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康隆  作者: 松田
6/11

復帰

看護師に調べてもらって電話をかけてみたが繋がらない。

三日間何度もかけてみたが一向に繋がる気配はないので、四日目にはやめた。

看護師は、御両親に連絡は取れたんですかと回診の時間に部屋に来ては毎日聞いてきたが、繋がりそうもないのでやめましたというとそうですかと言ってそれきり聞かなくなった。アパートの連中も何も知らず、記憶を取り戻す手がかりは絶たれた。

それからはまたいつものリハビリ生活。早く退院できるようにとリハビリ担当の看護師は言うが、康隆には早く退院する理由がないのでリハビリもただ苦痛でしかない。

アパートに帰ったところで部屋代を払う宛がない。要するに戻ったところで追い出されるのが落ちだ。

そう思うと、病院もただ康隆を追い出したいがためにリハビリをこんなにスパルタに仕込んでいるに違いないと思うと、今度は嫌気がさしてくる。

だんだんと康隆はご飯を食べなくなった。

はじめは朝だけ、いつの間にか昼も抜くようになり、気がつけば夜も食べずに眠りに入ることがもう三日も続いた。

看護師にはなぜ食べないだとか食べないと体に悪いだとか言われるが、どうにもそんな気分にはなれなかった。

しかし、ある日康隆がリハビリの時に倒れたのをきっかけにチューブで無理やり食事をさせられることになり、注射も行われるようになった。

透明の管を通って康隆の口の中にはドロドロのゼリーが運ばれ、銀色の管からは多数の栄養が血管の中に入れられた。

顔色が良くなったと言われる頃には康隆の足ももう補助なしで歩けるようになっていた。

「明日にでも退院できるでしょう」黄色い歯をニカッと見せながら、なんとも軽い調子で医者は死刑宣告をくだした。

払う宛がないことを告げるとツケでいいと言われた。病院にツケもクソもあるかと心の中で毒づいたが、とにかく早く康隆を追い出したかったということだろう。

目を覚ます前はともかく目を覚ましたあとですら一ヶ月以上ベッドを占拠していたのが邪魔でしょうがなかったが言えなかったというところだろうか。

とにかく康隆は追い出されたので、何もないアパートの自分の部屋に戻ってきた。

板張りの床の上に寝転って上を眺めるが、見覚えがないのがちょっぴり悲しい。

なにか病院ではできなかったことをやってみようと思い、立ち上がってみたが何もできないことに気がつくととたんに虚しさが襲ってきて、そこで初めて自分がこの部屋にはないことに気がつく。

そうかと思うと疲れがどっと襲ってきたので、やっぱり寝転がった。

そして気がつくと日をまたいでいて、康隆が起きたのは朝の九時。自分の部屋のドアが猛烈に叩かれるのを聞いて目を覚ました。

ドアを開けるなり「帰ってたんなら言ってくださいよ」と隣の男がいってきた。

康隆さんの復活祝いに鍋でもやりましょう。と言うと自分の部屋に来るように告げて男は出ていった。

康隆はどうしようかと一瞬悩んだが行ってみることにした。

参加者こそ康隆と隣の男だけしかいなかったが、誰かとする食事も、その席で飲むビールも康隆には新鮮に感じられてとても楽しかった。

男の仕事が決まり今年の春から新入社員として働くこと、実は康隆の彼女と浮気をしていたということ、ビールとつまみの食い合わせ、そのほかいろいろなことを話した。

すっかり出来上がった状態で 部屋に戻ろうとするとしつこく男に止められたが、いつの間にか眠っていたので黙って男の部屋を出た。

すると、自分の部屋のドアの前に黒服にサングラスをかけた男がたっている。

その男に康隆はとても見覚えがあった。いや、男を見た瞬間思い出した。

そして次の瞬間、全力で駆け出した。

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