18:命溢るる逆月の泉-04
迸るのは突風。逆巻くような圧力。本来ならば色など持ち得るはずのない風は次第に黒く歪み、やがて鈍色の鎧を纏う騎士に絡みついた。まるで蠢くように、或いは蛹の中で羽化しようとする蟲のように、黒い風は騎士を覆い隠す。
そこからは、全くもって有り得ない事態の連続だった。
斬り飛ばされた腕が生える。削げた顔が元の形を取り戻す。失われた兜が再生されて頭部を覆い、更には黒く染まった鎧ごと体躯は一回りも大きく膨らんで、寸前までの細身は見る影もない。全身から瘴気じみて禍々しい魔力が立ち上らせる様は、例えようのない不吉を感じさせた。
『我が君よ、お手を煩わせることとなり申し訳ございません』
別人のように丁重な口振りで述べる人形遣いに一瞥すらくれず、漆黒の巨躯――いや、極北の悪神は剣を振り上げる。
「ライゼル隠れろ!」
瞬間、怒号じみた声が轟いた。それがよく知った人の声なのだと認識するよりも早く、一足飛びに漆黒の鎧の懐に飛び込んだ背中が水平に構えた槍の柄で剣を受け止める。
剣と槍の激突の衝撃たるや凄まじく、私は足をすくわれて尻餅をつき、石柱はぐらぐらと揺れ、石畳は次々と剥ぎ取られた。おまけに実際に攻撃を受けた訳すらない、地中に仕込んだ罠の三割がたまでもが吹き飛んでしまった。ヴィゴさんが止めに入らなければ、倍では済まない被害になったに違いない。
「――ンの、馬鹿力が!」
怒鳴りざま、ヴィゴさんが大きく槍を振り抜いて黒剣を弾き返す。しかし、何故か追撃に出ることはなく、それどころか大きく後ろに跳んで距離を取った。そうして地面に足をつけると、握り直した槍の石突で音高く地面を叩く。
「kenaz、thurisaz、nauthiz、teiwaz――」
痛むお尻に鞭打って立ち上がりながら、はてと首を捻る。唱えられたのは、四つものルーン。ヴィゴさんがそんなにも多くのルーンを重ねて使うところなんて、今まで見たことがない。何の為に?
深まる疑念は、突如解決した。見つめる先で、天をも焦がす勢いで炎が燃え上がる。赤々とした炎は目にも止まらぬ速さで地面を走ると、境界を敷くように、ぐるりと私を除く三人を取り囲む壁を作った。
唖然とするとはこのことだ。その術の意図なんて、探るまでもない。見れば分かる。
まさに不退転の戦意の具現。境界を超えて領域に足を踏み入れたが最後、戦わずしての撤退は許されず、勝利なくしての脱出もまた許されない。
つまり――あの人は、本気で、神と呼ばれるモノ相手に一人で戦う気でいる。
「ちょ、ヴィゴさん!」
やばい、と思った瞬間には声が出ていた。
あちらはカミサマに加え、人形遣いまでもが揃って領域に囚われている。あの素振りを見るに、人形遣いが戦いに手を出すとも思えないけれど、何かあれば援護に入るだろう。そうなれば、圧倒的な不利だ。
「何してるんです、無茶すぎるでしょう!?」
ここまで攻め込まれてしまっている以上、足止めをするに選べる手段など、そうは多くない。分かってはいたけれど、口に出さずにはいられなかった。それでも炎の中から返事はなく、ただじりじりと二つの影が武器を構えて睨みあうのみ。どうしよう、と咄嗟に考える。
援護をするべきか、と考え、無理だろうと自分で自分の思考を否定する。意思の疎通がほぼ取れない状況で、それは難しい。どんな手を打てば現状の最善手になるのか、ヴィゴさんの助けになるのか、私では分かりようがない。下手に手を出して、ヴィゴさんの戦いを乱すようなことになっても最悪だし。
ならば、どうする。何をもってすれば助けになる。
「……援軍を」
やはり、行きつくのはそれだった。
戦力が足りないなら、余所から補充するしかない。一番近くにいるはずなのは、先生とラファエルさん。ただし、二人とも安否が分からない。それに、当然ながら二人きりだ。それでは極北の悪神相手に足りるかどうか。となれば、頼るのは――
『……ローラディンさん、ローラディンさん、聞こえますか……』
私に精神感応魔術の心得はない。もしかしたら、有事の際に備えて繋がりを残してくれているかもしれない。一縷の望みを託して呼び掛けると、
『ライゼルだな? ちょうど良かった、今こちらからも呼び掛けようとしていた』
思いの外すぐに返事があって、気を緩められる状況ではないとは言え、ほっと息が漏れる。残念なことに、ささやかな安堵に浸るには、返された言葉が不穏だったけれど。
『ちょうど……? もしかして、こちらの状況をご存じで?』
『うむ、王より警告があった。現れたのであろう、奴が。忌まわしき北の禍つ神』
『ええ、はい、現れたっていうか、人形を媒介にダウンロードされたみたいな……』
『だうん……?』
あーそっか、ダウンロードとか、通じないよな。
『敵の人形に憑依しているような感じ、といえばいいんでしょうかね。今はヴィゴさんが一人で足止めをしてくれてるんですが、状況が危険すぎます。私では大した役に立ちませんし、どうか援護をお願いできませんか。できれば、早急に』
『分かっている、既に一軍と共に向かっている最中だ。王によれば、幸い奴は完全ではない。あくまでも一部が召喚されただけのことだ。付け入る隙はある。――よいか、くれぐれも取り乱してはならぬぞ。冷静に、慎重に立ち回るのだ。そなたは謙遜するが、決して無力ではない。ヴィゴが共にあるならば、すぐさま守りを破られるということもあるまい。王も策を練っておられる。我らの到着まで、何としても時を稼いでくれ』
やっぱり、まあ、そうなるか。即座に到着する援軍とか、それこそ予め門を用意して呼び寄せる以外にない。ルラーキ侯爵や、人形遣いがそうしていたように。
溜息を吐きたい気持ちで、言葉を送り返す。
『分かりました、できる限りはやってみます。けれど、何分私は臆病な一般平民ですからね。いざとなったら、命一つ抱えて逃げ出すかもしれません。そうなる前に、到着して下さることを祈っていますよ』
敢えておどけるように、微妙なオブラートに包んで、本音を伝えた。
そりゃあ、こんな切羽詰まった状況だ。私にでもやれることがあるなら、やらなきゃいけない。できることがあるなら、したいとも思う。人形遣いの企みが成功してしまえば、極北の悪神が蘇ってしまうらしいのだし。そうしたら、きっとひどいことになる。
ラビヌのように北の国々は侵略される。まずはキオノエイデ――ヴィゴさんの故郷。それから、すぐ南のアシメニオス――他でもない、この国。私が学院に入ったのも、魔術師を志したのも、全ては家族が住む村を守る為だ。その為には、北の悪神の復活は防がねばならない。
けれど。けれど、だ。
家族が戦禍を被るのと同じくらいに、今、喪いたくないものだってあるのだ。それだけは、何にも代えられない。どうしても譲れない。
『承知しているとも。……必ず、その時には間に合わせる。無理は望まぬ。我が身を大事にな』
そう答える声は、意外にも柔らかな響きをしていて驚く。内容が内容だけに、怒られることも覚悟していたのだけれど。
『お願いします』
そう答えると、通話は切れた。
視線の先、炎の境界の中へと意識を戻す。幸い、まだ戦いは再開していない。このまま永遠に始まらなければいいのに、と割と本気で祈っていると、おもむろに人形遣いが声を上げるのが聞こえた。
『――傭兵。我が君がお訊ねだ。お前は何の為に戦う。何の為に、独りで我が前に立ちはだかるかと。エルフ共の嘆願を受けたか。それとも、護国の正義か』
悪神は喋らないのか、喋らないのか、人形遣いが語る間も微動だにしない。沈黙したまま、じっと剣を構えて兜をヴィゴさんへと向けていた。
「あ? んなもん決まってんだろ、仕事だ仕事。てめえらは俺の契約主を狙ってやがる。だったら、てめえらは俺の敵だ。依頼されて切った張ったすんのが傭兵。退かねえなら、力ずくでも退かす。それが俺の役目だ」
『契約主……ライゼル・ハント、か』
「おうよ。それ以外に誰がいるってんだ」
平然と、ヴィゴさんは答える。私との契約は切れているはずなのに。そうした上で、独りでこの森に来たくせに。
『双方我が軍門に降るのならば丁重に遇すると、王は仰せだ』
「ハッ、誰がんな要求を呑むかってんだ」
鼻で笑って切り捨てる。その反応に、人形遣いは肩をすくめるような仕草を見せ、
『では、仕方がない。お前は殺して傀儡にするとしよう。お前が倒れれば、雛も大人しくなろう。――だ、そうだが?』
「やれるもんならやってみやがれ。後で吠え面かくなよ!」
言って、ヴィゴさんが地面を蹴る。そこからは、もう言葉はなかった。
通常、剣は槍に対して長さで劣る分不利になりがちだという。けれど、敵の剣は槍に勝るとも劣らない長大さだ。その上、全身を重厚な鎧で固め、だというのにそれを苦にしない敏捷さがある。以前武闘大会で相手になった巨人とは、また異なる厄介さだ。
炎を纏って奔る槍を悪神は黒い剣で受け止め、返す刃で斬りかかる。ヴィゴさんは辛うじて首を傾け、身体を沈めることでそれを避けた。低い体勢のまま反撃に転じようとするも、それより早く黒い鎧が脚を振り抜く。
ドガッという重い音に、知らず肩が跳ねた。蹴り飛ばされたヴィゴさんは草地を転がりながら体勢を立て直し、再び悪神へと立ち向かっていく。……あの人が一対一で蹴り飛ばされるのを見たのは、もしかしたら、これが初めてかもしれない。だからか、妙に心臓が速く鼓動を打っていた。
肉薄するヴィゴさんへ、上段から黒剣が振り下ろされる。脇から叩きつける槍が剣の軌道を逸らし、その間隙を縫って、更に前へ。踏み出す足と共に、まっすぐ槍が繰り出された。一拍の間を置いて、金属音。鎧の胴の表面を削りながら、火花を散らして槍の穂先が滑る。硬すぎて貫けないのだ、おそらく。
舌打ちをするヴィゴさんを、横薙ぎの剣が襲う。引き戻した槍で下から掬い上げるように剣を弾き上げながら、銀髪の長躯は鎧具足の足元を滑り抜けて背後へ。反転する動きは、双方ほぼ同時だった。胸を狙う槍、払い除ける剣。振り下ろされる剣を槍の柄が滑らせて受け流し、再び突く。火の粉と火花を散らし、一歩も譲らない打ち合い。
ヴィゴさんは一貫して胸――おそらくは心臓部に埋められているはずの核を狙い、悪神は首を刎ねようとする。一つ一つが必殺、致命の一撃の応酬は、見ているだけでも怖気が走った。
……そう。見ている、だけで。
「――ああ、もう!」
唸って、矢筒から矢を引き抜く。結局、自分の目的を思えば、どんな理屈をつけたところで黙って見ていることなんてできる訳がなかったのだ。
携える矢は右に三本。狙うは頭――兜の視野を確保する隙間。自分で狙いを付ける必要はない。射さえすれば、後は弓が中ててくれる。
放つは数秒間隔で三矢。致命打にならなくてもいい、少しでも隙が作れれば――
『一騎打ちに手出しとは、些か無粋ではないか』
しかし、三本の矢は目標に達することなく、空中で静止した。止まったまま、見えない手に握り潰されるが如く、くしゃりとひしゃげて落ちる。気付けば、人形遣いは炎の壁を挟んで私と真っ向から対峙する場所に佇んでいた。私の眼から、主を隠すかのように。その主と、まだあの人が戦っているのに。
「……あなたは、何故そちら側につく。何の目的で」
『君には分かるまい。私が持たぬ全てを持つ、恵まれた君には』
投げ捨てるような口調で言って、人形遣いはふと背後を振り返る。
『差し出がましい真似を、申し訳ございません。仰せのように致します』
そう答えると、再び私に向き直る。そればかりか、数歩動いてわざわざ私の視界を広げた。大仰な動作で嘆くような素振りさえしてみせる。……やけに感情表現が豊かだ。王都での言葉少なに、高圧的に命令する姿しか知らないから、そう思うだけだろうか。
再び視界に捉えられたヴィゴさんは、一歩も引かず悪神相手に打ち合いを続けている。入れ代わり立ち代わり、背後を取ったり取られたりしながら、剣と槍は激しくぶつかりあっていた。ただ、その横顔は余裕がなく、隠しきれない疲れも見える。夜明け前から休む間もなく戦い続けてきたはずだから、むしろその程度で済んでいること自体が奇跡的だ。
現状維持では生温い。どうにかして、こちらに有利に傾けなければならない。
『参ったことだ、要らぬ真似をするなと叱責されてしまった。まあ、確かに君の矢では我が君の鎧に傷一つ付けられまいが』
「確かに残念でしょうね。あなたは、どうしても私を殺したいようだし。王都では目を潰しに来て、この森では腕を吹き飛ばそうとした挙句に執拗な爆撃。そんなに恨まれるようなこと、私しましたっけ? ああ、二度もあなたの策を破ったことかな。でも、それは自業自得ってものでしょう。力がなければ、力があるものに破られる。当然のことなんだから。恨まれるような筋合いなんてないでしょ?」
殊更厭味ったらしく、せせら笑いながら言ってみせる。気にしていそうなことを、恨んでいそうなことを、思い付く限りあげつらう。それで、どうか、博打に乗って。
『……何を言い出すかと思えば。君はよほど自分の立場が分かっていないと見える』
返ってくる言葉には、かすかな――けれど、確かな苛立ちの表出。少しは動いた。……なら。
「立場? 私は事実を指摘してるだけのつもりですけどね。第一、そんなに狭量だからエレメイさんにも従ってもらえないんじゃあ? さっき少し話しましたけど、あの人、本当に冷静で腕の立つ良い騎士なのに。それを使いこなせないなんて、契約者としての器もたかが知れてるってもんじゃないの。司令塔失格。そうか、だから、あなたの王様は私を勧誘してるのか。あなたって配下がいるのに、わざわざ敵の私を」
『黙れ!』
言葉を遮る勢いで上がった怒鳴り声に、内心で怯みつつも笑う。――乗って来た。
人形遣いは忌々しげに頭を振ると、微塵の躊躇いもなく足を踏み出した。堅固な石壁のように立ちはだかる炎をローブや手が燃え、焼けるのも構わずに両手で引き裂き、境界を超える。無理矢理な脱出への報復でもあるのだろう、瞬く間に黒いローブへ炎が燃え広がっていく様は、他人事ならぬ敵事ながらゾッとした。
一連の流れを把握してはいたのか、黒い鎧を蹴って跳び退り、剣の間合いから逃れ出したヴィゴさんが焦ったような声を上げるのが聞こえた。
「ライゼル、この馬鹿野郎! 何してやがる!」
「こっちはいいから! 自分の戦いに集中して! ヴィゴさんがやられたら、私だって生きてられないんですからね!」
叫びながら、矢筒から持てるだけの矢を抜く。残りは十二本……どれだけもつか。
「お前なあ――!」
ヴィゴさんは重ねて何か言おうとしたものの、間合いを詰めてきた悪神に横合いから剣を叩きつけられ、その先が続くことはなかった。ギリギリと耳障りな音を立てて、剣と槍が競り合う。一瞬の間の後、防御した槍ごと押し切られ、ヴィゴさんが大きく体勢を崩す。堪らず一歩二歩と下がったところに、更なる追撃。辛うじて槍を合わせて捌いたものの、剣の切っ先が掠めた腕から、パッと鮮血が散る。
くそ、と怒りの滲んだ声が怒鳴った。
「俺が行くまで、絶対に死ぬんじゃねえぞ!」
了解、とは口の中で呟いて、手に持った矢を一本つがえる。
その間にも、人形遣いはローブを燃やしながら刻一刻と近付いていた。燃え落ちる黒い衣の合間からは、身に着けた魔術師然とした立派な装束と、細い手足が覗いていた。私よりも細いくらいで、とてもじゃないけれどヴィゴさんのような成人男性のようには見えない。となると、子供、或いは女性……?
矢を持つ手が震える。背筋に嫌な汗が伝う。もしも子供だった場合、敵意を向けづらいなんてもんじゃない。それなのに、向こうは衣服はおろか肌が焼けている――焼かれ続けていることすら気にせず、一歩一歩着実に近付いてくる。ああくそ、射るなら遠くにいるうちの方がいいってのに……!
「本当に、私はお前が嫌いだ。憎らしい。憎くてたまらない」
その吐き捨てる響きが、最初誰が発したものなのか理解できなかった。
推測を裏付ける高い声。子供……ではないかもしれない。女性。それも、きっと、かなり若い。
「大層なものを持ってはいるが、それでお前は人を射られるのか。人を殺したことがあるか?」
嘲笑う声は、先刻の仕返しか。人形遣いは草地から石畳へと上がると、煩わしいとばかりにまとわりつく炎ごとローブを脱ぎ去った。
その姿を見て、私は息を呑む。呑まずにはいられなかった。
「私が最初に殺したのは、実の父だった」
そう言って酷薄な笑みを浮かべる人形遣いは、まだ年若い少女だった。
歳も背丈も、私と同じくらい。冷たい印象の面差しは文句のつけようもないほどに美しく、長く伸ばされた髪は淡い青、切れ長の眼は紫。肌はあちこちの火傷が痛々しいくらいの真っ白で、特に炎を裂いた指はほとんど炭のように黒く焦げていた。ローブを捨てた左手は少なくとも物を掴める程度には動くようだけれど、右手はぴくりともしない。もしかしたら、本当に炭化してしまっているのかもしれなかった。
手指はおろか衣服も袖や裾の末端から焼け焦げてはいるものの、いかにも上等そうな装束は意外にも損なわれた印象がない。個々のパーツだけ見れば、どこの深窓の令嬢かと思うほどだ。
けれど、実際に相対して抱くのは、ただただ純粋な脅威だ。唇には歪んだ笑み、眼には激しい敵意――否、殺意。そして、冷淡な口振り。それが全てを台無しにしている。
「『狩った獲物を自慢するのは二流』――罪を誇るのは、それよりも愚かなことだと思うけど」
どうにか平静を装って言い返すと、人形遣いは鼻で笑う。
「お優しくて真っ当な親の下に生まれた、恵まれた人間らしい物言いだ」
「お褒めに与り光栄。で? 望むような親のところに生まれられなくて僻みと妬みで凝り固まったお嬢さんは、テンプレートに世界を滅ぼしてやるとか思ってる訳?」
子供は生まれる親は選べない。だから、人形遣いになる前の子供が、殺してしまいたいと思うほどひどい親の下に生まれていたのなら、それには素直に同情する。けれど、それとこれとは話は別だ。今はそんな感傷は見せられない。何せ、あちらは殺す気満々なのだから。
「ああ、そうとも。危うく二度、私はおぞましく忌まわしい最期を迎えるところだった。殺されずとも自ら死を望む事態も、一度なら不運と思おうさ。だが、二度、二度だぞ。一度目の記憶を持ったまま、更にもう一度!」
怒りと憎悪に目を爛々と光らせる人形遣いの言葉は、再び私に衝撃を与えた。
つまり、それは――
「あなたも、私と同じ……」
「招かれ人、という訳だ」




