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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
紅い月と古城の少女編
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第48話 調査依頼

 その後、無言で数十分の時が経つと、その頃にはアルヴィスはこくりこくりと微睡んでおり、ロベルトも読んでいる本がもうすぐ終わりそうだった。


 そうこうしていると、玄関から見知った顔の女生徒が2名入ってきた。


 1人は、胸まで伸びた淡い赤髪が特徴的な美少女――アルヴィスお待ちかねのエリザベス・スカーレットだ。


 そしてもう1人は、上は白、下は赤でこの国では特徴的な服装の巫女装束を纏った黒髪少女の枢木飛鳥だった。


 飛鳥は新人戦でアルヴィス、ロベルトと激戦を繰り広げた2寮代表の生徒だ。


 彼女も他の代表生徒同様に相当な怪我をおっていたはずだが、どうやら完治している様子だ。


 それにしても何の接点もないこの2人が一緒にいることもそうだが、2寮生徒の飛鳥が1寮に何の用だというのだろうか。


 いまだ微睡み中のアルヴィスは2人が来たことに気付いていないが、隣のロベルトはとっくに気づいている。


 彼女達の組み合わせに少々怪訝な表情を浮かべるが、と同時に不快そうに目付きを鋭くする。


 それも仕方の無いことだ。


 何せ学年順位1位だった彼は、先日の戦いで9位で尚且つ女である彼女に倒されてしまったのだ。


 あれ以来初めて顔を合わせることになった今、いきなり何事もなかったかのように振る舞えるほど彼もできた人間ではない。


 だが元々ロベルトは馴れ合いを嫌いいつも不機嫌で有名な生徒だ。


 今更不快な顔をされたところで飛鳥はまったく気にしていなかった。


 そんな飛鳥とエリザベスは、こちらもアルヴィスが探し人だったのか一緒にまっすぐアルヴィスに向かって歩いてきていた。


「あ、やっぱりアルくんだ。――あれ? 君はたしか、えーと……シルヴァくんだよね?」


 アルヴィスの眼の前まで寄ってきたエリザベス達は、アルヴィスの存在を再確認したと同時に隣に座るロベルトの存在にも気づいた。


「あなたは序列4位のエリザベス・スカーレット、ですね?」


 その特徴的な服装で遠目でも飛鳥の存在はわかったが、エリザベスはさすがにある程度まで近づかないとわからなかったようで、確認するようにロベルトも応えた。


「私のこと知ってるんだ」


「もちろんです。兄と同じ4年にして序列4位、二つ名とは別にイフリートの異名まで持つ炎を操るAランク魔法師。学院であなたを知らない方がおかしいでしょう」


「その呼ばれ方は可愛くないから好きじゃないんだけどなー。――私も君のことを少し知ってるよ。序列1位で〈剣帝〉の二つ名を持つクリストフくんの弟にして、自身も首席入学した天才。若干15歳にしてCランク魔法師のロベルト・シルヴァくん、でしょ?」


 エリザベスとロベルトは、お互いがお互いの紹介をしたところで照れるわけでもなく、どちらかといえば今から戦って実力を測ってみたいという風にうずうずとしていた。


 ロベルトは相手が格上なエリザベスなので気持ちもわかるが、エリザベスの方はなぜ同じような表情をしているのだろうか。


 やはり〈剣帝〉ことクリストフの弟ということが大きいのだろうか。


「あの、私の存在を無視しないでください!」


 そこへ今までエリザベスの隣で大人しくしていた飛鳥が会話に割り込んできた。


「あっ、ごめんね? べつに忘れていたわけじゃないんだよ? ただ目的を忘れかけていただけで……あははー……」


 どうやら完全に飛鳥の存在を忘れていたらしいエリザベスは、わざとらしく笑って誤魔化した。


 だが飛鳥にはそれで誤魔化せたようで、深く追求されるようなことはなかった。


 そして今までの会話で眼が覚めたのか、アルヴィスが瞼を擦りながら顔をエリザベス達へと向ける。


「……あれ、エリザ……? と、あんたはこの前の……」


「やっと起きたね。おはよ、アルくん」


「お久しぶり、でもないですね。こんにちは、レインズワースくん。改めて、私は枢木飛鳥と申します。飛鳥と呼んでください」


「ああ、よろしく。俺のこともアルヴィスでいいぜ。――ところで珍しいな、エリザが人を連れてくるなんて。しかも1年生でさらに別の寮の生徒だなんてさ」


「たまたま医務室でこの子とあったの。そしたら先生にアルくんが復帰したって聞いたから、そのままなんとなく一緒にね。それより体調はどう? もう平気?」


「ああ。全快だぜ。むしろ調子が良いくらいだ」


「そう……ならよかった。ほとんど魔力を消費した状態での戦闘だったから、君が倒れたときすごい心配したけど、もう安心みたいね」


(なんだと!? こいつ、あれだけの戦闘をしておいて全力が出せなかったというのか!?)


 エリザベスの言葉に、黙って会話を聞いていたロベルトが表情にこそ出さないが反応していた。


「心配かけたな。ところで、飛鳥は俺に何の用だ?」


「私はアルヴィスくんに、というよりお二人にです」


 飛鳥は、後半ロベルトの方に顔を向けながら応えた。


「俺に、だと? ならなぜ今日まで来なかった」


「はい。アンヴィエッタ教授に、ロベルトくんと話すならアルヴィスくんと一緒の方が話が早いと言われましたので」


「ちっ、あの教授め」


「私も詳しくはまだ知らないのですが、アルヴィスくんが復帰したらロベルトくんと3人でアンヴィエッタ教授のもとまで来るようにと言われました。何やら頼み事があるようです」


「頼み事、ね。あの先生が俺たちに頼み事ってなんだ?」


「俺が知るわけないだろう、クズが」


「あっそ。――エリザはどう思う?」


 アルヴィスは質問した相手を間違えたと言わんばかりにロベルトの罵倒を軽く受け流し、エリザベスに意見を求めた。


「きっとそれ、任務依頼じゃないかな? 私たちのときにもあったのよ。教授達が気になった生徒で任務をさせるということが」


「へぇー。俺達で任務か。一体なんだろ。エリザの時は誰とやったんだ?」


「私はねぇー、今の序列1位から4位までの生徒達で討伐任務だったよ?」


 エリザベスは顎に指を当てて当時を思い出す様な仕草をしながら応えた。


(おいおい、すげぇ豪華なメンバーでの任務だな)


 アルヴィスは以前、エリザベスから今の4位――つまりエリザベスまでの上位メンバーが同期で入学序列からすでにトップで新人戦に参戦し、尚且つ現在Aランク魔術師であることを聞いていた。


 そのことを思いだし今の会話と合わせると、今では考えられない超豪華メンバーでの任務ということになり、内心驚いていた。


「なら今回も討伐任務が妥当か。とりあえず、こんなところで話していても埒があかない。早く教授のもとまで行くぞ」


 ロベルトは少々面倒臭そうだがやる気がないわけでもなさそうに話した。


 ソファーから立ち上がると、アルヴィスにも促す様に視線と顎で寮長室の方を指す。


 アルヴィスはやれやれと短く嘆息を吐きつつ、ゆっくりとソファーから立ち上がるとそこで自身の今の格好を思い出したように気づく。


 そう。今の彼はボロボロの制服姿なのだ。


 だがアルヴィスは自室に行くのを後回しにしたのか、上着のブレザーだけを脱いで、見た目的にはまだマシなYシャツ姿になった。


 上着を片手に、一歩遅れてロベルトの後に付いていくように歩き出す。


 飛鳥と、他にすることもないのかエリザベスも後を付いてきた。


 4人はロビーから移動し、食堂とは真逆の方向にある通路角のアンヴィエッタの部屋へと着く。


 先頭を歩いていたロベルトがそのままノックを数回、中から聞こえる返事の声で扉を開けると、そこには部屋の主であるアンヴィエッタが机に付随する椅子に腰掛け煙管をくわえていた。


「やっと来たか。待ちくたびれたぞ。――おや、スカーレット。君も一緒かい?」


「ええ、まぁ流れで。いない方がいいですか?」


「いや、構わんよ。適当に座りたまえ」


 アンヴィエッタは煙管でソファーに座ることを指示し、早速話の本題に入るためか、椅子を反転させアルヴィス達が座る方向へと向き直った。


「まずは先日の新人戦、お疲れ様だったな。君たち3人は他の代表者たちとは別格だった。そこで早速だが、君たち3人にはある任務の依頼を頼みたい」


「討伐任務だろ?」


 アルヴィスは先ほどの4人での会話から、先読みしたように応えた。


「ん? いや、違う。残念だったな。過去には討伐任務も依頼したが、今回の依頼は調査任務だ」


 だがアルヴィス達の予想は外れ、4人は「え?」という表情になるが、それは一瞬のことだった。


「調査依頼だと? そんな依頼ごときでわざわざ俺たち3人も呼び出す必要があるのか?」


 ロベルトは調査というワードから低ランク任務だと判断したのか、肩の力が抜けたように姿勢を崩し質問する。


 脚を組んだその姿から、アンヴィエッタは今回の依頼をロベルトが甘く見たことを見抜いていた。


 その甘さがおかしかったのか、アンヴィエッタはまだまだだなと言いたげに鼻で笑い、ロベルトに対して挑発的に言葉を放つ。


「そんな余裕をかましていていいのかな、ロベルト。君はつい先日、そこにいる枢木に負けているのだぞ? そして坊やにも新人戦順位では2位と3位で負けている。実質君が3人の中では1番弱いわけだ。そして今回の任務ランクは推定Cランク。だが謎が多すぎてな。ランクがはね上がる可能性も十分有り得るのだ。――さてさて、今回の任務では誰が足を引っ張ることやら」


 アンヴィエッタはどこまでも挑発的な態度で話し、最後は煙管を吹かしながら言い放った。


「くっ――!」


 ロベルトは相手が教授でも怒りの態度を隠すことが出来ず、激しくアンヴィエッタを睨み付けていた。


 だが握る拳からはぐうの音も出なかった。


 それは全て真実だったからだ。


 アンヴィエッタは煙管を吹かしながら横目にその拳に気付いていたが、そこにはふれず本題に戻った。


「今回の依頼についてだが、先ほども言ったように任務ランクを私たち学院側は推定Cランクだと考えている。だがこのランクが実際どこまで上がるかが分からないのが厄介なのだ。事前に周辺に出没する魔物を調べて推定ランクを出したのだが、目的地内部が不明なため正確なランクが出せていない。本来は君たち下級生に依頼する任務ではないのだが、今回は学院長のお墨付きということでな。君たちに任せることにした」


「なるほどな。で、その目的地ってどこなんだよ?」


 アルヴィスが今回の任務の核心にふれた。


 アンヴィエッタは煙管を吹かし、少しの間をおいてからゆっくりと応えた。


「――北西にあるカターニャという地にある古城だ」


「えっ、今カターニャっていいましたか? 馬車を使っても片道7日はかかる距離じゃないですか」


 飛鳥が場所を知っていたのか1番に反応し、その口から出た距離にアルヴィス達3人は驚きの表情をそれぞれ浮かべた。


 その距離が国境ギリギリに位置する地域までの距離と同じだったからだ。


 つまり、国の最果て。隣国に攻められても不思議じゃない場所ということだ。


 幸い今は北西方面の隣国と戦争を行っているという話は聞いたことがないので、任務事態には影響はないだろうが油断はできない。


 魔物も観測したことないものが現れるかもしれない。


 そういったこともすべて含めた調査依頼ということなのだろう。


「これだけの任務なら、それ相応の報酬もありますよね?」


「もちろんだ、ロベルト。単位は勿論だが学院側から金も出そう。そして学院で叶えることが出来る願いなら、可能な限り1つ聞く。これでどうだろうか?」


「俺の願いはすでに決まっている。引き受けましょう」


「私も興味はあります」


 ロベルトと飛鳥が依頼を引き受けたことを確認すると、アンヴィエッタは残るアルヴィスを見る。


「……坊やはどうするかね?」


「先生、俺が何でこの学院に来たか知ってて聞いてるのか? もちろん受けるに決まってるだろうが」


「よしっ、なら支度が済み次第すぐにて。半月は掛かる任務だ。準備を怠るなよ?」


「おう」「ああ」「はい」


 アルヴィス、ロベルト、飛鳥がそれぞれ同時に返事をするとソファーから勢いよく立ち上がる。


 それに一拍遅れてエリザベスも空気を読んでか立ち上がり、3人に続いて部屋をあとにした。

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