1/11
プロローグ
全治三ヶ月と言われた重体も、もはやリハビリを残すのみとなり、近くの市民プールでの歩く訓練ももう三日目になりそろそろ飽きはじめていた。
足に負担がかからず鍛えられるからリハビリにはもってこいだと医者には勧められたが、景色の変わらないところでいつまでもウロウロしているのはどうにも康隆の性にはあわない。
かといって、じゃあ何なら続けられそうかと問われても困ってしまう。
三ヶ月前に重体になってから康隆の記憶の大部分はなくなっていた。
その時持っていた私物から名前、住所、職業などは思い出せたが、ロック画面の解けないケータイもパスワードのわからない銀行のカードも、どうすればいいのかわからず三ヶ月前から手をつけていない。
そんな康隆にも、思い出せることが少しだけあったが、決して楽しいものじゃなかった。