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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
新人戦編 ―後編―
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第34話 一筋の光

 呆気に取られたアルヴィスだったが、ハッと今思い出したかのようにフレデリック達を探した。


 彼らの姿はすぐに見つかった。


 死んだと思っていたアルヴィスの謎の復活、マルコとの死闘に、彼らが腰を抜かしたように地面にへたり込んでいたからだ。フレデリックにいたっては顎が外れたように大口を開いている。


 どうりで戦闘中になにもしてこないわけだ、とアルヴィスは一人納得しそんな彼らのもとへ行く。


「おいっ、フレデリック」


「――な、なふだ、くひょガヒっ!?」


 フレデリックの眼前まで近づきアルヴィスが声を掛けると、彼は顎のせいか上手く話せずに応えた。


「お前のことはまだ殺さねェ。街を護るやつが居なくなっちまうからな……。だが覚えとけ! お前はゼッテェこの俺が殺す!」


 そう言い叫ぶと、アルヴィスは今にも漏らしてしまいそうな顔のフレデリックを放置し、屋敷入り口前で倒れているエリザベスのもとへと急いで駆け寄った。


 服越しにでもわかる全身の無数の傷、喉には穴まで空いているその姿は、とても天真爛漫な彼女のものとは思えなかった。


 アルヴィスはその場で膝をつき、エリザベスを抱き寄せる。そして彼女の手を取ると、自分の額に押し当てた。


「ごめん……ごめんな、エリザ……。俺は君を、守れなかった……」


 アルヴィスは静かに涙した。


 頬をゆっくりと伝うその雫は、ゆっくりと顎から滴り、エリザベスの頬に降り落ちる。


 それはまるで、エリザベスも泣いているようにも見えた。


 しばらくそうしていると、アルヴィスはゆっくりと大事な宝物に触れるような優しい手つきでエリザベスを持ち上げた。


 身体を反転し、フレデリック邸から出ていこうとする。


「ま、待てっ。逃がさんぞ糞ガキ! ――ひっ!?」


 開け放たれたままの門の前で、アルヴィスは立ち上がったフレデリックに呼び止められるが、涙したままひと睨みする。


 すると、Aランク相当の実力者であるマルコを退かせたアルヴィスにフレデリックは畏怖すら感じ、言葉を掛ける以上の行動が出来なかった。


 怯んでいる館の主にあいさつすることなく出ていくアルヴィスは、暗い街並みを優しく照らす街灯が連なる大通りをただまっすぐに歩いた。


 ただまっすぐに、一直線に、一心に、アルヴィスは歩く。


 この手に抱えるものに、フレデリックのようなクソ野郎が吸っている空気を触れさせたくなかった。


 アルヴィスはフレデリック邸が見えなくなる距離まで歩くと、街の中心地である噴水広場に辿り着いた。


 噴水を囲むように等間隔に設置されている横長の椅子に、エリザベスをそっと寝かせる。


 アルヴィスも膝をつき彼女との距離を縮めると、その手をそっと握りしめ、左手で髪をすく様に頭を撫で始めた。


「エリザ……なんで1人で来たんだよ……。俺なんかのために……。俺は君に、どうやって返せばいいんだよ……」


 ――いつもニコニコと明るく笑顔を振り撒く君の姿に、何度元気を分けてもらっただろうか。


 ――無償の君の優しさに、何度甘えてしまっただろうか。


 ――家族のいない俺の心を、君は何度救ってくれただろうか。


 孤児院を出て初めて言葉を交わし、孤児だと打ち明けても表情1つ変えなかった彼女。――初めての人だった。


 外の世界で初めて自分を受け入れてくれた大切な人だ。


 そんな彼女の手を頬に当て、眼を瞑る。


 ――すると、あることに気が付く。


(――えっ……!? 脈が……!)


 アルヴィスは慌ててエリザベスの手を、手首をちゃんと握り直した。


「脈がある……っ」


 握る手を置くと、彼女の制服のボタンを外し上着をはだけさせ、胸元に顔を近づけゆっくりと耳を当てた。


 ――トクン……トクン……。と、今にも消えそうで非常に頼り無いが、確かに鼓動の音をアルヴィスは感じた。


「エリザ……ッ!!」


 アルヴィスはその事実に驚き眼を見開くと、バッと顔を上げた。


(まだ生きてる……っ! でも、どうすれば……)


 アルヴィスは思考回路に全神経を集中させ、エリザベスを助ける方法を考える。


(この街なんかじゃこれほどの重症を治せる医者はいねェ……。アレスティアもいなかったはずだ。そうだ、シスター! シスターなら治せるかもしれない! ……ダメだ、遠すぎる、時間が足りねェ……)


 アルヴィスの加速魔法で運ぼうとしても、絶対安静のこの状態では無理だ。ギルドに治癒魔法が使える魔法師がいるかもしれない可能性にかけるにしても、時間が時間だ。もうギルドには人はいないだろう。


 アルヴィスは過去にないほど思考を巡らせる。


 そして、1つの結論に辿り着いた。


「誰かじゃねェ……俺がやらなきゃいけないだろがッ!」

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