第100話 帝国の企み
――帝国、某研究所。
「まだ脱走した被験体は見つからないのかね?」
「申し訳ございません、所長。兵の出動要請は出していますので、もうじき見つかると思いますが」
白髪に丸眼鏡、それに白衣といういかにも科学者といった身形をしている初老に、同じく白衣を纏っている1人の男が応えた。
初老は苛立った表情を見せつつも、自身の席に戻り液晶画面へと眼を向ける。液晶に映るのは、7つの心電図だ。
ここはラザフォード王国の隣国である大国――帝国が保有する研究所のうちの1つ。
新国である帝国がなぜ大国となれたのか、それは単純に資源の保有量が郡を抜いているからである。
資源不足により過去に世界対戦が起きたほどの現在は、多くの資源を得られる土地を確保した者ほど権力を手に入れた。そして村を作り、街を作り、そうやって成長させて新たな国がいくつも誕生した。
帝国はその土地に恵まれていた。そして多くの優秀な科学者がいる帝国は、その豊かな資源のおかげもあり、科学類や機械類の先進国として急成長している。
そんな帝国のある研究所では、一段上の魔法を生み出せないかと実験が行われていた。
一段上の魔法――それは、現在最上位の等級とされているのは戦略級魔法だ。そのさらに上ということは、国防級、もしくは世界に影響を与えるほどの――
7つの心電図の心臓の持ち主達は、所員達がモニタリングしている部屋とは別室の空間にいた。その空間中央には八角形の柱が天井を貫くようにそびえ立っていた。これを所員達は御柱と呼んでいる。各辺の根本に、斜めに設置されているカプセルのような形状をした装置。その内部に7人の少女達が閉じ込められている。
外部からはもちろん見えないが、少女達の全身には電極パッドのようなものが貼られ、頭には何らかの装置であろうヘルメットが被らされていた。
恐らく御柱は、増幅装置のような役割をしているのだろう。
実験中のため、カプセル型装置に閉じ込められているが、少女達の意識はしっかりとある。あるのだが、自我を奪われている。ただひたすら声を出させられていた。声を利用した魔法の実験なのだろう。
そんな少女達は、8つのカプセルに7人しか入っていない。所長が言っていた脱走した被験体とは、残りの1つを埋める人物なのだろう。
「この魔法さえ完成すれば、世界を私の自由に操ることさえ出来る。早く、早く戻ってこいサリーシャ」
いかにも悪人面といった笑みを浮かべる所長は、眼前の液晶からガラス越しに見える別室空間の御柱に視線を移して呟いた。