第124話 情報屋
都市ノクタルのギルドは想像以上に大きく、『アレスティア街』にあるギルド程の広さではあるがそれが2階建てとなっており、合わせればラザフォード王国・王都のギルドと変わらないだろう。
中に入ると正面突き当たりに掲示板があり、部屋の右が居酒屋、左が受付カウンターと分かれている。カウンター横に2階へ通じる階段が設置されていた。
受付窓口は3つ、そのどこにも制服を来た美人なお姉さんが笑顔で対応している。
2階も気になるが、一同は別れて各自聞き込みをすることにした。
「あの、すみません。ちょっといいですか?」
アリスと共に行動するアルヴィスは、居酒屋スペースで食事をしている魔法師らしきグループに声をかけた。
20~30代で構成されている5人組の男だけのパーティーだ。
「おう、なんだい若ェの」
その1人、30歳くらいの腰に剣を差す無精髭の男が応えた。
するとそれが切っ掛けのように背を向けるように座っていた3人も振り向いてくる。
「うぉッ!? すっげー美人!」
「お姉さん俺たちと一緒に飲まない!? 奢りますよ!」
その内2人がアリスを視界に入れると鼻の下を伸ばしながら声を掛けてくる。目線が完全にアリスの胸の谷間にいっている。露出の多いドレスなのだからそれも仕方のないことだが、アリスは虫けらでも見るような目付きで睨み返した。もちろん無言でだ。
アリスの圧に昼間からすっかりできあがっていた20代そこそこの2人は、酔いが覚めたように「な、なんでもないっす」と視線を外した。
「で、俺達になんの用だい?」
最初に反応した無精髭の男が話を促す。
「ああ、俺たちちょっと人を集めててな、そういったメンバー募集ってどこでしたらいい?」
「パーティーメンバーなら掲示板で出来るだろ?」
「パーティーじゃなくて兵士の方だ」
「兵士? 軍人募集ってことか? それなら情報屋の方が適任だな」
「情報屋?」
「ああ、あそこに座ってる奴さ。金さえ払えば大抵のことは教えてくれる」
無精髭の男は居酒屋スペースで1番隅に座っている男を指差し、「ほら、あいつだよ」と付け足した。
「あいつか……――ありがとう、おっさん」
「俺はまだ27だ!」
驚愕の事実を背に受け、アルヴィスとアリスは情報屋の元へと歩いていく。
無精髭の男は若く見ても30歳にしか見えず、5人の中では1番の年長者かと思っていたが世の中にはあんなに老けた、いや、貫禄のあると言い直そう。そんな者がいるもんなんだなとアルヴィスは思考の片隅で考えつつ、目的の人物の前へと辿り着くと正面の席へと座った。
「情報を売ってくれ」
「……何が知りたい?」
突然座られたにも関わらず、フードを被った男は特に驚くこともなく対応する。いつものことなのだろう。
「兵士が欲しい。どこで集められる?」
「1万ゴールド」
「前払いかよ。――ほら」
アルヴィスは懐から財布を取り出すと、代金を支払う。
情報屋はテーブルに置かれた金を手に取ると、それを数えて「たしかに」と一言。
「現在この都市に兵士を職にしている者はいない。昨夜の戦で軍事力が壊滅してるからな」
アルヴィスはその言葉で瞬間的にアリスを見た。だが儂のせいではないといった風に顔を背けられてしまった。
「なら代わりになる戦力が欲しい。紹介屋とかはないのか?」
「2万ゴールド」
「追加で取るのかよ!?」
アルヴィスは再び懐からごそごそと金を取り出すと情報屋に渡す。
「紹介屋は無いが、この都市には2店の奴隷商がある。1店は平民でも買える一般的な店だ。もう1店は貴族向けの紹介がないと入店さえ出来ない店だ。どちらも金さえあればそれなりの品が見つかるが、後者の店は奴隷の質が違う。元貴族すら扱っている店だからな」
「紹介ねぇ…………あっ! これって役に立つか?」
アルヴィスは昨夜リヒトから受け取った紋章入りのコインを情報屋に見せる。
「これは!?」
コインを見た途端、目深に被ったフードからのぞく双眸が大きく見開かれた。
「どうやって手に入れたか知らないが、それを見せれば入れるはずだ」
「そうか、助かったよ」
「毎度」
アルヴィスは席を立つと、アリスを連れて皆と合流するため掲示板前へと戻る。
そこには既に情報収集が終わっていたのか他のメンバー全員の姿があった。
「待たせたな。皆どうだった?」
「私たちの方は、クランを探してるって人たちを何人か見つけたよ」
飛鳥とアリシアと一緒に収集していたエリザベスが代表するように応えた。
「エレナ達は?」
「はい。私達は奴隷商を紹介されました」
「俺たちと一緒か。ちなみにどっちのだ?」
「どっちとはなんでしょうか、主殿?」
「あ~……いや、何でもない。エリザ達もエレナ達と一緒に奴隷商に行ってサーヴァントを選んできてくれないか? 同等扱いのクランメンバーとしてよりも、今は部下か僕が欲しいからな」
「うん、わかったよアルくん」
「わかりました」
「好きなの選んでいいのー?」
エリザベスと飛鳥が返事をする中、アリシアはわくわくとした面持ちで質問してくる。
どうやら初めてのサーヴァントで嬉しいのか、少々興奮しているようだ。
「ああ、好きにしてくれ。けどちゃんと戦力になりそうな奴を選んでくれよ? 無駄遣いする余裕はないからな」
「はーい♪」
「俺とアリスは他に行くとこがあるからまた後で合流しよう」
アルヴィスの言葉に各々がそれぞれの返事をすると、ギルドを後にし二手に別れることとなった。