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康隆  作者: 松田
3/11

記憶1

康隆には高校二年の頃から十二年の付き合いの彼女がいた。

お互いに愛し合い、浮気をすることもなく、会えるときには毎週のように会って、会えない時でも朝までの長電話は普通で、一度それが原因でケータイの料金がとんでもないことになっていたこともあった。

付き合った当初は二人ともまだ幼く、結婚したいね、などと言い合っていたが年が経つにつれそれぞれ大学、そして社会人としての人生をあゆみ始めだんだんとそんなことを言ってられなくもなってきたが、二十八にもなると三十までにはという思いでだんだんと身を固めようという話も出始め、今年、康隆は二十九になってようやく身を固める決意をし、指輪を買って、次に彼女に会える日を楽しみだという反面恐ろしいという気持ちで待った。

そして、指輪を買ってから次の休日。駅で彼女と待ち合わせてから遊園地へ行く予定だった。

康隆は指輪を渡すことで頭がいっぱいになり、地に足がつかずソワソワしていると集合の一時間前に駅についてしまっていた。

気分の盛り上がっている康隆には、ただ待つには一時間は無限のように長く感じた。

特にすることもないので適当にフラフラしていると物陰から男女の声が聞こえてきた。

かなり抵抗はあったが少しくらいいいだろうと思い、物陰でいちゃつく男女の姿を確認してみると、見てる方が恥ずかしくなるような激しいキスをしていた。

女の方は康隆の彼女によく似た艶やかな黒髪で、男の方は後ろ姿しか見えなかった。

しばらくしてお互いに少し離れると女の顔が見えた。

「もう、いい加減にしてよ。私これから彼と会うんだから」と言っていたのは、康隆の彼女だった。

何度も確認したが間違いではない。夢であってくれと何度も唱えたが、その直後に襲って来た吐き気に現実だと教えられる。

「最後にもう一回だけ」と、男が言い、「しょうがないなぁ」と、女が言って、二人はまた口付けを交わす。

今すぐ目を離して逃げさりたいのに、康隆は目が離せずに、女がじゃあねと言って立ち去るまで物陰から二人を見ていた。

またなと言った男の顔にも見覚えがあった。

それは、康隆の部屋の隣に住む男で、康隆の彼女と男が会話しているところは何度も見たことがあったがそんな仲になっていたとは思わなかった。

殺してやると言う思いを必死に押さえ込んで、彼女との待ち合わせに向かい、電車に乗って遊園地に向かった。

彼女といれば忘れられるかもと思っていたが、彼女といるせいで余計に忘れられずにモヤモヤとしていた。

「最後にあれに乗ろう」康隆は観覧車を促し、彼女もそれに「いいねー」と続いた。

列には幸せそうなカップルが何組もいて、妙に緊張している制服を着た男子を見ると、これから告白でもしようと考えているのかと思うとなんだか微笑ましかった。

康隆と彼女に順番が回ってくると、二人は乗り遅れないように急いで乗り込んだ。

しばらく夜景がキレイだねとか、そんな他愛のない話をしていたが、康隆の頭の中には別の考えでいっぱいで、彼女の話は一切耳に入ってこなかった。

頂上付近に来たのを確認し、話があると切り出すと、ん?と言って彼女は可愛らく首をかしげて見せた。

「別れよう」

彼女は信じられないというふうに目を大きく見開く。「どうして?どういうこと?」

「見たんだ。隣の男とキスしてるところ」

眉間にシワがより、目がさらに大きく開かれ、そして目はがっしり掴むようにこちらをうかがってきたが、どこか焦点があっていないような気もした。

「ごめん」

しばらくしてから彼女が発した一言。時間をかけてやっと出てきた一言。

それからは長い間、沈黙が続く。

観覧車を降りて、遊園地をでてまっすぐ駅に向かう。

駅に着いたところで、もう一度ごめんと彼女が発し、そして泣き出した。

「ごめんなさい。許して。もう絶対にしない。ちょっとおかしかっただけなの。私、もう絶対にしないから」と泣きつかれても、康隆には許せるゆとりはなく、ただ疲れるだけだった。

彼女とは一本ずらして電車に乗ると、仕切りに思い出した。

昔なら許せてたかなと思うとだんだんと涙が出てきて、最寄りの駅についた頃には涙と鼻水で顔の感覚はなかった。

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