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孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~  作者: 神堂皐月
帝国侵攻編
112/143

第112話 クリストフの判断

 アルヴィスは現在、雷平野を騎馬して駆けていた。その背後には【EGOIST】の全メンバーも騎乗して付いてきている。だが、付いてくる者は【EGOIST】だけではない。アルヴィス達を含めて計100名が騎馬隊となり走っている。けれど、これはほんの一部の戦力に過ぎない。


 1万人を超える軍が、隣国である帝国を侵攻するため進軍しているのだ。


 この軍を指揮する将は、ロベルトの兄であり〈剣帝〉の二つ名を持つ大佐――クリストフ・シルヴァだ。


 1万人の内、2000人はクリストフが保有する個人の隊だ。副官として元【七つの大罪】であるニコデモスを置いている。【EGOIST】は8000人の増兵の一部として参加し、さらに大尉であるアルヴィスは100人を指揮する将となっていた。


 アルヴィスの他にも尉の位を持つ者が指揮する隊が複数ある。それぞれ隊の数はクリストフが振り分けているためバラバラだが、アルヴィスの100人という数は他と比べ少ない。理由は、アルヴィスの隊のみ独立遊撃部隊にしろというエドワードの指示をクリストフがうけているからだ。承諾する条件として隊を少数にしたのだ。


 この軍の他にも別の場所から2軍が、合わせて3軍が今回の帝国侵攻作戦に参戦する。


 2軍のうち片方は同数の1万人。指揮するのは中年男性のイワノフ少将だ。ちなみにアルヴィスとの面識はない。


 そしてもう1軍は、3万人で本作戦の主力である――指揮するのは総大将でもあるローラン・イェーガーだ。


 ローランは去年の雷平野で起きた【七つの大罪】戦での総大将も務めた学院生で、国内の数少ないSランク魔法師だ。その強さから学院ランキングからは除外されている。そして中将の彼は、軍でも一二を争う武力の持ち主であり普段は帝国との国境を護る最前線で活躍している。普段から帝国兵と戦うローランが総大将を務めるのは至極当然だろう。


 全ては国王であり軍最高権力者でもあるエドワードによる軍編成だ。


 ――アリシアがクラン【EGOIST】に加入から3日後の春風がやや肌寒い日、アルヴィスにエドワードから召集がかかった。


 アルヴィスはアリス・ルナ・エレナのいつもの3人を連れて謁見の間に向かうと、そこにはクリストフの姿があった。背後にはニコデモスもいる。


 そして話の内容が、帝国侵攻をするので参戦しろというものだったのだ。


 エドワードの話では、ローラン指揮のもと既に2軍が進軍中とのことだった。つまり場所は違えど、イワノフ少将もローランからの指示で動き出しているということだ。クリストフ軍が1番遅い進軍となる。ローラン軍に関しては既に最前線にいたため、真っ先に軍を進めていた。


 召集から翌日、軍編成を終えたクリストフ軍が進軍することとなった。2軍との遅れを取り戻すために、雷平野付近にエドワードの空間魔法でショートカットをしたので、クリストフ軍は予定より3日間も速く距離を進めることが出来ていた。


 そして現在、アルヴィスがいるクリストフ軍は雷平野を進軍中のわけだが――アルヴィスはある懸念を抱いていた。


 何故1番距離のあるクリストフ達を最後に出陣させたのか。また、何故自分だけが独立遊撃部隊なのかだ。


 最後に進軍させたのはまだいい。魔法でその差をほとんど無くしてくれたからだ。だが独立遊撃部隊だけがどうにも解せなかった。


 アルヴィスは独りで考えていても仕方がないので、少し斜め後ろを駆けるアリスに聞いてみることにした。


「なぁ、アリス!」


 呼び声に反応したアリスが隣まで馬を寄せてくる。


「なんじゃ?」


「今回のことどう思う? なんで俺たちだけ独立遊撃部隊なんかにさせたんだ?」


「……そうじゃのう、表向きは儂等の戦力が群を抜いておるから自由にさせた方が戦果を上げるということじゃろうが、その実、もしかしたらあやつは帝国の奴等に儂等を排除させようとしておるのかもしれぬの」


「はっ!? なんでだよ!?」


「そんなのは簡単なことじゃ、自分よりも強い者が邪魔なのじゃよ。いつ反乱分子になるか分からぬし、地位を脅かされるのが恐いのじゃ。地位ある者はそういったものじゃぞ、お前さんよ」


「ん~、普通そんな奴を近くに置くか?」


「逆じゃよ、じゃから管理下に置くのじゃ。軍という自分の管理下に置く方が監視しやすいしのう。それに今回みたいな大戦に送れば、敵も儂等も殲滅させられあやつからしたら最高の結果となるしのう」


「俺はそんな目的じゃないと信じてるけどな。孤児院も護ってもらってるし、それに、一応俺の孫らしいし?」


「ふんっ、まぁ好きにせい。儂はただお前さんに付いていくだけじゃしの」


「おうっ、そうするわ。サンキューな、アリス」


「当たり前じゃ……っ」


 アリスは気恥ずかしくなったのか、少しそっぽを向いて応えた。その頬は僅かに紅潮していた。


 そうしてしばらく馬を走らせていると、クリストフ軍は雷丘の密林も抜けきり、いよいよ帝国領へと歩を入れた。


 そこは広大な平原だった。


 地平線まで広がる平原には、集落や街といったものは一切なく、ただだだっ広い地となっていた。


 アルヴィスは帝国領へ入ることが2度目となるが、前回とは違うルートであることから初めての景色にキョロキョロと見回していた。


 狼のような中型魔獣が群れで走り回り、鳶や鷹のような鳥型魔獣が上空で縄張り争いをしている。


 アルヴィスはそんな自然界の光景が戦場へ向かっていることを忘れさせてくれ、どこか癒されていた。


「ん? どうしたルナ?」


 いつの間にか左隣へとやって来ていたルナが、耳をぴくぴくと動かしながら景色を眺めていた。


 アルヴィスは耳の動きから何かを感知したのではと思い、声を掛けた。


「にゃにゃ? どうしたご主人?」


「いや、なんかぴくぴくしてるからよ」


「にゃんか久しぶりの自然にテンションが上がるのにゃ」


「……紛らわしい耳だな」


 どうやらルナの耳は、機嫌の良さから自然と動いていただけのようだ。


 しばらくルナの耳を見ていると、そこへエレナが近付いてきた。


「主人殿――」


「どうした?」


「たしか王は最初にイスカを攻めろと言っておったな? もうすぐその街が見えてくるはずだ。気を付けられよ」


 謁見の間に召集された際、エドワードからクリストフ軍に攻めてもらう街を数ヵ所伝えられたが、その中で最初の街――『イスカ』がもうすぐということのようだ。


(そうか、たしかエレナは帝国の研究所で造られたんだっけ)


「わかった。おおよその人口とかわかるか?」


「街の人口か? イスカの広さなら5万人ほどは暮らしているだろうな。その内魔法師は恐らく1万程度だろう」


「そうか……」


(こっちと同数での攻城戦か……どう考えても不利だよなぁ。クリストフはどうする気なんだ……?)


「――ロベルト!」


 アルヴィスは弟であるロベルトにクリストフの考えを聞いてみようと、背後のロベルトを叫び呼んだ。


「なんだ……?」


「そんな嫌そうな顔すんなよ……! もうすぐ初めの街に着くらしいんだけど、お前の兄ちゃんはどう攻めると思う?」


「そんなこと俺が知るわけないだろうが、馬鹿か貴様は」


 ロベルトは兄の話題を出されたからか、少々不機嫌そうに応えると最後には舌打ちまでしている。


 アルヴィスはその様子に「ほんと仲悪い兄弟だよな……」と思いつつ嘆息を吐いた。


「なら直接聞くしかないか……――エリザ!」


 アルヴィスは背後からさらにエリザベスを呼び始めた。


 すでに周りにはアリスやルナ、エレナにロベルトがいてアルヴィスを囲んでいるため、少し離れた場所でエリザベスは近づくのを止める。


「どうしたのぉー?」


 必然大声になるエリザベス。


「ちょっと先頭まで行ってくる、ここの事を任せてもいいか?」


「うんっ、わかった!」


 アルヴィスは【EGOIST】のサブリーダーであるエリザベスにこの場を任せると、アリス・ルナ・エレナの3人を連れて軍の先頭にいるクリストフのもとまで向かっていく。


 5000人ほどの列の横を通り過ぎ、軍の先頭へ辿り着くと真っ黒な甲冑に身を包んだ1人の男を発見する。


「クリストフ大佐!」


 クリストフの横に着くと、アルヴィスが声を掛ける。


「……なんの用だ?」


 クリストフは横目でチラリとアルヴィスの姿を見ると、興味が無さそうな目付きですぐに視線を戻し応えた。


 クリストフの態度は誰であってもいつもこんな感じなので、任務で何度か会っているアルヴィスは今さら気にすることはなかった。


「もうすぐ最初の街に着く、相手は同数らしいがどうするつもりなんだ?」


「貴様に言われずとも知っている。そして俺がどうするかなど貴様ごときに教える必要はない。隊に戻れ、邪魔だ」


「んだとッ――」


 クリストフの言葉にアルヴィスがキレかけた瞬間、遂に最初の街――イスカを目視でとらえ、思わず言葉を止める。


「…………」


 数秒の間、クリストフはイスカ全体を観察するように眺めると、隣にいるニコデモスを呼んだ。


「――3000を任せる」


「十分だ」


 クリストフの台詞に、肩に巨大な戦斧を担いだニコデモスが頷き応えた。するとクリストフは進行方向を左へそらし始めた。ニコデモスは直進のままだ。


「な……ッ!?」


 アルヴィスはその行動に驚きの声を漏らした。


 なんとクリストフは、ニコデモスに3000人の兵を預けイスカを無視するように別方向へと向かいだしたのだ。


 ニコデモスはまるでいつものことのように、慣れた様子で3000人を引き連れイスカへと向かっていく。


「おいおいおい……ッ、1万以上にたいして3000って……何考えてんだよこいつ……!」


 アルヴィスは自身の隊へと戻りながら、クリストフの判断が理解出来ずについ内心を漏らし叫んでいた。

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