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青の羅針儀  作者: 奈木 一可
第一部・番外
92/99

2:あなたに捧ぐ花のこと-02

本作は番外掌編集第1巻(2016.1.31初版)書下ろし掌編の再録です。

 少年の村はメロアル氷林から程近い、峻厳な山の麓にあった。聞けば、その小さな村の住人の全ては、遡ると全て同じ血に連なる親戚筋であるという。

 村全体が一つの家族のようなものなのだと少年の語った通り、氷林へ使いに出た子供が持ち帰った珍事は瞬く間に村中へ伝わった。少年が見知らぬ男を連れて戻ったこともさることながら、氷林の狼に襲われという報告は、穏やかな村を騒然とさせた。

 氷林を住処にする白狼は、よほどのことがなければ人を襲わない。もしかすれば、何か気の立つことでもあったのかもしれない――とは、ヴィゴを自宅に招いて昼食を振る舞ってくれた族長の言である。

「まあ、半分やったところで逃げてったかんな。そこまで狂ってる訳じゃあるめえよ」

「だと、良いのだが。屍は、そのまま残してあるだろうか?」

 どことなしか憂いるような表情で言う族長に、ヴィゴは「おう」と明朗に頷き返す。

「手つかずで、現場にそのまんまだ。何か始末してきた方が良かったか?」

「いや、それで構わない。後で供養に向かう」

 そうか、と相槌を打ち、ヴィゴは目の前の卓一杯に載せられた料理を次から次へと頬張る。恩義ある客へのもてなしに、と族長の差配で饗されたそれらは、少年とヴィゴが到着した時刻がちょうど昼食時であったことを差し引いても、随分と豪勢だった。

「しっかし、こんなにいろいろ食わせてもらっちまって、何か悪いな」

「何、息子の命の礼には足りぬくらいだ」

 息子、とヴィゴは目を丸くしたが、さもありなん。未来の族長を救ったとなれば、この歓待も或いは道理というものなのかもしれない。そうだったのか、と目を瞬かせるヴィゴに軽く頷いてみせると、族長は「ところで」と改めて切り出す。

「貴殿は懇意の女性に氷晶花を贈るべく、この地を訪ねられたとか」

「へ? ……あー、まあ、そう言って言えなくもねえっつか、そこまで大仰なもんじゃねえけど」

「であれば、息子を救って頂いた礼に、これを」

 そう言った族長が差し出だしたのは、小さな箱だった。艶やかな薄紅の布地で飾られた箱を開けると、その内部には細い銀の指輪が収められている。精緻な彫刻で花を模る台座には、青く光る白い輝石が嵌め込まれてあり、鑑定に関する知識がなくとも、一目でおそろしく上等なものと分かる逸品だった。

 ギョッと息を呑んだヴィゴは、慌てて口の中のものを飲み下して、言い募った。

「おいおい、こりゃあいくら何でも大盤振る舞いしすぎってもんじゃねえか? こんだけ飯食わせてもらって、更にそんなモンまでもらえねえよ」

「貴殿の働きにより、この村の未来は繋がれた。どのような宝石も、それに勝るものではない。感謝の証として、受け取ってはもらえまいか」

「だから、もう受け取ったって」

「貴殿は村の恩人。食事だけで済ませたとなれば、私が村人から非難されようよ。――それに、この村は山から取れる宝石と、その加工を生業にしている。貴殿の思うほどの負担ではないのだ」

 ほのかに笑む族長の姿からは、少なくともその言葉が見栄や虚勢であるようには思われない。さあ、と深みのある声が、穏やかに受け取りを促す。

 ヴィゴはしばらく眉間に皺を寄せて指輪を見詰めていたものの、根負けしたように深い息を吐き、手を伸ばした。族長の掌に載せられた小箱を持ち上げれば、収められた指輪の輝石がきらりと煌めく。

「ここまで言われて突っぱねるってのも、逆に失礼ってもんかね。……しっかし、本当にいいのか? それほどの負担じゃねえっつったって、安いもんでもねえだろ。こんな軽々しく渡しちまって、後で面倒なことになったりしねえ?」

「もちろん、問題ないとも」

 渋い表情を崩さないヴィゴとは対照的に、族長は満足げな笑顔を浮かべている。本当だろうなあ、とヴィゴは未だに疑いを解ききれない様子でいたが、

「あー……じゃあ、こいつは先払いの代金ってことで受け取っとくわ。もしこれから傭兵の手が要るようなことがあったら、王都の傭兵ギルドに手紙でも寄越してくれ。そしたら、すぐに飛んでくっから」

 ヴィゴが言うと、族長は驚いたような、或いは呆れたような顔で笑った。

「貴殿は欲がないな」

「んなことねえよ」

「あるとも。――まあ、この村は国境の行き来からも外れている故、人の出入りも少ない。今後余人の手が必要になることもあるだろう。その時には、是非とも頼らせて頂こう」

「おう、待ってらあな」

「うむ。――ああ、指輪の行く末についても、気が向いたらで構わないので教えて頂きたいな」

「……あん?」

 行く末、と鸚鵡返しに呟くヴィゴに、族長は「そうとも」と何の気なしに頷いて見せる。

「アイリスは『あなたを大切にする』という誓いであり、青光月長石は永遠の愛の証だ」

「んなっ!?」

 さらりと告げられた言葉に、ヴィゴは絶句した。二の句が継げない、という語をものの見事に体現した風で、唇をぱくぱくと開閉させている。

 その有り様を前に、族長はきょとんとした風で首を傾げて見せた。

「はて? 件の女性とは、恋人ではなかったのだろうか。非常に聡明で才ある魔術師、そうでありながら誠に可愛らしいと評していたと、息子から聞いていたのだが。その上、少しも目を離したくないほどに、貴殿はその女性を愛おしんでいるとも」

 更に悪気ない追い打ちを掛けられ、危うくヴィゴは撃沈するところだった。その衝撃と言えば、まるで強烈な拳を食らっているかのよう。劇的に重く響く。

 言ったか言わないかと問われれば、確かに言った。似たようなことを言いはした。それは認めよう。村へ向かう道中、少年の求めに応じて氷晶花の送り先について、あれやこれやと喋ったことは事実だ。

 とても賢く、大人びたところのある娘だとか。若いのに卓越した腕を誇る魔術師であるとか。そのくせ、日常においては些か抜けているところがあり、目を離せないのだとか。

 それから「可愛い? きれい?」と訊かれて、「可愛いか綺麗かっつーと、可愛い方じゃねえかな。ちっと童顔な気がする」とも言った。ついでに「そのお姉さん、どんな感じ?」と問われ、「どんなって、あー……眼、眼だな。眼がすげー綺麗だったの覚えてんな。最初会った時」とも答えた。

 可愛いのにきれいなの、と不思議そうにされて、「可愛いけど、綺麗なんだよ」と今振り返ると、割と訳の分からないことも口走ってしまった気もする。

 だがしかし、言わせてもらいたい。そんなつもりではなかった。あくまでも手のかかる妹とか、世話の焼ける年下の友人とか、そんな認識で喋っていたのであって、他意はなかったのだ。……なかった、と思う。

「……花の送り先は護衛の雇い主で、十七の子供のお嬢ちゃんだ。俺のどうこうって相手じゃねえよ」

「ただの依頼主に、わざわざ王都から花を摘みには来ないと思うのだが」

「来るだろ。……俺とか」

 苦し紛れの反論に返る言葉はなく、ただ微笑ましげな視線だけが向けられた。無性に負けた気がするのは何故だろう。気のせいだと思いたい。

「指輪の使途については、もちろん貴殿の自由だ。私個人としては、吉報を期待したいが」

「そりゃあ、どうも。期待に沿えるかどうかは知らねえけどな」

 それ以上に言いようもなく、ヴィゴは指輪の小箱を懐にしまい、再び食事を開始した。いや、別に会話から逃げた訳ではない。逃げた訳では。

「まあ、指輪に限らずとも贈り物の相談ならば喜んで承るので、記憶に留めておいて頂ければ光栄だ」

「全く商魂逞しい族長だな、あんたはよ」

「褒め言葉として頂戴しよう」

 どうにも食えない相手である。してやられたような気分でにこりと微笑む族長から目を逸らし、ヴィゴは厚切りの肉にかぶりついた。素知らぬ振りで柔らかな肉を噛み切り、咀嚼していたが、やはり言われれば気になるものである。あのお嬢ちゃんの誕生日はいつだったか、とふと頭の隅に疑念が沸いた。

 決して、全くもって族長の言葉に乗せられたという訳ではないが。王都に一人で滞在しているということは、つまり本来祝ってくれる人間も傍にいないということだろう。本人に言ったところで「別にそんなことないですけど」などとつれないことを言われて終わりそうな気もするが、何と言っても彼女はまだ年若い娘なのだ。家族や友人と離れて迎える誕生日を寂しく感じない訳がない。……はずだ。おそらく。

 であれば、とヴィゴは考える。王都に戻った後、もし誕生日を聞き出すことができたなら。その時は、言われた通りにこの村へ手紙を出してみよう。族長の誤解は深まるかもしれないが、家族から離れて誕生日を迎える少女が喜んでくれると思えば、多少のことには目を瞑れる。誤解についても、彼女の耳に入らないようにすれば良いだけのことなのだから。



 日も沈みかけた夕刻、ヴィゴはガラジオスの傭兵ギルドに帰還した。転送機を使っているとはいえ、まさか北の国境沿いまで出向いていたものを日帰りの強行軍で戻ってくるとは、誰も夢にも思わない。

 依頼品である氷晶花を引き渡され、報酬の精算をしながらもギルド長は驚きを隠せないでいたが、対するヴィゴの様子も些か尋常ではなかった。こっちは依頼の奴じゃねえ、と引き渡しを拒んだ大振りの氷晶花と小さな箱を見比べては一人唸っている姿は、傍目からすれば奇妙としか言いようがない。

「……アンタ、さっきっからうるさいよ。唸るなら余所でやってくれないかい」

「ほっとけ、俺にも色々あんだよ」

「何だい、色々って」

「土産の渡し方とかだよ」

 顔をしかめてヴィゴが言うと、ギルド長はぽかんと目を丸くし、そうして大きく口を開けて笑った。ギルド内に居合わせた傭兵たちが何事かと目を向けてくるが、それすらも気にならないとばかりに大笑する。

「土産って! そんなもの、普通に渡しゃあいいじゃないか。何をそんなに悩むことがあるんだい」

「おま、そうやって軽く言うけどなあ! 要らねえって言われたらどうすんだよ!」

 何をふざけたことを、とばかりにヴィゴが食い下がれば、いよいよギルド長の笑いは大きくなる。その眼には、うっすら涙が浮かび始めてすらいた。

「あー、面白い。久々にこんなに笑ったよ」

「何が面白えってんだ、人の真面目な悩みで大笑いしやがって。失礼な奴だな」

「面白いもんは面白いんだから、仕方ないだろう? それにしても、アンタは本当に馬鹿だねえ! あの娘がそんなことを言うと、本気で思ってるのかい?」

「……そりゃ、口に出しちゃ言わねえだろうけどよ」

「口に出さなくても言いやしないよ。喜ぶに決まってる。アタシが保証してやるよ。訳の分からない悩み方するくらいなら、とっとと帰って渡してきな!」

 しっしっと追い払うようにギルド長が手を振ってみせれば、ヴィゴは釈然としないような表情を浮かべながらも、報酬を受け取って踵を返した。

 溜息を吐き吐きカウンターを離れ、外に向かっていく背中はギルド長の腹筋に更なる負荷をかけたが、ここで噴き出してしまうと、また話がこじれるのが見え透いている。代わりに、声を張った。

「ヴィゴ! 贈った時のあの子の反応がどんなだったかは、後で聞かせておくれよ!」

「絶対言わねえ!」

 捨て台詞と共に扉が開閉し、銀髪の長躯が表の通りへと消える。それを見届けてから、ギルド長は堪えていた衝動を解き放つが如くに笑った。

 全くもって思いもよらない――しかし、嬉しい変化だ。あの戦いの昂揚にばかり興味を向けて、自らの命を度外視していたような男が、自主的に北の国境まで出向いて鉱石の採集をしてくるなんて!

 あちこちから「今日のギルド長は笑い上戸だな」だの「変なモンでも食ったんじゃねえのか」だの、口さがない囁きが聞こえてくるが、これをどうして笑わずにいられようか。そうなれば御の字と思い付き程度に企んだことが、ものの見事に実現しようとしているのだ。これで喜び笑わずして、一体何に笑う。

「ああ、ライゼル! 本当にアンタって子は、とびっきりの逸材だよ!」

 笑い過ぎて目じりに浮かんだ涙を払いながら、ギルド長は今ここにはいない少女を、心からの賛辞でもって称えた。


   * * *


 扉が叩かれたのは、ラシェルさんに引っ張り出されて階下で夕食を取り、再び試験勉強を始めて小一時間ばかりが経った時のことだった。

 はて、誰だろう。ラシェルさんとは、さっき顔を合わせたばかりだし……。そう言えば、今日はまだレインナードさんの顔を見ていなかったかもしれない。どこかに出掛けてでもいるんだろうか。

 そんなことを思いながら扉に近付くと、

「おーい、ライゼル生きてっか? 俺だ俺、ヴィゴ」

 頭の隅に顔のちらついていた、当の本人の声が聞こえてきて驚いた。思わず瞬いて扉を開けてみれば、「飯ちゃんと食ったか?」と、そんな第一声。

「食べましたよ、さっき。ラシェルさんに引っ張り出されて、下で」

「引っ張り出されねえでも食いに行けよ」

「勉強がいいところまで来てたんですよ」

「それでも食えよ」

「……えー、まあ、なるべく善処します」

 はい、と頷くには自信がなさ過ぎたので、曖昧に答えておくと、その意図を察してしまったのか、レインナードさんの眉間に露骨な皺が寄るのが見えた。

「ったく、お前って奴はなあ」

「だから善処はしますってば。で、今日はどこか出掛けてたんですか?」

「ああ、ちっと北の方に行ってきた」

 え、北? 北って何、どの辺? ――等と思っている間に、レインナードさんは何やらごそごそと取り出し、私の目の前に差し出した。

「ほい、土産」

「はい? ――って、うわあ、何ですかこれ、綺麗ですね! 氷の花?」

 レインナードさんが手にしているのは、透き通った結晶で作られたと思しき、一本の花だった。同じように結晶でできた太めの茎から生えた枝の先に、三つの大輪の花が咲いている。

「氷晶花っつー、メロアル氷林の名産。花に似た形を作る魔石の一種なんだとさ。魔力を吸って冷気を放つんで、部屋に置いときゃいくらか涼しくなるだろ」

 手渡される花を受け取りながら、試しに魔力を込めてみれば、ひやりとした冷気が腕を撫でた。うわあ、本当に魔力を吸って冷気を放つらしい。

 その効果にも驚いたけれど、何よりもびっくりしたのは、この花が結晶細工ではなくて、自然物であるらしいことだ。そんな不思議なこともあるんだなあ。結晶を削り出した細工物かと思ったのに。

「へえー……ありがとうございます」

「どう致しまして。あんま根を詰め過ぎんなよな」

 大きな手が伸びてきて、ぐしゃりと頭を撫でる。その感触が、何だか妙に懐かしく感じられた。

「そんじゃ、邪魔したな。早く寝ろよ」

 言うだけ言って、レインナードさんは自分の部屋へ戻っていった。その背中を見送った後で、私も扉を閉じて部屋の中に戻る。

 最近はすっかり暑くなってきていたから、部屋の気温を下げてくれるものはありがたい。ただ残念なことに、花瓶なんて洒落たものは、この部屋には存在しないのだ。しばらくは何か空き瓶にでも挿しておくしかなさそうだ。申し訳ないけれど、今度外出する時に買ってくるまで、それで我慢して頂きたい。

「てことで、何か手頃なのはあったかなーっと」

 花を持ったまま部屋の中をウロウロしていると、キッチンの流しに昨日女将さんにもらったジュースの空き瓶を置いたままだったことを思い出した。

 あれは確か、滑らかな流線型のつるりとした、薄青の瓶だったはず。割と綺麗な造りで、ただ捨てるのでは勿体ないと躊躇ったような覚えがあるから、花瓶にしてもそこまで見目悪くはないんじゃなかろうか。

 キッチンに向かってみると、予想通り流しには目的のものが放置されていた。そうっと鉱石の花を流しの傍らに置いてから、瓶を取り上げて軽く中を洗う。それからやっと花を挿してみると、意外に瓶の青と花弁の透明感がよく嵌っていた。これはこれで良いかもしれない、と一人悦に入りつつ、少し迷った末に花瓶をベッド近くの棚の上に置くことにする。

天井の魔石灯の光を受け、きらりと輝く花は何とも言えず美しかった。

「よし、また頑張ろう」

 花に魔力を注ぐと、ふんわり冷気が漂ってくる。気分転換にはうってつけだ。ありがとうございます、と一人呟いてから、机に戻った。


   * * *


 ――しかし、意気も新たに試験勉強に励む少女は、知る由もない。

「とか言って、渡せる訳ねえだろアホかっつーの!」

 少し離れた部屋の中で、指輪の収められた小箱を前に頭を抱えている男がいることなど。

「……どうすんべ、これ」

 自室に戻ってきたヴィゴは、渋い表情でテーブルの上に置いた薄紅の小箱を睨み、溜息を吐く。

 そもそもからして、厚意によって贈られた代物である。売り払うのは気が咎めた。かと言って、用いられた意匠と宝石に仮託された意味合いを聞いた後で、何食わぬ顔をして渡す気にもなれない。言わねば分からないとしても、それを知っている自分が気にしてしまうのだ。こればかりはどうしようもない。

 しかし、そう思いながらも、指輪を他の誰かに渡すという選択肢は、ごく自然にヴィゴの思考から抜け落ちていた。指輪を身に着けそうな――もとい受け取ってくれそうな知人友人の心当たりがない訳ではない。ただ、それがこの指輪を渡すに相応しい相手かと考えると、どこか違うと思わざるを得ないのだ。

 親しさの度合いの問題ではなく、何かが「違う」という気がする。してしまう。

 それは単に指輪を受け取った時、相手として想定されていたのが他でもないライゼルであったからかもしれないし、或いはもっと違う思惑が、ヴィゴ自身も自覚しない中で胸の内にあったからかもしれない。元より大雑把な気質のヴィゴはそのことについて深く考えはしなかったが、いずれにしろ困り果てている状況が改善されることもなかった。

「どーすっかなあ」

 最前とまるきり同じことを呟き、ヴィゴは乱雑に頭を掻く。はああ、と漏れ出す重々しいため息は、その日の夜遅くまで断続的に続いた。

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