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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
紅い月と古城の少女編
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第47話 実験対象

「――ん……っ……ふわぁー……」


 アルヴィスは目を覚ますと、瞼を擦りながら大きな欠伸を掻いた。


 むくりと上半身を起こし、布団をどかすと辺りを見回すように首を振る。


「ここは……どこだ……?」


 覚えの無い風景に一瞬きょとんとするが、ベッドから立ち上がり仕切り代わりの白カーテンを開ける。


 すると眼前には大きな窓が外の景色を映し出していた。


 窓は開いていないが、そよ風が気持ち良さそうな晴れた良い天気だ。


 アルヴィスは窓を開放し身を乗り出すように外を眺めてみる。


 下を見ると、地上からかなりの位置にこの部屋があることがわかった。


 ビルにすると15階といったところだろうか。


 頭を上げ今度は周りを眺めると、4寮や5寮の棟がギリギリ見える。


 寮が見えたことにより、アルヴィスはこの部屋が講堂や教務室などがある講義棟であることに気が付いた。


「ってことは――」


 アルヴィスは後ろを振り向き部屋全体を見た。


(やっぱりここは病室か……)


 ベッドや仕切りの白カーテン。薄々気付いてはいたが、アルヴィスはこの部屋が病室で、そして自分がその患者だという現状を把握した。


 部屋には仕切りの白カーテンが4ヵ所あることから、ベッドも4つだということが見て取れる。


 仕切りはアルヴィスが使用していた場所以外は3つ全てが開いてある状態だ。


 つまりこの部屋にはアルヴィス以外の利用者はいない。


 病室には先生も席を外しているのか不在な為、完全にこの部屋にはアルヴィスしかいないということになる。


(他のやつらはもう復帰してるのか?)


 アルヴィスは自分と同じ新人戦代表者の姿が見えないので、一体自分はどれだけの間ここに居たのかが気になりだした。


 病室には壁掛け時計はあるが日付も表示されるタイプではなく、カレンダーもないので、とりあえず部屋から移動してみることにした。


 その前に、患者用の服からハンガーで壁に掛けられていた制服へと着替える。


 部屋に他には人がいないので、仕切りのカーテンを再度閉めることはしなかった。


 自室以外で堂々と下着姿になることに少々の後ろめたさは感じたものの、大きな窓もあってかそれと同じくらいの開放感も感じていた。


 制服は新人戦の時に着ていたものでボロボロだったが、後で自室の新品のものに着替えればいいかと、アルヴィスは穴と砂ぼこりだらけの制服を着て病室の扉を開けた。


 すると、そこは医務室へと繋がっていた。


 どうやら医務室の先に数部屋の病室があるらしく、そのうちの一室にアルヴィスが貸切状態で寝ていたらしい。


 医務室にも先生らしき姿はなく、だが机には湯気が昇り立つコーヒーカップが置かれていた。


 淹れたてのコーヒーからアルヴィスは先生がすぐに戻ってくるだろうと思い、勝手に医務室から去ることはせずに適当な椅子に腰を掛けた。


 室内を見回すと、ふとあるものに眼が止まる。


 アルヴィスは眼をジッと凝らしそのあるもの――壁掛け時計を見ると病室にはなかった日付を確かめだした。


 こちらはデジタルタイプのもので、時間と日付が数字で表示されているのだ。


「――えーと……5月……22日……。そうか、今は22日か。って、22日ッ!? つーことは7日も俺は寝てたってのか!?」


 アルヴィスは驚愕な顔で下ろしたばかりの腰を上げた。


 その時、席を外していた先生が扉を開け中へ入ってきた。


「あら、ようやく目覚めたのね」


 黒髪を後ろで1つに束ね白衣を纏った若い女性の姿は、見るからに医師そのものだった。


「先生、なんで俺はこんなに寝てたんだ!? 他のやつはどうした!?」


「ちょっと落ち着きなさい。とりあえずそこに座って」


 タイミングよく女医が戻ってきたことで、アルヴィスの驚きが彼女にぶつけられた。


 そんなアルヴィスを彼女は大人の女性らしく落ち着いた態度で制し、椅子に座るように促す。


 アルヴィスは言われるがままに席に座るが、まだ驚きは消えていないらしくどこかそわそわとした様子だ。


 そんなアルヴィスを横目に女医は机に置いていたコーヒーを一口飲み、それから置いてある聴診器を耳に着けて近づいてくる。


「制服に着替えたのね。悪いけどシャツのボタンを外してもらえるかしら?」


「お、おう」


 アルヴィスが上から順にボタンを半分ほど外すと、「もういいわ」と止められ女医に聴診器を当てられる。


 だがそれもすぐに終わり、女医は耳から聴診器を外すと首に掛けて机の椅子に腰を降ろした。


「で、あなたの先ほどの質問の答えだけど」


「あ、そうそう! 教えてくれよ、先生」


 ボタンを掛け直していたアルヴィスは、彼女の言葉で自分がした質問を思い出したかのような反応で返した。


 彼女はコーヒーをまた少し飲んでから話を続けた。


「今、あなたの心音を聞かせてもらったわけだけれど、やっぱり異常はないのよね。ここに運ばれてきたときもそう。君の身体には外傷は一切なかったわ。なのにこんなに長い間眠っていた。つまり、あなたの病名は魔力欠乏症。いえ、別に病気ってほどじゃないわね。単に7日かけて魔力を回復していただけなのだから」


「欠乏……症? じゃあなにか!? 俺は魔力切れで1週間もぶっ倒れてたってのか!?」


「とくに珍しいってほどのことでもないわ。低ランク魔法師によくあることよ。自分の魔力量や魔法発動にどれくらいの魔力を消費するかを把握出来ていない子達ってことね。――でも、あなたは少し珍しいケースかも。私もさすがにこれだけの間眠りっぱなしの子は初めて見たわ。普通、半日から1日ってところなのよね」


(低ランクのこの子がAランク魔法師でもせいぜい3日、Sランクでも7日間もかかるかどうか。一体どれだけの魔力量だというのかしら)


 女医はアルヴィスのことを新たな実験体を見付けたような目付きで観察する。


 このまま見ていると舌舐めずりまでしてしまいそうなその目付きにアルヴィスは気付いていないが、彼女は実は医師と同時に1人の研究者なのだ。衝動にかられるのも無理もない。


 だが女医は欲求を抑え、今は1人の学院勤務の先生として行動することにした。


「そういえば2つ目の質問だけれど、もうあなた以外はとっくに完治して講義に出ているわ。あなたと違って魔力ではなく怪我が原因だから、それは私の魔法でいくらでも治せるのよね。――あなたも早く戻りなさい。と、言いたいけれど、今日はもうすべて終わってるわね。ならもう自室へ戻っていいわよ。すっかり元気の様だし」


「そうか。世話になったな、先生。また何かあったら頼むわ」


「ええ。――あ、そうそう。昨日までの6日間、毎日放課後になると君の様子を見に来てた子がいたわよ? えーと、4年のスカーレットさんだったかしら。顔、見せてあげたら? きっと喜ぶわよ」


「マジか。なら急いでエリザのとこにいかないとだな」


 アルヴィスは駆け足で医務室を出ていった。


「せっかちな子ね。おかげで彼女の他にももう1人、お見舞いに来ていた子がいたことを伝えられなかったわ。そういえば彼女、なんていったかしら。黒髪の珍しい格好をした……どっちみち名前を教えて上げられなかったし、まぁいいかしら」


 女医はアルヴィスに伝えられなかった生徒の名前を思い出すことが出来ず、諦めてコーヒーを飲みながら書類仕事に戻ることにした。


 医務室を出たアルヴィスは、講義棟からも出て真っ直ぐに1寮へと向かい出す。


 だがアルヴィスは走りながらあることに気が付いた。


 時刻的にまだ最終講義が終わってすぐのこの時間。


 寮へ戻ったところでエリザに会えるのか? と。


 それでもアルヴィスは他に行き先が思い付かないので、とりあえずこのまま寮へと戻り、玄関が見えるロビーのソファーで待つことにした。


 程なくして1寮へと辿り着いたアルヴィスは、額の汗を拭いながらロビーへと向かう。


 するとそこには、見覚えのある顔があった。


 アルヴィスはその彼のもとへと近づくと声を掛けた。


「よう。珍しいな、お前がこんなところで」


「ちっ、貴様か」


「相変わらず口が悪いな。手を組んだ仲じゃねえかよ、ロベルト」


 アルヴィスの挨拶に舌打ちで返したロベルトは、1人用ソファーに座り読書をしていたところだった。


「たかが1度共闘したくらいで馴れ馴れしくするな。言っただろう? 貴様を倒すのは俺だと。つまり、俺と貴様は敵ということだ」


「敵ねぇ。好敵手と書いてライバルとも言うぜ?」


 ロベルトの敵意を込めた言葉に、アルヴィスはニヤニヤとしながら返す。


 その返答にロベルトはまた舌打ちをするが、言動とは裏腹に表情は悪いものではなかった。


 アルヴィスも何となくそのロベルトの雰囲気に気付いているのか、隣のソファーに腰を下ろしエリザベスを待つことにした。


「……おい、なぜそこに座る」


 ロベルトは本に顔を向けたまま話す。


 たしかにこの広いロビーにはいくつものソファーがあり、その空間には現在アルヴィスとロベルトの2人しかいない。


 つまり、普通に考えればわざわざこの広い場所で隣の席同士になる必要性がないのだ。


 そういった意味を込めたロベルトの苦情ともいえる質問に、けれどアルヴィスは返答することはなかった。


 代わりに背凭れにより深く凭れ掛かり、脚を組むことでロベルトにこの席から動く気が無いことを示す。


 ロベルトは横目にそれを確認すると、また小さく舌打ちと嘆息を吐き読書に戻った。

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