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005 俺の目の前で、神様少女は変身する。

皆様、お久しぶりです。

昨日投下した短編でお会いした方は、昨日ぶりです。


いつもお待たせしてしまい、申し訳ありません。


それではさっそく、どうぞ。


「ふんふんふーん、ふんっふふーん♪」


「ったく調子良いよなぁ、お前は……」


 先程まで泣き顔のままだったエリダであったが、なんだか見るに堪えなかったため、俺は一つ提案をした。


 おかげで、今や泣いていたのが嘘のように上機嫌になっていた。

 今は人目もあるからか鼻歌を歌いながら歩いているだけだが、人目がなければ思いっきりスキップまでし始めそうだ。

 まあ、この分だと母さんからの説教を受けなくてすみそうなのは僥倖ではあるが……。

 なんというか、エリダが単純すぎて、少し呆れたくなる。


 提案と言っても、ごく簡単なものだ。


 それは、帰り途中にあるコンビニでエリダが欲しいものを一つ奢るという物。


 え、もっと洒落た提案ができなかったのかって?


 俺にそんなこと求めないでくれ。


 俺は今まで女子の機嫌取りなんてしたことない。

 そもそも女子に対して友達とかクラスメイトの関係以上の興味なんて持ったことなかったんだよ。

 もちろん、こうして二人きりで登下校したこともなければ、お出かけなんてしたこともない。


 だから、機嫌直してもらうためにっていっても、これくらいのことしか思い浮かばなかったんだよ!


 笑うなら笑え!


 あっ、あとい、言っておくが、あくまで余計な説教を食らわないための回避策だからなっ!

 変な勘ぐりはやめてくれよ?


「ふんふんふーん♪

 ふんふー……」


 突然、鼻歌が途切れる。


「……はぁ…………」


 それまで調子よく鼻歌を歌っていたエリダのテンションが、唐突に低くなった。

 俺には、なんでエリダが機嫌悪くなったのかよくわからない。


 わからないなら聞くしかないだろう。


 考えるまでもなく、口が動いていた。


「おい、どうした?」


「ううん、何でもない……。

 ほんと、なんでこう楽しい気分の時に出てくるのかなぁ……」


 ぼやきながら立ち止まったエリダは、制服のポケットから何かを取り出す。

 あれだけ楽しみにしていた目的地は目と鼻の先であるのに、なぜ立ち止まったんだろうか。


「エリダ、何してるんだ?

 コンビニはもう目と鼻の先なんだけど……」


「んー、あたしもお仕事しないといけないみたい」


 俺は全くその意味を理解できない。

 お仕事って……何なんだよ。


 俺が困惑した顔になったのを見て、エリダはすこし寂しそうな顔をする。


「本当に何も覚えてないんだね……」


 ポツリと零されたその言葉の意味がその時の俺にはわからなかった。

 すぐに表情を切り替えたエリダ。


「これはね、特別な力がある物なの。

 神様の秘密兵器、かな」


 エリダは俺によく見えるように握っていた手を開く。


 それはペンダントだった。


 丸い形の青くて綺麗な宝石がチャームになっている。

 デザインはシンプルでありながら、宝石の色がその髪色と相俟って、エリダ自身の魅力を引き立てるだろうことは明白だと感じさせる。


 刹那。


 俺とエリダの進行方向に、変な物が現れた。


 化け物としか言い様のない、人の二倍以上はある大きさの黒き体。

 どうやっても、人程度が太刀打ちできるはずがない、と感覚的に悟らされる。


 そんな化け物は、口を大きく開ける。 


「キシャァァアアアッ!」


 咆哮と黒くてゴツい体を併せると、とても恐怖感を煽られる。


 もちろん、俺も本能的な恐怖を感じ、その場から動けなくなってしまう。

 いやいやいや、こんな物語の中でしか出てこない怪物が何故、道の先に現れるんだよ!?

 てか、こんなの前にしたら誰だって動けなくなるに決まってるだろっ!!


 テンパりすぎてまとまらない思考のせいか、俺は一瞬、隣にいる存在を忘れていた。


 もちろん、すぐに思い出したが。


 俺の言葉程度で号泣するし、この化け物への恐怖で泣きそうになっててもおかしくない。


 恐怖で硬直していた体を、気合いで何とか動かそうと試みる。


 てか、早く動けっ! 俺の体っ!


 ギギギ……という音がしそうなぎこちない動きではあるが、なんとか首が回り始めた。


 もっとスムーズに動け、と自分の体へ叱責しつつ、なんとか隣へ視線をやると……。


「うるさいなぁ、もう……。

 せっかくショウから奢ってもらえるって話でルンルン気分だったのに……」


 先程、俺の言葉で号泣したか弱い少女とは思えない程、落ち着いている。


 いや、何で俺の言葉では泣くのに、こいつと対峙してるこの状況では平然としてるの!?

 俺の言葉の方がそんなに怖いんですかねぇ!?


 心の中でツッコんだ俺は、きっと悪くない。


 何でそんなに平静でいられるのか、気を取り直して聞いてみよう……。

 

 とりあえず、言葉を絞り出してみる。


「お、お前…………。

 怖く……ないのか?」


 情けないことに、口の中が恐怖からパサパサに乾ききっていて、うまく口が回らない。


「怖いも何も、見慣れてるもん。

 こいつらはあたし達がどうにかしなきゃいけないモノだから」


 平然とした様子を崩さないエリダ。


 俺は化け物への恐怖でテンパりながらも、反論する。


 いやだって、どう考えたって、華奢でか弱いエリダと化け物なんて比べるまでもない。


 化け物に八つ裂きにされて殺されるに決まってるっ!


「ど、どうにかって、こっこんなゴツいやつに太刀打ちなんてできるわけないだろっ!?」


「ショウってば、何言ってるの?

 あたしは神様だよ?

 こいつらの相手ができないわけないじゃん」


 こいつ、まだこの状況で神様だなんて抜かすのかっ?!


 ふざけんなっ!


 その時、俺は気づいた。


 エリダに憤ったおかげなのか、固まっていた俺の体が動くようになったことに。


「こんなやばい状況で、ふざけたこと抜かすな! にげるぞっ、エリダっ!」


 言うが早い。

 俺はエリダの腕をつかみ、踵を返して走り出そうとする。

 だが、エリダは動こうとしない。


「おっ、おいっ! エリダっ!」


「ごめんね、ショウ。

 あたしがやらないといけないから」


 エリダは、腕を引っ張る俺の手をやんわりと退けた。


 反射的に俺はエリダの顔を見る。


 エリダは一瞬、申し訳なさそうな表情をするも、俺から化け物へと顔を向ける。 瞬間、すぐに引き締まった表情になる。


 そして、目をつむると、口を開く。


『我が声に応え、仮初めの自由を。

 我が名は、エリダヌス=クロト=リウ=レーヴェン。

 生命を紡ぎ出す《神》なり』


 口から紡がれるは、澄み渡るような美しき声。


 いつもの声よりも幾分か大人びている。


 全ての穢れを払われ、清められそうな感じさえしてくる。


『──古の時代の約定に従い、生死者全ての想いを叶え、解放せしめん』


 その言葉を機に、エリダの体が凄まじい輝きを放つ。


 俺はもちろん、何の構えもしていない。

 その為に、あの有名な悪役のセリフが意図せず口から飛び出てしまった。


「めっ、目がぁぁあっ! 目がぁぁあああっ!!」


 こんなセリフを言う機会があるなんて、夢にも思わなかったよ!


 だか、意外にも割とすぐに視界は戻ってきた。


 俺は目をしばしばさせながらも、エリダを見る。


 結果、俺はあまりの驚きに目を見張ってしまった。 


「なっ、何なんだ、その格好は……!?」


「だから言ったでしょう?

 あたしは神様なんだ、って」


 そう言って妖艶に微笑むエリダ。


 制服姿の時とは違い、艶やかさが物凄く割り増しされている。


 家に押しかけてきた時の服装と雰囲気は似ているが、細部が結構違う。

 端から見ればコスプレなんだが、エリダが着ると似合っているために文句も言えない。


「グウォァアアアアッ!」


 エリダが変身(?)した際の光にたじろいでいた化け物だが、咆哮をあげて、動き出す。


 こちらへ向けて駆けるスピードは、ゴツい見た目に反して、とんでもなく速い。


 というか、車よりもスピード出てる気がする。


 しかしエリダは慌てず臆さず、落ち着いて対応する。


「んー、この速さ、体つき……。

 四等星級かしら? それにしては動きが速すぎる気がする……」


 冷静に観察し、考察しているほど余裕があるらしい。

 俺からすれば、そんな余裕を持てる相手に見えないんだが……。


 つか、四等星級ってなんだよ! 星かよっ!

 この怪物のことといい、あの夢についてといい、いろいろとエリダには聞かなきゃいけないな。


『世界よ、我が名において命ずる。

 猛り狂う彼の者を拘束せよ──』


 そこで一旦言葉を句切り、息を吸い込むエリダ。

 鋭い視線で、こちらへ向かってくる化け物へ狙いを定める。 


『──黄金糸の拘束ゴルドファーデン・ツァング


 詩のような、おそらく何らかの鍵となる言葉がエリダの口から出終わった途端、その手からは淡く光る糸のような物が無数に出てくる。

 もちろん、矛先は化け物へ向かってだ。

 そしてその金糸は、すぐに化け物へ巻き付き、その動きを封じてしまう。


「そう……産まれて来れなかったから、悲しいのね。

 その『想い』、あたしが引き受けるわ」


 悲しげな表情をするエリダ。


 まるで、化け物の気持ちが分かるとでも言うのか、エリダは。


 俺がそんなことに驚いているうちに、エリダは再度顔を引きしめていた。


 そして、糸の効果が効いているのを確かめてから、エリダは再び口を開く。


 紡ぐのは、先程とはまた違った詩のような言葉。


 まるで、おとぎ話とかに出てくるような魔法とでも言うのだろうか。


 俺はアニメとかをそんなに見たことないから、そこらへんの知識には乏しくてよくわからない。


『世界よ、我が名において命ずる。

 彼の者を縛り付ける鎖を断ち切り給え。

 古の約定に則って、我が力で彼の者に祝福を──』


 再び、エリダの口からは詩のような言葉が紡がれる。


 しかし、先程とは言葉が違う上に、俺には幾分か声色の柔らかさが増しているように感じられた。


『──浄化の光(パージ・スヴェート)


 途端、突き出したエリダの手から柔らかな光が放たれる。


 その光は化け物を優しく包み込んでいく。

 光に包まれた化け物は、徐々に足下から姿が薄くなり始める。


 これは、エリダがこの化け物を倒したということなのか……?


 とりあえず、化け物が消え始めたことで俺はようやく恐怖から解放された。

 なんだかんだ、エリダのおかげで俺の命が助かった。


 もしかしたらエリダは「自称」神様の痛い子ではなく、本当に何かしらの神秘的な存在なのかもしれない。


 ちなみに、今さっきの手から放たれた光は目に優しかった。


 エリダが変身した時の光は強烈でダメージもかなりあったが、今回の優しい光は目にダメージを与えなかった。

 その事に秘かに安堵している俺がいたのは仕方がないだろう。


 俺がそんなくだらないことを考えて現実逃避している間にも、ほぼ消えかけている化け物へエリダが言葉を投げかけていた。


「汝が想いと願い、我が身を以て必ずや叶えよう。

 そして、汝に安らぎが訪れんことを祈る」


 そこまで言うと、エリダはふぅっと息を吐く。


 その頃にはもう、化け物がいた形跡は何一つ残っていない。


「お、おいエリダ……。

 その、もう、大丈夫……なのか?」


「うん、もう安心していいよ。

 さっきの者の想いは、あたしが『引き受けた』から」


 エリダは、少し寂しそうな、なんとも言えない顔をしていた。


「教えてくれ、エリダ。

 さっきの化け物は一体何なんだ……?」


 意を決して口から絞り出した俺。


 こんなこと聞いたら、俺の日常が何か変わってしまいそうな予感がするが、聞かないでいられるわけもない。


「本当に何も覚えてないんだね……。

 人間にとっては永い時が経っているし仕方のないことなのかな……」


 質問に答えず悲しげな顔をする。


「永い時とかなんだか知らないけど、質問に答えてくれ」


「家に帰ってお母様へ聞いてみて。

 ショウのお母様やお父様が教えていないということは、勝手に教える権限はあたしにないもの」


 エリダはそこまで答えると、さっさと変身を解除して歩いて行ってしまう。

 今日の学校での光輝と言い、今のエリダと言い、俺の両親は一体俺に何を隠しているって言うんだ?


 俺は、両親から何を隠されているのか少し怖がりつつ、急いでエリダの後を追ったのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。


次回は主人公の秘密がわかるかも…しれません。


次話は既に書き上げてあるので、近日中に投稿します!

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