第136話 宝剣
「結局3日で休みが終わったな」
「カッカッ、まあ別によいではないか。儂は早く暴れたくてうずうずしておったから丁度よかったわい」
アンヴィエッタからの依頼を受けたアルヴィスは、サーヴァント達を連れて寮にある自室へと来ていた。
〈次元の穴〉を発動するところを見られないようにするためだ。
アルヴィスは都市ノクタル付近の地へ空間を繋げると、アリス達サーヴァントと一緒に穴を通り抜ける。
一瞬にして都市ノクタルを眼前にできる地へと移動すると、早速門へと向かい中へと入る。しばらくして軍事施設兼領主館へと辿り着くと、引き継ぎ隊の隊長のもとへと向かった。
扉をノックすること数回。すぐに返事があり、入室すると中には隊長のほかにも数人の兵がいた。何かの会議を行っていたようだ。
「レインズワース大尉、お早いお戻りですね」
「ああ、ちょっと用事が出来てな。それと今は少佐だ、宜しくな」
「失礼致しました、少佐!」
隊長は慌てて謝りながらアルヴィスの表情を窺っている。
どうやらアルヴィスの機嫌を確認しているみたいだ。
隊長の表情からそのことに気付いたアルヴィスは、別に気にする必要ないのに、と思いながら言葉を発する。
「気にしてないからそんなびくびくするなよ」
「い、いえ、そうは言われましても階級を間違えるなど斬られてもおかしくないことですから」
「そんなことで斬らねぇって。っとそんなことはどうでもいいんだよ。正式に俺がここの指揮権を持ったから、俺の指揮下になる隊が到着したら王都に帰っていいぜ。たぶん10日もしないうちに到着するはずだ」
「ハッ、かしこまりました!」
敬礼をしながら返してきた隊長に、アルヴィスは一言応えて部屋から出て行く。
「あっ、馬借りること言い忘れた……!」
「別にそれくらい問題ないじゃろ。余分に数くらいあるはずじゃ」
「あー……それもそうか」
アリスのセリフにアルヴィスは頭を掻きながら応えた。
そうして館横にある馬小屋へと向かうと、アルヴィス達は勝手に馬を好きに選びだし馬具の準備を始めた。
ちなみにシオンとクオンは一頭に2人で乗るらしく、手綱を握るのは妹のクオンのようだ。
「みんな準備はいいか?」
「いつでもよいぞ」
「私も大丈夫です、主殿」
アリスとエレナが返事をすると、それがきっかけのように他のメンバーも頷き応えた。
アルヴィスもそれに応えるように頷くと、「行くぞ!」と号令し馬を進め始めた。
アルヴィス達が都市ノクタルを出発してから4日、野営をしながら進み続けると遂に目的地であろう合戦場が視認できる位置にまで辿り着いていた。
「あれが目的地じゃな? カッカッ、随分と派手にやっておるのう」
アリスが嬉々とした表情で戦場全体を眺めていると、ある一点で視線が止まった。
「お前さんよ、どうやらあそこにローランとやらがいるようじゃぞ」
「もうわかったのか!?」
アルヴィスは驚きつつもアリスが指差す方へと顔を向けた。
アリスが指差していたのは、『商業都市アムネス』から離れた場で戦っている兵の塊だった。
その他にも別の場所でクリストフ軍の旗が見えていた。どうやらローラン隊とクリストフ軍は別々に戦っている様だ。
どちらも相手にしている数は同じくらいだろうか。大凡2万ずつだ。
だがアルヴィスは2人の戦場よりも気になっている場があった。
「なあアリス、あれってもしかして休戦してないよな……?」
「そのようじゃな」
アルヴィスが気になっていたのは、第一皇子と第二皇子の軍であろう兵達合計6万が戦っていたことだ。
「あの旗は間違いなく皇子たちのものです。主殿の考え通りだと思います」
「サンキューエレナ。つーことは、ローラン&クリストフ軍と第一皇子軍と第二皇子軍の3軍が潰し合ってるってことだよな」
「そうなりますね」
エレナが頷き応える。
「それでご主人様は、やっぱり長いからあなたでいいかしら。あなたはこれからどうする気なのかしら?」
「依頼はロベルト達を連れて帰るってだけだから、戦争に参加する必要はないんだよな」
クオンの問いにアルヴィスは顎に手を当て考えこんだ。
「お前さんよ、儂らが加勢して戦争を終わらせるって手もあるぞ?」
しばらくの間無言で考え込んでいたアルヴィスに、アリスが手段を提案してきた。
「都市の軍が参戦してない分少数とはいえ、それでも俺たちの相手は合計10万は超えるんだ。流石に無茶だろ」
「まったく、いい加減儂の力も信用してくれてよいものじゃと思うのじゃがの。儂が単独であの6万を相手してやる。小僧たちの援軍はお前さんたちで十分じゃろ」
「どうせ無茶するなって言ってもアリスはきかないもんな」
「カカッ、当たり前じゃ」
「わかった……。じゃあ俺はクリストフ軍へ向かうから、ルナとエレナとそれにシオンとクオン、お前たちはあっちのローラン軍の援軍に行ってくれ」
「わかりました」
「久々にいい運動が出来そうにゃ」
「面倒臭いけれど、仕方がないからやってあげるわよ」
「く、クオンちゃん! そんなこと言わないでがんばろ?」
アルヴィスの指示に各々応えると、4人は馬を走らせた。
「お前さんよ、ほれ、剣じゃ」
残っていたアリスが影から剣を取り出すと、アルヴィスに手渡してくる。
「サンキューな。って、これって七霊剣じゃねェーか!」
「カカッ、そろそろ慣らしていった方がよいじゃろ」
「にしてもいきなりだな」
「お前さんが言うたんじゃぞ? 儂に任せると」
「あー……そういえばそんなこと言ったっけか」
アルヴィスは頭を掻きながら去年の事を思い出していた。そしてあることに気が付いた。
「なんか前より軽くなってないか?」
「それはお前さんが無意識下で使ってる魔力で持てるほどに成長したということじゃろ」
「――」
アリスのセリフにアルヴィスは右手に握る剣を見つめた。そしてギュッと握る力を入れ直し何かを確認し終えたのか、視線をアリスへと戻す。
「今の俺がどこまで扱えるかわかんねェけど、とりあえずやってみるわ」
「うむ、暴れてこい」
「っしゃァ!」
アルヴィスは気合の掛け声と同時に馬を走らせると、万の軍勢が待つ戦場へと向かった。