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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
新人戦編 ―後編―
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第43話 思考を変えて

 2人が駆け出した姿を見た飛鳥は、2体の鬼に命令を下す。


「あの者等を成敗して下さいませ――〈急急如律令〉」


 すると鬼達は鳴き声のような呻き声のような声を発し、それぞれ動き出した。


 緑色の肌を持つ鬼――風神は、風袋をふいごのように上下に動かすと、突風を巻き起こしロベルトに襲いかかった。


 白色の肌を持つ鬼――雷神は、太鼓を叩きながら雷鳴を轟かせ、アルヴィスに落雷を落とす。


 アルヴィスは一瞬の弱い光、階段型前駆ステップトリーダを見た瞬間その場から全力で避難した。


 魔力と魔法でかなりの身体能力が向上していた今の状態だからこそ見えたのだ。


 その直後、帰還雷撃リターンストロークが発生した。


 それは凄まじい轟音を響かせ落雷となる。


 刹那的前までアルヴィスがいた場所は、地面が抉れ黒く焦げていた。


「おいおい、本当の雷と一緒じゃねェかよ。てことは――」


 アルヴィスは嫌な予感がし、狙いが絞られないようにジグザクと駆けながら雷神との距離を取った。


 すると先の落雷から僅な期間をおいたあと、矢型前駆ダートリーダーが発生しさらに先程よりも速い落雷が襲いくる。


 そして第3撃目も僅な期間後に轟き落ちる。


「3連撃って…… ほんとに落雷と一緒だな……。自然現象を操る生物って、あれは神か何かかよ」


 アルヴィスは相対する謎の生物に冷や汗を流し、いつもの余裕の笑みが消えた。


 しかし雷神は、そんなアルヴィスのことなど御構いなしに太鼓を叩き続ける。


 どんどん増していく太鼓を叩く回数が、落雷の頻度を加速していく。


 アルヴィスはかわし、避けることに精一杯だ。


 そのことだけにただひたすら駆け、魔力を消費していく。


 ロベルトと風神の様子を横目で窺うが、向こうもこちらと同じで援護の余裕は一切なさそうだ。


 ロベルトの表情もかなり厳しいものへと変わっていた。


 アルヴィスは駆けながら考える。


 どうしたらあの落雷を止められるのかを。


 そしてあることを思い付いた。


 使役者である飛鳥自身の近くでは、雷神の落雷の威力が弱まるのではないだろうか、と。


 アルヴィスは超高速で超超高速の落雷を避けつつ、遠くで操っている飛鳥へ少しずつ近づいていく。


 すると、僅かだが落雷の頻度が下がったのだ。


 さすがに落雷が1度でも命中すれば、使役者の飛鳥自身もアウトだ。


 それを避けるため、命中制度を上げるために乱発を止めたようだ。


 いくらSランク相当の化け物を操ろうが、本体はDランクの女の子なのだ。


 アルヴィスは考えを変え、雷神を倒すことから本体である飛鳥自身を狙うことにした。


 だが飛鳥には呪符がある。


 アルヴィスの脳裏に先程のことが過る。


 渾身の右ストレートを弾き返されたことを。


 魔力を纏った拳では通用しない。


 なら、魔法を纏った拳ならどうだろうか。


「1つ試してみるか」


 何か策を思い付いたらしいアルヴィスの表情が再び、悪戯を企む少年のそれへと戻っていた。


 アルヴィスは右腕に魔力を集中し始めた。


 それは段々と煙化していき、魔力煙となる。


 色も変わり始め、紫色となったそれは、アルヴィスの右腕を完全に包み隠した。


「行くか――〈時の迷宮〉!」


 アルヴィスは魔法を発動させ、それを纏わせた右腕を前方へ突きだし拳を握ると、さらに加速して駆けた。


 拳から肩まで一直線に伸ばした腕は、衝突した際に衝撃を逃がすことなく相手に伝えるだろう。


 だがこれは自身にも相当な負荷が掛かる。


 特訓もなしにいきなりやっていいものではないが、アルヴィスには特別な再生能力がある。その辺のことは御構いなしだ。


 そして、超高速状態で突進してくるアルヴィスに、飛鳥は片手に持つ呪符をすべて眼の前に放り、唱えた。


「防ぎなさい――〈急急如律令〉」


 すべての呪符が光を放つと、1枚1枚がまるで小さな魔法障壁のように展開した。


 それが上手く重なり、隙間の無い広範囲の魔法障壁となる。


「オラァァッ!」


 瞬間、アルヴィスが激突した。


 すると触れた呪符にアルヴィスの魔法効果が働いたのか、数瞬で障壁が砕け消え、呪符も灰のように空気中に舞い散った。


「ちっ」


 アルヴィスは落雷が襲いくる前にその場から離れ、またある程度の距離感を保ちながら止まることなく駆け回る。


(あれじゃあまだダメだ。1秒でも掛かってちゃ使えねェ。もっと早く、一瞬で消えなければ俺の拳自体が届かねェ)


 アルヴィスはさらに思考を巡らせる。


 今までのことを。


 エリザベスとの訓練のことを。


 今までの自分の経験を。


(あ……っ! あるじゃねェか! 進めるより速い方法が!)


 アルヴィスの右腕に纏う魔力煙の質が少し変わり始める。


 今までは普通の煙と同じで立ち上るように流動していたそれが、今度はベクトルを変えて内側に吸い込まれるような動きに変わった。


 それはまるで回転方向が変わったようだった。


 さらに魔力煙の色にも変化が起きていた。


 今までの深紫色から一転、白色となっていた。


 この色にはアルヴィス自身も覚えがあった。ので、これを見た瞬間、アルヴィスは魔法の成功を確信した。


 覚え、とは以前にエリザベスを救った再生魔法のことだ。


 再生魔法――正確には、時を巻き戻した時間操作魔法。


 「速める」のではなく「戻す」のなら操作する時間そのものが短くて済むのだ。


 これなら数瞬ではなく、触れた瞬間に消滅させることが可能ではないかと考えたのだ。


「さーて、リトライといきますか――ねっ!」


 準備を終えたアルヴィスは、落雷のタイミングに合わせて方向転換し、再び速度を上げた。


「行くぜ、チビッ子! ――〈時の迷宮・リバース〉」

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