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康隆  作者: 松田
8/11

走り続ける

リハビリをやっと終えたばかりの足をフル回転させて、地面をはっきりと蹴りながらグングンと前に進んでいく。

走り方すら忘れてしまったのか、康隆のそれは酷く不格好であまりに遅い。

夜だというのにサングラスなんかかけているから、黒服が気付くのが遅く、距離がだいぶ離れているからいいものの、このままでは捕まるのは時間の問題だった。

少ししか走っていないが、だんだんと息が苦しくなり、足だけではなく全身が重くなっていく。

頭がぼやけてきたかと思うといつの間にか視界の端は靄がかかって見えなくなっている。

前に進みたいのに足が、体がそれを許さない。

どうせ呼吸すらままならないのならば空気すら康隆の前に立ちはだかる壁に感じる。

自分の体。それを支える酸素。視覚。

走れば走るほど、全力でやればやるほど自分が信用しているものはどんどん自分からはなれていく。

けれど、ここでやめたら確実に黒服に捕まってしまう。

よくよく思い返せば金利の説明をされていないので一体どれほどの期間で福利がつくのかわからない。おまけに二ヶ月は病院にいた。その間一度も返済することなく。

もはや康隆が多重債務者であることは容易に想像できた。

そうなってくると黒服に何をされるかわからない。

絶対に捕まりたくない。そう思っていた。けれど、ついには康隆の脳みそまでもが裏切り始める。

頭の中で康隆に語りかける。

「もういい。もう疲れた」その言葉を聞く度康隆は止まってしまいたい衝動に駆られる。

もう止まってしまおうかと何度考えたかわからない。しかしそれだって自分で考えているのか、はたまた脳みそがそっと囁いたのかもわからない。

「苦しい」

苦しい。

「止まれば楽になる」

止まりたい。

「辛いのはもう嫌だ」

止まろう。

「そうしよう」

ダメだ!止まっちゃダメだ!!立ち止まったらダメなんだ!!!

気がつけば、脳みそすら康隆を見放し囁きかけるのをやめていた。

自分が今どこにいるのかがわからない。見えてはいるけれど、判断がつかない。

体の感覚はない。走っているつもりにはなっているが本当に走れているのかどうかはわからない。けれど足が重くないことと呼吸が苦しくないことは嬉しかった。

康隆は自分の意識が違うところにあるように感じた。障害物をよけるのも、崩れたバランスを立て直すのも全て無意識。周りの音すらもはや遠くに感じる。

どこかで何かがなっている。一定の間隔で、無機質な音が。

遠くでなっている。と、思っていた。

けれど、思ったよりもそれはあまりに近くでなっていた。

そのことに気がついた時にはもう遅い。

振り向くと大きな壁がそこにあり、康隆にものすごい速さで迫ってきている。

その光景は以前にも見たことがあった。

そしてそれは、病院で目覚める前の、事件が起こる前の最後の光景でもあった。

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