第130話 ポジション
決着がついた4人は、都市ノクタルへと戻っている最中だ。
アルヴィスが勝利宣言をした時シオンとクオンは抵抗を試みようとしたが、アリスが向けていた右手に集める魔力量を見て観念したのだ。もう超魔力玉を防げる程の魔力が残っていなかったのだ。
4人は都市を囲む壁を目視出来る距離にまで辿り着くと、何やら人集りが出来ていることに気が付いた。
「なんの集まりだ……?」
魔力切れによりアリスにおんぶされていたアルヴィスが呟いた。
「あそこにいるやつら、どうやらみな魔法師のようじゃな」
アリスは人集りから感じた魔力で魔法師の集まりだと判断すると、背中のアルヴィスへと伝えた。
「なんであんな大勢集まってんだ? 何かあんのか?」
「さあの。何かに備えておるようにも見えるがの」
「備える……?」
アルヴィス達は不思議に思いつつも、その歩を止めることはせずに向かっていった。すると、しばらくしてこちらに近づいてくる者たちがいることに気が付く。
眼を凝らして見ると、なんとギルド前で待っているはずのエリザベス達だった。
「何でエリザ達が!? ギルドにいるはずだろ?」
「何でって、アルくんを待ってたらすごい爆音が響いてくるんだもん。あそこの集まってる人たちもだけど、みんな驚いてここまで見に来たんだよ! で、原因はアルくん達なの?」
「あー……うん、俺たちだわ。すまん」
「それはいいんだけど何があったの? すごい疲れてるみたいだし、大丈夫?」
「ああ、もう解決済みだ。心配いらねェ」
「……?」
アルヴィスの返事に疑問顔のエリザベスだったが、心配がいらないと言われてしまってはそれ以上聞くことが出来なかった。「そっか」と頷くと、エリザベスはアルヴィスの背後に立っていたシオンとクオンに視線を向けた。
「ああ、こいつらか? 右が姉のシオンで左が妹のクオンだ。見ての通り双子の姉妹らしい。俺たちの新しい仲間だよ」
「新しいサーヴァントの方が正しいがの、カカッ」
アルヴィスがあえて奴隷を意味する言葉で紹介しなかったことに勘付いたアリスは、わざと訂正して姉妹の立場をはっきりとさせた。
対等である仲間ではなく、姉妹は下であると言ったのだ。と同時に、アルヴィスが主人だということも意味に含めている。状況からして言わずともそれを理解できないほどにエリザベス達が愚かではないと思っている。
「そっか。またそんな可愛い子をサーヴァントにしちゃったんだ……」
「ん? 何か言ったか?」
「な、何もないよぉー?」
両手を振り誤魔化すエリザベス。アルヴィスは「そうか?」と少々不思議に思いつつも追及はしない。
「シオン、クオン。みんなにあいさつしてくれ。俺たちの仲間だ」
アルヴィスはアリスの背中から降りつつ背後の2人に指示を出した。
「……私の名前はクオン。仲良くなどしてくれなくて結構だけれど、宜しくとだけ言っておくわ」
ツンとした態度と表情で自己紹介するクオンに、姉のシオンは隣であわあわとしていた。
「く、クオンちゃんがごめんなさい! 私はシオンって言います。宜しくお願いしますです。歳は18歳らしいです」
らしい、というのは人造人間だからだろうが、アルヴィスはそんなことより年上だったのかとそこに驚いていた。シオンのおどおどとした態度的に年下かと思っていたからだ。
「うん、よろしくねぇー」
「宜しくお願い致します」
「よろしくね♪」
エリザベス・飛鳥・アリシアがそれぞれ挨拶をすると、その背後に控えるように立っていたエレナとルナも一応のあいさつをしてきた。
「私は主と主殿のサーヴァントであるエレナだ。宜しく頼む」
「ニャアはー……ニャアは……あっ、そうそう、ニャアもご主人の性奴隷にゃのにゃ」
「おいッ!?」
ルナの発言に慌ててツッコむアルヴィス。そして凍り付くメンバー。けれどアリスとエレナは気にしていないようだ。
「おいっ、頼むから俺をそんな眼で見ないでくれ!」
「いえ、あの、申し訳ないのだけれど、いくらゴミむ、……ご主人様といえど私はそんなことは絶対にしないわよ」
「今ゴミ虫って言いかけたよな!? なあ!?」
「否定はしないわ」
「……」
(しないんだ……)
アルヴィスはクオンの言葉に内心ショックを受けつつ、未だに凍り付いたままのエリザベス達に向き直ると誤解を解く。
「俺とルナはそんな関係じゃないからな? 手を出してないからな?」
「そうじゃ。我が主さまは猫娘の誘いごとき足蹴にするように断っておるぞ」
「そこまでしてないわ!」
「なんじゃ? なら今度からは儂の誘いのみならず猫娘の誘いも受けるつもりなのかのう?」
「まるで自分はやってるような言い方すんじゃねーよ!」
「カッカッ、気付かれてしまっては仕方ないのう」
「あ、アルくん、本当にアリスちゃんとも何もないの?」
「エリザまで……。俺をそんな性獣みたいな言い方しないでくれ……」
信用されていると思っていたエリザベスにまで確認されてしまったアルヴィスは、項垂れるようにショックを受けていた。
「まぁしょうがないのかもしれぬな、お前さんよ。あの小僧が抜けた今、お前さんの周りは女しかおらぬ。それも儂には遥かに劣るが美女ばかりじゃ。これでは学院に戻ってもいい噂は流れぬのう、カカッ」
「アリスまで……! いや、でもそうかもな。男は俺だけだしな……」
「ハーレムでよいではないか」
「よいではないかって……!」
「なんじゃ、不服なのか?」
「そういうわけじゃないけどよ」
「日替わりで選びたい放題じゃぞ? 男の夢じゃろ?」
「ちょ、ちょっとアリスちゃん! 私たちをそんなポジションにしないでよ!」
「そうです! アルヴィスさんのことは好きですが、愛人みたいな関係になるつもりはありませんよ!」
アリスの言葉に慌ててツッコむエリザベスと飛鳥。
発言者のアリスは別として、アルヴィスは何故アリシアやルナ、そしてエレナが何も言わないのかと思い3人を順番に見る。
「えっ、私? 私は君とならいずれ、ね?」
「主殿のような強い雄なら私は拒みません」
「にゃ……?」
アリシアは頬を若干赤らめ、エレナは当たり前のように堂々と応えた。
ルナは会話の流れを把握出来ていないようでアルヴィスの視線の意味が解っていないのか、首を傾げて鈴を鳴らしただけだ。だがルナに関しては毎晩のように隙あらば交尾しようと擦り寄ってくるので、アリスの言うポジションの1人になっても問題ないのかもしれない。
「……みんな、これに関してはあとでじっくりと話し合う必要があるみたいだな」
「ベッドの上で語るというわけじゃの? 楽しみじゃな、カカッ」
背後から笑い声と一緒に聞こえてきたアリスの言葉にアルヴィスは肩を落としながらとぼとぼと都市へと向かって歩き出すのであった。