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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
帝国侵攻編
114/143

第114話 1日

「おいおい……ホントに準備しだしたぜ……」


 アルヴィスは眼前の光景に頭を振って溜め息を吐いていた。


 都市ノクタルから大凡そ500メートル程離れた場所に広がる森林、その内に一定間隔の距離を空けて緑色の天幕がたてられ始めていた。


 クリストフは先の発言通り、本当にここで隊を待機させるつもりなのだ。


 兵達に簡易拠点を築かせつつ、クリストフは地図を片手に小隊を引き連れてどこかへ行ってしまった。


 細かい指示がないまま姿を消してしまったので、残された兵達は言われた通りに動くしかなかった。


 しばらく傍観していたアルヴィスだったが、エリザベスや飛鳥等まじめ組が天幕を設置し始めていたので、独り怠けるわけにもいかずに仕方がなく準備をするのだった。


 ――しばらくすると、小隊を連れたクリストフが戻ってきた。


「各隊長は俺に付いて来い。作戦を伝える」


 クリストフの台詞に、アルヴィスをはじめ多くの隊長達が驚いた。直接作戦を教えてもらえると思っていなかったからだ。


 今日までたったの1度しか会議を開いていないので、そう考えるのも仕方がないだろう。


 ぞろぞろと隊長達が後を付いていくと、着いた先はクリストフの天幕だった。特にそれ自体には何の驚きもないが、その外観に口を開かされる。


 今までは夜営のため気付かなかったが、天幕は黒く、一際眼を引くのが刺繍されている鬼の紋だ。クリストフの甲冑に刻まれている模様と同じものである。


 天幕の入り口が鬼の口にあたり、まるで喰われるために自ら進んでいるような気分になる。クリストフ以外は身がひけていた。


「俺が見たところ、都市を囲む壁には多重の障壁が展開されている。壁に術式が刻まれていた。魔力源は8つの望楼。あれは見張り台の他に、魔力を通す装置の役割もあるようだ」


 天幕に入ると、早速クリストフの説明が始まった。


(あれがそんな役割もしてたなんてな。さすがは魔力操作のエキスパート、といったところか)


 アルヴィスはここまでの話を素直に感心して聞いていた。


 どんなに口が悪く愛想が無くとも、今まで見てきた戦場でのクリストフの姿から、アルヴィスは多少の敬意を持っていた。だからといって、仲良くなりたい相手だとは思わないが。


「あの望楼を対処しなければ攻め込むことは難しい。なので、都市内への侵入、および行動を禁じる」


「「「「なんだってッ!?」」」」


 クリストフの発言に、天幕内が揺れた。


 それぞれ皆違えど、口に出す言葉はどれも驚きを表したものだ。


 アルヴィスも眼を大きく見開き、口をだらしなく半開きにしていた。


「3秒以内に黙れ。斬るぞ――」


 クリストフが瞬時に一本の片手剣を召喚して本気だということを示すと、それまでの喧騒が嘘のように静まった。ギラリと殺意ある光を放つ刀身が、まるで自分を狙っているクリストフの眼光と見間違う。


 天幕内をチラリと見回し再度注目が集まったことを確認すると、クリストフは説明を続けた。


「俺たちがわざわざ都市に入らずとも、敵は出てくる。そこを叩く。地道だが、確実に戦力を削る方法だ」


「任務のために出てきた帝国魔法師を狙うってことだな? それに任務に出るほどってことは、それなりの実力者ってわけだ。上手くいけば被害無く強ぇ奴を潰せるかもしれねぇ」


 クリストフの作戦の意味を理解したアルヴィスが、説明の途中で勝手に注釈をつけた。


「……また貴様か。癪だがそういうことだ。わかったら各自持ち場に戻り、俺の指示が出るまで狩り続けろ」


 会議はお終いだと言わんばかりにマントを翻し背を向け、クリストフは天幕の奥へと姿を消していった。


 残された隊長達も会議が終わったと分かると、天幕から次々と出ていく。だが、アルヴィスだけは天幕内に最後まで残った。


 指輪型電話でアリシアに電話を掛けると、1分もしない内に通話を終了した。何かを確認しただけのようだ。


 暫しの間待っていると、甲冑を脱いだクリストフが戻ってきた。


「……まだいたのか。何のようだ?」


 椅子に腰掛け待っていたアルヴィスを一瞥すると、クリストフはたいして興味も無さそうに聞いてくる。


 いつもマスクで顔半分を覆っているため、初めてクリストフの素顔を見たアルヴィスは、やっぱりロベルトと兄弟なんだなぁ、と思いながら話し出す。


「さっきの作戦だけど、まだ続きがあんだろ? っつーかそっちが本当の理由なんだろ? せっかく最短で着いたのに、2日も待機なんておかしいからな」


「何が言いたい?」


 カマをかけていることに気付いたのか、クリストフは眼付きをやや鋭くして視線を合わせてきた。


「あんたがあれだけの理由で、今までを無駄にするようなことをするはずがないって言ってんだ。あんたなら魔法障壁の攻略くらい余裕だろ? 攻め込むのを躊躇うほどの理由ってなんだよ?」


「よく喋る……。いいだろう、答えてやる。確かに貴様の言う通り、あの程度の障壁破壊など容易い。が、あの障壁は他より兵力を使う。さらに戦闘でも兵を失うことになるわけだが、都市自体が想像よりも広いため、攻略後の守備が手薄になる。だが2日後に攻め落とせば、俺の隊が戻ってくるまでの間くらい護ることは可能だ。俺の隊2000が攻めている街は今回の領土拡大地域ではないため、攻略ではなく壊滅させてくる。つまり軍から応援が来るまで守備をするという必要がないわけだ。――ここまで言えば貴様でもわかるだろ?」


「あぁ……。じゃあ、俺ならそれを全て解決して1日で落とせるって言ったら……どうする?」


「貴様……ふざけてるのなら――殺すぞ?」


「――――」


 剣を召喚した時の殺気とは比べ物にならない程の殺意が、自信に満ちた表情のアルヴィスを襲う。


 だがアルヴィスは真正面から殺意に満ちた視線を受け止める。


「――――たしか貴様は独立遊撃部隊だったな……。1日だけだ。もし失敗に終われば、俺の作戦も潰れることになる。腕の一本ですむと思うなよ? それから、貴様の持ち場に穴を空けさせるつもりはない。半数以上は残せ。――わかったら失せろ」


「十分だッ」


 アルヴィスは許可を得ると、不敵な笑みを残して立ち去った。

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