004 俺は、神様少女に振りまわされる
珍しく早めの更新です(←どこが早いのか)
ではどうぞ。
俺、どうなるんだろうか。
絶対にあいつと一緒だと、俺の身が保たない。
てか、あいつは。
エリダは絶対にあの夢に出てきた少女だ。
夢の中で俺の体を勝手に動かしてる何者かと繋がりがあるに違いない。
「……くん?」
だが、俺は母さん直々にエリダの面倒を見るように言われたわけで。
俺は残念ながら、母さんの意向には逆らえない。
両親に楯突くなんて無謀なこと、俺には決してできない。
養ってくれている親に楯突くなど、デメリットしかないだろう。
現実的に考えて、バイトもなにもしてない、一介の高校生の俺に経済力はない。
親の稼いだ金で学校に通わせてもらっているし、普段の生活費も親の稼ぎあってこそ。
家も親が汗水垂らして稼いだ金で購入したものである。
親に楯突いた瞬間、俺はきっと家から追い出されるだろう。
うちの親ならやりかねない。
うちには、幸か不幸か俺しか子はいない。
だからこそ、多少期待に応えられなくとも家を追い出されずに済んでいる。
とにかく俺は、親の期待には応えなければならない。
あくまでも良い大学に行って、それなりに良いところに就職してそのうち家庭を築いて。
ん? 家庭?
俺、今のところ女の子に恋愛的興味も性的な興味も何も抱かないけど、家庭なんて築けるもんなのだろうか。
エリダに関しては、いろんな意味でほかの女の子と違って気になるが、あいつはいろいろおかしいし。
あっ、あんなやつはこっちから願い下げだ!
てか、なんで母さんはあいつを受け入れたんだよ。
しかもお守りを俺に押しつけやがって。
それなりに優秀な成果を俺に求めるなら、俺に普通の人生を求めるなら、エリダなんて完全に避けて通るべきものだろ。
「……くん、皐月くんっ!」
「えっ?」
そこでようやく俺は、さっきからずっと誰かに呼ばれていた事実に気づいた。
俺は、光輝から少し呆れられたような表情をされた後、色々思考に耽ってぼんやりとしていたようだった。
授業開始の挨拶とかも上の空だったのだろう。 挨拶した記憶がない。
そんな思考に耽っていたおかげで、隣の席の人物から呼ばれてるのに全く気づかなかった。
幸い、先生とかに呼ばれることはなかったので授業とかには支障はなかったが。
今呼んでいる声の主が誰かといえば、エリダとは逆の隣に座るクラスメイトだった。
彼女の名は、如月雫。
学校から近くにある老舗旅館の跡取り娘で、柔らかな印象を覚える茶髪のショートヘアにピン留めが印象的だ。
「えっ? じゃないよ、もう」
彼女はどうやら、俺が呼びかけになかなか気づかなかったことに対し、少々お冠のようだ。
「ずっと呼んでたのに、皐月くんったら全く気づかないんだもの」
「ごめん。
で、何か用でも?」
「その、エリダさんのこと、ちゃんと家帰ったら見てあげたほうが良いと思う。
ほとんどの授業をちゃんと聞けてないと思うから」
彼女はチラリと、エリダの方へ目をやる。
それにつられて俺もエリダの方へ振り返る。
「……すぴー…………んにゃ……」
エリダは盛大に寝こけていた。
「……こりゃ、家帰ったら説教だな」
俺は自分の額に青筋がピキピキと浮かぶのを感じながら、なんとか声だけは抑えた。
授業中なのに盛大に寝こけるとは一体何事だ!
しかも、机に堂々と突っ伏して寝るとは。
頑張って起きようという意思さえ感じられない。
まあ確かに俺もさっきまで、授業そっちのけで考えに耽ってしまっていたが。
だが、睡魔に任せて寝こけているのとは大違いだ。
「あんまり怒りすぎないようにね。
きっとエリダさんも新しい環境に慣れてなくて疲れてるんだよ」
優しくフォローまでできるなんて、どこかの盛大に寝こけている誰かとは大違いの大人ぶりだな。
「……それでもこの寝方はないだろ」
つい反論してしまったが、こればっかりは直接寝ている本人を叱らなければ意味がないだろう。
「まあまあ。
あっ、そろそろ授業に集中しないと先生に怒られそう」
彼女の言葉を機に、俺も授業に集中するべく意識を切り替える。
エリダが来たからと言って、授業内容が変わるわけもなく。
いつも通りの授業で時間が流れていく。
一つ変わった点は、隣の席に盛大に寝こけているエリダがいること。
エリダが起きてる授業の時には、わからないところを聞かれて教えたりもすることになる。
まあ、寝ていてわからないところに関しては、スパルタ方式にする気満々だがな。
そんなことを考えながら、今日も一日過ぎていく。
*********
放課後。
高校の教室。
そこに居残る一組の男女。
そこだけ聞けば、どこかやましい想像をしてしまうかもしれない。
あるいは、少女漫画のような展開を想像する人もいるかもしれないが。
だが、今、この現場ではそんなやましい展開やロマンチックな展開とはほど遠い様相を呈していた。
机に突っ伏して、すやすやと寝息をたてる水色の髪の少女。
その可愛らしい横顔を見てみれば、口から涎を垂らしつつ、幸せそうな寝顔を曝け出している。
俺はその隣にある自分の席に腰掛け、どうしたものかと頭を抱えていた。
結局俺はいろいろ考えたあげく、肩をつかんでゆさゆさと揺らしてみることに。
「んむぅ……むにゃ?
ショウ……?」
可愛らしい声を上げてようやく起きるエリダ。
普通の人なら、エリダの可愛さにやられ、しょうがないなぁと許してしまうかもしれないが。
生憎、俺はそんな仏ではない。
こいつにはみっちり、常識を教え込むつもりだ。
もちろん、スパルタでな!!
「……お前は一体……どれだけ寝れば気が済むんだ?」
空気を読まず、自分勝手で迷惑娘のエリダも、さすがに俺がお冠なことに気づいたようだ。
「えっ、し、ショウ……?
あ、あの……何でそんなにおっ、怒ってる……の?」
がたがたと震え、恐る恐る機嫌を伺うような態度である。
お前、人の機嫌を伺うとかそういうことできるんだな。
少し意外だが。
おっと、意識を逸らしてはいけないな。
今はこいつに授業中は寝るな、というか寝過ぎだ、と叱るべき所。
「なぜか?
そんなこともわからないのか! えぇ?」
少しきつい言い方になってしまってるが、この自分勝手で迷惑かけまくりなエリダには、これくらいが丁度良いだろう。
「えっ……と、その、あたしは気持ちよく寝ちゃってただけで……」
どうやら、気持ちよく寝てたのは悪いことではないと言いたいようだな。
俺は、瞬時に且つ静かに大量の息を吸い込む。
同時に下腹部に力を込めて、即座に口を開く。
「…………おっ、お前はなぁっ!!
今日の授業ぜんぶ寝てたんだぞ!!!
それのどこが悪くないって!? えぇ!?」
俺は、持てる力を全て声に乗せる。
「ひぅっ!! ……ううぅ…………」
少し強く怒鳴りすぎたか……?
エリダは泣き出してしまった。
幸い、今いる教室には俺とこいつ以外にはいないし、同じ階の教室には誰もいない時間帯だ。
俺の怒鳴り声も、こいつの泣き声も誰にも聞かれる心配はない。
しかし、女の子を泣かしているというこの状況は、なんとなく居心地が悪く、どうにかしなければならない気がしてくる。
「だっでぇ、ぎのうやっど、やっどぉ、やどぶしのジョウ、えぐっ、みづげるまで、ひぐっ、ながいあいだぁ……ざまよいづづげででぇ…………」
「ほう? それで疲れていたから、授業は別に全部寝ていても構わない、と?」
……てか、ジョウって誰だよ。
泣きすぎて、もはや俺の名前が別の人物に成り変わってる。
まあ、エリダが嗚咽を漏らしながら口走ることなんて、所詮、俺にとってはどうでも良い言い訳だ。
宿主? 神様?
そんなの関係ない。
こいつは授業中寝ていたどころか、全部の授業を寝て過ごしたのだ。
後で、無駄に自分の自習時間を削ってまでこいつに勉強を教えねばならない俺のことも考えてほしい。
もしそのせいで成績が下がったとして、何か母さんからお仕置きを受けることになるなど、そんなのはごめんだ。
てか、宿主とか神様とかそんな変な設定をここの言い訳にまで持ち込んで来るな。
その分、余計にしっかりと叱って覚えさせなければならないようだ。
少しはしゃくりあげていたエリダも落ち着きを取り戻したようだ。
ちゃんとした言葉で反論し始める。
「ひっく、あたしたち神は、宿主がいなければ力を……えぐっ、発揮できないの……。
力を出せないって事は、ひぐっ、みんなのお願いを叶えられない……。
そうなると、お願いを叶えて信仰集めて存在を維持してるあたしたちは消え失せるしかない……。
だからあたしはずっとあたしに相応しい、宿主にたり得る存在を探し求め────」
また始まった。
神様とかいう意味不明な設定。
いい加減にしてほしいものだ。
「お前なぁ、この期に及んでまだ自分は神だとかふざけたこと抜かすのか。
いい加減にしろよ。
仮に神だからとしても、授業を寝てて良いなんて言い訳にはならないだろ」
俺はエリダの言葉をぶった切り、取り付く島もない態度を見せる。
俺が取り付く島があるように見せれば、エリダはきっとその隙に取り入って、甘やかしてもらおうとするに違いない。
しかし、甘えさせるつもりは毛頭ない。
故に隙なく、取り入る隙も見せずに対応せねばならない。
「そっ、そんなぁ……。
本当の……ことなのにぃ……うぅぅ……」
俺に言い訳だと断定されたせいなのか、エリダの瞳に溜まっていた涙が、その頬に一筋の線を記す。
少しは落ち着いてきていたのに、エリダは再び泣き始めてしまった。
心なしか、その涙や泣き声が先程よりも悲しげな物に感じられて、俺は戸惑う。
エリダのことだ。
泣き始めてもすぐにケロッとして、「あたしは神様なんだから、泣かせたショウには罰が当たるんだよ!」とか負け惜しみを言って。 ワンワンギャーギャーうるさいエリダに戻ると思っていたのだ。
まさかこんなに苦しそうで悲しい表情をして泣くなんて。
昨日から今日の昼間の様子では想像もしていなかった。
ここに来て、俺はどうやら、エリダに対して言い過ぎていたらしいことを自覚した。
当たり前のことだが、エリダについて俺はまだよく知らない。
まだ出会って二日目だ。
しかもエリダは謎が多い。 あの夢との関連とか。
とにかく、これから追々知っていけば良いんだろうとは思うが……。
俺の理解の範疇を明らかに超えているだろうことぐらいは、推測できる。
そんなことは今は置いておいて。
「ふぇぇえええええん!
うぅうぇぇええぁぁああ!」
「お、おいおい、俺が悪かったから、な?
少しは泣き止んでくれよ……」
とにかくエリダを少しは泣き止ませないとまずい。
このままでは日も暮れてしまうだろう。
てか、この泣き具合のままだと、いつまでたってもここから移動できない。
半刻ほど経った頃、ようやくエリダは、少ししゃくり上げる程度にまで泣き止んだ。
ようやくエリダが落ち着いてきたため、荷物をまとめ、教室から移動し始める。
家に着くまでには完全に泣き止んでほしいものだ……。
きっと俺は家に着いたら、エリダ泣かせたことについて、母さんから説教を食らうことになるだろう。
母さんの説教と、エリダと一緒の学校生活を思い浮かべただけで少々陰鬱な気分になってくる。
横を見れば、水色の髪をした中身は残念な飛びきりの美少女が一緒に歩いている。
俺に怒られて、赤く泣き腫らした瞳をしていてもなおその可憐な容姿は一つも陰ることはない。
その横顔を見ていると、俺は思ってしまう。
「はぁ……」
どうしてもこいつに対してだけは、完全に厳しくはできないようだ、と。
「ひっく、うぅ……」
(あの子泣かせたのって、隣の男の子かしら?)
(たぶんそうなんじゃない? イヤねぇ、あんな綺麗な子泣かせるなんて)
なんてヒソヒソ話が耳に入ってくる。
てか、美少女は被害者だって誰が決めたんだよっ!
エリダが悪いことしたのがいけないのであって、俺はただ叱っただけだ!
……確かに、言い過ぎたところはあるけどな。
────どうやら俺の苦労はまだまだ始まったばかりらしい。
次話も、書き上がり次第、近いうちに更新します。
よろしくお願いします。