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青の羅針儀  作者: 奈木 一可
第一部
84/99

19:そして太陽は輝く-01

「左上腕骨折、その他打撲に擦過傷も多数。加えて極度の疲労、魔力の過剰消費。癒しの泉に浸かっていた分、幸いにして肉体的な損傷は大部分が治癒されかかっていた。が、泉は魔力――精神の消耗までも癒すことはできぬ。故に、そなたは丸七日、寝込んでいたという訳だ」

 目を覚ました途端、そう告げられて驚かない人間がいるだろうか。

 場所はエルフの里内、ローラディンさんの館。更に詳しく述べると、その中でも一番に馴染みのある部屋にあたる。つまり、ここしばらく私に割り当てられていた客間……のベッドの上。いつ館に戻ったんだっけ、と一抹の疑問を覚えつつ身体を起こすと、示し合わせたように扉が開いて、館の主がやってきた。それが、ほんの数分前のこと。

 ――で、先の一言である。

 唖然として目と口をぽっかり開けた私をベッドサイドから見下ろし、ローラディンさんは肩をすくめてみせる。ご丁寧にも「言っておくが冗談の類ではなく、れっきとした事実だ」とまで付け加えて。

「ええと、ちょっ、ちょっと待ってもらえます……?」

 大急ぎで記憶を浚う。覚えているのは、どこまでだ。

 樹海での戦いはどんどん押し込まれて、最終的には文字通り泉の淵まで達してしまった。うん、そうだ。そこから人形遣いとやり合ったり、アクィラと先生が助けにきてくれたり、バルナバーシュさんをこっち側に引き込んだりした。ああ、バルナバーシュさんと言えば、結界の外に跳ばされてしまったんだっけ。今はどうなっているんだろう、そこも確認しないと。それから、

「――ヴィゴさん! あの人生きてますか!? ここにいます!?」

 ハッとしてローラディンさんに向き直ると、何故か「やれやれ」と言わんばかりの表情とジェスチャーをされた。どういうこっちゃ。

「奴はもう大事ない。肉体的な負傷だけで済んだ分、そなたより寝ている時間は短かったほどだ。お陰で、今日までやれまだ起きないのか目覚めないのかと騒がしかったこと」

「あ、そうなんですか……」

 それは良いことを聞いた。ホッと胸を撫で下ろし、ついでに、もうこうなればと潔く確かめてしまうことにする。

「ところで、私はいつどのようにしてこの部屋に戻ったのか、お伺いしても?」

 尋ねると、ローラディンさんはいよいよ溜息を吐いてしまった。

「我々が泉の傍に戻った時は、既に戦いは終結していた。そなたとヴィゴが折り重なって倒れている様を見た時は、まさかと肝が冷えたものだ」

「ということは、もうその時には倒れちゃってたんですかね」

 実際、覚えているのも雨が降ってヴィゴさんが目を覚ましてその後少し、といったくらいだ。

「左様。ヴィゴは辛うじて意識を留めていたが、そなたは完全に眠っていたな。ぴくりとも動かぬので、王が心配に及ばずと教えて下さらねば、危うく葬る手はずを整えるところであったが」

 ははは、と軽やかにローラディンさんは笑う一方、私にできたのは頬を引き攣らせることだけだった。全くもって笑えない。……冗談だよね? 冗談ですよね……?

「ともかく、目覚めたのならば少し辺りを歩いてくるが良い。身体の傷は既に癒え、意識さえ戻れば問題ないと医師も太鼓判を押した」

 今なら裏庭が日当たりもよく散歩に最適だ、などと言って、私に反論の隙も与えずローラディンさんは部屋から追い立てた。寝間着のままなのに。身支度もろくにしてないのに。

 いくら裏庭と言えど、外は外だ。そもそも、この館自体家令さんを筆頭に多くの人が出入りしている。とてもじゃないけれど、こんな姿じゃウロウロできない。

 途方に暮れていると、タイミングよくいつぞやの夜に顔を合わせたメイドさんが通りがかった。如何なさいました、と問われるので、正直に答えると――

「あら、まあ。では、私の服で宜しければお貸し致しましょうか」

「い、良いんですか?」

「ええ、もちろん」

 そう言って微笑み、メイドさんは私を促して廊下を進んでいく。ありがとうございます、と頭を下げつつついて行った先に案内されたのは、小ぢんまりとした部屋だった。

 客間に比べれば半分ほどの広さながら、小ざっぱりと整頓されている。メイドさんはクローゼットを開けると手早く衣服を取り出し、

「こちらをお召しください。御髪などはお眠りの間もお世話を仰せつかっておりましたので、ひとまずはこのままでも構いませんでしょう」

 そんな言葉を聞きながら、あれよあれよと身支度は整えられていった。

 ふんわりとしたドレープのスカート、レースのあしらわれたブラウス、それから細やかな刺繍の施された上着に……。次々に渡されるまま着ていってみれば、学院で見かける女子生徒もかくやという可愛らしい服装になっていた。

 今までは基本的に走り回ることを考慮して服装を選んできただけに、ひどく新鮮に思える。というか、新鮮過ぎて似合ってるのかどうかもよく分からない。後、すっごい馬鹿みたいな感想だけど、スカートってどことなしか防御力が不安になるね……!

「あ、あの、お借りする身分で大変恐縮なんですけども、これ似合ってます……!?」

 軽く慄きながら問うてみれば、

「とてもお似合いです」

 輝かんばかりの笑顔で肯定。有無を言わせぬ空気さえ感じる満面の笑みで、なんかもう「そうですか」としか言えない。

 そうしている間にもメイドさんは私を椅子に座らせ、髪を梳かしてくれる。

「綺麗な色の御髪ですから、偶には下ろしてみましょうね。少しだけ編んで、後ろで留めましょう」

 両サイドで手早く作られた三つ編みが後頭部に回され、何やらバチンと留められる感触。髪に差し込まれた感じからして、バレッタの類だろう。バレッタと言えば、最近使ってたの壊れちゃったっけなあ。お手頃な値段だった割に可愛くて気に入ってたのに、無念。

「さあ、これで出来上がりです。裏庭は部屋を出て廊下を右に、突き当たりを左に曲がった先にございます。どうぞ行ってらっしゃいませ」

 客間での出来事を彷彿とさせるような、流れるような動きで部屋の外に出され、見送られる。微妙に誰かさんの掌で転がされているような感じを覚えなくもないものの、別段悪いことでもなし……と思うことにして、言われた通りの道のりを進む。

 裏口らしく重厚な造りの扉を開けると、眩いばかりの陽光が目を刺した。七日間寝ていたというだけあってか、痛みさえ覚える。目を細めながら見上げた空は青く晴れ渡っており、見た感じお昼前といったところだろうか。そう考えるとお腹も空いてきた気がするから、何とまあ現金なことか。とりあえず、戻ったらご飯を頂けないか訊いてみよう。

 今にも鳴りだしそうなお腹を抱えつつ足を踏み出すと、まず目に入ったのは裏庭という名前にそぐわないほど立派な生垣だった。綺麗に整えられた生垣の中には、四阿がある。前に「裏庭に小さな泉の庵がある」って聞いたっけな、と思い出しながら生垣を迂回して四阿に近付いてみると、果たしてその屋根の下には小さな泉が湧き出していた。

 泉からは細い水路が伸びており、四阿の周囲を一巡しては生垣の向こうへと続いていく。花盛りの頃には、生垣から散った花弁が流れていったりもするのかもしれない。何とも風流だ。更に、四阿には他に見事な彫刻の施されたテーブルと長椅子が二脚置かれており、

「……何寝てんですか」

 薄々予想はしていたものの、案の定な人が長椅子の一つに寝転がっていた。

 コツコツと靴音を立てて、長椅子に近付く。仰向けになって転がっているその人は、罰当たりなことに本を顔の上に載せて日除けにしていた。あれだけ血塗れのボロボロになっていたのだから当然か、衣服は全て新しいものに替わっていた。いつもの探索スタイルではなく、森の戦いの中でチラチラ見たエルフの兵士たちの装束に近い。

「寝てねえよ。寝っ転がってただけだ」

 思わず呟いた言葉に、答えがあって驚く。ぱしぱしと眼を瞬かせる私の目の前で、長椅子の上の長躯はむくりと起き上がった。胡坐を掻いては顔の上に載せていた本を閉じて膝の上に置き、私に向き直ったかと思うと、自分の隣をべしりと掌で叩く。そりゃあもう、眉間に深ッい皺を寄せて。

「ここに来たってこたあ、それなりに調子が良くなったってこったろ。おら、座れ」

 何故にもうお説教モードなのか。大変に解せぬ。

 さりとて断れる雰囲気でもなければ、断る理由もなし。大人しく隣に座ると、ヴィゴさんは深々とした息を吐いた。

「ったく、とんでもねえ無茶ばっかしてくれやがって。人がねえ頭捻ってあれやこれやと手え打ってみたってのに、肝心のお前が暴走してどうすんだってんだ」

「そんなこと言われたって、その手の打ち方が土台間違ってるんだから仕方ないでしょ」

「ああ? 間違ってるって、どういうこった」

「だって、あなたは私が危ない目に遭わないように、って心配してくれて独りで行動することにしたんでしょうけど。あなたが独りで危険に飛び込んでいくっていうなら、私も私で心配するに決まってるじゃないですか」

 隣へ顔を向け、橙の眼をじっと見上げて言う。見つめる眼がゆるゆると見開いていくのを見ながら、更に畳み掛けた。

「あなたがこの森の戦いで命を落とすかもしれない。だったら、どうにかしてそれを阻みたい。そう思って後先考えずにここまで来ちゃったくらいには、私にとってあなたの存在は大きいんですよ。そりゃあもちろん、自分の為に誰かが死ぬかもって重圧を恐れたことも、なかった訳じゃないですけど。――でも、結局は目的としては同じになる訳ですし」

 ほら、前に私の目的は何かって訊いたでしょう。

 そう添えると当時のやり取りを思い出したらしく、ヴィゴさんが「そう言や訊いたな、そんなこと」と声を上げた。そして、一転して凄まじく苦々しげな表情を浮かべる。

「てこたあ、何か? お前は俺を助けにここまで来たってのか?」

「他に何て聞こえます?」

 肩をすくめてみせると、ついにヴィゴさんは絶句した。あんぐりと口を開けていたかと思うと、すっかり焼け焦げも治癒された右手で目元を覆って項垂れる。

「何だよ、そりゃあ……」

「何だよって、要するに私達は同じことをしてたんですよ。お互いが死なないようにって、その為に。だから、そう思えば私の気持ちも、よーく分かるでしょう?」

 呻くような声に笑ってみせると、ヴィゴさんは顔を上げ、一層剣呑な表情をした。

「何が『よーく分かるでしょう?』だ。全然同じじゃねえだろ、俺は傭兵、お前は学生。俺は仕事で、お前は私情。お前はただ無茶して馬鹿やっただけじゃねえか」

「それを言うなら、ヴィゴさんだって相当な馬鹿やったじゃないですか。きちんと書面で交わした契約を――それもギルド長が直接締結に関わった奴を一方的に破棄するとか、職業人としてどうかと思います」

「うぐっ! それはだな……」

「それはも何もないでしょ。失ったもので言えば、それこそヴィゴさんの方が大きすぎます。私なんか所詮講義を少しサボったくらいですけど、契約云々なんて信用問題じゃないですか。今後の仕事にだって差し支えちゃう」

 私がそう言った後もヴィゴさんは何か反論の糸口を探していたようだったけれど、結局は何も言えずに肩を落としてしまった。とは言え、冗談でもこれを「勝った」なんて言えない。

「本当に、あなたが得たものなんて無いに等しいじゃないですか。ひどい貧乏くじですよ。騎士団に使われてこの森に来て、ひたすら戦って傷付いて」

 言いながら、次第に視線が低くなって隣の人から逸れていく。確かに私は我が身が可愛い利己主義者だけれど。それでも、多少の良心はあるのだ。

 私の為に要らぬ苦労を背負い込んで、挙句の果てに死にかけた人がいる。そのお陰で今私が無事でいるのだとしても、心苦しいどころの話じゃない。とてもじゃないけれど、手放しに喜べやしない。

「有難いと、それは心から思ってます。思ってますけど、でも、ここまでしてくれること、なかったんじゃないですか」

 そう言った途端、頭の上に手が落ちてきて、思わず反射で肩が跳ねる。落ち着いてみれば驚くに及ばず、落ちてきた手は殴るでも叩くでもなく、ただ上に乗っているだけだったんだけれども。

「馬鹿言ってんじゃねえよ。俺はお前と契約した――お前の傭兵だ。だったら、俺はお前を守るもんだろうが」

 言葉の割に柔らかい響き。まるで一分の後悔もないと言わんばかりの。

「そりゃあ、傭兵稼業信用の有無はでけえさ。そんでも、信用なんてもんは無くしたって、また取り戻せばいいだけの話だ。命にゃ代えられねえよ」

「……それ、自分にも返って来るって分かってます? あのままあなたが死んでたら、私、きっと一生引きずりましたよ。絶対立ち直れない。本当に……命なんて、戻らないんだから」

 思い起こされるのは、あの泉のほとり。

 まるで眠るように、閉じられた瞼。死んでしまったかと思った。喪われてしまったかと。心臓が潰されるような苦しみだった。

 そんなのは、二度と御免だ。そんな思いをさせられるのも、させるのも。

「ねえ、ヴィゴさん。昔話をしてあげます」

 顔を上げれば、頭の上から手が離れる。逃がさないように、逃げられないように、その手を掴んだ。何故か、怯んだみたいな顔をされたけど。

「昔々、ある国に一人の女がいました。そいつは無口で厳しいけど優しい父親と、ちょっと過保護だけど愛情に溢れた母親の間に生まれて、生意気だけど可愛くない訳でもない弟と一緒に育って、何不自由なく二十三歳まで生きました。その国では二十三歳なんて、まだ半人前に毛が生えたくらいのものだったんです。やっと学院を卒業して、働き始めたばっかり。子供じゃないけど、一人前の大人とも言えない。親に受けた恩を、これから何十年とかけて返していく、その出発点に立っただけのヒヨッコ。そいつも、何の疑いもなく信じてましたよ。何十年もまだこの先未来があって、その中でいろんなことをしていくんだろうと。していけるんだろうと」

 そこまで言って、一度言葉を切る。きっと訳の分からない話だと思っているだろう。それでも、ヴィゴさんは黙って私を見返していた。

「――でも、そんなことはなかった。運が悪かったと言えばそれまでです。ある日、一日の仕事を終えて家に帰る途中のことでした。夏の、明るい夕方の大通り。大人も子供もたくさん行き来していて、だからこそ、何かを起こすのにはうってつけで」

「……何が、起こった?」

 低く抑えられた声が、問う。

 私は、努めて笑った。十七年も前のことだ。もうどうやったって取り返しがつかないとも、納得しきっている。だから、笑って語るくらいのことは、できた。できたはずだと、思う。

「通り魔です」

 目の前で、息を呑む素振り。

 わずかな苦みのようなものが、胸を過った。けれど、それを表に出す訳にはいかない。代わりに、笑みを深める。もっとも、上手く笑えているかはよく分からなかった。自分の顔は見えないし。

「犯人は若い男で、刃物を振り回して手当たり次第に切りつけていました。でも、そう――思えば、女子供を狙っているようではあったのかも。あの子を見つけた時、確かに笑っていたから」

 脳裏にちらつく顔できちんと残っているのは、もう歪んだ口元と爛々と光る目玉だけだ。それでも笑っていたと思う。笑っていたんだと、思い出せる。

「それに気づいた瞬間、そいつは、うん……本当、馬鹿は馬鹿だったんだと思います。咄嗟に走り出して、割りこんじゃった。驚いて、竦んで、動けなくなってた子供と、犯人の間に」

 どん、という衝撃の後に、ひやりとした冷たさを感じたことも。追って猛烈な痛みと熱さに駆られたたことも。まだ、覚えている。

「あれは、うん、痛かったなあ。すごく痛かった。お腹の中にズブズブって刺さってって、もう何が何だか分かんないの。でも、我ながら頑張ったなあって思うのが、あのね、ちゃんと守れたんですよ。刺さった包丁抜いて、今度こそって言うみたいにあの子を狙おうとするから、しがみついて、離さないように。何度も刺されたけど、負けなかった」

 気付くと、ヴィゴさんの顔が軽く蒼白になっていた。確かに、こんな話聞かされても反応に困るよなあ。うっかり回顧なんかしてしまったけれど、早く終わらせないと。とっとこ締めに入ろう。

「で、まあ、そんな風になったそいつが生き延びられるはずもなくて、死んだんですけど。死んだくせになんで『守れた』なんて言えるのかっていうと、そいつ、死んだ瞬間に幽霊みたくなって、見てたんです、全部。自分が刺されてる間に周りの通行人があの子を抱えて逃げてくれたこととか、私が死んだ後に警察が来るまで必死に犯人を取り押さえようとしてくれてたこととか」

 それはちょっと嬉しかった。私がしたことは無駄じゃなかったんだって、少し誇りに思えた。

「でも、やっぱり家族は悲しませたし、苦しませたと思います。最終的には警察――こっちでいう騎士団かな、それが犯人を捕まえて、そいつも既に死んでたんですけど病院に運ばれて、そこで家族と対面したんですけど。そりゃあもう、そっからはひどいもんで。母親は泣き叫ぶし、弟は泣きながら罵倒するし。父親だけはそういうのなかったですけど、やっぱり悲嘆に暮れてるって風でした」

 あの時したことは、今でも決して間違いじゃなかったと思う。でも、家族の反応を目の当たりにした時になって、初めて後悔のような、未練のようなものを覚えたのも確かだった。

「それで、まあ、自分ではやり遂げた気でいたんですけど、すごい親不孝したとも思ったんですね。それに、あの子だって、後々きっと困るんだろうなあって、今更に気付いたりして。だって、実際重くないですか? 見ず知らずの人間が自分を庇って死んだとか、どうしろっていう」

 だからね、と前置きして、改めて橙を見上げる。

「死んだら駄目なんですよ。家族が……残された人が悲しむ。悲しむなんて言葉じゃ全然足りないくらいに、傷を作っちゃう。仮に誰かを守ってのことだとしても、死んでしまったら守られた人に、問答無用で物凄い責任を負わせちゃうから。死んだものは還らない。だから、その重荷は返しようがないんです。ただただ、背負っていくしかない。それって、ほんの子供にさせるには酷なんてもんじゃないと思う。今になって、やっとそれが分かりました」

 生きていた頃には罵り返していただろう弟の言葉にも、こうなっては否定できない。私は間違えてはいなかったと思うけど、やり方は不味かった。

「皮肉な話なんですけど、死んでから実感できました。『自分の命を捨てて」

「誰かを守る英雄になんてならなくていい、だろ」

 私の言葉を遮って言う低音に、はたと瞬く。

「……あの時のは、ぼんやりしてっけど覚えてる」

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