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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
帝国侵攻編
113/143

第113話 大都市ノクタル

 隊に合流すると、アルヴィスは【EGOIST】メンバーに先頭での出来事を話す。


「えっ!? 3000人で!?」


「そ、それで進路が変わったのですね……」


 真っ先に反応したのはエリザベスと飛鳥だ。


 エリザベスは驚きで眼を見開き、飛鳥は顎に片手を添え考え込む仕草をしている。


「ふんっ……あいつらしいな……」


 次いで反応を示したのはロベルトだった。


「あいつらしい……?」


 アルヴィスが問いかける。


「あいつは昔からそうだ。必要最低限で事を済ませる。無駄な力は使わず、圧倒することをしない。効率重視の人間だ」


「あー……たしかに言われてみれば」


 アルヴィスは過去に見てきた戦略から、クリストフの効率重視で余力を残す戦いを思い出していた。


「恐らくこんなものではない。残された俺たちの方が無理難題を命じられるはずだ」


「だろうな……」


 アルヴィスはロベルトの言葉に嘆息を吐きつつ応えた。


 ――進路を変えて走り続けること半日、2度目の軍分けが起こる。


 前列から伝えられてきた話では、アルヴィス隊はクリストフに付いていく列を追っていけとのことだった。まだ戦う時ではないということだろう。


 今度は2000人という先程より少数の隊がさらに東へと進んでいく。クリストフが持つ2000人の兵だ。指揮官に見覚えはない。クリストフ自身はアルヴィス達を含む5000人を引き連れ北東へと向かう。


 ここまでの進軍にクリストフから迷いをまったく感じない。進行方向も軍分けも全ては予め決めていた戦略なのだろう。反論1つないことから、クリストフの信頼する僅かな者には戦略が伝えられていたと予想も付く。アルヴィスに事前情報は一切ない。隊を指揮する隊長の1人であるにも関わらずだ。クリストフもアルヴィスに負けないくらい自己中心的なのか、用心深いのかもしれない。


 進軍を開始してから初の夜。クリストフ隊5000人は、荒野で起伏が激しくなっていて遠方から目につきにくい地を発見すると、夜営して朝を待つことになった。


 【EGOIST】メンバーは、こっそり隊から離れるとアルヴィスの魔法で学院へと戻ることにした。食事と風呂を済ませるためだ。


 四ヶ月前に初めて〈次元ディメンションホール〉を見せたときは皆驚きで眼を見開いていたが、今では慣れているので空間に生じた穴を通ることに躊躇いはない。


 長い時間全員が姿を消していると怪しまれるので、始めにエリザベス・ロベルト・飛鳥・アリシアを学院に戻す。アルヴィス・アリス・ルナ・エレナは見張り兼誤魔化し役だ。30分後にまた穴を作ると約束し、前半組が通っていく。


「なぁアリス、この進軍のことどう思う? 本当にあんな人数で街を落とせるものなのか? 功城戦って攻める側の方が兵力使うものだろ?」


 アリスの魔法で焚き火をつくり、4人で囲むような位置で岩に腰を下ろしている。


「お前さんの言う通り、確かに普通なら壁から攻略しないといけないから多数の兵を失うものじゃ。普通なら、じゃがな」


「普通じゃない方法があるのか?」


「強力な範囲魔法があれば、護るために逃げることが出来ない敵は防戦一方になる。地の利が逆転するのじゃ、カカッ」


 アリスは自身が昔に破壊した街を思い出したのか、恍惚にも似た笑みを浮かべる。


「主人、範囲魔法など無くても強力な貫通魔法があれば、壁やそれを護る魔法障壁など無いにも等しい。そこから蹂躙すればいいだけです」


「にゃにゃ、ただ見てるだけで勝手に終わらせてくれるものじゃにゃいのかにゃ?」


「…………」


 アルヴィスはエレナとルナの発言に言葉を失っていた。いや、呆れていたといったほうがいいのかもしれない。


 エレナの言っていることはまだわかる。アリスの言う範囲魔法より時間はかかるだろうが、普通に攻めるよりは有効手段だ。だがルナはまた別だ。ルナの言っていることは、恐らく魅了によって集まった魔獣の群れが街を襲ったときのことを言っているのだろう。


 アルヴィスは3人がそれぞれ違った方法で街を簡単に壊滅させることが出来ることに、またそんな彼女達をサーヴァントとして置いていることに驚きと溜め息を同時に起こしていた。


 アルヴィスは、自分の隊が独立遊撃部隊にされたことを理解した気がした。3人がいれば簡単に街など壊滅や蹂躙が出来る。もしかしたら小国すらも――


 4人で談笑していると、あっという間に約束の時刻となりもう一度空間を繋ぐ。


 すぐに前半組の4人が戻って来る。女性陣は風呂からあがったばかりのようにホクホクと上気していた。ロベルトも寛げたようで機嫌が良さそうだ。


 アルヴィス達は前半組にこの場を任せると、穴を通り食事と風呂を済ませに向かう。







 3日後、クリストフ隊は北東に進軍し続けていた。向かうは帝国のいくつかある大都市の1つ、『都市ノクタル』だ。


 人口10万人を超える都市ノクタルは、ギルドも盛んに賑わう都市で多くの魔法師が拠点にしている。また軍事勢力も高く、合わせれば3万人以上は魔法師がいるだろう。現役を退いた者も含めれば5万人に届くだろうか。


 クリストフは都市ノクタルを僅か5000人で落とそうとしているのだ。それを知らされたときは馬鹿げているとさえ思ったアルヴィスだったが、昨日の時点でクリストフが反論など聞く気がないことは理解しているので諦めていた。


 昨夜、夜営をしていた時にクリストフが各隊長達を集め、初めて軍略会議が行われた。そこでアルヴィスは初めてクリストフ軍の第一目的を知ることとなった。それが都市ノクタルの攻略だ。


 謁見の間にて帝国を攻めていくことを聞いてはいるが、詳細まではエドワードが教えてくれなかった。本作戦では複数いる隊長の1人でしかないアルヴィスが、国王から直々に全てを教えてもらえるなどありえないのだ。


 けれど、エドワードが5000人で都市を攻めろだなんて言うはずがない。詳細は知らなくともさすがにそのくらいは分かる。本来1万人で攻めるところを、クリストフが勝手に半数にまで減らしたのだ。だが、予定より大幅に短時間で作戦が進んでいることも事実だ。この事実と実績があることから、軍略会議では誰も異議を唱える者はいなかった。


 ――馬を走らせること半日、遂にクリストフ達は都市ノクタルを肉眼でとらえた。


 高さ十数メートルもある都市を囲む壁。壁は四方形で都市を囲み、壁上の角と各辺の真ん中には望楼が設置されていた。全部で8つあることになる。といっても、大都市全容を見渡せるはずもなく、前方の光景で全体の姿を予想しているわけだ。


 森林の中に潜み観察するクリストフと各隊長達は、都市ノクタルを見て愕然とした様子で口を開いていた。こんな大都市をたった5000人で落とせるのか、と。けれど、周りと違った表情の者がいた。


 クリストフとアルヴィスだ。


 クリストフは眼前の光景にまったく動揺しておらず、どの様にして攻め落とすのかのみが思考を埋め尽くしていた。


 アルヴィスも同様にどう攻めようか考えていた。自分の隊は独立遊撃部隊、好きに攻められる。アリス達の戦力なら、たとえ相手が3万人でも同時に戦うわけではないのでなんとかなるだろう。


 だが、そんなアルヴィスの考えは無に帰することになる。たった一言のクリストフの台詞によって。


「ここで2日待機する」

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