虚無感
目が覚めるとそこは見知った色をしていた。
妙に薄くすすを被ったような白い場所。見渡してみると何やらものがごちゃごちゃ溢れていてさっきまでの静けさが嘘のようにうるさくなった気がした。その代わりにここは病院なんだと気が付く。
ジュースでも飲もうかとベッドを降り自動販売機に行こうとしたが、何が何やら康隆にもわからないがなぜかベッドから落ちた。
立ち上がろうと思ったけれどそうもいかない。
体の感覚がおかしい。と言うよりは体の感覚が無い。足の裏に地面を添えてもだめ。
傍からみたら苦い表情を浮かべながら足を見て座り込んでいる風に見えるだろうが康隆は立ちたかった。
けれど下半身が動かなかった。
「くそっ!」
思い切り引っぱたいても何もない。右手の引っぱたいた痛みがないと本当に叩いたのか不安になるだろう。
そのことがだんだん恐ろしくなり、泣いた。
泣きながら、ズボンの中に手を入れてちんちんをいじり始めた。
しごいても、こねくりまわしても、握ってもまるで感じない。痛みを与えてもみたがやっぱりダメで、オナニーをした後の虚無感とは違ったものを覚えただけで、もう何をすればいいのかも分からなくなると床に突っ伏して思い切り泣いた。
どうして自分ばかりがこんなに追い立てられるのだろう。
「親も、彼女も、仕事も、金も全部なくなっちまった」
気が付けばなくなっていた。
「なんでだよぉ・・・くっ・・・・・・え?・・・」
康隆は思い出す。
「あぁ、そうか!」
記憶を取り戻したことを。
そのことに一瞬安堵するが、それもすぐに落胆に変わってしまった。
こんな記憶ならいらなかったと・・・。
そう思うとまた泣けてきた。
悔しさ、悲しさ、惨めさ、辛さ、苦しさ、何もかもごちゃまぜな思いが渦巻いて、康隆にもわけがわからないでいた。だから余計に悲しくなって、余計に泣けてきた。
悲しすぎて、先生が回診に来たのにすら康隆は気がつかず、ちんちんを握ったまま床で泣き続けた。