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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
紅い月と古城の少女編
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第52話 プレゼント

 講義棟を出たアルヴィスは、ロベルトに声を掛けたが街に用があると断られ、1人で寮まで戻ることにした。


(カターニャ地方までおよそ7日。そこにある古城までさらに数時間掛かったとしても7日半。往復で半月か……。食料は途中で買い足すとしても片道分は必要だな――)


 任務に必要な道具を考えながら歩いていると、あっという間に寮に着く。


 そのまま自室がある2階へと上がり、部屋へと向かうと――


「――あれ、エリザ? 俺の部屋の前で何をしてるんだ?」


 アルヴィスの部屋の扉に背を預け、片足をぷらぷらと振っているエリザベスの姿がそこにあった。


「あっ、やっと来た。酷いなーアルくんは。出発する前に一言くらい声かけてくれてもいいんじゃないかなぁー?」


「ワリィ、そんなつもりはなかったんだ。けど、そうだな……たしかにそうするところだったぜ……」


 エリザベスのもとへ歩き着くと、アルヴィスは頭を掻きながら謝った。


「もしかして、わざわざそれで?」


「な――っ!? そ、そんなわけないじゃない!?」


 アルヴィスの問いに、エリザベスは頬を朱に染め叫ぶ。


「そっか……それは残念だ」


 アルヴィスはポツリとこぼす。


「……私がアルくんに会うために来たって言ったら、嬉しいの?」


「――なッ!? ……そ、そりゃあ、エリザみたいな女の子にそんなこと言われたら、男なら誰だって嬉しいんじゃないか?」


 アルヴィスは思わぬ質問に心中を誤魔化すように返した。


「アルくんは? 他の男の子たちのことじゃなくて、私は君のことを知りたいの」


 けれどエリザベスを誤魔化すことはできなかった。


 さらに問い詰めるエリザベス。


 アルヴィスはなんとかこの場の空気を変えようと思考を凝らすが、真っ直ぐに見つめ返してくるエリザベスには何を言っても変わりそうになかった。


 そんな姿にアルヴィスは降参とばかりに頭を盛大に掻きむしる。


「――あーもうっ、わかった! 言うよ! 言えばいいんだろ!? 嬉しいさ! 嬉しいに決まってるだろ! エリザに――」


(――好きな人に)


「――俺に会いに来たなんて言われて嬉しくないはずないだろうが!」


 アルヴィスは半ばやけになりながら叫び応えた。


 肩で息をしながらエリザベスを見ると、彼女は顔を真っ赤にして身体ごと後ろを向いてしまう。


「エ、エリザ?」


 アルヴィスは気を害したのではと、少し慎重に声をかける。


 だがアルヴィスの不安はまったくもって必要なかった。


 彼には見えていないが、背を向けるエリザベスの表情は顔がほころぶ以上にゆるみきり、頬を押さえてそのゆるみを支えていた。


「ふ、ふーん……? アルくんは私に言われたら嬉しいんだ? そうなんだ……」


「あ、ああ。恥ずかしいからそれ以上聞かないでくれ」


 アルヴィスも恥ずかしさで反射的に俯く。


「――と、ところでエリザ! いつまでもこんなところじゃなんだし、とりあえず中へ入らないか?」


 アルヴィスは今度こそこの場の空気を変えようと、ハッと顔を上げるとエリザベスに提案した。


「そ、そうね! 中へ入ろう中へ!」


 エリザベスもさすがにこのままでは恥ずかしいのか、便乗するように反応した。


 扉の鍵を開け中に入ると、それぞれ適当に腰を下ろした。


「それで、エリザ。まさか本当に会うためだけに来た訳じゃないんだろ?」


「うん。これを渡そうと思って――」


 そう言うエリザベスは、ポケットに手をいれながらソファーから立ち上がった。


 ごそごそと何かを取り出しながらベッドに座っているアルヴィスの隣に座ると、その中身をアルヴィスに握らせる。


「――これは……指輪? 指輪型電話か!」


「うんっ。アルくんこれ持ってなかったでしょ? これから任務だし無いと不便かと思って。寮長に頼んで枢木さんとシルヴァくんの連絡先はすでに入ってるから」


「サンキューエリザ! マジ助かるぜ」


 早速指に着けながらお礼を言うアルヴィス。


 エリザベスはそれに笑顔で返すと、急に頬を赤らめもじもじとする。


「そ、それでねっ、アルくん。私のも登録しておいたから……何かあったら、連絡……してね?」


「わかった。何かあったら連絡する」


「……うん」


 アルヴィスに自分の真意が伝わっていないことに少しガッカリするエリザベス。


「あ、そうだエリザ! 返すもんがあんだった!」


「え……?」


 アルヴィスは思い出したようにクローゼットへ向かう。


 中はほとんどが制服で占めているが、その中の一着、昨日まで来ていたボロボロな制服の内ポケットをあさりだす。


 中から取り出したのは、以前エリザベスから渡された魔道具である指輪だった。


「それ、私の――」


「ああ。ずっといつ返そうかと思っててさ。――これ、綺麗だよな。中で揺れてるこれって、エリザの魔力なんだろ?」


 アルヴィスは水晶内部で揺らめいている、まるで炎のような赤いエリザベスの魔力を見詰める。


「よかったらそれ、そのままアルくんが持っててくれないかな?」


「いいのか?」


「うんっ。もともとそのつもりだったし、私は君が持っててくれると嬉しいな」


「なんか貰ってばかりで悪いな。俺も何か返せるものがあれば……」


「気にしないで? 私がしたいからしてるだけだし」


「あっ、そうだ――」


 アルヴィスは自身の首に手を回して何かを外した。


 続いてYシャツの首もとから、手繰り寄せるような手つきでその何かを取り出した。


 首もとから姿を現したそれは、銀の十字架ロザリオの形をしたペンダントだった。


 あまり大きくないそれは、中心に小さな鉱石のような物が嵌め込まれている。


「俺が孤児院に居たときから着けてたものなんだけど、よかったらこれを貰ってくれないか?」


「えっ、でもそれ、大切なものなんでしょう?」


「ああ。シスターにもらった宝物だ。けど今はエリザに貰って欲しい。それに俺にはこれがあるしな」


 アルヴィスは机へと歩きだし、引き出しからチェーンを取り出す。


 それに指輪を通してペンダントとして首に着けた。


 その光景を見たエリザべスは、自身の魔力が流れている指輪がアルヴィスに身に付けられ、それを自身となぞらえたのか恥ずかしそうに赤くなる。


 アルヴィスはエリザベスに近寄ると、エリザベスの首に手を回し十字架を着けて上げた。


 その距離にエリザベスはさらに顔を赤くするが、同時にアルヴィスも赤くなっていたことに彼女は気づいていない。


「あ、ありがとう……アルくん……」


「あっ、いや、その……どう、いたしまして」


 2人はしばしの間、頬を赤らめながら無言で時を過ごした。

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