に手を振りながら近づくと、自分が最後だというのに気にすることもなく、出発の指示を出した。


「おい、貴様遅れてきたくせになに仕切ってるんだ?」


 腕を組みながら門に寄りかかっているロベルトが、少し苛立った態度で言う。


「別に遅れてはないだろ。まだ5分前だぜ?」


 アルヴィスはムッとし、左手の腕時計をロベルトに見せつけながら応えた。


「チッ、クズが。俺を待たせた時点で遅れてるんだよ」


「随分とまあ自分勝手だな、ロベルト。俺はお前の下僕じゃねえぞ!」


「貴様も随分と調子に乗ってるようじゃないか。〈最下位〉ということを忘れたのか?」


「くッ――」


「喧嘩は止めてください! これから任務なんですよッ?」


 集合してそうそう険悪なムードに、飛鳥はたまらず仲裁に入った。


 飛鳥は頭を抱え溜め息を吐くと、急に右腕を伸ばし何かを指しだした。


「とりあえず、お2人共あれに乗ってください。私が先ほど手配しておきました」


 飛鳥が指差す先には、門前に待機していた馬車と御者の姿が。


「おー、準備いいな飛鳥!」


 馬車の用意などまったく考えていなかったアルヴィスは、素直に飛鳥を褒める。


「少しはこのクズと違って役に立つじゃないか」


 ロベルトも珍しく素直に飛鳥を褒めた。


 ただし、アルヴィスへの罵倒付きだ。


「おいっ、そのクズって誰のことだ?」


 アルヴィスは自分のことだと分かっているが、一応確認してみることにした。


 その表情はなんとか平静を装っているが、こめかみがひくついていた。


「そんなこともいちいち言わないとわからないのか? さすがは〈最下位〉だな」


 ロベルトはまた棘のある言い方で応える。


 お互いいつ手を出してもおかしくない雰囲気だ。


「もうお2人共いい加減にしてください!」


 また睨み合い始めたアルヴィスとロベルトに、飛鳥が今度は呪符を構えて叫んだ。


 これにはさすがの2人も静かになった。


 先日の新人戦で飛鳥の呪符の凄さを身をもって知っているからだ。


 それにしてもロベルトは、先ほどからやたらと〈最下位〉を強調してきている。


 この準備時間中に何かあったのだろうか。


 アルヴィスと会うことはなかったので、アルヴィスが何か怒らせるようなことはしていないはずだ。


 それとも単純に、仕切りだしていたアルヴィスに再び実力の差を分からせようと――思い出させようとしていたのだろうか。


 ――いや、そうではない。


 演習場での引き分けに、新人戦では3位と順位は下。おまけにアンヴィエッタに言われた言葉もあってか、自分がこのメンバーで1番弱いということを、彼のプライドが許さないのだろう。


 そして、さすがの彼もこれだけの遠出の任務は初めてだ。少々顔が強ばっている。


 先ほどからアルヴィスにつっかかり〈最下位〉を強調していたのは、緊張と自分の強さを確認する為だったのかもしれない。


 2人が静かになったことで、飛鳥は呪符を袖に戻した。


 「さ、乗ってください」と飛鳥が再び乗車することを促すと、3人は馬車に乗り込み出発した。


 前金を払わずに出発したことから、すでに飛鳥が支払っていたのだろう。


 アルヴィスは、忘れなければ後で支払おうと内心思いながら感謝した。


 目的地のカターニャ地方までは、1つの街を経由して向かう。


 馬をかえるためと、物資の補給の為だ。


 基本的に通路は平地だが、最速で着くには途中山道を越えなければならない。


 その山道で激しく消耗することが予想できるため、手前の街で山道往復分の物資を補給するというわけだ。







 ――アルヴィスたちを乗せた馬車は、予定通り目的地へと進んでいった。


 何度か魔物に襲われることもあったが、遠距離は飛鳥、中距離はロベルト、近距離はアルヴィスといったふうに、範囲を決めることによって最適な攻撃をしかけ、危なげ無くここまで進むことが出来た。


「――今がここだから、そろそろカターニャ平原に出る頃だよな?」


 アルヴィスが広げた地図を指しながら確認をする。


「そうですね。もうじきこの山道を抜ける頃ですから、そうしたらカターニャ地方――カターニャ平原が見えるはずです。古城はさらにその奥、国境を隔てるカターニャ山脈にあると聞きました」


 飛鳥が指で地図をなぞりながら応えた。


「いよいよか」


 ロベルトが独り言のようにぽつりと言う。


「なんだぁロベルト。緊張してるのか?」


 ロベルトの言葉にアルヴィスが反応し、からかうように返した。


「貴様、冗談でももう一度言ってみろ。その口が斬り飛ぶぞ?」


「おいおいっ。冗談だろうが。ったく、これだから冗談が通じないやつは困るぜ。なぁ? 飛鳥」


「そこで私に同意を求めないでください!」


 急に話に巻き込まれた飛鳥は、慌てて叫んだ。


「ちぇっ、なんだよ。――そういえば飛鳥もあまり冗談が通じないタイプだったな」


「今すごい失礼な言葉が聞こえた気がしましたが?」


 ぽつりともらしたアルヴィスの言葉に、飛鳥が耳ざとく反応する。


 飛鳥のその顔は、ジト目で片手には1枚の呪符が。


 それを見たアルヴィスは、両手を軽くあげて降参の意思表示を示す。


「ほらっ、アルヴィスくん、もうすぐ山道を抜けますよ」


 呪符をしまった飛鳥が自分の視線の先、アルヴィスの真後ろを指差し、山道の終わりが来ることを告げる。


 アルヴィスは振り替えると、道の先から射してくる陽光に思わず目を細めた。


「――抜けたァーッ!」


 アルヴィスの眼前には、遮るものが一切なくただただ広大な野原がとびこむ。


「気を付けてください、アルヴィスくん。ここはもうカターニャ地方。魔物の出現数が増えてくるはずです」


「お、おう。そうだったな」


 ずっと木々におおわれ暗い山道を通ってきたアルヴィスが、平原の明るさにテンションが上がっていると、現実に返すように飛鳥が注意する。


「ここからが任務本番ですね」


「気合いが入るな」


 飛鳥の言葉に、アルヴィスが身体をほぐすように伸びながら応えた。


「お2人とも、いつでも戦える準備をしておいてくださいね」


「ふんっ、誰に命令している」


「よっしゃ! かかって来いやァー!」


 2人がそれぞれ反応で返すと、飛鳥も呪符を取りだし辺りを警戒し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ