第51話 エリザベスが教えてくれたこと
「――貴様等、ニヤニヤとなにをしている?」
アルヴィスと飛鳥が握手を交わしていると、そこへタイミングを見計らっていたか如く背後からロベルトに声を掛けられる。
2人は肩をびくっと震わせあわてて手を離すと、飛鳥は乱れた前髪を直しつつ恥ずかしそうに俯き頬を赤らめ、アルヴィスは「よ、よぉっ」と片手を上げて何事も無かったようにロベルトに返事をする。
けれど、アルヴィスの目はやましいことをしていたわけでもないのに泳いでいた。
ロベルトはそんな2人と席を同じくすることに一瞬躊躇うも、空いているソファーに腰を下ろし脚を組んだ。
「おい、女。いつまでそうしているつもりだ。気持ち悪いから止めろ」
ロベルトはソファーに座るなり、飛鳥のもじもじと照れている姿に罵声を浴びせた。
「おいっ、これから一緒に戦う仲間になろうっていうのにその呼び方なんとかならないのか?」
だが反応したのは浴びせられた飛鳥ではなく、平常心に戻っていたアルヴィスの方だった。
「ふんっ、こんな一時的なチーム。分かりさえすれば呼び方などどうだっていいだろうが」
「あのなぁ、一時的でも仲間は仲間だ。飛鳥には枢木飛鳥って名前があるんだ。せめて名前で呼べよな」
「やけにかばうじゃないか。まさか貴様、この女に落ちたか? 色仕掛けにでもあったか?」
ロベルトは馬鹿にしたように笑いながら言う。
「色――っ!? わ、私はそんなことなどしてません!」
すると、今まで2人のやりとりを黙って聞いていた飛鳥が立ち上がり反論してきた。
その表情は怒り半分恥ずかしさ半分といったようで、先程とは違った頬の赤らめ方をしていた。
「ふんっ、どうだかな。現に先程まで手を取り合っていたじゃないか」
「あ、あれはっ、アルヴィスくんと交友を深めていた最中の出来事なだけです! 他意はありません!」
「他意がないと自分で言った時点で他意があるんだよ、馬鹿が」
「う――っ……」
三種の神器への手懸かりを得るためにアルヴィスと話し始めた飛鳥にとって、今のロベルトの言葉に反論する言葉が出てこなかった。
勝ち誇るロベルトに、悔しそうな飛鳥。
正反対の顔で睨み合っている2人の様子を見兼ねたのか、アルヴィスが溜め息まじりに仲裁に入った。
「ロベルト、もうそのへんでいいだろ。飛鳥もまた黙っちゃったじゃねえか。どうせお前のことだ、からかって楽しんでたんだろ?」
「チッ――。おい、たしか枢木飛鳥と言ったな。なら貴様のことは枢木と呼ばせてもらう。貴様もこれで満足だろ」
「おうっ。それなら文句はねぇ」
アルヴィスは満足そうに頷く。
言い争いも終わり早速本題に入るためアルヴィスはわざとらしく咳払いをすると、調査任務についての話し合いを始める。
「昨日、あの後エリザから教えてもらったことがいくつかあるから、2人にも教えておこうと思う」
「ほう、スカーレットからか」
ロベルトはエリザベスの名前で興味を持ったのか、脚を組み直しながらアルヴィスの次の言葉に注目する。
「カターニャ地方は元々魔物が多く生息する地域らしいんだが、ここ最近になって、その出現数がかなり増加しているらしいんだ。それも、普通じゃ考えられないくらい急激に、だそうだ」
「急激に、ですか?」
飛鳥が眉根を寄せて聞き返してくる。
「ああ。エリザがこういうことは大きな力を持つ何かが影響を与えていることが多いとも言っていた。つまり、調査地であるカターニャ地方にある古城に、もしかしたらその何かがあるのかもしれないな」
「学院もそこまで分かっているから、俺たちの調査地を古城とまで絞ったんだろ。肝心なのはその何かが何なのかだ。スカーレットは何か言っていなかったのか?」
アルヴィスはロベルトの質問に軽く首を横に振った。
「けど、こんな情報もくれたぜ。カターニャと接している隣国の街が2ヶ所、同時期に壊滅したらしい。しかも、どちらもカターニャから1番近い街だそうだ。ってことはよ、もしかしたら街を壊滅させた魔物か何かが、今は古城を住みかにしているのかもしれないぜ?」
「確かにそれなら魔物の増加にも納得がいきますね。街を壊滅させるほどの魔物か魔物の群れが古城に住みつき、今もなおその力を増やしているなら……」
飛鳥の言葉に、アルヴィスもロベルトも眼を見合わせ頷いた。
「かなりの戦力を持つ魔物が相手になるかもしれない。みんな相応の準備を整えてから1時間後、ここを出発しよう」
アルヴィスが代表するようにこの後の予定を伝えると、3人はひとまず解散した。




