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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
帝国侵攻編
131/143

第131話 シュヴァルツ

 ギルドへと辿り着いたアルヴィス達は、居酒屋スペースの長テーブルを囲むように座っていた。


 ちなみに、都市外部に集まっていた魔法師達約100名ほどには、アルヴィスが説明をすることで治まった。新たな領主候補としてすでに知れ渡り始めていたおかげですんなりと済んだのだ。


 ギルド職員が注文していたいくつかの料理を運んできたのをきっかけに、アルヴィスはテーブルを挟んで正面に座る人物に声を掛けてみた。


「おい、当たり前のように俺たちと一緒にいるけど何してんだよ?」


「まぁまぁ、そう言わないでよ。せっかくまた会ったんだし、席を一緒にするくらいいいじゃないか」


「あなたは確か昨日の騒動の時にいた……」


「やあお嬢さん。元気そうで何よりだ」


 アリシアが思い出したように声を掛けると、アルヴィスの正面に座る人物――パーマがかった茶髪が特徴の男、リヒトが反応した。


「……リヒト様、なぜこのような者たちと一緒に食事をしなければいけないのですか。しかもこんなところで。他に行きましょう」


 椅子に腰掛けているリヒトとは違い、立ったままその背後に控えている従者――ボブヘアーを片耳だけかけているレイラが声を掛けている。


 その表情は実に嫌そうで、一刻も早くこの場を去りたいようだ。


「そうじゃ、さっさとどこかに行くがよいわ」


 赤ワインが注がれているグラスを廻しながら、リヒトとレイラに言い放つアリス。


「レイラも君もまぁそう言わないでくれよ。大勢いた方が楽しいだろ?」


「チッ……」


 まったく動く気配がないリヒトにアリスは舌打ちをする。


「貴様ッ、今リヒト様に舌打ちをしたな!? 無礼だぞ!」


「レイラ!」


「――!?」


 主の強めの呼び声に、肩をびくりと上下させたレイラ。武人然としているレイラだが、主であるリヒトの存在は怖いらしい。


「レイラ、俺がここで食べると決めたんだ。文句あるかい?」


「い、いえ……っ!」


「なら君も座りなよ。隣が空いてる」


 リヒトは自身の横にある椅子を引いて座る様に促した。


 レイラはまだ納得がいっていないのか、どこか気に食わない様子で腰を掛けた。


 それを見たリヒトは、座った事実に満足したのか僅かに微笑んだ。そして視線を正面に戻し、アルヴィスに話掛ける。


「これが君の仲間かい?」


「……ああ。それがなんだよ?」


「良い仲間だね。随分と君を信頼しているようだ」


「何を見てそう思うんだよ。別に何もしてないぜ?」


「纏う魔力の感覚で分かるさ。ほとんどが俺のことを知らないというのに、全然警戒してないようだ。君の力を信用してるんだね」


「……そりゃどうも。――で、さっさと本題に入れよ。まさか本当に飯を食べに来ただけじゃないんだろ?」


「まあまあ、そう急ぐなよ。せっかくの料理が冷めてしまうだろ? ――わかったわかった! わかったから睨まないでくれよ」


 料理に手を伸ばしているとアルヴィスが睨んでくるので、リヒトは残念そうに小さく溜め息を吐いてから話始めた。


「早朝から君のとこの隊長さんが隊を率いて出て行ったけど、どこへ向かったのかな?」


「身分も知らないあんたに言うわけないだろ」


「カカッ、もっともじゃな」


 アルヴィスの言葉に、ワインで酔ってきたのか頬がほんのりと赤く色づき始めてきたアリスが愉快そうに笑いだした。


「そうだなー、まだ俺のことは教えて上げられないけど、昨日あげたコインのお返しということで教えてくれないか?」


 リヒトが懐からアルヴィスに渡したコインと同じ物を取り出し見せた。


「役にたっただろ?」


「あっ……!」


 リヒトが指で遊んでいるコインの紋章を見たエリザベスが声を漏らした。


「ん? どうした、エリザ?」


 アルヴィスが問う。


「あの紋章ってたしか……でもこんなところに……?」


「どうやらお嬢ちゃんは知っているようだね。でもまだ教えないであげてくれ」


「は? なんでだよ」


 身分を隠そうとするリヒトに怪訝な顔を向けるアルヴィス。


「別に知られて困るわけじゃないが、その方が面白いだろ?」


 ははっと笑うリヒトはどうやら本気で言っているようだ。


 その表情にアルヴィスは少々苛立ちを覚えたが、ともあれ知られても困らないということは敵対組織ではないのだろう。


 このままでは話が進まないと思ったアルヴィスは、仕方なくクリストフの行先を話ことにした。


「質問の答えだけど、うちの隊長が向かったのは確か商業都市だとか言ってたぜ」


「やはりそうか……。君のとこの隊長は頭がいいな。アムネスを落とせば資金力の低下から帝国全土の軍事力は半減するだろうな。だけどそれ故にあそこは護りが堅い」


「そんなことくらいあいつは考えてるはずだ。ムカつくが相当頭がキレるからな」


「でもタイミングが悪かったな。きっと負けるよ」


「はッ!? ふざけんな!」


「別にふざけてなんかないさ。あそこは今戦争中だからね。王権争いの内戦だよ。だからかなりの兵力が集まっているはずさ。いくら内戦中でも、敵国が攻めてきたら休戦するだろうから、もともとのアムネスの軍事力と合わされば勝ち目はまず無いはずだよ」


「マジかよ……ッ。そこにはクリストフ以外にもうちの総大将もいくことになってんだぞ!」


「総大将ってたしかローランくんだよね?」


「ああ、そうだ。そのローラン隊5000がクリストフと一緒に攻めることになってんだよ」


 エリザベスの言葉に説明も加えて返すアルヴィス。


「ローランくんなら負けないと思うんだけどなぁ」


「その者がどれだけ強いかわからないけど、第一皇子と第二皇子も腕の立つ魔法師でもあるからね。率いる軍だって優に5万は超えるはずだ。合わせて10万、そこにアムネスの兵で15~20万人を相手に勝てると思うのかい?」


「そ、それはさすがに……」


 リヒトのセリフに言い淀むエリザベスは、ローラン達が戦う姿を想像したのか不安そうな表情になっていた。


「ローランとはたしかエレナ達との戦いで大将だったやつじゃな? あの小僧ならそのくらいの人数相手でも死にはせんじゃろ」


 ワインを飲みながら会話に参加してきたのはアリスだ。


「おっ、めずらしいじゃん。アリスがそんな風に評価するの」


「カッカッ、そうかのう? お前さんよ。あの小僧とは一度やってみたいと思うておるのじゃ」


「へぇー」


(アリスが戦いたいほどってことはかなりの実力者なわけか)


 アルヴィスはアリスの評価を信用している。


 魔力量イコールその者の強さというわけではないが、魔力に敏感で強者との戦闘に飢えているアリスの鼻は信用できる。そんな彼女が戦いたいと言えば、それはもうお墨付きにも等しいというものだ。


「で――貴様、それを知ってどうするのじゃ? まさか背後をつくつもりではなかろうな? 別に儂は誰がどうなろうとどうでもよいが、我が主さまの邪魔になるのならば今すぐ排除するぞ?」


 アリスはグラス越しにリヒトを軽く睨みながら目的を聞く。その言葉に反応してアリスを見るレイラの表情は言うまでもない。


「リヒト様がそんな下らんことなどするわけがないだろう。するならこのような真似など必要ない」


「こらレイラッ、君はすぐに怒るなぁ。そんなトゲのある言い方ばかりしていたら友達が出来ないだろう?」


「り、リヒト様!? 私にそのような存在は必要ありません!」


 慌てるように反応したレイラは、きっぱりと言い切った。


「はぁ~……まったく君は……。君はまだ18歳で若いんだから、恋人の1人や2人、ましてや友達の1人くらいはいないとダメでしょ」


「わ、私はリヒト様の従者です! リヒト様さえいればそれでいいのです!」


「その気持ちは嬉しいんだけどねぇー……」


 小さな嘆息を吐いたリヒトは、質問者であるアリスへと視線を向ける。


「君が考えているようなことを俺はするつもりがないよ。安心しなさい」


「…………」


 真意を探るようにリヒトの眼を見つめるアリス。けれど真意を探られてしまったのはアリスのほうだったようで――


「そんな睨まなくても君のご主人様をどうこうしようなんて思ってないよ。彼の事が好きなんだねぇ、君は」


「!? ふ、ふんっ。うるさいわ小僧が」


 図星をつかれ顔を背けたアリスは、ワインのせいか恥ずかしさのせいなのか、先程よりも頬が赤くなっていた。


「黄色いの、にゃんか頬っぺたが赤いけどどうかしたのかにゃ?」


「お主は黙ってこれでも食っておれ!」


「にゃにゃッ――!?」


 アリスに手羽先のような肉を口につっこまれたルナは驚いてこそいたが、喜んでむしゃむしゃと食べ始めていた。


 その姿が本物の猫のようでアルヴィスは頭を撫でたくなったが、2人の席の間にはアリスがいるので諦めた。


「なんか君たちと一緒にいると和むよ。羨ましいね。今の帝国にはこういうのが足りないと思うんだよね」


「いきなりなんだよ」


「いやすまない、気にしないでくれ。――今日俺がここに来たのはこの都市を発つ前に1度君に会っておこうと思ってね。これからどうするのか、君に託したのは正解だったのか、それらを知りたくてね」


 席から立ち上がりながら言うリヒトの顔を見ながらアルヴィスは意味がわからず呆けていた。


「俺の眼は間違っていなさそうでよかったよ。君とはまた会うことになるだろう。そのときはまた酒でも飲もう」


「よくわからねェけど、まぁそんくらいならいいぜ」


「あーそうだ。少ないけどコレ、ここの支払いにでも使ってくれ」


 リヒトは懐から出した金をテーブルに置くと、レイラを連れてこの場を去っていった。


 あとに残されたそれを見ると、そこには札束で置かれておりどんなに食べてもとても一食で使い切れる額ではなかった。


「なんだったんだ、あいつ……」


 リヒトが出て行った出入り口を見ながら呟くアルヴィス。その声が聞こえていたのか解らないが、反応したようなタイミングで飛鳥がエリザベスに声を掛けた。


「そういえば、エリザベスさんはあの方のことをご存知のようでしたね」


「えっ? あ、うん。知ってるというよりは今知ったって感じかなー?」


「誰だったのですか?」


「うーん、言ってもいいのかなぁ……」


「別にバラしても問題ないじゃろ。あやつ自身が言っておったのじゃからのう」


「アリスちゃんまで!? そっかぁー……やっぱり気になるよねェ。わかった、あの人はね――」


 緊張した面持ちで少しの間を置くエリザベス。


 その表情に、この場にいる全員が固唾を飲むようにして待っていた。


「帝国第三皇子――リヒト・シュヴァルツその人だよ」

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