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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
帝国侵攻編
115/143

第115話 作戦実行

 持ち場へと戻ったアルヴィスは、天幕内で寛いでいた【EGOIST】メンバーに早速会議内容を伝えた。


「えっ!? ホントに攻めないの!?」


「チッ……」


 腰掛けていた椅子を揺らし立ち、エリザベスが驚き叫ぶ。脚を組んで座っていたロベルトは舌打ちをすると、不服そうな顔をしながら眼を瞑った。


「この人数ですもんね。さすがに勝利しても都市を防衛出来ないですよね」


 「賢明だと思います」と、付けたし言ったのは飛鳥だ。そんな彼女は、簡易式の折り畳み机の上で呪符を製作中だった。


「とまぁ会議での話はここで終わりなんだけどよ、ちょっとみんなに聞いて欲しいことがあんだ」


 アルヴィスの発言に、その場の全員が注目する。


 エリザベスは椅子に座り直し、ロベルトは片眼を開け、飛鳥は呪符を書く筆の手を止める。アリシアはクランに加入して間もないので、まだアリス達サーヴァント以外の3人とは距離を感じるのか、少し離れた椅子で脚をプラプラと揺らし静かに座っていた。


「何か企んでおるな? 顔が悪巧みする小僧になっておるぞ? カカッ」


 天幕の柱に寄り掛かり腕を組んで聞いていたアリスが、アルヴィスの発言に愉快そうな表情へと変わった。


「ああ、ちょっとクリストフと交渉してきたんだ」


「「交渉?」」


 エリザベスと飛鳥が同時に反応した。2人の声がハモり、アリシアが何故かクスクスと笑っている。


 アルヴィスは頷くと、言葉を続ける。


「ああ、最低でも俺の腕1本はかかってる」


 エリザベスと飛鳥は、言っている意味がわからないのか首を傾げた。声のみならず動作までシンクロしている。


「俺たちの隊だけで都市ノクタルを落とす! それも1日でだ!」


「「「えぇ――ッ!?」」」


 今度の発言にはさすがに驚いたのか、アリシアまでもエリザベスと飛鳥と同時に叫んだ。


 ロベルトすらも両目を見開き驚いている。


「カッカッカッ! よいぞよいぞお前さんよ! それでなくては面白くないわいッ!」


 エリザベス達とは対極に、アリスはとても嬉しそうに笑い出す。豪快に笑うので、ドレスから溢れそうなそのバストが盛大に揺れる。


「主人殿、もちろん策はあるのだな?」


「もちろんだエレナ。今から俺が考えた作戦を伝える――」


「ちょっと待てッ」


 アルヴィスが作戦説明に入ろうとすると、突然ロベルトが立ち上がった。


「なんだよロベルト」


「誰もお前の作戦に協力するとは言ってないぞ。勝手に話を進めるな」


「この隊の隊長は俺だ。俺の指示に従ってもらわなきゃ困る」


「貴様に命を預けるつもりは毛頭ない。このクランに入ったのも利用するためだ、貴様の下に付いたつもりはない。貴様が従えというのなら、俺は抜けさせてもらう」


 そう言うと、ロベルトはアルヴィスの隣を横切り天幕から姿を消した。


「おいっ、ちょっと待てよ――」


 アルヴィスは振り返り手を伸ばすが、その先にロベルトの姿は既に無い。


「アルくんッ、大丈夫だよ! きっと突然のことで風にあたりに行っただけだよ」


「そうだといいんだけどな……」


 エリザベスの言葉に俯きつつ気を入れ直すと、沈んでいたのも数秒で作戦説明に戻った。


「今回の作戦の要は、ルナとアリシアだ」


「にゃにゃ?」


「私……ッ?」


 アルヴィスの名指しに、ルナは小首を傾げて首輪の鈴を鳴らし、アリシアは揺らす脚を止めていた。







 翌朝――アルヴィスは現在、アリシアと一緒に都市ノクタルへと歩き向かっていた。あえて堂々と歩いて向かっているのは、冒険者と間違えてもらうためだ。


「ねぇ、本当に上手くいくの? 君の実力を疑ってるわけじゃないけど、ちょっと怖いな」


「心配すんなって。アリシアのことはぜってぇ俺が護ってやっからよ」


「……うん。――そろそろいいかも」


 アリシアは、都市ノクタル外壁上部に設置されている望楼を見上げる。望楼との距離は直線で50メートルといったところだろうか。外壁とはもっと近く、30メートルくらいだ。門の守衛が肉眼ではっきりと見える。けれど、守衛からは死角になっていて2人の姿は見えていない。2人を見えるのは望楼にいる者のみだ。


「よし、じゃあ頼んだぜ、アリシアッ」


「任せてよ――」


 アリシアは手を胸の位置で組むと、魔力を込めて歌い出した。ゆったりとした調べに眠気を誘われ、隣にいるアルヴィスも聞いているだけで眠くなってしまう。


 アリシアの歌声に、望楼にいる者のみならず門の守衛も反応するが、既に魔法の効果が表れていた。うつらうつらとしだしその場で眠り始めてしまった。


「さっすがアリシア! 言うとおり魔法障壁でも音は防げないんだな」


 実はクリストフの天幕内でアリシアに電話した内容がこのことなのだ。交渉する前に、アリシアの魔法が魔法障壁の影響を受けるか確認したからこそ、クリストフ相手に強きな発言が出来たのだ。


 アルヴィスは外壁に刻まれている魔術印の淡い光が消えていることを確認すると、アリシアを〈次元の穴〉で天幕へと帰らせ、自身は都市ノクタルへとさらに近付いていく。


 門の真上と右角の望楼を無力化したわけだが、他の望楼の者達に魔術の機能停止したことがバレてしまう前に作戦を遂行しなければならない。他の者にバレて無力化するまえに警報でもならされれば、その時点でアルヴィスの作戦のみならずクリストフの作戦も失敗に終わってしまう。


 アルヴィスは目視できる距離にまで近づくと、急いで望楼へと〈次元の穴〉で移動する。アリシアを使って守備兵と魔力障壁を無力化したのは、1番静かに成功させることができるからだ。他のメンバーでは力ずくになってしまう。


 予め望楼守備兵を無力化しておけば、移動した瞬間も安心だが騒がれる心配もない。そのための睡眠魔法なのだ。ちなみに、空間移動魔法は移動先のイメージがはっきりしていないと空間を繋げない。なのでいきなり都市内部に侵入することは出来ない。逆に言えば、アルヴィスは現在望楼から都市ノクタル全貌を眺めているので、はっきりとイメージ出来る限りいつでも空間を繋げるようになった。


 アルヴィスは意識を都市全体へと集中すると、両手を前方に伸ばし魔力を放出し始める。


「全体を包むように……」


 空間掌握するため、アルヴィスは膨大な量の魔力を都市に流し続けた。その進行速度は以前にも増して格段に上がっていた。半径十数メートル程度なら数瞬で空間掌握出来るだろう。だが今回は10万人も住む程の広大な都市全体だ。いくら成長したとはいえ、数分で済むようなことではなかった。


 しばらくしてもうすぐ完成するというところで、都市に変化が生じていた。


 魔力に敏感な魔法師達が、アルヴィスの魔力を感じ取ったのだ。無色で地形に沿って薄く広がっていくとはいえ、アリスやクリストフのような魔力に敏感な者やコントロールに秀でた者には分かってしまう。


「チッ……さすがに時間をかけすぎたか……。しょうがねェ、この辺で止める――」


 アルヴィスは都市ノクタルの7割りの地まで魔力を流し掌握すると、伸ばしていた両手をグッと握りしめて魔法を発動させた。


「〈時空停止ワールドブレイク〉!!」


 瞬間、7割りの地にいる者のそのほとんどがぴたりと動きを止めた。いや、止められたのだ。アルヴィスの掌握した空間――その世界が壊れたかのように停止した。


 だが、高い魔力耐性がある極一部の者には完全な効果は発揮していない。けれど、初めから全てが上手くいくとは思っていない。戦力を半減することが出来れば十分だった。


 その時、遂に都市中に響き渡る程の銅鑼の音が鳴り響いた。その鈍い音は、もちろんアルヴィスという侵入者を知らせるものだろうが、まだ位置まではバレていないようだ。それにアルヴィスの魔法効果範囲外から鳴ったことから、この場に攻めてくるまでまだ時間がかかるだろう。効果範囲に入っても今のアルヴィスの魔力量では止めることはおろか、戦闘すら厳しい。先の魔法で大半の魔力を消費したからだ。


 アルヴィスは残り僅かな魔力を使い、〈次元の穴〉を発動させた。その姿は、肩で息をし既に疲労困憊だ。


 作り出した穴から姿を現したのは――


「はぁ……はぁ……あとは頼んだぜ……アリス」


「カーカッカッ! 我が主人様の頼みとあっては断れぬのう!」


「……悪ぃがあと3割り程残ってる……。けどアリスなら加減してもいけるよな……?」


「無論じゃ! 確認じゃが、都市の壊滅をせねば敵の殲滅はしてもよいのじゃな?」


「ああ……好きに暴れてこい……! 俺は魔法の維持で参加出来そうにねェ……任せたぜ?」


「では行ってくるぞ!」


 〈次元の穴〉から出てきたアリスは、至極愉快そうに都市へと跳んでいった。

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