04:皇帝来りて-04
森の中を、一列になって駆ける。当然の如く先頭はレインナードさんで、その後ろに私が続き、最後尾をシェーベールさんが固める。自分以外の誰かの先導によって緑の中を駆け抜けるのは、自然とサロモンさんやノワと山に分け入った昔を思い出させた。元気だろうか、皆。
一抹の感傷を覚えながら、探索の魔術を手繰る。どうも私は山や森といった緑地帯と相性がいいらしく、地下迷宮の時とは違って、かなりの広範囲にわたって探ることができた。
「前方、二時の方向に食事中の猪の気配。ちょっと迂回しましょう」
「あいよ」
障害について報告すると、レインナードさんは躊躇いなく進行方向を修正する。その脚はノワに勝るとも劣らない速度で走っているというのに、たまにこちらを振り返る横顔には汗の一筋も見られない。シェーベールさんにしても周囲を警戒しながら平然とついてくるし、やはり腕利きの傭兵となるとそれくらいは当然なのだろうか。
若干空恐ろしいような気分になりながら、頬を伝った汗を手の甲で拭い、ちらりと懐中時計で時間を確認する。九時半。
ケーブスンからクストールの森までの道行は順調だった。三時間少々で着けたのはおよそ考えられる限り最良に近いだろうし、森に入ってからも天候に目立った変化はなく、しいて言えば少し暑いくらいか。いよいよ六月に入ったこともあり、平均気温は悲しいほどに上昇している。日本と違って、そこまでじめじめしていないことだけが救いだ。
「そろそろ一回休憩にすっか」
そうして走り続けて、更に小半時ばかり経った頃だろうか。おもむろにレインナードさんが声を上げて、走る速度を緩めた。
「そうだな、頃合いだろう。近くに沢があったはずだ。ハント嬢も構わないか」
「あ、はい」
「じゃ、満場一致で決定だな」
進路変更、とレインナードさんが獣道から逸れて、なだらかな崖を下りていく。その後に続いてしばらく斜面を駆け下りると、果たして窪地の合間を一本の細い川が流れていた。木漏れ日を受けてきらきらと光る水面は、少なくとも表面上は澄んでいるように見える。
「飲めるんですか?」
「ああ、エルフの隠れ里から流れ出る川の支流の一つだ。彼らによって清浄に保たれているし、穢すのは彼らへの敵対行動にあたる。礼儀に則って使わせてもらう分には、彼らも目くじらは立てん」
そういうことであれば、有難く使わせて頂こう。
シェーベールさんが用意してくれた荷物の中から水袋を取り出し、水分補給をしてから軽く小川で手を洗い、水を足す。ちらりと見れば、レインナードさんとシェーベールさんは特に険悪な様子もなく地図を見ながら何やら話し合っているようだった。朝にあれほど怒鳴り合っていたのが嘘のようだ――って、シェーベールさんは仲裁役だったし、レインナードさんにしてもシェーベールさんと険悪になる理由はないのか。
そんなことを考えながら水袋を鞄にしまっていると、レインナードさんと目が合った。別に見つめ合う意味もないので目線を外すと、
「ライゼル、ちょっといいか」
何故か、そんな呼びかけと共に歩み寄ってこられた。……何事だろうか。
「はあ、大丈夫ですけども」
外した視線を戻すと、レインナードさんは些か申し訳なさそうな顔をしていた。がりがりと頭を掻き、
「今回のことは、悪かった」
大きな身体を曲げて、頭を下げる。お、おう……?
「いや、別に頭を下げてもらう程のこともないですけど。顔上げてください」
「そうは言っても、面倒かけただろ」
背筋を伸ばしたレインナードさんは、唇をへの字に曲げていた。どういうこっちゃ、とシェーベールさんに視線を投げてみたものの、どうやら口を挟んでくれるつもりはないらしく、腕を組んで静観の構え。自分一人でどうにかするしかなさそうだ。
「薬草採取については自分で考えて受けたことなので、そう言って頂くには及びません。判断材料が少ないので、レインナードさんが武闘大会に夢中になって契約を蔑ろにする可能性については現時点で何とも言えませんが、万が一の場合に備えて別の人と動く経験を積んでおくのも悪くはないと考えたのは事実です」
「でも、ギルドに知られねえように俺に教えようとしてくれてたろ。『薄明亭』のおっさんは手紙持って宿に殴り込んできたし、『清風亭』の女将と旦那からも話は聞いたぜ」
レインナードさんがそう言うと、シェーベールさんがかすかに目を見開くような反応を見せた。あ、まずいな。スヴェアさんとした口外しないという約束に反している、とでも指摘されるだろうか。
「それは当事者を省いて話を進めるのは面倒にしかならないと思ったからです。私はギルドに加わっている訳ではないし、内輪の面倒には極力関わりたくなかったので。下手に囲い込まれる前に、直接話し合ってもらった方が厄介事が少なく済むかなと。――まあ、ある意味ではレインナードさんを含め、皆さんを利用させてもらったことにはなりますかね。その辺り、気に障るようでしたら、すみません。……それから、手紙はスヴェアさんとの約束の前に出したもので、『清風亭』の女将さんと旦那さんには樹海に薬草採取に行くことと、レインナードさんは同行しないことを伝えただけなので、一応約束を破ってはいないと思います。詭弁ですけど」
あからさまな物言いをすれば、私は四人の人の厚意を利用したことにはなる。ひょっとしたら、「薄明亭」の親父さんが手紙を届けてくれるかもしれない。女将さんと旦那さんはレインナードさんが同行しないことをおかしく思って、連絡を取ろうとしてくれるかもしれない。――そして、もしもすべてが上手くいった場合、レインナードさんが何か行動を起こしてくれるかもしれない。
何から何まで賭けではあったけれど、どうやら私は片っ端から賭けに勝ってしまったらしい。お陰で、状況はおよそ私が想定し得た最善で進んでいると言ってもいい。……さすがに、親父さんや女将さん、旦那さんには申し訳ないとは思うけれど。王都に帰ったら、ちょっとしたお詫びとお礼に何か差し入れでもしよう。
さすがに引かれてしまっただろうか、レインナードさんもシェーベールさんも黙りこくってる。私としては悪いことや間違ったことをしたつもりはないから、別に沈黙を気まずく思ったりは、それほどしないけれど。
「……まあ、何ですか。私も結構冷淡で腹黒いですよって話で」
ぼそりと付け足すと、はっとした風に息をのむ気配がした。シェーベールさんだ。ちらと目を向ければ、彼の人は薄らと笑みさえ浮かべて私を見ていた。おお……シェーベールさんの笑顔とか初めて見たかもしれない。
「いや、俺は寧ろ君が辣腕のスヴェア・ルンドバリの良いように使われるだけの子供ではないと分かって、少し安心した」
「はあ、そうですか……」
相槌を打ちながら、どうもシェーベールさんもお人好しというか、人が好いところがあるのかもしれないと、ふと思った。そんなだからこそ、スヴェアさんによって子供のお守りにつけられてしまっているのかもしれないけれども。
まあ、とりあえずここはシェーベールさんとの関係が悪化せずに済んだことを素直に喜んでおこう。今後依頼を共同受託する可能性があるかもしれない以上、関係は良好に保つに越したことはない。
――で、肝心のレインナードさんはと言えば。
「……はー、ちゃんと考えてんだなあ」
何故に感心しているのか。
「いくら子供でも直接の保護者が居ない以上、自分で解決できる範囲で物事を収められるようにする努力は必要でしょう」
「それがそもそも子供の考えるこっちゃねえ気もするけどな」
……言われてみれば、割とそうかもしれない。
「それによ、そんな微妙に後ろめたそうな顔して『利用した』って言われてもなあ。悪党にはなれねえ性分みてーだな?」
からかうように言われて、何とも言えない気分になる。他人を利用して当然だと開き直れるような人間になりたくはないし、なるつもりもないけれど、そう言われるのはこう……なんかこう……!
「バルドゥルじゃねえけど、良いんじゃねえの? 自分の為になる手をちゃんと打てるってのは、こっちとしても助かるしよ。それ以前に、今回は俺のヘマだしなあ。ちとうかれて、ギルドに説明すんの忘れてたかんな」
「趣味と仕事は混同しないと?」
「おうよ。武闘大会は面白そうだから出るが、今は先に契約があるだろ。それを忘れて好き勝手すんのは、傭兵で飯食ってる手前、絶対に無しだ」
信用に関わるからな、と真面目な顔をしてレインナードさんは言う。……なんだ。スヴェアさんはああ言っていたけど、レインナードさんだってちゃんと分かっているんじゃないか。
「だもんで、そりゃあ今まで好き勝手戦って大怪我したことについては否定しねえが、受けた仕事を途中で投げ出すような真似は一切してこなかったんだがなあ」
「スヴェアさんはスヴェアさんで、レインナードさんを心配してるんじゃないんですか?」
「心配ねえ……。心配してんのはギルドの利益が減ることであって、要は使いでのある傭兵が減るのが嫌なだけだろ」
軽く肩をすくめたレインナードさんの向こうで、シェーベールさんが深々と頷いていたのが見えた。妙に実感のこもった風な表情が、何とも微妙に嫌な感じだ。見なかったことにしておいた方が精神衛生上、宜しい気がする。忘れよう。
「ともかく、レインナードさんは契約を維持してくれるってことで良いんですよね」
「おう、俺はな。ギルドの方がゴネたりしなけりゃだが」
それは確かに問題かもしれない。スヴェアさん、かなり機嫌悪そうだったしなあ。いや、自分の機嫌によってギルドの利益を損ねるようなことはしないとは思うけど。
「あ、じゃあ、もしこの依頼の情報の出所について訊かれるようなことがあったら、私が手を回してたって答えちゃってくれていいですよ」
「へ? いや、スヴェアにバレねえようにって、わざわざおっさんとかに頼んだんだろ?」
「んー……今回のは敢えて知らせて、ちょっとくらい警戒してもらった方が今後への布石になるかとも思うんですよね。そこまで容易いカモじゃないと思ってもらっておいた方が、二度目三度目を思い立った場合に少しは思いとどまってもらえるかなと。それに、明かしたところでさっきも言った通り約束は明確に破ってませんしね。文句を言われる筋合いはないです」
言いきって見せると、短い沈黙の後、レインナードさんが噴き出して笑った、口元を手で隠して、肩を揺らして笑っている。何だろうか、そんなに受けるようなことを言ったつもりはないんだけどな。
つい眉間に皺が寄ったのに気付いたのだろう、レインナードさんはひらひらと手を振って弁明を始めた。
「悪い悪い、変な意味があったんじゃねえんだ。……そうだな、ほんとに少し安心したぜ。勝手に心配してたが、余計なお世話って奴だったみてえだ。そんだけ考えられてりゃ、そうそうカモられることはねえだろ。そりゃ皆が皆騙す気でやってくる訳じゃねえが、他人に上手く使われるのは避けてえもんな」
「ええ、まあ」
そう、これは一般的な心構えの話であって。別に地下迷宮の鉱石発掘依頼のことを未だに根に持っているとか、そういう訳ではないのである。断じて、ない。
「――さて、そんじゃ話も終わったとこで再出発といくか」
レインナードさんが下ろしていた鞄を背負い直し、私もバルドゥルさんも同じように準備を整える。さあ走り出そう、と構えた――その時。
「待たれよ」
不意に、声が響いた。
何だどうした、と辺りを見回して声の主を探そうとした瞬間、目の前が広い背中に塞がれた。レインナードさんが背に庇ってくれたのだと、一拍遅れて気付く。
「何だ、俺達に用か?」
「用がなければ、探索者に声を掛けたりはせぬ」
レインナードさんの鋭い問いに応じるのは、いかにも鷹揚といった具合にゆったり響く少女の声だった。鈴がを転がすような、という比喩をつい思い浮かべてしまう美しい声音。
「我が名はローラディン。命溢るる逆月の泉を守護するエルフ族が一人である。我らが一族、水鏡の塔の主たるアルサアル王より、そなたらに伝言の命を賜った。――“獅子狩る炎の担い手”、“星降りの射手”、“極光の織り手”、そなたらはいずれ我らにとって大きな助けとなる。その時に我らの許へ疾く参じてくれることを期待して、そなたらの求めるものを渡そう」
どさり、とレインナードさんの足元に大きな包みが落ちてきた。きめの細かい白い布を透かして、中に緑色のものが包まれているらしいことが見て取れる。
「コートレア草だ。その一束もあれば、そなたらの目的は達せよう」
少女は朗々と述べる。
コートレア草――それは私達が求めていた薬草に間違いない。けれど、相手は何故それを知っているのか。そもそも包みの中は本当に目的のものなのか。ぐるぐると思考が回る。
「……バルドゥル、調べてくれ」
私の疑問を余所に、レインナードさんが槍で包みを引っ掛けて地面を滑らせた。私の脇をすり抜けてバルドゥルさんの足元へ移送された包みは即座に開封され、
「間違いない、コートレア草だ。重量にして、ざっと四リコ余りというところか。依頼の達成には充分だろう」
バルドゥルさんが言うと、レインナードさんは軽く息を吐いた。小さく肩が上下するのが見える。
「何で俺達の目的を知ってた?」
「アルサアル王は水鏡の塔の主。千年万里を見通す」
「そうかい、そんで? 俺達の目的を見透かして、更にゃあ何を見たってんだ」
「遠くない未来、この森は争いの場となる。その際に、そなたらが我々の力になると王は水鏡から読み取られた」
「で、その時にちゃんと力を貸せってことで前払いの報酬か」
「そうだ。くれぐれも我らが王の信頼を裏切らぬよう、期待する」
答える声が聞こえたかと思うと、草を掻き分ける音が聞こえた。……もしかして、言うだけ言って、置くだけ置いて、行った?
「……何か訳分かんねえけど、依頼達成しちまったな」
緊張の抜けた風でレインナードさんが呟き、もしかしての推測が当たったことを知る。
森のエルフも砂漠のエルフも、すすんで人に関わるような種族ではないという。それがわざわざ来て、私達の目的のものを置くだけ置いて去ったということは。
「本当なんですかねえ、遠くない未来っていうの」
どうだかなあ、と困惑の滲む声で言いながら、レインナードさんが振り返る。
「とりあえず、帰ろうぜ。思ったより早く済んで良かったな」
「うむ。包みは俺が持っていこう。この分なら、夜になる前にケーブスンに着けそうだ」
「はあ、それは良かったですけど……」
何が何やら、というのが正直なところだ。でも、まあ、思ったよりずっと早く依頼を達成することができたことにはなるのだから、喜んでいいのだろう。多分。
「さあてと、家に帰るまでがお仕事ですよ、ってな。気を抜かずに行こうぜ」
ケーブスンに帰り着いたのは、午後も半ばとなりかけた頃だった。エルフ印の絹布で包まれた薬草の束を持ち帰ったことで、ケーブスンギルド長には随分と驚かれた。やはりエルフが森や樹海に入った人間に対して、積極的に施しをすることはないものだという。
事情を聞きたがるギルド長にちゃっかり遅い昼食をねだってご馳走して貰う約束を取り付けたのは、案の定というか、人懐こいところのあるレインナードさんだった。
「――つー訳で、『遠くない未来、この森は争いの場となる』らしいぜ。その時ゃ、この街も無関係じゃいられねえだろ。気を付けといた方がいいんじゃねえか。エルフが直々に王からの伝言っつって土産と一緒に話してったネタだ、そうそう間違いはあるめえよ」
ギルドに併設された食堂で好き勝手に飲み食いしながら、レインナードさんはエルフの少女――結局私は姿を見ていないので、多分だけれど――が言っていた話を余すことなく語った。対するギルド長は、当然ながら悩み顔である。そりゃあそうだ、いきなりこんな話をされたって困るに決まっている。私だって困る。
「最近は静かなもんだと思ってたんだがな……」
「嵐の前の静けさというものではないのか」
シェーベールさんの合いの手に「かもなあ」とまた唸るようにギルド長は呟く。そのまましばらく考え込むような素振りを見せたけれど、
「とりあえず、領主に連絡して注意するようにはしておくかね。エルフ王直々の伝言ってんじゃ、冗談にするのもおっかねえ」
「その辺は任せるわ。んで、何かおかしな動きがあったら、ガラジオスのギルドに連絡くれや。俺達はその騒動でエルフ側の助けになるらしいんで、駆け付けることを条件に薬草もらっちまったからな。来ねえ訳にはいかねえだろ」
「もらったっても、あっちが勝手に置いてったんだろうが?」
「そうだけどよ、持って帰ってきちまったんだから了承したようなもんだろ」
「……相変わらず、お前って奴ぁ微妙に馬鹿正直っつか、なんつーかなあ」
「うっせ、ほっとけ」
そのやりとりの後は、他愛のない世間話になった。エルフの伝言についての話の間は口を挟めるような立場でもなかったので黙っていたけれど、そこからはギルド長がちょいちょい水を向けてくれたこともあって、それなりにおしゃべりもした。
「んで、嬢ちゃんは何でこんな無頼共と森を走り回る羽目になってんだ?」
「私は特に資金潤沢な訳でもない平民なので、学院で必要な経費を賄う為に」
隠すことなく答えると、ギルド長は目を丸くさせた。
「何だ、お嬢ちゃんが噂の平民出の入学者か」
ケーブスンでも知られているとは、どれだけ噂になっているのだろうか。おそろしい。考えるのはやめておこう。
「それじゃあ、何かと苦労することも多いだろ。いい仕事があったら連絡してやるよ」
「ありがとうございます。宜しくお願いします」
そんな話をしながら一通りの食事を終えたところで、私達はガラジオスに戻ることになった。地鶏のボロネーゼは中々美味しかったな。また来ることがあったら、他の料理も食べてみよう。
ガラジオスのギルドに戻れたのは、転送機を使えたお陰で夜になる前だった。私達は数日は戻らない見込であったから、これまたスヴェアさんにひどく驚かれたりもしたけれど、それなりに疲れてもいたので、薬草を納品するだけして説明はまた明日ということで落ち着いた。
因みに、薬草はケーブスンのギルドで普通の麻布に包み直してある。エルフ印の絹布は珍品も珍品なので、要らぬ耳目を集めてしまわないように、というシェーベールさんの配慮だ。ああ、絹布は私が有難く頂戴しました。だって、レインナードさんもシェーベールさんも要らないって言うしさ。
何はともあれ、二日三日の予定が日帰りで終わって万々歳。さあ帰りましょう、となった時に、レインナードさんが呼び止められた。誰に。……スヴェアさんにである。
「ヴィゴ、あんたは残りな。今朝の決着をつけようじゃないか。――ここらで、お互いきっちり話にケリつけといた方がいいだろうしね」
「……仕方ねえな。バルドゥル、ライゼルの帰り頼むぜ」
「請負った。下宿先まで送り届けよう」
レインナードさんにしても、きちんと話をしなければならないと思ってはいたのだろう。思いの外棘のない空気で了承し、私はシェーベールさんに送ってもらうことになった。
まあ、何だかんだ関わり合ったここ数日で、シェーベールさんの人となりも見えてきた。割と寡黙な性分らしいので多少会話には困るけれど、スヴェアさんの言っていた生真面目という評価にも間違いはなさそうとなれば、拒む理由も見当たらない。夜の通りを歩んでいく最中も、やはり会話はなかったけれど、そういうものだと思ってしまえば気にはならなかった。
「……今朝のことなのだが」
とか、思っていたら。不意にシェーベールさんが口を開いた。珍しいこともあるものだ。
「ヴィゴは大雑把でいい加減に見えるが、あれで理性的な男だ。滅多に声を荒げることもない。――あれは、半分君の為でもあったのだろうと思う」
「……はい?」
「己や君を言い包めて好きに使おうとすれば――或いは、今回のように内部の問題に巻き込もうとするのならば、このように怒るぞ、と。そう見せてやっていたのではないかな」
淡々とシェーベールさんは語る。それを聞いて、私は普通に反応に困った。
シェーベールさんの推測が事実だったとして。なんというか、大丈夫か、と思う。そんなに人が好くて、大丈夫なのかあの人。
「ただ、スヴェア・ルンドバリの懸念も的外れではない。ヴィゴはこと戦いに興じ始めると見境がなくなる。……できれば、君に上手く手綱を操ってもらえると、少しは安心できるのだが」
シェーベールさんの語りは淡々としていながら、ひどく真摯だった。……別に、だからという訳ではないけれど。
「はあ……できるかは分かりませんが、なるべく努力はしてみます」
勢い、微妙に頷いてしまった。頷いた後で安請け合いしたかなと思いもしたものの、今更発言を覆せもしない。
「レインナードさんにはお世話になっているので、私にできることがあるなら、しますよ」
とりあえず、そういうことにしておこうと思った。




