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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
帝国侵攻編
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第117話 託す想い

 アリスの蹂躙開始から半日。それはアルヴィスが都市ノクタルの7割りを覆う魔力を放出してからの時間でもある。アルヴィスの魔力は底をつきかけていた。その肩は激しく上下に揺れ、息も同様に荒々しい。


「まだか……アリス……」


 アルヴィスは数キロ先で今もなお戦闘を繰り広げているであろう自身のサーヴァント名を口にする。


 アルヴィスは片膝を地につけていた。


 いくら桁外れの魔力を持ち、体力そのものも並外れてはいるが、都市の7割り、人口にしておよそ7万人を同時に停止させ続けるのは限界があった。


 停止、といっても厳密には違う。現象として、結果としてそう見えているだけであって、今のアルヴィスの魔力コントロールでは完璧な停止は出来ない。1秒経つごとに1秒戻る、というように時間がいったりきたりとループさせているのだ。


 魔法維持の限界が近い現在、そのループさせる時間間隔が長く延びていた。


 今までは微動だにもすることが出来なかった住民が、現在は微かに揺れ動いている。もうすぐ効力を失う兆候だろう。


 そのことに術者であるアルヴィス本人が気付いていないはずもなく、そのこともあり先のアリスを呼ぶ声が洩れたのだ。


 遂にアルヴィスの伸ばしていた両手の内、左手が力なく垂れ落ち始めた。


 と、その時だった――――


 突如として、遠方から爆発音が轟き響いたのだ。それは間違いなくアリスが戦闘している場所からであるが、その距離はアルヴィスとはかなり遠い。何キロも離れているはずの戦場からアルヴィスの耳にまで届くということは、現場ではかなり派手な爆発かそれに酷似した現象が起きたはずだ。


 アルヴィスは一瞬まさか……っ!? と思うが、アリスに限ってそんなことは無いはずだと思い直す。


 目を凝らして戦場を見遣るがやはり見えるはずもなく、アルヴィスはアリスが戻ってくるのをただ待つことしか出来なかった。


 せめて〈時空停止〉領域内であれば、手に取るようにとまではいかずとも少なからず状況を把握することが出来る。アルヴィスはもっと自分に魔力があればと悔いるのだった。


 爆発からしばらくすると、戦場から聞こえていた様々な音がピタリと止んだ。それは魔法による衝撃音や武器のぶつかる音のみならず、人の声もということだ。今まで幾度となく聞こえていた雄叫びや悲鳴といった全ての声が、その喧騒が止んだということは、つまりは戦闘の決着が着いたことを意味する。


 さらに数分の時が経つと、戦場の宙から人影が飛来してきた。


 アルヴィスがその影は一体何者なのかという疑問を抱く前に、その答えが解る。疑問を脳裏に浮かべるよりも早く、影の正体であるアリスが高速で飛んできたからである。


 数秒後、宙からドレスの裾を捲れ上がらせつつフワリと着地するアリス。眼前に姿を現した彼女の表情からは、珍しく疲労を感じられた。


「……大丈夫か……アリス……?」


 アルヴィスは自身も肩で息をし余裕など既に無いが、大仕事を終えてきたはずのアリスに確認するように聞いた。


 するとアリスは口の端を僅かに吊り上げ、いつもの笑いで応えてくれた。


「カッカッカッ、儂はこの通り大丈夫じゃぞお前さんよ。心配でもしておったのか?」


「ああ……当たり前だろ……」


「そうかそうか」


 アリスは満足そうに嬉々とした表情で頷いた。


「じゃがお前さんよ、その言葉をそっくりそのままお前さんに返すぞ? どう見てもお前さんの方が辛そうじゃからのう」


「……あぁー、出来ればそろそろ解きたいところだが……で、どうなんだ? 上手くいったのか……?」


「お前さんよ、それは誰に聞いておるのかのう? まさかとは思うが――」


「悪かった、すまん。アリスに限ってありえないよな」


「当たり前じゃ」


 フフンと鼻息を鳴らし胸を張るアリス。胸を支えるように腕を組んでいるので、より強調されるようなその姿勢に疲労しきっているアルヴィスですら眼が向いてしまう。


 だがその血の気を感じないほど真っ白なアリスの肌に、細かい切り傷がついていることに初めて気付く。真紅のドレスで分かりにくいが、よく見れば返り血なのか血痕もついていた。


 アルヴィスはどれだけ過酷な戦闘を行ってきたのか想像すると、内心ですまないと謝っていた。けれどアリス本人には伝えない。言ってしまえば、それはアリスからしたら侮辱の言葉にしかならないことを知っているからだ。


 変わりにアルヴィスは別の言葉で思いを伝える。


「アリス、サンキューな」


「な、なんじゃお前さん急に……!? 今さら礼など要らぬわ。当たり前のことじゃろうが」


「そうか」


 アルヴィスは当たり前と言ったアリスの言葉が嬉しかった。指示に従うことにではない、信用して命すらかけてくれることにだ。


 けれど、そんなアリスにアルヴィスはもう一度頼まないといけない。アルヴィスは申し訳ないと思いつつも、その内容を口にする。


「アリス……俺はもう限界だ。もうすぐ……魔法も切れる。だから……領域内の低ランク魔法師と……住民達を……何とかしないといけない。けど……アリシアの洗脳で何とかなる……はずだ。アリシアが魔法を掛け終えるまで……解かれた魔法師達から護ってやってくれ。後は任せたぜ……」


 アルヴィスは肩で息をしつつも何とか今後の展開を伝えると、そこで遂に魔力が切れたのかバタリと倒れ込んだ。同時に、都市内を覆っていた魔力も消失し、時間の流れが正常に戻る。


「……!? まったく、気絶するほど消費するやつがおるか、バカ者が――」


 アリスは眼前で眠るように気を失った主人の顔を眺めると、言葉とは裏腹に微笑を浮かべていた。しゃがんでアルヴィスを抱き抱えると、再び風魔法で飛翔し天幕がある待機場所へと向かっていった。


 主人の安全確保と、天幕にいるはずのアリシアを連れて戻るためだ。


 待機場所である森林内部の天幕へと辿り着くと、アルヴィスを抱き抱えたまま入る。すると待っていたエリザベスと飛鳥が驚きながら駆け寄り、アリスからアルヴィスを受け渡される。そのままアルヴィスは寝かされ、もう1人の待機人であるアリシアがアリスから事情を聞くと、抱き支えられて都市ノクタルへと飛翔していくのだった。

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