お前に死に方を選ばせてやる
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「お前に死に方を選ばせてやる」
眼前に銃を突きつけ、男は言った。
ふっ、どうやら俺の人生はここでジ・エンドのようだ。まったく、長かったようで短い一生だったぜ……。
思えばどうして命を狙われることになったんだか。そうか、二億円の宝くじを全額貯金したからか。「ご寄付をー!」とか叫ぶ団体に一円も与えなかったから、殺し屋を雇って復讐に来たに違いない。
どうせなら二億円を使い切ってから死にたかったが、そうはさせてくれなさそうだな。
二億円に手がつけられなかった分、最期くらい思い通りにさせてもらおう。
「萌え死」
「は?」
「死に方だよ、死に方。好きな死に方でいいんだろ? 萌え死」
「焼死のことか?」
「違うって」
まったく、これだから最近の殺し屋は……。時代の流れってものを知らないな。だいたい、今時は美少女が殺しに来るもんだろ? そうなれば素直に死を受け入れることくらい容易いのに。
よりにもよって話の通じない野郎かよ。ふっ、世も末だな。
「仕方ねえな。じゃあ百万歩譲って……」
「お兄ちゃん、今日はありがと」
金髪ツインテールのロリロリ美少女(義妹)が、お互いの腕を絡め、その未発達な胸を押し付けて甘えてくる。
「よせよ、街中で恥ずかしい」
彼女が掴まっていない方の腕には、誕生日に買ったプレゼントの服が収まった紙袋がある。家に帰ったら、きっと俺に着て見せてくれるんだろうな。
「あっ」
義妹が声を上げた。
視線の先には、道路に飛び出そうとする子猫。
心優しい彼女は猫を追いかけ、トラックの前に飛び出してしまった!
「危ない!」
その瞬間、俺の体に例えようのない衝撃が走る。
今自分がどういう状況なのかわからない中で、視界が空を映し、コンクリートを映し、めまぐるしく変化する。
そうか、俺は今……トラックにはねられて空中で回転しているのか。
勢いが治まったのか、今度は空ばかり映っている。どうやら地面に激突して止まったようだ。
「ああああっ! お、お兄ちゃん!」
悲痛な叫び声とともに駆け寄ってくる義妹に……
「ちょっと待て。ストップ、ストップ!」
「なんだよ! これからがいいところだろ!」
せっかく俺が理想の死に方をレクチャーしてやっているというのに、何て礼儀しらずな男だろう。
「どうやってその方法で死ぬんだ?」
「おいおい、今まで聞いててわかんなかったのかよ? 愛する義妹に看取られながら……」
「そうじゃなくて! どうやって俺がその方法で殺すんだってこと!」
「お前がトラックに乗ればいいじゃん」
「そんなことしたら捕まっちゃうだろ!」
「じゃあ俺殺すのやめろよ」
「暗殺はいいんだよ。警察来るまで時間がかかるだろ。そもそも、金髪ツインテールの美少女なんてそうそういないし、無理だ無理。却下」
むう、ワガママなやつだ。
そもそも自分の言った言葉には責任を持ってもらいたいな。死に方を選ばせてやるといっておきながら、萌え死はわからないわ、義妹を庇っての事故死は無理だわと……。
「ちっ、仕方ねえな。じゃあ百五十万歩譲って……」
「ワトソン、ビーン! お前たち二人は左から機関銃で奇襲をかけろ! ミラーは何名か連れて大きく迂回し、敵後方に入り込め! 他のものは俺とともにここで両チームを援護する! ワトソンとビーンが敵の銃火をひきつけたら、手榴弾投擲距離まで近づき、一気に敵塹壕内を殲滅する! 質問は!? ないな。よし、かかれ!」
密林で敵の塹壕にぶち当たってしまった我々は、圧倒的不利な地形での戦いを強いられた。
くそ、斥候を出さずに強行軍を命じた馬鹿中隊長のせいだ。最後尾だった我々の小隊以外はほぼ壊滅。当初は敵のほうが圧倒的に人数も少なかったが、今では五分といったところだ。
「現在の指揮権は誰にあるか確認できたか!?」
俺は隣にいる通信兵に尋ねた。
「中隊長とは連絡がつきません! 指揮権は少尉、あなたです!」
「……よし。このまま作戦を行う」
二人が機関銃で奇襲を始めれば、必然的にライフル数丁しかないこちらよりも向こうに銃口が向くはずだ。二人がやられる前に塹壕を潰すか、ミラーたちが後ろから奇襲をかけられれば、俺たちは生き残れる。
新兵のスナイパーが俺の隣で震えている。初の実戦だが、彼はよくやっていた。生き残れれば、いい兵士になるはずだ。
……二人が位置につき、機関銃をぶっ放し始める。思ったとおり、敵の銃口はそっちに集中した。
「手榴弾用意! ……今だ! 行け、行けー! 真っ直ぐ走るな! ジグザグに動け! 止まるな! 行けー!」
先頭で飛び出した俺は手榴弾を塹壕に投げ込む。同時に敵兵の悲鳴。俺は死体の上に飛び乗り、こちらに向けて銃を構えようとする敵に銃弾を見舞った。
ワンテンポ遅れてぞくぞくと味方が到着し、そして反対側からミラーたちと思われる分隊も攻撃を開始した。
あっという間に殲滅。思ったよりも敵が少なかったのか? いや、作戦が上手くいっただけだ。
「やりましたね、少尉!」
新人スナイパーが笑顔で駆け寄ってくる。そのとき、俺は彼の後方の敵がピクリと動くのを見た。
「伏せろ!」
しかし敵のほうが速い。銃を構えている暇はないと思った俺はスナイパーを引き倒した。
だが、代わりに銃弾は俺の胸に当たる。
「しょ、少尉!」
「おい待て! 待てっつーの!」
「なんだよ、またかよ!」
この後「義妹たちに……愛してると伝えてくれ……」という遺言を残して息を引き取るはずだったんだけどな。
「まさかこれも無理だなんていうんじゃないだろうな? 戦場だぜ? 人殺したって罪に問われない場所なんだから、好都合じゃねーか」
「そもそも誰がそういう場面を用意するんだよ」
「そこはプロだろ?」
「お前一人殺すために戦争を作り出すのか!? 馬鹿かお前は! 人の命を軽々しく考えるんじゃねえ!」
むう、殺し屋とは思えない正論を吐き出すヤツだな……。
しかしその言葉は自分の首を絞めていることに気づかないとは、なんて愚かなんだ。
そんなことを考えていると、突然、殺し屋は銃を構えなおし、俺の眉間にぴったりと突きつけてきた。
「な、何を!」
「なんか面倒くさくなってきた」
「はあ!? 死に方、選ばせてくれるんじゃなかったのかよ!」
「いや、だってさ……絶対無理だし」
「じゃ、じゃあ老衰!」
ぱーん……。
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