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康隆  作者: 松田
2/11

一時帰宅

医者の許しが出たので一時帰宅をして着替えを持って来ることになった。

病院にちゃんと戻ってくることを条件に康隆は自由に歩き回っていいと言われたが、そもそもどこに向かって歩けば家に着くのかもわからない状態の康隆は特にどこかに行きたいとは思わなかった。

家へ行くための電車もどれに乗ればいいのかわからず、実際は一駅のところを逆の方向に乗ったり違う路線の電車に乗ったりで、人に聞き聞き、二時間以上かけてやっと最寄りの駅についた頃にはヘトヘトになっていた。

結局十日間水中歩きをして即席で作った足もあがらなくなってきたので、一休みしようと駅のベンチに腰をかけていると、長い黒髪の女が目の前を横切る。ふと康隆の視線はその女に向かってしまったが、別に綺麗だとか思ったわけではない。

ただ、なんとなく感じるものがあった。それだけだった。

追いかけてみようと思って立ち上がってみたものの、即席の足では追いつけるはずもなく、駅の階段で見失ってしまった。

改札を出て見渡してみても、もう女の姿は見えなくなっていのがわかった途端ため息がでた。

それから、人に聞くという術を身につけた康隆は、とりあえず近くの人間を何人も捕まえて家の場所を聞いて回り、駅からは三十分で家についた。

しかし、 ボロいわけでもないが綺麗なわけでもない、これといって特徴のないアパートを前に康隆はどのドアを開ければいいのかわからずにいた。

病院ほどドアの数が少ないので、これが自分の家なんだから一つ一つ調べればいいと思い、とりあえず一番端にあるドアを開けると、パンツとシャツしか身につけていない男がぽかんとしている。

康隆は構わず男の所までいって辺りを見回した。

「ここが自分の部屋か、実感ないな」

「いや、そりゃあそうですよ。ここ俺の部屋なんすから」

「部屋?ここは僕の家ではないのか?」

「あんたの家はこの隣っすよ」何やってんすかやっさん。と、男はいうので、部屋に着替えを取りに来たことを伝えると、それでどうして俺の部屋に入ってくるんだ言われた。

男に示され隣の部屋のドアを開けると、なぜか自分以外の匂いがしたが、それはとてつもなく懐かしいものであった。

記憶を失う前のことは覚えていないが、部屋に入って中を見てみると、懐かしい景色ではあるが自分以外の存在を時々感じる。

男にこの家には自分以外の人間が住んでいたのかと聞いてみると「同棲してたかはわからないっすけどやっさんよく彼女連れ込んでたじゃないっすか」と言われた。

「そう言えばやっさんがもどるちょっと前に彼女さんやっさんの部屋に来てたっすよ。ドアの前にずっと立ってっから声かけたんすけど断られちゃいました」

「彼女か。そうか、彼女か!」

「どうしたんすかやっさん?急に騒がれるとちょっと怖いっすよ」

この家に漂う自分以外の匂いに合点がいった。そして思い出した。

彼女がいたことを。

事故が起こる三日前に別れたことを。

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