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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
紅い月と古城の少女編
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第50話 飛鳥の目的







 ――翌放課後。


 アルヴィスは昨日の約束通り、ロベルトと飛鳥に会うため講義棟談話室に来ていた。


 本日最後の講義を終えると、他に用事もないので、1時間も前だが寄り道せずに来たのだ。


 おかげで待ち人はどちらもおらず、絶賛暇をもて余し中というわけだ。


 この談話室は各寮にあるロビーよりも倍の広さがある。


 基本的に他の寮生は他寮に入ることがないので、用がある時はこのような場所で会うことが多いからだ。


 昨日の飛鳥に関しては、寮生のエリザベスと一緒だったから、というのが入ってきた理由だろう。


 他寮に入ることが禁止されているわけではないが、先日の新人戦の様に寮対抗でイベントを行うことが多く、そのせいか多くの生徒が自然と他寮に近寄ることすらあまりしなくなったことが始まりだ。


 なので、現在アルヴィスの周りの席には多くの他寮生が学年問わず談笑している。


 中には恋人関係のような雰囲気を醸し出している席もあり、そんな空間に独りでいたアルヴィスは、どことなく気分が落ち着かない。


 待っている間にすることもないので、寝て待っていようかと腕を組み、より腰深くソファーに座った時――


「あれ? 随分とお早いのですね、アルヴィスくん」


 背後から聞き覚えのある声に呼び掛けられた。


 アルヴィスは後ろを振り向き、声の主を確認すると少し意外だったのか眼を見開いた。


「飛鳥!? ――時間までまだ1時間近くあるぞ?」


 アルヴィスは深く腰かけ直したばかりの姿勢を、再度先程までの姿勢で座り直した。


「そっくりそのままお返ししますよ。私が1番早いかと思ってましたので、少しショックです」


 飛鳥は丸テーブルを挟んでアルヴィスの正面に位置するソファーに座りながら応えた。


「ああ、俺は講義が終わったらすぐに来たからな。とくやることもないし」


「私もです。2寮の演習場から来たのでその分遅かったんですね」


 2人はお互いに暇潰しに付き合ってくれるような友人がいないことを雰囲気で察する。


 アルヴィスは飛鳥が自分と同じタイプの人種だと思い、なんだか仲良くなれる気がした。


「なぁ、飛鳥。この前はお互い敵同士だったわけだけど、今回は一緒に戦う仲間だ。ロベルトが来るまでの間、よかったらお互いのことを少し話さないか?」


「はい、実は私も興味がありました」


 アルヴィスは飛鳥の返事に「おっ!」と前のめりに反応した。


 交友を深めようとした最初のアクションへの良い反応。アルヴィスは表情以上に嬉しかったようだ。


「なら俺からまず聞いてもいいか? 飛鳥が使ってたあの魔法――式神だっけか? あれは一体なんなんだ? サーヴァントではないって言ってたよな?」


「はい。風神雷神は私が受け継ぎ契約している式神です。こちらの言葉で言うと……守護者(ガーディアン)とでも言えばわかりますか?」


「守護者か……やっぱりそれってサーヴァントとどう違うんだ? 俺には同じようにしか思えないんだが」


「確かにサーヴァントという言葉の意味自体には当てはまりますが、私の式には実体がありません。呪符を媒介に私の血文字を目印として魂を降ろす、というイメージです。なので儀式召喚魔法や憑依魔法に近いかもしれませんね」


「な、なるほど……」


 アルヴィスはいくつか出てきた新たな言葉に混乱しつつも、なんとか理解した風に頷いた。


「私からもいいですか? ――アルヴィスくんはあの戦いで私の魔法や式まで消していましたが、一体どんな魔法を使っていたのですか!? ずっと気になっていたんです!」


 飛鳥にしては珍しく、身を乗り出しそうな勢いでアルヴィスに迫った。


 2人の間にテーブルがなければ頭がぶつかっていたかもしれない。


「近いちかいっ! とりあえず離れてくれ」


 アルヴィスは飛鳥の頭を押し返してソファーに座らせる。


「かなりの速度で移動されていたので、速度上昇、もしくは強化系魔法だと思っていたのですが、私の魔法を消していましたよね? アルヴィスくんは魔法解除マジックキャンセルの魔法が扱えるのですか!?」


 飛鳥は興奮状態で早口に尚も問いただしてくる。


 アルヴィスは本当に魔法解除があるなら飛鳥のこの状態をまず解除したいと内心思いつつ、けれどなるべく表情には出ないように気を付けつつ応える。


「俺にそんな魔法は使えないよ。まぁ、結果としてそうなっているかもしれないけどな。俺が使える魔法は時間操作魔法……らしい。実のところ、俺もよくわかっていないんだ。ついこの前まで、俺は俺自身の魔法をずっと、加速魔法を使えるだけだと思っていたからな」


「そうですか。でもそういった認識間違いというのは少なからずあるそうです。自分の魔法がなんなのかというのは、自分自身がそう思い込んでいるだけなんだそうです。後々出来ることの可能な幅が広がり、自身の認識していた魔法系統では説明がつかないことがでてくることがあるそうですから」


「へぇー」


「それで、どうやって時間操作で私の式を消したのですか!? 時間を操って移動速度を上げたり私の魔法を無かったことにしたと考えれば、中盤までのアルヴィスくんの魔法は理解できるんです。ですが、式を消したときはそれまでと違いました。こう、なんと言いますか、まるで――そう、押し潰した感じでした!」


「んー……」


 飛鳥の言葉に、アルヴィスは腕を組みながらあの時のことを思い出す様に少し難しい顔をする。


「実は俺、あの時のことをよく覚えてないんだよなぁー。飛鳥の式神にやられていたところまでは分かるんだけどよ、どうもその後の記憶がすっぽりと抜けてる感じなんだよな」


「そんな……! ――そう、ですか……」


 飛鳥はアルヴィスの言葉に腰を上げたが、彼の表情を見て嘘を言っていないということがわかったのか、その上げた腰をゆっくりと戻した。


「悪いな。なにか思い出したらちゃんと教えるからよ」


 アルヴィスは落ち込んだように俯く飛鳥の顔を見ると、元気付けるように話した。


「はい、よろしくお願いしますね」


 飛鳥はアルヴィスの言葉にニコリと微笑む。


「それにしてもよ、どうして俺の魔法なんかが気になってたんだ? たかがFランク魔術師の魔法だぜ?」


「そんなご謙遜を。アルヴィスくんの実力はFランク魔術師なんてレベルじゃないですよ。――私がアルヴィスくんの魔法を気にしていたのは、私がこの学院に来た理由に近づけるかもしれないと思ったからです」


「学院に来た理由……?」


「はい。すでに名前でご存知かとは思いますが、私は亡国――日本の生き残りです」


(やっぱり飛鳥はアジア人、それも日本人の生き残りか。どおりで聞きなれない名前の訳だ)


「国は滅びましたが、多くの日本人が生きてます。私は国の再興の為、失われた国の宝具である三種の神器を探してこの学院まで来ました。ここなら情報が集まりやすいと思いまして」


「三種の神器? 魔道具か何かなのか?」


「はい。一般にはただの宝物のように知られていますが、私たち陰陽師の持つ特殊な力のように、3つの神器にもそれぞれ特殊な力があるんです。如何なるものも断ち切る剣、如何なるものも弾く鏡、如何なるものも封じる玉。これが三種の神器です」


「それと俺の魔法に関係があるかもって思ったのか?」


「断ち切る剣――草薙剣は、その効果の通りどんなものでも断つことができます。もっと分かりやすく言えば、魔法解除も出来る、ということです」


「――!?」


 飛鳥の言葉に、これまでの彼女の反応や意味が繋がったのか、ハッと驚き口を薄く開けたアルヴィス。


 その彼の反応に、飛鳥は無言で頷くと話を続けた。


「そうです。私はアルヴィスくんが草薙剣と関わりがあり、なんらかの方法を用いて魔法解除や、式神のこの世との繋がりを断ち切って消したのではないかと思ったのです。でも、どうやらそれも私の都合のよい解釈だったようですね」


 飛鳥はここで背筋を伸ばし姿勢を正すと、さらに話を続ける。


「それに、実は私、アルヴィスくんが寝ている間に何度か病室へ調べに行ってるんです。なので、何もアルヴィスくんが関わりがありそうな物を持っていないことは知ってました。知らないふりをして、鎌をかけるようなマネをしてすみませんでした」


 飛鳥は頭を下げ自身のこれまでの行いを詫びてきた。


 アルヴィスはその姿にどう対応したらいいのかわからなく慌てるが、ゆっくりと飛鳥の前に手を差し出した。


 飛鳥は差し出された手の意味が解らず、アルヴィスの様子を窺うようにそっと顔を上げた。


「飛鳥がどんな理由で俺に近付いてきたかなんて、正直、聞かされた今もよくわかってねぇ。けどよ、俺の疑惑がはれてこれから一緒に戦う仲間だってことはわかってる。なら、あとは仲良くなるだけだろ?」


 アルヴィスはニカッと笑いながら伸ばしていた手をさらに伸ばして飛鳥に近づけた。


 それに飛鳥は恐る恐る自身の手を伸ばし近づけると、アルヴィスが勢いよく握ってきた。


「よろしくな!」


「――はいっ」


 アルヴィスの屈託の無い笑みを見た飛鳥は、自身も微笑み握り返した。

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