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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
帝国侵攻編
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第127話 アリスVS双子

「あの、ご主人様。話があるのだけれど、いいかしら?」


 ギルドへと向かう道程、突然背後からアルヴィスへ声が掛けられた。


 驚き振り向くと、先程買ったばかりの奴隷であるロングヘアーの妹のようだ。


「どうした?」


「早速で悪いのだけれど、私と姉さんを解放してくれないかしら? 私たちはあの場所が気に入っているのよ」


「はぁ!?」


「カカッ、ふざけたことをぬかしおるの。主等自分たちの立場をわかっておるのか?」


 妹の言葉に驚くアルヴィスとは対照に、アリスは笑い飛ばした。だがその表情は笑っておらず、言葉に怒気が含んでいる。


「勿論わかっているつもりよ。私と姉さんがあなたたちに買われ、今は奴隷ということになっている。今は、ね」


「随分と挑発的じゃのう。――主さまよ、こやつら1度シメておかぬか? 調子に乗りおるぞ」


「シメたいわけじゃないが、まあそれも悪くないかもな。一応俺が主ってことだし」


「決まりじゃな。主等も逃げるなよ?」


「仕方ないわね。でもそれも悪くないわ。私と姉さんの力を見れば、きっとあなた達も私たちを捨てるはずだから。姉さんもいいわね?」


「う、うん。無理はしちゃダメだからね? クオンちゃん」


「はいはい」


「じゃあ、外に出るぞ。さすがに街中で暴れてらんねェからな」 


 4人はアルヴィスの指示で都市を囲む外壁を抜けた大地へと向かった。


 岩肌がのぞく地面の先にはクリストフが隊を忍ばせた森がある。だが今回はそこではなく、見晴らしのよい荒野を場所に選んだ。


 奴隷を従わせるため程度の争い事で、大事な資源を破壊するわけにはいかない。


 アルヴィスとアリス、双子の姉妹とに別れ一定の距離で対峙した。――いや、睨み合っているのはアリスとクオンと呼ばれた妹だけかもしれない。


「早速だけど初めっか。待っててやるから神にでもなんにでもなっていいぞ」


 睨み合う2人とは対極に近いほど気軽に言い放つアルヴィス。


「相当な自信があるようだけれど、あなたたちの実力も知らないのにいきなり全力を出すはずがないじゃない」


「ちょ、ちょっとクオンちゃん、挑発ばかりしちゃダメだよ!」


「何を言っているのよ姉さん。いつものことじゃない。この程度で挑発だなんてヌルイわよ」


「そ、そうだよね、ごめんね?」


「こんなことで謝る必要なんてないわよ」


「!? ご、ごめんね!」


「また」


「ごめ――ッ」


 また謝ろうとする姉の口をクオンは手を当て塞ぎ止めた。


 アルヴィスはそんな姉妹のやり取りを見つつ、クオンの発言から今までの態度は素だったのかと思う。


(強制命令出来ないから捨てられてんじゃなくて、あの性格のせいなんじゃねェのか?)


「なあッ! ショートカットの――姉ちゃんの方!」


「!? な、なんですか?」


 双子の姉はおどおどとした態度で反応した。


「そういえば名前は何て言うんだ? 妹の方はクオンってんだろ? あんたは?」


「は、はいッ。シオンっていいます」


「そうか。シオン、あんたからも妹に頼んでくれよ。力を隠してたら怪我じゃすまないぜ? 自分で言うのもなんだけど、俺らはそれなりに強いつもりだ」


「それなりってなんじゃお前さんよ。儂とお前さんが組めば最強じゃろうが」


「最強って……」


 アルヴィスは自分で言ってしまうアリスに若干引きつつ、けれど本人の実力を知っているので否定することも出来なかった。


「そんな当たり前のことはどうでも良いのじゃ。お前さんよ、手を出すなよ? まずは儂がやる」


 アリスは横目でアルヴィスに視線を向けながら言う。


「は!? 一緒にやらねえのかよ!?」


「当たり前じゃろうが。言ったじゃろ? 組めば最強じゃと。そんな結果の分かりきった戦いなどつまらぬわ。まぁ儂1人でも負けぬがの、カカッ」


「聞き捨てならないわね。まるでもう勝っているような言い方じゃない」


「なんじゃァ? クオンと言うたかの? 主等儂らに勝てるとでも思うておるのか?」


「当たり前のことを聞かないでくれるかしら」


 バカじゃないのといった風に溜め息を吐きつつ首を振るクオン。


 そんな様子にアリスはこめかみを引くつかせていた。


「……我が主様よ。前言撤回じゃ。まずはと言うたが、たった今残りはなくなった」


「…………殺すなよ?」


「約束は出来ぬが、まぁ頭の片隅にでも留めておくわい」


 アリスは視線も合わせず応えると、魔力をいっきに膨れ上がらせた。


 その魔力量に、見慣れているはずのアルヴィスですらゾッとする。


「力量差もわからぬガキが舐めた口ばかり利きおって。いつまでも調子に乗るなよ小娘風情が!」


 キレかけているアリスが姉妹に向かって突進し出す。それは走っているのではなく、地を滑る様に風魔法で宙を飛んでいた。


 突然にそれも一瞬で間合いを詰められ、姉妹は驚きで眼を見開いた。けれどそれも束の間、2人は左右に分断されるように蹴り飛ばされた。


 油断をしていたわけではない姉妹、特に妹のクオンは何も対応出来なかったことに驚愕していた。


「ほれ、さっさと力を見せぬか! 殺してしまうぞ!」


 アリスは両手に魔力を集中させ、玉状の塊を一瞬で形成する。それは学院の1年生でも出来る何の性質も持たない純粋な魔力の塊であり、魔法師として初歩的な技ではあるが、アリスのそれは魔力の密度が桁違いだった。


 どんどん集中していく魔力、そしてますます高まる悍ましい程の密度が、姉妹に危機感を覚えさせるには十分だった。


 それはアルヴィスも例外ではない。


 アリスの両手にある2つの魔力玉。高密度のそれをもし姉妹が無抵抗に直撃でもしようものなら命はないだろう。殺すなと言ったばかりでこれでは、アルヴィスが姉妹の命を心配するのも仕方がないだろう。


 つまりアルヴィスが感じる危機感とは、シオンとクオンの命の心配である。決して自身への被害の心配ではない。


 けれど、もしこの程度の危機すら自分たちで回避出来ないようであれば、この先の【EGOIST】の役には立たないだろう。そう思うと、アルヴィスは心配しながらも手を出せないでいた。


「姉さん! 魔法の使用を許可します!」


「わ、わかったよ、クオンちゃん!」


 クオンはアリスのさらに奥にいるシオンに向かって叫ぶと、姉も同じように叫んで応えた。


 アリスを挟んだ会話だ。それは当然アリスにも聞こえているわけで――


「やっとやる気になったかの」


 雰囲気が変わった姉妹にアリスは少々嬉しそうだ。


「カカッ、いくぞ!」


 アリスは魔力を高めていく姉妹の様子に嬉々として笑うと、両手をそれぞれに向けて広げる。


「ハッ――!」


 アリスが高密度の魔力玉を撃ち放つ。


 弾丸の様に飛来する魔力玉に姉妹は両手を向けると、それぞれ魔法を発動させた。


「<リフレクション>!」


「<グラビテーション>!」


 姉のシオンは両手を正面に向け、体長程の魔法陣が出現する。


 妹のクオンは右手を魔力玉に、左手を離れた位置の地面に向けると、それぞれに魔法陣が出現する。


 だがそれも一瞬のことで、僅か数秒で魔力玉は魔法陣に衝突した。――瞬間、魔力玉の軌道が変わった。


 シオンの魔法陣に触れた魔力玉は勢いそのままアリスへと弾き返された。


 クオンの魔法陣に触れた魔力玉は、地面に出現している魔法陣へと引き寄せられるように向かっていく。


「ほう、面白いのう」


 アリスはその光景に驚きつつも口角を上げていた。そして自身に飛び戻ってきた魔力玉を、右脚に展開した多重の魔力障壁をいくつも破壊されながらも上空へと蹴り上げ飛ばした。


 上空へとさらに軌道を変えた魔力玉が弾けるのと、クオンの魔法によって地面へと向かっていた魔力玉が衝突するのとがほとんど同時に起こった。


 それらは辺りに凄まじい衝撃と爆風を引き起こした。


 上空では地上に影を生んでいた雲に巨大な穴が、その地上では穿たれた地面に巨大なクレーターが――天と地、それぞれ同時に大きな痕を残した。


「あの力――量はたいしたことがないが、他の奴隷達よりも弱いなどとよく言ったものじゃぞあの店主」


 アリスは交互に2人を見ながら呟いた。その目付きはまるで2人を計り、測るようで、量る様にも見えた。


 アリスは飛び切りずば抜けた魔力感知能力がある。鋭敏などという水準ではない。そんな彼女がシオンとクオンの魔力を計り間違ったのだ。


 魔法の内容。つまり能力などは戦う際アリスにはどうでもいいのだ。いかなる能力でも彼女からすれば気にするほどでもなく、問題なのは魔力量や質だ。


 量や質によって、発動させた魔法の効力や威力といった魔法への影響力が変わる。


 アリスの感じ取る魔力というのはその全て、量や質のことを指しているのだ。


 それを間違えるということは下手をしたらアリスすら死の確立を上げてしまうことになる。


 だからこそアリスは驚いているのだ。自負していることで誤ってしまっていたことに。その事実に。


 けれど、それを表情に出すことはしない。強者の意地だ。


 そしてすぐに情報修正に入る。改めてちゃんと見ることで2人の評価を変更する。


「あやつらの魔法は能力自体が高いようじゃな。あの程度の魔力量で儂の魔力玉を弾くとはのう。驚きじゃな。先の長い方の言葉から、恐らく魔法を使わず隠しておったのじゃな。でなければこれほどの能力じゃ、店主が200万などという額にするわけがないのう」


 アリスは何が面白いのか、ここで一度言葉を切ると鼻で笑った。


「儂の魔力密度を見て、魔力では対応不可と判断したということはどうやらバカではないようじゃ。――おもしろい!」


 アリスは再び両手に魔力を集中させ始めた。それは先程の魔力玉よりもさらに密度が高く濃い、超高密度の魔力玉――超魔力玉が2つ生成される。


 それを頭上で1つに合体させ、風魔法で上空へと浮かび上がっていく。


「あれは少し危険ね。――姉さん!」


「く、クオンちゃん!」


 クオンが叫ぶと、シオンは瞬時に理解したのか合流するために走り出す。


 クオン自身も既に走り出しており、2人の直線上にはアリスがいるため斜めに向かっていく。三角形の角に向かっているような図だ。


 2人が合流する頃、丁度アリスの超魔力玉の合成も終了していた。


 けれどそれで終わりではなかった。


 アリスはそこに水魔法と炎魔法を加え始めていた。


 超魔力玉内部に水が出現し、炎は表面を覆うように燃えている。


 それは見た目には巨大な炎の塊にしか見えないが、塊の内部では核融合にも等しい現象が起こっていた。


 超魔力玉がエネルギー源となり、さらに水魔法によって大量の水素が生まれている。それが原子変化し質量に変換されていた。これを核として最表面で燃えている炎がさらに燃え上がっていき、周囲の酸素濃度が下がったと勘違いするほどに消費していき息苦しくなる。


 今、アリスの両手には疑似的な太陽が生まれていた。


「おいおい、アリスの奴あれはやり過ぎだろ……!? 本気で殺す気か!? それどころか都市すら……っ」


 アルヴィスの頬に冷や汗が伝う。


 よく目を凝らすと、いつのまにかアリスは指輪も外していたのだ。


 それはアリスの魔力を抑えるもので、また全力を出させないための拘束具の役割もある。が、隷属効果が付与されているわけではないそれは、アリスの意思で外すことが可能である。


 今、それを外しているということはアリスは全力を出せるというわけで、すなわち国すら滅ぼせるほどの戦闘力であるということでもある。


 眼前で発動させている魔法は、間違いなく今まで見てきた彼女の魔法で最強の威力だ。等級でいえば戦略級に分類されるだろう。


「姉さん、仕方がないわ。使うしかないみたいね」


「う、うん。じゃあ、ごめんね?」


「だから、こんなことで謝らなくていいのよ」


 クオンはそういうと、申し訳なさそうに背中の魔法陣を自身の背中と合わせようとしてくるシオンとくっつく。


 背中合わせになると、魔法が発動して魔法陣が発光しだす。


 眩い光が周囲を照らすこと数秒、光が止むとそこからは1つの人影が現れた。


「やっと本気でくるか。カカッ、やはりそうでなくては面白くないのう!」


 宙に浮遊するアリスは地上での様子にワクワクとした面持ちで魔法の威力を高めていく。


「やるわよ、姉さん。う、うん。久しぶりだね、この姿になるの。ふふっ、そうね」


 光が止み姿を現した姉妹は、1人の女性へとその身を変えていた。――融合、というよりは合体と呼ぶべきだろうか。


 姿はもともとが双子ということもあり、ほとんど変化が見られない。強いて言えば2人分の体積が1人になったので、背が少し伸び、体系もグラマーになっている。髪型もミディアムヘアに変わっているが、総合的に数歳分大人っぽく見えるようになっただけで、やはり大きな変化ではない。


「あちらも準備が出来たようじゃな」


 アリスは待っていたとばかりに口元を怪しく釣り上げ、両手を勢いよく振り落とした。


 その表情から本当に殺意すら感じられるが、戦闘狂の彼女はただ戦いに酔っているだけでその意はないのだろう。


「溶け死ね――〈太陽神ヘーリオスの怒り〉」


 前言撤回である。


「自身の力で死ぬがいいわ。し、死なせちゃダメだよ!?――〈〈五重リフレクション〉〉!」


 姉妹は両手をアリスの放った小太陽に向けると、特大サイズの魔法陣を5重に展開した。


 燃えさかる灼熱の太陽が1枚目の魔法陣に衝突すると、轟音と同時に激しい衝撃波を発生させた。


「カッ! あれを弾き返すというかッ、おもしろいッ!」


 アリスが宙に浮いたまま楽しそうに笑う中、対照に合体した姉妹は1枚目の魔法陣が破壊され苦しそうに顔を歪めていた。


「姉さん、このままでは破られるわ。悔しいけれどあの女は強い。そ、そうだね、クオンちゃん。ならやっぱり――。ええ、引力も使うわ」


 姉妹は左手を展開している魔法陣に向けたまま、右手をアリスへと向け変えた。


「〈〈六重グラビテーション〉〉!」


 新たに発動させた6つの魔法陣の内3つが〈太陽神の怒り〉に、残りの3つがアリスの眼前に出現する。


 それは小太陽をアリスの方へと引き寄せる力を持っており、これにより下から斥力で押され上から引力で引っ張られている状態へとした。


「なんじゃと……!?」


 アリスは驚いた。


 さすがにあれほど高密度の魔力を持った魔力体である、質量・重量も相当なものであり返されるはずがないと思っていた。


 それが今、見下していた者に実行されているのだ。


 引力と斥力を操る魔法を持つ彼女等に放った魔法の相性が悪かったのだ。

 戦略級魔法が襲い来るとなると、アリスですら慌てないはずもない。けれど避けるだけなら宙を自由に飛ぶ彼女には簡単だ。


 だが、後方には『都市ノクタル』があった。


 自身が躱し避ければ、そのまま仲間も含む7万人以上の者等がただでは済まない。死傷者が多数、もしかしたら全滅すらするかもしれない。


 いくらアリスといえど、一応の仲間である【EGOIST】を自身の魔法によって死なせることは望まない。


 かといって今からでは相殺出来るほどの魔法を放つ時間がない。


(身をもって受け止めるしかないかのう。時間は掛かるが再生するじゃろうし、死にはせんじゃろ)


 受け止める覚悟を決め、両腕を広げた時だった。


「アリスゥゥゥ――!!」


 いつの間にか自身の真下にまで来ていた主人の姿に、アリスは驚きと同時に慌てた。


 このままではアルヴィスにも被害が出てしまう、何故自ら来たのかと。


「バカ者! なぜ来たのじゃ! さっさと離れぬかッ!」


「お前を失うわけにはいかねェ! 心配すんな、俺がなんとかしてやる!」


 そういったアルヴィスの顔が不敵に笑っていたことに、アリスは再び驚いていた。

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