第134話 昇級と休暇
「――ってことがあって、よくわかんねェけど俺が領主になれって言われてんだよ」
「そうですか。ですがそれは困りますねェ……」
都市ノクタル陥落までの話を終えたアルヴィスは、自身が新たな領主にならないといけない流れになっていることまでも伝えた。
報告を聞いたエドワードはご苦労とばかりに頷き、すると困ったように顎髭をしごきだした。悩み事や考え事があるときの癖なのだ。
「大尉は貴族じゃないので領主にすることは出来ないのです。功績として位を授けるにしても、孤児からいきなりの男爵へはありえません」
「別に俺もあの都市の領主になりたいわけじゃねェんだよ。俺は孤児院を護れればそれでいい」
「ではこうするのはどうでしょう。都市の軍事施設責任者としてノクタルを守護し、同時にそこを拠点として任務にあたってください」
「確かにそれなら問題はないのか……。けど守護しろって言ったって圧倒的人数不足だぜ? 俺たちは攻めには自信があるけど護りにはむいてねェ」
「では今回の功績としてただ今より少佐に昇級、ノクタルへ500の兵を向かわせます。あなたの部下として使うとよいでしょう」
「……わかった。人員は任せるけど出来るだけ優秀なのを頼むぜ」
「ふぉっふぉっ」
「……――」
(誤魔化した? まともなヤツを寄越すつもりはねェな?)
アルヴィスは表情を崩さずにただ笑っただけのエドワードを怪しく思った。大都市の軍事力がたった500人の兵からなるものなど普通に考えればありえないからだ。
領主が私兵として保有する数なら500人は多いが、けれど今回は軍事施設へ配属される人数だ。どちらが人員を必要とするのかは歴然だろう。それが500人という数では、軍が攻めてこようものなら一瞬で敗戦してしまう。
「少佐には一週間の休暇後、兵を率いて都市ノクタルへと向かってもらいます。そこで少佐には本格的な帝国侵攻への拠点作りをしてもらいたい」
「……っつーことは」
「絶対に奪われないでください。今回の3軍同時侵攻で4都市を我が国のものとしました。ですが一か所でも落とせば最前線ラインが崩れ、雪崩れ込むように攻め込まれる可能性ができてしまいますからね」
「なら500なんて数じゃ兵が足りないだろ!」
「ふぉっふぉっ、あなたのクラン、いえサーヴァントたちだけで戦力は十二分に足りていると思いますが?」
「だから護りにはむいてねェって!」
「攻めてでれば良いのです。受け身ではなく攻めの姿勢ですよ、少佐」
「無茶苦茶言うな……」
「ふぉっふぉっ、期待していますよ」
エドワードはそういうと、話はこれで終わりだという雰囲気を放つ。
アルヴィスは小さく舌打ちをすると「失礼します」と言ってから【EGOIST】メンバーを連れて謁見の間を出て行った。
「のうお前さんよ、あやつが言うように本当にあの都市を護るつもりかのう? お前さんがそうするのならかまわないが、儂はなんかむしゃくしゃするぞ」
謁見の間を出るとすぐにアリスがアルヴィスへと話し掛けた。
アルヴィスは頷き応えた。
「ああ、俺もだ。けど命令だからな。俺の目的のためにはやらねェといけねー」
「ふむ、わかった。お前さんがよいならそれでよい。儂はただお前さんがあやつにいい様に使われていつか破滅に向かうのではと思うてのう」
「大袈裟だろ」
「……そうならいいのじゃがな」
「あ、アルくん!」
アルヴィスとアリスが話ていると、そこへエリザベスが声をかけてくる。
「ん? どうしたエリザ」
後ろを歩くエリザベスへ振り向くアルヴィス。
「あ、あのね、言いにくいんだけど……」
「どうした……?」
「私たち、あっ、私と飛鳥ちゃんね! それにアリシアちゃんもだね! アルくんのお手伝いをしてあげたいのは山々なんだけど、私たちは軍所属じゃないからただのお手伝いになっちゃうわけで、単位も何も出ないからこれ以上授業も依頼も何もしないのはまずいんだよね……」
申し訳なさそうな表情を浮かべるエリザベスのセリフで、飛鳥とアリシアもそのことに気付いたように声を漏らしている。
「あっ、そうか! 俺と違って任務として出てるわけじゃないんだもんな! 悪ぃ、すっかり忘れてたぜ」
「国内の任務ならついでに依頼も一緒に出来るんだけど、国外だとそうもいかなくって……ごめんね?」
「いや、しょうがないさ。むしろ今までついてきてくれて感謝してる。飛鳥もアリシアもありがとな」
「い、いえ。私も好きでお手伝いしているだけですから」
「そうだよ♪ 勝手に付いて行ってるだけなんだから、君はお礼なんか言う必要ないんだよ」
「そっか」
アルヴィスは飛鳥とアリシアの言葉に内心で礼を告げた。
「ということは、主殿と主、それに私と猫殿とシオン殿にクオン殿の6人+500人であの規模の都市を護りつつ、帝国を攻めるということですか」
「そういうことになるな。無理だと思うか? エレナ」
「いえ、主殿たちなら無理だとは思いませんが、侵攻中に都市を狙われるとキツイでしょうね」
「にゃらニャアが魔物の大群を連れて攻めるのはどうにゃ? これにゃらご主人たちは都市にいればいいにゃ」
「ルナだけそんな危険な役割させられねェよ」
アルヴィスは首を振ってルナの提案を却下した。ルナは少し残念そうな顔をしているが、自分の手の届かない所で仲間をそんな危険な目に合わせることがアルヴィスには出来なかった。
「まぁ、とりあえす任務は都市を帝国から護れってことだしな。そのための手段として攻めを提案してたけど、俺はそれだけが方法じゃないと思ってる。この一週間考えてみるさ」
そう言うと、大講堂出口に着いたアルヴィスは自室がある1寮へと向かうのであった。