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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
新人戦編 ―後編―
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第42話 コンビ誕生

 そして、その2名の男子生徒はお互いから標的を変え、ロベルトを倒そうと駆け出した。


 どうやら一時休戦し、強敵であるロベルトを先に排除しておきたいのだろう。


 男子生徒達はそれぞれ魔力を手に宿し、何らかの魔法発動の準備を行いながら駆けている。


「喰らえ、ロベルト!」「おらぁぁッ!」


 1人は魔力を球状にしたものを撃ちだし、もう1人は魔力を手に纏ったまま、鋭く伸ばした刃状になった魔力の塊を手刀で繰り出した。


 それに対してロベルトは表情一つ変えることなく、まずは球状の魔力玉を斬り弾き、続く手刀を剣でいなし、それとは逆の手に持つ剣を離すと、その手でよろける男子生徒の背を掴みよろける力の方向を変えるように、ロベルトが軸となって円を描きながら男子生徒を動かすと、そのまま手を離し解放する。


 すると、彼の手刀は魔力玉を放った生徒に激突するように向かっていき切り裂いてしまった。


「――雑魚が」


 転んでいる2人にロベルトは止めのように斬りかかると、これで終わったかのように反転し彼等に背を向けた。


 彼等はEランクの魔法師で、ロベルトと比べると格下ではあるがあまりにも呆気なく戦闘が終わってしまったので、これを見ていたアルヴィスも少々驚いていた。


(あいつも相当に力をつけてやがるな。しかも、まだあれを見せてねぇ)


 アルヴィスはロベルトのパワーアップに若干の恐れを感じながらも、同時にこれから戦えると思うと楽しみでワクワクとしてきていた。


 だがその前に、アルヴィスにはやることがあった。


 そう、巫女装束姿の女生徒を倒さなければ、アルヴィスの望むロベルトとの1対1の戦闘が出来ない。


 アルヴィスは視線をロベルトから女生徒へと向けると、無駄な体力消費を避けるためゆっくりと歩き出した。


 すると女生徒もアルヴィスが自身へと向かってきていることに気付いたのか、こちらへ向き直っていた。


 だが距離を詰めてくる様子はない。


 遠距離魔法が得意なのだろうか。


 アルヴィスはその事に警戒しつつも、徐々に身体に纏う魔力量を高めていく。


 2人の距離が30メートルにまで近づくと、ここでアルヴィスが駆け出した。


 得意の近距離戦に持ち込むつもりなのだ。


 アルヴィスの急接近に反応した女生徒は、装束の両袖から呪符のようなものを1枚ずつ取りだし両手に持つと、手を交差するように待ち構えた。


 その謎の道具にアルヴィスの危険信号が働いたのか、駆ける方向を急変更し、距離を10メートルまで詰めたところで横移動に変わった。


 そこに――


「うおっ!?」


 突如、駆ける進行方向に1本の剣が飛び刺さってきた。


 地面に刺さっているのでアルヴィスを直接狙ったものでは無さそうだが、もしも速度を上げていたら脳天に直撃していただろう。


「危ねェぞ! ロベルト!」


 アルヴィスは飛来した剣の主、ロベルトに怒鳴り叫んだ。


「クズが。俺は貴様を助けてやったんだぞ?」


「助けただぁ? どういうことだ?」


 ゆっくり歩き近づき、アルヴィスの眼前に刺さっている剣を引き抜いたロベルトが向き直り、話を続けた。


「気付いていないのか? あの女、開始から今まで、一歩もあの場所から動いていない」


「ッ!?」


 アルヴィスは驚き、慌てて女生徒の足元を注視した。


「……おいおい、マジかよ」


 彼女の足元のみならず、その周辺に新しい足跡は一切なかったのだ。


 いくら遠距離が得意だとしても一歩も動かず敵を倒すのは至難の技だ。


 Aランク魔術師、あのエリザベスですらアルヴィスとの模擬戦時は回避行動を取っているのだ。


「たしかにそれには驚いたが、けどよ、どうしてお前がそれを教えるんだよ。俺たちは敵だぜ?」


「忘れたのか? 貴様を倒すのはこの俺だ」


「……は? え、ちょっと待て。お前、そんなことの為にわざわざ助けたのか?」


(倒すために助けるって、こいつ――)


「あっはっはっはっ」


 腹を抱えて笑うアルヴィス。


「何がおかしい!」


「いや、わりィ。お前それ、矛盾し過ぎだろ。バカだぜお前」


 眼に溜まった涙を拭いながら応える。


「貴様――」


「――で」


「っ!?」


「で、どうすればいい? アイツを倒すんだろ?」


 アルヴィスは悪戯を企む少年のような笑みを浮かべる。


「……ふっ。――足手まといになるなよ? ついてこい」


「誰が足手まといだって? お前こそ、俺に間違っても斬りかかるんじゃねェぞ!」


「それは保証できん」


「おいっ!」


 女生徒目掛けて駆け出したロベルトに追随するように駆けるアルヴィス。


 突然の2人の共闘に、場内は驚きの声で溢れた。


 何より、何時も独りで誰とも話すことすらないロベルトが、これだけ長く人と会話している姿を、そしてその相手が〈最下位〉のアルヴィスだという事実を眼にしていた1年生観戦者達の驚きの声が一際目立った。


 急造タッグは女生徒に対して距離を詰めると、ロベルトが両手に持つ剣を投擲し、アルヴィスは剣から数歩分離れた距離でさらに女生徒との距離を詰める。


 2本の剣が縦回転しながら襲いかかる。


「爆ぜなさい――〈急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう〉」


 少女は片手に持つ呪符に命令するかのように何かを唱えると、剣の間に目掛けて放り投げた。


 すると呪符が急に赤く光りだし、数瞬後に爆発した。


 アルヴィスの視界が爆煙に包まれるが、それは相手も同じこと。むしろ接近したいアルヴィスには好都合だった。


 爆煙の中から現れた女生徒の姿に、アルヴィスは渾身の右ストレートを打ち込む。


「弾きなさい――〈急急如律令〉」


 顔面目掛けて放たれた右拳は、彼女の片手に残る呪符ごしの掌に直撃する。


 刹那、呪符が輝きアルヴィスの拳の衝撃を真っ向から受け弾くように押し返してきた。


「なッ!? うぉぉおおぉぉっ!」


「ハッ!」


「――!? うわぁッ!?」


 放つ拳に更に力を込めたが、彼女もまた力を込めるとアルヴィスは弾き飛ばされてしまった。


「何をやっている、このクズが。使えんやつだ」


 飛ばされたアルヴィスのもとまで歩き近寄ると、物理的にも見下しながら罵倒を浴びせるロベルト。


「お前の剣も掠りもしなかっただろうが! その点俺はあいつに触れてるぞ! この剣バカ!」


 制服の土埃を払いながら起き上がりつつ、アルヴィスも負けじと罵倒で返す。


「貴様から斬り刻んでやってもいいんだぞ!」


「俺もお前からぶっとばしてやろうか!?」


 2人は近距離で睨み合いながら喧嘩を始めてしまった。


 その姿が年相応で、2人の担当教授であるアンヴィエッタは、観戦席から内心どこか微笑ましく思っていた。


(あいつら、いつの間にあんな仲良くなったんだ?)


 アンヴィエッタは眼鏡を直しつつ観戦を再開した。


「貴方達、もう宜しいのですか? 宜しいのでしたら、私から参りますよ」


「うるさい! 貴様は引っ込んでいろ! 女!」


「今こいつを片付けるところだ! あんたは黙ってそこで見てろ!」


 2人の喧嘩に割り込むように女生徒が話しかけると、当のロベルトとアルヴィスがそれぞれ彼女に叫び浴びせる。


 すると、これには女生徒も怒ったのかさらに言葉を続けた。


「先程から私のことを女やあんたと好きに呼んでいただいてますが、私はそのように呼ばれるのが1番嫌いなのです。私には、ちゃんと枢木くるるぎ飛鳥あすかという名前があります」


 枢木飛鳥と名乗る彼女は、頬を赤く染めながら膨らませていた。


「貴様の名などどうだっていい! 来るならこい、斬り刻んでやる」


「おいっ、こっちが先だろ!?」


 尚も割り込んできた飛鳥に、ロベルトは怒りの矛先を変えた。


 アルヴィスはそのことに驚き、怒りが削がれてしまう。


「で、結局どうするんだよ? さっきのような小手先の技じゃあ通用しないぜ?」


 だがすぐに気を取り直したアルヴィスは、この後の展開をロベルトと相談する。


「ならば全力でいくのみだ」


「……実は、お前、頭脳派のような見た目のくせして何も考えていないだろ?」


「やはり貴様はクソだな。まだあいつは全然魔力を消費していない。つまり、力をかなり温存している状態だ。今のうちに叩く方がいいに決まっているだろう」


「それってよ、逆にあいつは奥の手を隠してるってことだろ? こっちが魔力切れになんかなったら最悪じゃねェか。やっぱりお前はバカだ!」


「殺す!」


「上等だコラァッ!」


 せっかく1度は治まった喧嘩に再び火が着いてしまう。


 やはり急造タッグは所詮急造のようだった。


 そんな2人を見ていた飛鳥は、とうとう本気で怒ったのか両袖から10枚の呪符を取りだした。


「私は、無視されることも嫌いですよ?」


 彼女は呪符を片手にそれぞれ5枚ずつ持ちながら、両手を同時に逆回転させて等間隔で1枚ずつ離していく。


 彼女の手が通った空間は魔力で――彼女の場合、呪力とでも言ったほうがよいのだろうが――軌跡が残り、呪符同士を繋ぐ円を描いた。


 すると呪符は1枚1枚が別々な色、赤・青・黄・緑・紫の輝きを放ちながら浮かぶ。


 今度は呪符と呪符同士が輝く線で繋がり始め、それは五芒星の形となった。


 その動作の間も飛鳥は終始何かをぶつぶつと唱えている。


「青龍、白虎、朱雀、玄武、空陳、南寿、北斗、三体、玉女――我、名を枢木飛鳥がかしこみかしこみ申す、御身の姿を現したまへ」


 ――パンッ!


 飛鳥が勢いよく両手を合わせ叩くと、それに呼応すように2つの五芒星がより一層強い輝きを放った。


「――風神! 雷神!」


 飛鳥が叫ぶと同時、五芒星が弾けフィールド一帯を輝きで満たした。


 途端、闘技場内は激しい風と雷鳴が轟く。


 輝きが治まると、そこには雲に乗り宙に浮く2体の鬼の姿が。


 1体は、緑色の肌に頭には1本の角が。そして、背負うように風袋ふうたいを持っている。


 1体は、白色の肌に頭には2本の角が。そして、背中には10個の太鼓が円を描くような棒状のようなもので繋がって浮いていた。


 どちらも筋骨隆々と逞しく、3メートルを越す体躯をしていた。


「御覚悟!」


 飛鳥はさらに両手にいくつもの呪符を持ちながら叫んだ。


「おいおいおいおいっ! なんだよあれっ!? なぁっ!? おいっ、ロベルト!」


「俺に聞くなクズが! 俺もあんなのは初めて見たんだ! 恐らくあれは召喚魔法の一種だが、1体1体が化け物だ。あんなものをあの女が使役できるとは思わないが」


 陽は雲で陰り、場内は暗く。同時に、常に上空で雷鳴が激しく響いていた。


 アルヴィスは突然の辺りの変化と、見たこともない生物に驚きが隠せず隣にいるロベルトについつい質問してしまっていた。


 だが、そのロベルトも知らなかったようだ。


 それどころか、ロベルトですらこの事態には驚きを隠せていなかった。


 額からは冷や汗が流れ頬を伝い、口が開いたまま閉じることが出来ないようだ。


「とにかく、あれがあの女の奥の手だというのならば、あれさえどうにかすれば後は簡単だ。行くぞクズ」


「随分と簡単に言ってくれるじゃんよ、単純バカ」


 ロベルトは瞬時に10本の剣を転移召喚すると、指から魔糸を伸ばしそれぞれ剣を掴んだ。


 アルヴィスは多重加速魔法を施し、超加速状態になる。


 どちらも魔力は全開だ。


「俺があの緑の方の相手をする。貴様は白だ、わかったな」


「あいよ」


 ロベルトが指示を出すとアルヴィスがそれに応え、同時に駆け出し叫んだ。


「「いくぞっ!」」

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