第142話 一瞬の戦果
アルヴィスが次に討つ敵将を探している頃、ローランが指揮する戦場でも少し変化が起きていた。
天空から曇天を突き破って百にも近い数の雷が降り注いでいたのだ。降り注ぎもとの天空には空を覆いつくすほどの超特大な魔法陣が輝いている。
落雷はすべて敵軍の陣地を穿ちながら命中していた。その場は数百数千の帝国兵が瀕死もしくは即死状態で山の様に重なり転がっていた。
アルヴィスがその様子を目を凝らして見ると、そこには見知らぬ姿の者がローラン軍側にいた。だがその距離は少し開いている。
その見知らぬ者は、全身を光り輝かせ低空を浮遊していた。そして片手を天空に向けていることから、恐らく落雷を発生させている魔法を発動している術者のはずだ。
「あれは……まさかローランか?」
アルヴィスは情報としてローランが雷を操る魔導師ということを知っていた。そのことから鬼神のような姿で浮いている者をローランだと判断した。
「あれが噂に聞く〈雷神〉ってやつか? 二つ名の由来にもなってるっていう」
アルヴィスは七霊剣と自身との位置を入れ替える方法での瞬間移動で中空を移動中、横目で観察していた。同時に、アルヴィスは反対側で交戦中の第一皇子と第二皇子の戦場も見遣る。そこでも先程から大きな爆発音が何度も聞こえ届いていたのだ。アルヴィスはその原因がアリスによるものだろうと考えていた。アリスが得意とする氷と炎の魔法、そしてそれらを巻き散らす嵐の様な風も見えていたからだ。
「あっちもあっちで盛り上がってるな」
アルヴィスは小さく笑うと、視線を戻しターゲット探しを続ける。すると遠方で砂煙が上がっているのを発見した。それは皇子達が戦っている戦場のさらに奥だ。どうやら山へと向かっているらしい。
怪しさを感じたアルヴィスは、敵兵が少ないスペースへと着地すると〈次元の穴〉で砂煙付近まで移動した。すると、視界に映ったのは戦場から退却中の第二皇子たちの姿だった。周りには100騎ほどの兵を連れている。その中心に大きな旗を掲げた数人の兵がおり、そこに皇子が護られるようにして馬で駆けているのだ。
「敵の背中に奇襲ってのはどうも罪悪感があるが……しょうがねェ、今はそんなことを言ってられる余裕なんてねぇしな」
アルヴィスは自身に加速魔法をかけると、バレない程度に一定間隔を保ちつつ背を追いかける。七霊剣を分離させ投げ飛ばすと、いっきにケリを付けるために残りの魔力の半分程を込めて魔法を発動させた。
「〈空間歪曲〉!」
手元以外の6本の剣が皇子達を囲み、1本1本から巨大な魔法陣が展開され6本の剣の中心に向かって収束していく。
このことに、突然の出来事で皇子達は何事かと驚きを隠せずにいた。
咄嗟に魔法障壁を展開しようにも隊のはじから兵や馬が圧し寄せられてくるので皇子はまともに腕を広げることすら出来ずにいた。そしてアルヴィスはそんな第二皇子たち100騎兵に止めといわんばかりの畳み掛けとして、手元の7本目の剣を皇子達の真上へと投げる。
「ふんッ!」
7本目からも巨大な魔法陣が展開され、皇子達の上から空間を歪ませながら圧していく。
第一皇子達との戦闘ですでに疲労がピークに達していた第二皇子達は、アルヴィスの奇襲になすすべなくただ悲鳴を上げて潰されていく。完全に圧し潰される間際、アルヴィスと第二皇子との視線が合い何かを呟いていたようだが、今はもうその内容を知るすべはない。
「…………」
アルヴィスは頭をガシガシと掻き毟りながら、皇子の最後の顔が脳裏に焼き付きどこかムシャクシャとした気持ちがこびりついていた。
真っ向勝負を好むアルヴィスにはやはり敵の背をつく奇襲は思うところがあるようだ。
アルヴィスは地面一か所に突き刺さっている剣の1本を手に取ると、念じて他の6本も集めて1本へと戻す。
七霊剣を肩に担ぐと、アルヴィスは主戦場へと戻るため歩きだした。